吸血鬼12
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | kuma | 5304 | B++ | 5.7 | 93.2% | 903.7 | 5170 | 376 | 71 | 2024/10/26 |
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問題文
(きみょうなきゃく)
奇妙な客
(しげるしょうねんがゆうかいされ、しずこがゆくえふめいになったよくじつ、しゅじんのないはたやなぎけに、)
茂少年が誘拐され、倭文子が行方不明になった翌日、主人のない畑柳家に、
(きみょうなきゃくがたずねてきた。みたには、ひとまずげしゅくにひきあげたし、へんじをきいて)
奇妙な客が訪ねて来た。三谷は、一先ず下宿に引上げたし、変事を聞いて
(しんせきのものなども、かえったあとで、ていないにはしつじのさいとうろうじんをはじめめしつかいばかりで)
親戚の者なども、帰ったあとで、邸内には執事の斎藤老人を初め召使ばかりで
(あった。けいさつでは、むろんりょうにんのゆくえそうさにぜんりょくをつくしていたのだけれど、)
あった。警察では、無論両人の行方捜査に全力を尽くしていたのだけれど、
(なんのてがかりもない。くもをつかむようなさがしもののことゆえ、きゅうにきっぽうがもたらされるはずも)
何の手懸りもない。雲を掴む様な探しもののこと故、急に吉報が齎される筈も
(なかった。れいのよびだしのにせてがみにあった、きたがわびょういんをしらべたことは)
なかった。例の呼出しの贋手紙にあった、北川病院を調べたことは
(いうまでもないが、よそうのとおり、びょういんはこのじけんになんのかんけいもないことが)
いうまでもないが、予想の通り、病院はこの事件に何の関係もないことが
(わかったばかりだ。きみょうなきゃくがきたのは、そのゆうがたのことであったが、こんどの)
分ったばかりだ。奇妙な客が来たのは、その夕方のことであったが、今度の
(じけんについて、みつみつでおはなししたいことがあるというので、さいとうろうじんが、)
事件について、密々でお話ししたいことがあるというので、斎藤老人が、
(きゃくまへとおしてめんかいした。きゃくは、せびろふくをきた、これというとくちょうもない、)
客間へ通して面会した。客は、背広服を着た、これという特徴もない、
(さんじゅうごろくさいのおとこで、おがわしょういちとなのった。が、さいとうがせきたてるようにしても、)
三十五六歳の男で、小川正一と名乗った。が、斎藤がせき立てる様にしても、
(なかなかほんだいをきりださぬ。つまらないせけんばなしなどを、いつまでも、くりかえしている。)
仲々本題を切出さぬ。つまらない世間話などを、いつまでも、繰返している。
(しびれをきらして、しずこのちじんから、みまいのでんわがあったのをしおに、)
しびれを切らして、倭文子の知人から、見舞の電話があったのをしおに、
(ちょっとちゅうざしたのが、まちがいだった。ろうじんがきゃくまにひきかえしてみると、おがわと)
一寸中座したのが、間違いだった。老人が客間に引返して見ると、小川と
(なのったきゃくは、かげもかたちもないのだ。かえってしまったのかと、げんかんばんのしょせいに)
名乗った客は、影も形もないのだ。帰ってしまったのかと、玄関番の書生に
(たずねると、かえったようすがないとのこたえだ。なによりのしょうこは、くつをぬいだままに)
尋ねると、帰った様子がないとの答えだ。何よりの証拠は、靴を脱いだままに
(なっている。まさかはだしでかえるわけもあるまい。じけんのさいではあり、なんとなく)
なっている。まさかはだしで帰る訳もあるまい。事件の際ではあり、何となく
(きになるふしがあったので、ろうじんはめしつかいいちどうにもめいじて、へやべやをくまなく)
気になる節があったので、老人は召使一同にも命じて、部屋部屋を隈なく
(さがしまわってみた。すると、なくなったしゅじんの、はたやなぎしのしょさいであったにかいの)
探し廻って見た。すると、なくなった主人の、畑柳氏の書斎であった二階の
(ようしつのどあがうちがわからかぎでもかけたように、あかなくなっていることがわかった。)
洋室のドアが内側から鍵でもかけた様に、開かなくなっていることが分った。
(そんなはずはない。へんだというので、かぎをさがしてみたが、そのどあはべつだん)
そんな筈はない。変だというので、鍵を探して見たが、そのドアは別段
