吸血鬼14
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | kuma | 5425 | B++ | 5.7 | 94.3% | 864.4 | 4990 | 300 | 68 | 2024/11/02 |
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問題文
(しぐまがあまりなきたてるものだから、きずぐちがいたむのかと、かわいそうになって、)
シグマが余り鳴き立てるものだから、傷口が痛むのかと、可哀相になって、
(みてやるつもりで、いぬごやのそばへきてみると、さすがはもうけん、いたさなどで)
見てやる積りで、犬小屋の側へ来て見ると、流石は猛犬、痛さなどで
(ないているのではなかった。なにかあやしいものをみつけたのか、いまいうこだちのかげを)
鳴いているのではなかった。何か怪しいものを見つけたのか、今いう木立の蔭を
(とおくからにらみつけて ゆうかんに)
遠くから睨みつけて(というのは、シグマは犬小屋に縛られていたので)勇敢に
(ほえたてていた。おきくは、おもわず、いぬのにらみつけているしげみを、すかしてみた。)
吠え立てていた。お菊は、思わず、犬の睨みつけている茂みを、すかして見た。
(すると、ああ、わたし、おもいだしてもぞっとします。うまれてから、いちども)
すると、「アア、わたし、思出してもゾッとします。生れてから、一度も
(みたことのないような、おそろしいものが、そこにいたのです にんげんだね)
見たことのない様な、恐ろしいものが、そこにいたのです」「人間だね」
(ええ、でも、にんげんでないかもしれません。えでみたがいこつのように、ながいはが)
「エエ、でも、人間でないかも知れません。絵で見た骸骨の様に、長い歯が
(まるだしになって、はなもくちびるもないのっぺらぼうで、めはまんまるにとびだして)
丸出しになって、鼻も唇もないのっぺらぼうで、目はまん丸に飛出して
(いるのです ははははは、ばかなことを、きみはこわいこわいとおもっている)
いるのです」「ハハハハハ、馬鹿なことを、君は怖い怖いと思っている
(ものだから、まぼろしでもみたんだろう。そんなおばけがあってたまるものか)
ものだから、幻でも見たんだろう。そんなお化があってたまるものか」
(なにもしらぬけいかんたちは、おきくのことばをいっしょうにふしたが、そのわらいごえのおわらぬうちに、)
何も知らぬ警官達は、お菊の言葉を一笑に附したが、その笑い声の終らぬ内に、
(またしても、しぐまのおそろしいうなりごえがきこえてきた。ほら、またほえて)
またしても、シグマの恐ろしい唸り声が聞えて来た。「ホラ、また吠えて
(いますわ。ああ、こわい。あいつは、まだそのくらやみのなかに、かくれているのでは)
いますわ。アア、怖い。あいつは、まだその暗闇の中に、隠れているのでは
(ないのでしょうか おきくは、おびえてつねかわけいぶにしがみついた。へんだね、)
ないのでしょうか」お菊は、おびえて恒川警部にしがみついた。「変だね、
(だれかねんのために、あのへんをしらべてみたまえ しほうしゅにんがぶかのじゅんさにめいじた。)
誰か念の為に、あの辺を検べて見給え」司法主任が部下の巡査に命じた。
(そして、ひとりのじゅんさが、こだちのなかへふみこんでいこうとしたときである。)
そして、一人の巡査が、木立の中へ踏み込んで行こうとした時である。
(わ、わ、わ、わわわわわ と、ひめいともなんともつかぬさけびごえがして、)
「ワ、ワ、ワ、ワワワワワ」と、悲鳴とも何ともつかぬ叫声がして、
(おきくはつねかわしのむねにかおをうめてしまった。かのじょはふたたびかいぶつをみたのだ。)
お菊は恒川氏の胸に顔を埋めてしまった。彼女は再び怪物を見たのだ。
(あ、へいのうえだ じゅんさのこえに、いちどうのしせんがこだちのななめむこうのそらにあつまる。)
「ア、塀の上だ」巡査の声に、一同の視線が木立の斜向うの空に集まる。
(いた、いた。たかいこんくりーとのへいのうえに、つくばって、じっとこちらをみている)
いた、いた。高いコンクリートの塀の上に、蹲って、じっとこちらを見ている
(かいぶつ。はんめんにつきをうけて、にやにやとわらっているかおは、おきくのけいようしたとおり、)
怪物。半面に月を受けて、ニヤニヤと笑っている顔は、お菊の形容した通り、
