吸血鬼16
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | kuma | 4871 | B | 5.3 | 91.6% | 958.8 | 5139 | 468 | 69 | 2024/10/27 |
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問題文
(ふたりはきちがいのように、へやからへやへとあるきまわった。ふすまというふすまはあけはなされ、)
二人は気違いの様に、部屋から部屋へと歩き廻った。襖という襖は開け放され、
(とだなもおしいれも、ひとのかくれうるばしょは、べんじょのすみまでもそうさくされた。あまどを)
戸棚も押入れも、人の隠れ得る場所は、便所の隅までも捜索された。雨戸を
(みっぺいしてあったので、そこからそとへにげだすしんぱいはない。にげだせばおとがするし)
密閉してあったので、そこから外へ逃げ出す心配はない。逃げ出せば音がするし
(かけがねをはずすじかんもかかるのだ。ふたりはさがしあぐんで、とあるへやに)
掛金をはずす時間もかかるのだ。二人は捜しあぐんで、とある部屋に
(つったったまましばらくかおをみあわせていたが、とつぜんみたにがかおいろをかえてささやいた。)
突っ立ったまま暫く顔を見合わせていたが、突然三谷が顔色を変えて囁いた。
(ほら、きこえますか。あれはやっぱりこどものなきごえですよ どこからともなく、)
「ホラ、聞えますか。あれはやっぱり子供の泣き声ですよ」どこからともなく、
(ものうれいようななきごえが、かすかにかすかにもれてくるのだ。ふたりはみみをすまし、あしおとを)
物憂い様な泣声が、幽かに幽かに漏れて来るのだ。二人は耳をすまし、足音を
(しのばせて、なきごえをたよりにすすんでいった。なんだかだいどころのほうらしいですね)
忍ばせて、泣き声をたよりに進んで行った。「何だか台所の方らしいですね」
(みたにはいいながら、そのほうへあるいていく。だが、だいどころはさっきしらべたとき、なんの)
三谷はいいながら、その方へ歩いて行く。だが、台所はさっき調べた時、何の
(いじょうもなかった。でんとうもそのときつけたままだ。そんなはずはないのだが と)
異常もなかった。電燈もその時つけたままだ。「そんな筈はないのだが」と
(つねかわけいぶがちゅうちょしているあいだに、みたにはもうだいどころのしきいをまたいでいた。とどうじに)
恒川警部が躊躇している間に、三谷はもう台所の敷居をまたいでいた。と同時に
(あっ というただならぬさけびごえ。つねかわしはおどろいてかけつけてみると、みたには、)
「アッ」というただならぬ叫び声。恒川氏は驚いて駈けつけて見ると、三谷は、
(まっさおになって、だいどころのかたすみをみつめたまま、たちすくんでいた。)
真青になって、台所の片隅を見つめたまま、立ちすくんでいた。
(どうしたんです とたずねるけいぶのこえをせいして、みたには、きこえるかきこえないかの)
「どうしたんです」と尋ねる警部の声を制して、三谷は、聞えるか聞えないかの
(ささやきこえでこたえる。あいつです。あいつがこのあげいたをとって、えんのしたへ)
囁き声で答える。「あいつです。あいつがこの上げ板を取って、縁の下へ
(はいっていったのです だいどころのいたのまが、すみなどをいれるためのあげぶたに)
這入って行ったのです」台所の板の間が、炭などを入れる為の上げ蓋に
(なっている、よくあるやつだ。けいぶは、ゆうかんにとんでいって、そのあげいたを)
なっている、よくある奴だ。警部は、勇敢に飛んで行って、その上げ板を
(めくってみた。や、ちかしつだ いたのしたは、いがいにも、こんくりーとのかいだんに)
めくって見た。「ヤ、地下室だ」板の下は、意外にも、コンクリートの階段に
(なっていた。そのぶぶんだけはこのように、ゆかしたとはしゃだんされているので、かいぶつはそとへ)
なっていた。その部分丈け箱の様に、床下とは遮断されているので、怪物は外へ
(にげることはできぬ。ちかしつへおりたにきまっている。もうふくろのねずみだ。ふたりは、)
逃げることは出来ぬ。地下室へ降りたに極っている。もう袋の鼠だ。二人は、
(ようじんしながら、まっくらなかいだんをくだっていった。さきにたつつねかわしは、たいけんのえを)
用心しながら、真暗な階段を下って行った。先に立つ恒川氏は、帯剣の柄を