(しまりをするひつようもないので、かぎはしつないのつくえのひきだしにいれてあったことを)
締りをする必要もないので、鍵は室内の机の抽斗に入れてあったことを
(おもいだした。おもうに、なにものかがしょさいにはいって、ひきだしのかぎで、うちがわからしまりを)
思い出した。按うに、何者かが書斎に入って、抽斗の鍵で、内側から締を
(してしまったものであろう。かぎあなにめをあててみると、あんのじょう、うちがわから)
してしまったものであろう。鍵穴に目を当てて見ると、案の定、内側から
(かぎをさしたままとみえ、あながつまっていて、なにもみえぬ。しかたがない。にわから)
鍵をさしたままと見え、穴がつまっていて、何も見えぬ。「仕方がない。庭から
(はしごをかけて、まどをのぞいてみよう ということになり、いちどうにわへまわり、ひとりの)
梯子をかけて、窓を覗いて見よう」ということになり、一同庭へ廻り、一人の
(しょせいがいのちをうけて、はしごをかけ、にかいのまどへとのぼっていった。)
書生が命を受けて、梯子をかけ、二階の窓へと昇って行った。
(もうたそがれどきであったから、がらすごしにのぞいたしつないは、ふかいきりが)
もうたそがれ時であったから、ガラス越しに覗いた室内は、深い霧が
(たちこめたようで、はっきりみわけるのは、なかなかこんなんであった。しょせいは、がらすに)
たちこめた様で、ハッキリ見分けるのは、仲々困難であった。書生は、ガラスに
(かおをくっつけて、いつまでものぞいている。まどをあけてみたまえ したから)
顔をくっつけて、いつまでも覗いている。「窓をあけて見たまえ」下から
(さいとうろうじんがこえをかけた。だめですよ。うちがわからしまりがしてあるはずです)
斎藤老人が声をかけた。「駄目ですよ。内側から締がしてある筈です」
(しょせいがそういって、でも、ねんのためにがらすどをおしあげてみると、あんがいにも、)
書生がそういって、でも、念の為にガラス戸を押上げて見ると、案外にも、
(なんのてごたえもなく、するするとひらいた。おや、へんだぞ しょせいはつぶやきながら、)
何の手答えもなく、スルスルと開いた。「オヤ、変だぞ」書生は呟きながら、
(まどをまたいで、しつないへすがたをけした。したからみていると、しょせいのはいったまどだけが、)
窓をまたいで、室内へ姿を消した。下から見ていると、書生の入った窓だけが、
(まるできょだいなばけもののくちのように、ぽっかりとくろくひらいているのが、なんとなく)
まるで巨大な化物の口の様に、ポッカリと黒く開いているのが、何となく
(ぶきみであった。したのいちどうは、いっしゅのよかんにおびえながら、みみをすまして、)
不気味であった。下の一同は、一種の予感におびえながら、耳をすまして、
(だまりかえっていた。しばらくすると、くろくひらいたまどのなかから、なんともいえぬ、まるで)
黙り返っていた。暫くすると、黒く開いた窓の中から、何ともいえぬ、まるで
(しめころされるような ぎゃーっ というさけびごえがきこえてきた。くっきょうのしょせいが、)
絞め殺される様な「ギャーッ」という叫声が聞こえて来た。屈強の書生が、
(みじめな、がちょうのなきごえのような、ひめいをあげたのをきくと、しつないには、どのように)
みじめな、鵞鳥の鳴声の様な、悲鳴を上げたのを聞くと、室内には、どの様に
(おそろしいことがおこっているのかと、さいとうろうじんをはじめ、ぞっとして、はしごをのぼる)
恐ろしいことが起っているのかと、斎藤老人を初め、ゾッとして、梯子を昇る
(ゆうきもなかった。おーい、どうしたんだあ したからべつのしょせいが、おおごえに)
勇気もなかった。「オーイ、どうしたんだア」下から別の書生が、大声に
(どなった。しばらくはなにのへんじもなかったが、やがて、ばけもののくちのようにみえる、)
呶鳴った。暫くは何の返事もなかったが、やがて、化物の口の様に見える、
(まっくろなにかいのまどへ、ぼーっとしろくしょせいのかおがあらわれた。かれはみぎてをかおのまえに)
真黒な二階の窓へ、ボーッと白く書生の顔が現れた。彼は右手を顔の前に
(もっていって、きんがんのように、じっとじぶんのゆびをみている。なぜ、そんな)
持って行って、近眼の様に、じっと自分の指を見ている。なぜ、そんな
(ばかばかしいまねをしているのであろう。とおもううちに、かれはいきなり、)
馬鹿馬鹿しい真似をしているのであろう。と思う内に、彼はいきなり、
(きちがいのように、そのみぎてをふりふり、へんなことをくちばしった。ち、ち、ちだ。)