(ただしくいきたがいこつだ。このばけものが、おがわのげしにんだとすれば、ひがいしゃのしたいを)
正しく生きた骸骨だ。この化物が、小川の下手人だとすれば、被害者の死体を
(かかえていなければならないのに、かいぶつはみがるなひとりぽっちだ。では、したいはすでに)
抱ていなければならないのに、怪物は身軽な一人ぽっちだ。では、死体は已に
(どこかへかくしてしまったのか。だが、こいつはげしにんであろうと、なかろうと、)
どこかへ隠してしまったのか。だが、こいつは下手人であろうと、なかろうと、
(いようなめんていといい、よなかたにんのていないをさまようくせもの、とりおさえないわけには)
異様な面体といい、夜中他人の邸内をさまよう曲者、取押さえない訳には
(いかぬ。こら、まてっ けいかんたちは、くちぐちにわめきながら、へいぎわへと)
行かぬ。「コラ、待てッ」警官達は、口々にわめきながら、塀際へと
(かけつけた。かいぶつはいたずらこぞうが ここまでおいで をするようなかっこうで、)
駈けつけた。怪物はいたずら小僧が「ここまでお出で」をする様な格好で、
(き、き、とぶきみなこえをたてたかとおもうと、へいのむかいがわへすがたをけした。あるものは)
キ、キ、と不気味な声を立てたかと思うと、塀の向側へ姿を消した。ある者は
(へいをよじのぼって、あるものはもんをうかいして、つねかわしとふたりのけいかんとが、かいぶつの)
塀をよじ昇って、ある者は門を迂廻して、恒川氏と二人の警官とが、怪物の
(あとをおった。こうじまちのしほうしゅにんだけは、なおとりしらべをおこなうために、ていないにのこった。)
あとを追った。麹町の司法主任丈けは、なお取調を行う為に、邸内に残った。
(へいがいへでてみると、ひとどおりもないやしきまちの、もういっちょうほどむこうを、くろのとりうちぼうに、)
塀外へ出て見ると、人通りもない屋敷町の、もう一丁程向うを、黒の鳥打帽に、
(みじかいくろいまんとをひるがえして、はしっていくかいぶつのすがたが、つきのひかりではっきりわかる。)
短い黒いマントを飜して、走って行く怪物の姿が、月の光りでハッキリ分る。
(どくしゃしょくんは、このかいぶつのひだりてとみぎあしが、ぎしゅぎそくであることはごぞんじだ。)
読者諸君は、この怪物の左手と右足が、義手義足であることは御存知だ。
(そのふじゆうなからだで、つえもつかず、えっちら、おっちら、はしるはしる。かつて)
その不自由な身体で、杖もつかず、エッチラ、オッチラ、走る走る。かつて
(しおのゆおんせんのながいだんばしごをかけおりたちょうしである。ぎそくだとて、つかいなれると)
鹽の湯温泉の長い段梯子をかけ降りた調子である。義足だとて、使いなれると
(ばかにならぬものだ。けいかんたちは、たいけんをにぎってはしる。もつれるかげ、みだれるくつおと。)
馬鹿にならぬものだ。警官達は、帯剣を握って走る。もつれる影、乱れる靴音。
(げっかのおおとりものだ。かいぶつは、ちかくのおおどおりへとはしっていく。まだよいのうちだ、)
月下の大捕物だ。怪物は、近くの大通りへと走って行く。まだ宵の内だ、
(にぎやかなおおどおりへでたら、たちまちつかまってしまうと、たかをくくったのは、おおきな)
賑やかな大通りへ出たら、忽ち捕まってしまうと、高を括ったのは、大きな
(ちがいだった。まちかどをまがったところに、まちかまえていたいちだいのじどうしゃ、かいぶつのすがたが)
違いだった。町角を曲った所に、待ち構えていた一台の自動車、怪物の姿が
(そのなかへきえたかとおもうと、くるまはやにわにはしりだした。ちょうどむこうからはしってくる)
その中へ消えたかと思うと、車は矢庭に走り出した。丁度向うから走って来る
(からたくしー。つねかわけいぶは、すかさずそれをよびとめると、けいかんいちどうをのりこませ、)
空タクシー。恒川警部は、すかさずそれを呼び止めると、警官一同を乗込ませ、
(あのくるまのあとをおっかけるのだ。ちんぎんはふんぱつするぜ とどなった。)
「あの車のあとを追っかけるのだ。賃銀は奮発するぜ」と怒鳴った。
(にぎやかなおおどおりを、よこにおれると、さびしいまち、さびしいまちと、まがりまがって、)
賑やかな大通りを、横に折れると、淋しい町、淋しい町と、曲り曲って、
(とぶようにはしるかいぶつのくるま。ざんねんながら、おうものは、よりによったぼろじどうしゃ。)