(にぎりしめている。かいだんをおりきったところにとびらがあって、そのすきまからかすかなひかりが)
握りしめている。階段を降り切った所に扉があって、その隙間から幽かな光りが
(もれてくる。なきごえがにわかにおおきくなったのをみると、こどもはたしかにこのとびらの)
漏れて来る。泣き声が俄に大きくなったのを見ると、子供はたしかにこの扉の
(むこうにいるのだ。どうしたことか、かぎあなにはかぎをさしたままになっている。)
向うにいるのだ。どうしたことか、鍵穴には鍵をさしたままになっている。
(つねかわしはてばやくそれをまわして、とびらをひらいた。ふたりはとびらをこだてに、へやのなかを)
恒川氏は手早くそれを廻して、扉を開いた。二人は扉を小楯に、部屋の中を
(のぞきこんだ。とどうじに、そとからも、なかからも、おどろきとよろこびのさけびごえ。)
覗き込んだ。と同時に、外からも、中からも、驚きと喜びの叫び声。
(へやのなかには、あわいかんてらのひかりにてらされて、しずことしげるがだきあって)
部屋の中には、淡いカンテラの光に照らされて、倭文子と茂が抱き合って
(いたのだ。とびこんでいくみたにせいねん、すがりつくしずこ。だが、つねかわけいぶは、)
いたのだ。飛込んで行く三谷青年、すがりつく倭文子。だが、恒川警部は、
(このかんげきのばめんをよそに、ふまんらしいかおをして、きょろきょろとへやを)
この感激の場面をよそに、不満らしい顔をして、キョロキョロと部屋を
(みまわしていた。かんじんのぞくのすがたがみえぬのだ。いまきたかいだんのそとに、どこにも)
見廻していた。肝腎の賊の姿が見えぬのだ。今来た階段の外に、どこにも
(でいりぐちはない。たしかにここへにげこんだかいぶつが、またしてもきえうせて)
出入口はない。確にここへ逃げ込んだ怪物が、またしても消え失せて
(しまったのだ。しずこにたずねると、ぞくはさくやしげるをこのへやへつれてきて、)
しまったのだ。倭文子に尋ねると、賊は昨夜茂をこの部屋へ連れて来て、
(たちさったまま、いちどもかおをみせぬということであった。しげるは、しゅうじつしょくじを)
立去ったまま、一度も顔を見せぬということであった。茂は、終日食事を
(あたえられぬくうふくと、きょうふのためにないていたのだ。つねかわけいぶは、かべのかんてらを)
与えられぬ空腹と、恐怖の為に泣いていたのだ。恒川警部は、壁のカンテラを
(はずして、かいだんをうえからしたまでしらべてみたが、どこにもかくしどやぬけみちはなかった。)
はずして、階段を上から下まで検べて見たが、どこにも隠戸や抜道はなかった。
(けっきょく、ゆうかいされたはたやなぎぼしをとりもどすことはせいこうしたけれど、そのはんにんのたいほは)
結局、誘拐された畑柳母子を取戻すことは成功したけれど、その犯人の逮捕は
(まったくしっぱいにおわった。おもてのもん、うらのへいがいにみはりをしていたふたりのじゅんさにたずねても)
全く失敗に終った。表の門、裏の塀外に見張りをしていた二人の巡査に尋ねても
(だれもいえからでたものはないとのこたえであった。みはりはそのままにつづけさせて)
誰も家から出たものはないとの答えであった。見張りはそのままに続けさせて
(おいて、ふきんのでんわで、おうえんのけいかんをよびよせ、そのよるからよくじつにかけて、)
置いて、附近の電話で、応援の警官を呼びよせ、その夜から翌日にかけて、
(ていないはもうすにおよばず、りょうどなりのにわまでも、のこすところなくそうさくしたけれど、はんにんはもちろん)
邸内は申すに及ばず、両隣の庭までも、残す所なく捜索したけれど、犯人は勿論
(たったひとつのあしあとさえもはっけんすることはできなかった。かいぶつはふぐしゃのみをもって)
たった一つの足跡さえも発見することは出来なかった。怪物は不具者の身を以て
(どうしていちじょうもあるこんくりーとべいをのりこすことができたか。)
どうして一丈もあるコンクリート塀を乗り越すことが出来たか。(附近には
(また、ていないで、つねかわしとみたにとに、)
足場になる様な電柱も立木もなかった)また、邸内で、恒川氏と三谷とに、
(はさみうちになったとき、いっしゅんのあいだにどこへみをかくしえたか。そのようなかくればしょは)
はさみ撃ちになった時、一瞬の間にどこへ身を隠し得たか。その様な隠れ場所は
(ひとつもなかった。さらに、あきらかにちかしつへすがたをけしたかいぶつが、どうしてそこに)
