怪人二十面相56 江戸川乱歩

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少年探偵団シリーズ1作目

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問題文

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(あけちたんていはこばやししょうねんのひなんを、うれしそうににこにこしてきいていましたが、)

明智探偵は小林少年の非難を、嬉しそうににこにこして聞いていましたが、

(たちあがって、まどのところへいくと、こばやししょうねんをてまねきしました。 「それはね、)

立ち上がって、窓の所へ行くと、小林少年を手招きしました。 「それはね、

(にじゅうめんそうのほうで、ぼくにしらせてくれるんだよ。 なぜだかわかるかい。)

二十面相の方で、僕に知らせてくれるんだよ。  何故だか分かるかい。

(さっきほてるで、ぼくはあいつを、じゅうぶんはずかしめてやった。あれだけのきょうぞくを、)

先刻ホテルで、僕はあいつを、十分辱めてやった。あれだけの凶賊を、

(たんていがとらえようともしないでにがしてやるのが、どんなひどいぶじょくだか、)

探偵が捕えようともしないで逃がしてやるのが、どんな酷い侮辱だか、

(きみにはそうぞうもできないくらいだよ。 にじゅうめんそうは、あのことだけでも、ぼくを)

君には想像も出来ないくらいだよ。  二十面相は、あの事だけでも、僕を

(ころしてしまいたいほどにくんでいる。そのうえ、ぼくがいては、これからおもうように)

殺してしまいたい程憎んでいる。その上、僕がいては、これから思うように

(しごともできないのだから、どうかしてぼくというじゃまものを、なくそうと)

仕事も出来ないのだから、どうかして僕という邪魔者を、なくそうと

(かんがえるにちがいない。 ごらん、まどのそとを。ほら、あすこにかみしばいやがいるだろう)

考えるに違いない。  ご覧、窓の外を。ホラ、あすこに紙芝居屋がいるだろう

(こんなさびしいところで、かみしばいがにをおろしたって、しょうばいになるはずはないのに、)

こんな寂しい処で、紙芝居が荷を下ろしたって、商売になる筈はないのに、

(あいつはもうさっきから、あすこにたちどまって、このまどを、みぬようなふりを)

あいつはもう先刻から、あすこに立ち止まって、この窓を、見ぬような振りを

(しながら、いっしょうけんめいにみているのだよ」 いわれて、こばやしくんがあけちていのもんぜんの)

しながら、一生懸命に見ているのだよ」  言われて、小林君が明智邸の門前の

(ほそいどうろをみますと、いかにも、ひとりのかみしばいやが、うさんくさいようすで)

細い道路を見ますと、いかにも、一人の紙芝居屋が、胡散臭い様子で

(たっているのです。 「じゃ、あいつにじゅうめんそうのぶかですね。せんせいのようすを)

立っているのです。 「じゃ、あいつ二十面相の部下ですね。先生の様子を

(さぐりにきているんですね」 「そうだよ。それごらん。べつにくろうをして)

探りに来ているんですね」 「そうだよ。それご覧。別に苦労をして

(さがしまわらなくても、せんぽうからちゃんとちかづいてくるだろう。あいつに)

捜し回らなくても、先方からちゃんと近付いて来るだろう。あいつに

(ついていけば、しぜんとにじゅうめんそうのかくれがもわかるわけじゃないか」)

ついて行けば、自然と二十面相の隠れ家も分かる訳じゃないか」

(「じゃ、ぼく、すがたをかえてびこうしてみましょうか」 こばやしくんはきがはやいのです。)

「じゃ、僕、姿を変えて尾行してみましょうか」  小林君は気が早いのです。

(「いや、そんなことしなくてもいいんだ。ぼくにすこしかんがえがあるからね。あいては、)

「いや、そんな事しなくてもいいんだ。僕に少し考えがあるからね。相手は、

(なんといってもおそろしくあたまのするどいやつだから、うかつなまねはできない。)