飛ぶ様に走る怪物の車。残念ながら、追うものは、撰りに撰ったボロ自動車。
(とてもあいてをおいぬくちからはない。みうしなわぬようについていくのはやっとである。)
とても相手を追い抜く力はない。見失わぬ様について行くのはやっとである。
(そのうえ、たのみにおもうこうばんは、かいぶつのほうで、たくみによけてとおるのだ。じんぐうがいえんから)
その上、頼みに思う交番は、怪物の方で、巧みによけて通るのだ。神宮外苑から
(あおやまぼちをとおりぬけて、しばらくはしると、だいていたくのたかいへいばかりつづく、ひじょうに)
青山墓地を通り抜けて、暫く走ると、大邸宅の高い塀ばかり続く、非常に
(さびしいとおりで、さきのくるまがばったりとまったかとおもうと、いきなりとびだす)
淋しい通りで、先の車がバッタリ止まったかと思うと、いきなり飛び出す
(くろまんと。かいぶつはせまいよこちょうへとはしりこんだ。それっとばかり、けいかんたちはくるまを)
黒マント。怪物は狭い横丁へと走り込んだ。ソレッとばかり、警官達は車を
(おりて、おなじよこちょうへかけこむ。りょうがわとも、いちじょうほどもあるたかいこんくりーとべいの、)
降りて、同じ横丁へ駈け込む。両側とも、一丈程もある高いコンクリート塀の、
(ほそいぬけみちだ。みわたすかぎり、いっちょうばかりのあいだ、もんひとつなく、いっちょくせんにへいばかりが)
細い抜け道だ。見渡す限り、一丁ばかりの間、門一つなく、一直線に塀ばかりが
(つづいている。おや、へんだぜ。どこへかくれたのか、かげもかたちもありやしない)
続いている。「オヤ、変だぜ。どこへ隠れたのか、影も形もありやしない」
(ひとりのじゅんさがよこちょうへまがるやいなや、びっくりしてさけんだ。ひじょうにへんてこなことが)
一人の巡査が横丁へ曲るや否や、ビックリして叫んだ。非常に変てこなことが
(おこったのだ。かいぶつがかけこんでから、けいかんたちがまがりかどへたっするまで、ほんの)
起ったのだ。怪物が駈け込んでから、警官達が曲り角へ達するまで、ほんの
(すうじゅうびょう、いくらあしのはやいやつでも、このよこちょうをとおりぬけてしまうじかんはない。)
数十秒、いくら足の早い奴でも、この横丁を通り抜けてしまう時間はない。
(ひるのようにあかるいつきのひかり、どこにいっかしょ、みをかくすばしょとてはないのだ。いや、)
昼の様に明るい月の光り、どこに一ヶ所、身を隠す場所とてはないのだ。いや、
(もっとたしかなことは、いましもよこちょうのむこうから、ぶらぶらこちらへあるいてくる)
もっと確なことは、今しも横丁の向うから、ブラブラこちらへ歩いて来る
(つうこうにん。きんじょのひととみえて、ぼうしもかぶらずきながしのさんぽすがただが、そののんきらしい)
通行人。近所の人と見えて、帽子も被らず着流しの散歩姿だが、その呑気らしい
(ようすが、かいぶつといきちがったひととはおもわれぬ。おーい、いまそちらへはしって)
様子が、怪物と行違った人とは思われぬ。「オーイ、今そちらへ走って
(いったやつはありませんかあ ひとりのじゅんさがおおごえにたずねると、そのおとこは、おどろいて)
行った奴はありませんかア」一人の巡査が大声に尋ねると、その男は、驚いて
(たちどまったが、いいえ、だれもきません とこたえた。けいかんたちは、へんなかおをして、)
立止ったが、「イイエ、誰も来ません」と答えた。警官達は、変な顔をして、
(りょうがわのたかいこんくりーとべいをみあげた。なんのてがかりもなく、いちじょうもあるへいを)
両側の高いコンクリート塀を見上げた。何の手掛りもなく、一丈もある塀を
(よじのぼることはふかのうだ。それに、けいかんたちはしらなかったけれど、かたあしぎそくの)
よじ昇ることは不可能だ。それに、警官達は知らなかったけれど、片足義足の
(かいぶつに、そんなげいとうができるはずはない。どんなおそろしいすがたにもせよ、めのまえに)
怪物に、そんな芸当が出来る筈はない。どんな恐ろしい姿にもせよ、目の前に
(みえているうちは、まだよかった。それがしらじらとしたげっこうのしたで、けむりのように)
見えている内は、まだよかった。それが白々とした月光の下で、煙の様に
(きえうせてしまったとおもうと、にわかにぞっときみがわるくなった。)
消失せてしまったと思うと、俄にゾッと気味が悪くなった。
(ようじゅつだ。あくまのようじゅつだ。)
妖術だ。悪魔の妖術だ。