気狂いの様に、その右手を振り振り、変なことを口走った。「血、血、血だ。
(ちがながれている なにをいっているのだ。けがをしたのか さいとうろうじんが、)
血が流れている」「何をいっているのだ。怪我をしたのか」斎藤老人が、
(もどかしそうにたずねた。そうじゃありません。だれかがたおれているのです。)
もどかし相に尋ねた。「そうじゃありません。誰れかが倒れているのです。
(からだじゅうべとべとにぬれているのです。ちだらけです しょせいがしどろもどろに)
身体中ベトベトに濡れているのです。血だらけです」書生がしどろもどろに
(こたえた。なに、ちまみれのにんげんがたおれているというのか。だれだ。さっきの)
答えた。「ナニ、血まみれの人間が倒れているというのか。誰だ。さっきの
(きゃくではないのか。はやくでんとうをつけたまえ、なにをぐずぐずしているんだ)
客ではないのか。早く電燈をつけ給え、何をぐずぐずしているんだ」
(どなりながら、きじょうなろうじんは、もうはしごをのぼりはじめていた。しょせいもあとに)
呶鳴りながら、気丈な老人は、もう梯子を昇り始めていた。書生もあとに
(つづいた。おんなたちははしごのしたにひとかたまりになって、あおざめたかおをみかわしながら)
つづいた。女達は梯子の下に一かたまりになって、青ざめた顔を見交わしながら
(おしだまっていた。ろうじんとしょせいとが、まどをまたぎこしたときには、すでにでんとうがてんじられ)
押黙っていた。老人と書生とが、窓をまたぎ越した時には、既に電燈が点じられ
(しつないのおそろしいありさまが、ひとめでわかった。こはたやなぎしは、こっとうずきで、しょさいにも)
室内の恐ろしい有様が、一目で分った。故畑柳氏は、骨董ずきで、書斎にも
(ふるいぶつぞうなどをおきならべていたが、しのぼつごも、それがみなそのままに)
古い仏像などを置き並べていたが、氏の没後も、それが皆そのままに
(なっている。りょうてをひろげてたちはだかっている、まっくろな、どこのぶつぞうとも)
なっている。両手を拡げて立ちはだかっている、真黒な、どこの仏像とも
(えたいのしれぬ、きかいなぶつぞうのあしもとに、ひとりのようふくおとこが、ちまみれに)
えたいの知れぬ、奇怪な仏像の足元に、一人の洋服男が、血まみれに
(なっていた。たしかにおがわとなのる、さっきのきゃくじんだ。はんめんちにそまった、)
なっていた。確かに小川と名乗る、さっきの客人だ。半面血に染まった、
(だんまつまのくもんのひょうじょう。わいしゃつのむねのおびただしいちのり。そらをつかんだゆび。ろうじんと)
断末魔の苦悶の表情。ワイシャツの胸の夥しい血のり。空を掴んだ指。老人と
(ふたりのしょせいとは、ぼうだちになったまま、しばらくはくちをきくちからもなかったが、やがて)
二人の書生とは、棒立ちになったまま、暫くは口を利く力もなかったが、やがて
(しょせいのひとりが、めんようなかおをして、つぶやいた。おかしいぞ。はんにんはどこからきて、)
書生の一人が、面妖な顔をして、呟いた。「おかしいぞ。犯人はどこから来て、
(どこへにげたのだろう しつのいりぐちのどあは、うちがわからかぎをかけたままである。)
どこへ逃げたのだろう」室の入口のドアは、内側から鍵をかけたままである。
(まどはしまりがしてなかったけれど、かるわざしででもなければ、このたかいにかいのまどから、)
窓は締がしてなかったけれど、軽業師ででもなければ、この高い二階の窓から、
(でいりすることはふかのうだ。それよりも、へんなのはおがわとなのるおとこの)
出入りすることは不可能だ。それよりも、変なのは小川と名乗る男の
(こうどうであった。このみずしらずのじんぶつは、なぜことわりもなく、にかいのしょさいへ)
行動であった。この見ず知らずの人物は、なぜ断りもなく、二階の書斎へ
(あがってきたのか。そのうえ、うちがわから、どあにかぎまでかけて、なにをしていたのか。)
上って来たのか。その上、内側から、ドアに鍵までかけて、何をしていたのか。
(かがいしゃはもちろん、ひがいしゃのみもとも、さつじんのどうきも、いっさいがっさいふめいであった。)
加害者は勿論、被害者の身元も、殺人の動機も、一切合切不明であった。
(これがこのものがたりのさいしょのさつじんじけんである。だが、なんというふとくようりょうな、)
これがこの物語の最初の殺人事件である。だが、何という不徳要領な、
(ふかしぎせんばんなさつじんじけんであったことか。)
不可思議千万な殺人事件であったことか。