何と言っても恐ろしく頭の鋭い奴だから、迂闊な真似は出来ない。

など

(ところでねえ、こばやしくん、あすあたり、ぼくのしんぺんにすこしかわったことが、)

ところでねえ、小林君、明日あたり、僕の身辺に少し変わった事が、

(おこるかもしれないよ。だが、けっしておどろくんじゃないぜ。ぼくは、けっして)

起こるかもしれないよ。だが、決して驚くんじゃないぜ。僕は、決して

(にじゅうめんそうなんかにだしぬかれやしないからね。たとえぼくのみがあぶないようなことが)

二十面相なんかに出し抜かれやしないからね。例え僕の身が危ないような事が

(あっても、それもひとつのさくりゃくなのだから、けっしてしんぱいするんじゃないよ。)

あっても、それも一つの策略なのだから、決して心配するんじゃないよ。

(いいかい」 そんなふうにしんみりといわれますと、こばやししょうねんは、)

いいかい」  そんな風にしんみりと言われますと、小林少年は、

(するなといわれても、しんぱいしないわけにはいきませんでした。 「せんせい、なにか)

するなと言われても、心配しない訳にはいきませんでした。 「先生、何か

(あぶないことでしたら、ぼくにやらせてください。せんせいに、もしものことがあっては)

危ない事でしたら、僕にやらせて下さい。先生に、もしもの事があっては

(たいへんですから」 「ありがとう」)

大変ですから」 「ありがとう」

(あけちたんていは、あたたかいてをしょうねんのかたにあてていうのでした。 「だが、きみには)

明智探偵は、温かい手を少年の肩に当てて言うのでした。 「だが、君には

(できないしごとなんだよ。まあ、ぼくをしんじていたまえ。きみもしっているだろう。)

出来ない仕事なんだよ。まあ、僕を信じていたまえ。君も知っているだろう。

(ぼくがいちどだってしっぱいしたことがあったかい・・・・・・。しんぱいするんじゃないよ。)

僕が一度だって失敗した事があったかい……。心配するんじゃないよ。

(しんぱいするんじゃないよ」)

心配するんじゃないよ」

(さて、そのよくじつのゆうがたのことでした。 あけちたんていのもんぜん、ちょうど、)

さて、その翌日の夕方の事でした。  明智探偵の門前、ちょうど、

(きのうかみしばいがたっていたへんに、きょうはひとりのこじきがすわりこんで、ほんのときたま)

昨日紙芝居が立っていた辺に、今日は一人の乞食が座り込んで、ほんの時たま

(とおりかかるひとに、なにかくちのなかでもぐもぐいいながら、おじぎをしております。)

通りかかる人に、何か口の中でモグモグ言いながら、お辞儀をしております。

(にしめたようなきたないてぬぐいでほおかむりをして、ほうぼうにつぎのあたった、)

煮しめたような汚い手拭いで頬かむりをして、方々に継ぎの当たった、

(ぼろぼろにやぶれたきものをきて、いちまいのござのうえにすわって、さむそうにぶるぶる)

ぼろぼろに破れた着物を着て、一枚のござの上に座って、寒そうにブルブル

(みぶるいしているありさまは、いかにもあわれにみえます。 ところがふしぎなことに)

身震いしている有り様は、いかにも憐れに見えます。  ところが不思議な事に

(おうらいにひとどおりがとだえますと、このこじきのようすがいっぺんするのでした。)

往来に人通りが途絶えますと、この乞食の様子が一変するのでした。

(いままでひくくたれていたくびを、むくむくともたげて、かおいちめんのぶしょうひげのなかから、)

今まで低く垂れていた首を、ムクムクと擡げて、顔一面の無精髭の中から、

(するどいめをひからせて、めのまえのあけちたんていのいえを、じろじろとながめまわすのです。)

鋭い目を光らせて、目の前の明智探偵の家を、ジロジロと眺め回すのです。

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