一つもなかった。更に、明かに地下室へ姿を消した怪物が、どうしてそこに
(いなかったか。すべて、まったく、ときがたいなぞであった。)
いなかったか。凡て、全く、解き難い謎であった。
(めいたんてい)
名探偵
(ふしぎは、あおやまのかいやで、くちびるのないおとこが、みたびきえうせたことばかりでは)
不思議は、青山の怪屋で、唇のない男が、三たび消失せたことばかりでは
(なかった。おなじひのゆうがた、とつぜんはたやなぎけをたずねた、おがわしょういちとはそもそもなんぴとで)
なかった。同じ日の夕方、突然畑柳家を訪ねた、小川正一とは抑も何人で
(あったか、かれはなぜむだんでこはたやなぎしのしょさいへはいり、うちがわからとじまりをしたか、)
あったか、彼はなぜ無断で故畑柳氏の書斎へ入り、内側から戸締りをしたか、
(だれがかれをころしたのか。そのげしにんは、とじまりしたへやから、どうしてにげだす)
誰が彼を殺したのか。その下手人は、戸締りした部屋から、どうして逃出す
(ことができたか。さらにきかいちゅうのきかいごとは、しょさいにぶったおれていた、ちみどろの)
ことが出来たか。更に奇怪中の奇怪事は、書斎に打倒れていた、血みどろの
(おがわのしたいが、なぜ、だれによって、どこへ、はこびだされてしまったのか。)
小川の死体が、何ぜ、誰によって、どこへ、運び出されてしまったのか。
(つねかわしは、くちびるのないおとこが、このおがわのげしにんであって、きゃつがしょさいからしがいを)
恒川氏は、唇のない男が、この小川の下手人であって、彼奴が書斎から死骸を
(はこびだし、どこかへかくしたのだとかんがえたが、なるほどようじゅつかのきゃつなら、)
運び出し、どこかへ隠したのだと考えたが、なるほど妖術家の彼奴なら、
(このふかしぎをなしとげえたかもしれぬのだ。だが、そのしたいをどこへかくして)
この不可思議を為しとげ得たかも知れぬのだ。だが、その死体をどこへ隠して
(しまったのか。きゃつがはたやなぎけのへいをこしてにげだすときには、まったくたんしんであった。)
しまったのか。彼奴が畑柳家の塀を越して逃げ出す時には、全く単身であった。
(すると、しがいはていないのどこかにかくしてなければならぬはずなのに、あのときあとに)
すると、死骸は邸内のどこかに隠してなければならぬ筈なのに、あのときあとに
(のこった、こうじまちのしほうしゅにんが、おくないおくがい、いっすんかくもあまさず、しらべまわったにも)
残った、麹町の司法主任が、屋内屋外、一寸角も余さず、検べ廻ったにも
(かかわらず、しがいはもちろん、なんのてがかりらしいものさえ、はっけんできなかったのは、)
かかわらず、死骸は勿論、何の手掛りらしいものさえ、発見出来なかったのは、
(じつにふしぎといわねばならぬ。それはさておき、つねかわけいぶのどりょくによって、)
実に不思議といわねばならぬ。それはさて置き、恒川警部の努力によって、
(はたやなぎしずことしげるしょうねんを、ぶじとりもどすことができたのは、なによりのしあわせで)
畑柳倭文子と茂少年を、無事取戻すことが出来たのは、何よりの仕合せで
(あった。ていにかえると、しげるしょうねんは、きょうふとひろうのために、はつねつしてとこにつく、)
あった。邸に帰ると、茂少年は、恐怖と疲労の為に、発熱して床につく、
(しずこもくちびるのないおとこの、なんともいえぬいやらしいすがた、ぬるぬるしたはぐきの)
倭文子も唇のない男の、何ともいえぬいやらしい姿、ヌルヌルした歯ぐきの
(かんしょくがわすれられず、はずかしさ、はらだたしさに、にさんにちのあいだは、ひとまに)
感触が忘れられず、恥かしさ、腹立たしさに、二三日の間は、一間に
(とじこもったまま、ほとんどだれにもかおをあわせなかった。つねかわしはりょうにんに)
とじこもったまま、ほとんど誰にも顔を合わせなかった。恒川氏は両人に
(はんにんそうさじょうてがかりとなるべきことを、いろいろにたずねてみたが、けっきょくどくしゃに)
犯人捜査上手懸りとなるべきことを、色々に訊ねて見たが、結局読者に
(わかっているいじょうのことがらは、なにもはっけんされなかった。しげるしょうねんをむちうったじんぶつも、)
分っている以上の事柄は、何も発見されなかった。茂少年を鞭打った人物も、
(ただ かおをくろいぬのでつつんだおじさん というほかには、なにもわからなかった。)
ただ「顔を黒い布で包んだ小父さん」という外には、何も分らなかった。