吸血鬼23

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プレイ回数1508難易度(4.5) 4764打 長文 長文モード可
明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 zero 6095 A++ 6.3 95.6% 745.8 4765 219 67 2024/03/24

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問題文

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(ぼくは、こんなやくざなそぞうに、どうしてすうせんえんのねうちがあるかそれが)

「僕は、こんなやくざな塑像に、どうして数千円の値打ちがあるかそれが

(しりたかったのです。こんなものに、じょうしきではかんがえられないこうかなかいてがついた)

知りたかったのです。こんなものに、常識では考えられない高価な買手がついた

(とすれば、そのねうちは、せっこうぞうそのものではなくて、ぞうのなかにかくされている)

とすれば、その値打ちは、石膏像そのものではなくて、像の中に隠されている

(しなものにあるのだと、かんがえるほかはないじゃありませんか。ところで、かくされている)

品物にあるのだと、考える外はないじゃありませんか。ところで、隠されている

(しなものは、さっきもいったように、ほんとうにねうちのあるほうせきなどのばあいもあれば、)

品物は、さっきもいった様に、本当に値打ちのある宝石などの場合もあれば、

(またはんたいにいちもんのねうちもないけれど、たにんのめにふれてはならぬ、なにかひじょうな)

また反対に一文の値打ちもないけれど、他人の目に触れてはならぬ、何か非常な

(ひみつのしなもののばあいもあります ほう、すると、このなかには、いったいなにがはいって)

秘密の品物の場合もあります」「ホウ、すると、この中には、一体何が入って

(いるとおっしゃるんです あけちのいみありげなことばに、やぬしもややいかりをしずめて)

いるとおっしゃるんです」明智の意味ありげな言葉に、家主もやや怒りを静めて

(さもふしんらしくたずねた。みればわかります。まあ、あのかけたかしょを、しらべて)

さも不審らしく尋ねた。「見れば分ります。マア、あの欠けた箇所を、検べて

(ごらんなさい いわれるままに、おやじは、さっきあけちがしたように、ゆびさきで、)

ごらんなさい」いわれるままに、親爺は、さっき明智がした様に、指先で、

(うすぐろいぬのくずをいじくったかとおもうと、わっ とさけんで、とびのいた。)

うす黒い布くずをいじくったかと思うと、「ワッ」と叫んで、飛びのいた。

(ゆうあんのなかで、かれのかおは、ゆうれいのように、ちのけがうせている。わかりましたか、)

夕暗の中で、彼の顔は、幽霊の様に、血の気が失せている。「分りましたか、

(なぜこんなものに、こうかなかいてがついたかということが。あなたは、)

なぜこんなものに、高価な買手がついたかということが。あなたは、

(そのますくをかけたきみょうなしょうにんが、このおそろしいさつじんざいをおかしたおとこ、すなわち)

そのマスクを掛けた奇妙な商人が、この恐ろしい殺人罪を犯した男、即ち

(おかだみちひこであったのを、きづきませんでしたか。どこかにみおぼえがなかった)

岡田道彦であったのを、気づきませんでしたか。どこかに見覚がなかった

(ですか えっ、なんですって。すると、おかださんは、しおばらでしんだんじゃ)

ですか」「エッ、なんですって。すると、岡田さんは、鹽原で死んだんじゃ

(ないので・・・・・・ おそらく、しんだとみせかけて、かんけんのめをあざむこうと)

ないので……」「恐らく、死んだと見せかけて、官憲の目をあざむこうと

(したのです。これほどのたいざいをおかしていれば、しをよそおわねばならなかったのも、)

したのです。これ程の大罪を犯していれば、死を装わねばならなかったのも、

(むりではありませんよ わたしゃ、あまりのことに、なにがなんだか、わけが)

無理ではありませんよ」「わたしゃ、余りのことに、何が何だか、訳が

(わかりません。すると、そのしんだとみせかけたおかださんが、へんそうをして、じぶんの)

分りません。すると、その死んだと見せかけた岡田さんが、変装をして、自分の

など

(つくったこのちょうこくを、かいにきたというのですね やぬしは、きょうふにしわがれたこえで)

作ったこの彫刻を、買いに来たというのですね」家主は、恐怖にしわがれた声で

(さけぶようにいった。そうとしかかんがえられない、いろいろなじじょうがあるのです)

叫ぶ様にいった。「そうとしか考えられない、色々な事情があるのです」

(で、いったいぜんたいこのなかには、なにがはいっているのです。あのみょうなにおいのする、)

「で、一体全体この中には、何が入っているのです。あの妙な匂いのする、

(ぐにゃぐにゃしたものは、やっぱり・・・・・・それがなんであるか、)

グニャグニャしたものは、やっぱり……」それが何であるか、

(ちゃんとしっているくせに、たずねてみないではいられぬのだ。おんなのしがいです。)

ちゃんと知っている癖に、尋ねて見ないではいられぬのだ。「女の死骸です。

(しかもさんにんものしがいがかくしてあるのです うそだ、うそだ。なんぼなんでも、)

しかも三人もの死骸が隠してあるのです」「嘘だ、嘘だ。なんぼなんでも、

(そんなばかなことが・・・・・・さすがのがんこおやじが、いまにもなきだしそうなじゅうめんをつくって)

そんな馬鹿なことが……」流石の頑固親爺が、今にも泣き出し相な渋面を作って

(てをふりふりさけんだ。うそかほんとうか、ためしてみるのはわけありません。こうすりゃ)

手を振り振り叫んだ。「嘘か本当か、試して見るのは訳ありません。こうすりゃ

(いいんです いったかとおもうと、あけちはまたもや、かたいくつぞこで、だいに、だいさんの)

いいんです」いったかと思うと、明智はまたもや、固い靴底で、第二、第三の

(らたいにんぎょうをけとばした。)

裸体人形を蹴飛ばした。

(あおじろきしょくしゅ)

青白き触手

(ごつん、ごつんと、つづけざまに、くつのきびすがなって、せっこうのこまかいかけらがしほうに)

ゴツン、ゴツンと、続けざまに、靴の踵が鳴って、石膏の細いかけらが四方に

(とびちった。ところが、ほとんどそれとどうじに、だいさんのいようなものおとが、まるで、)

飛び散った。ところが、ほとんどそれと同時に、第三の異様な物音が、まるで、

(いませっこうのわれたおとのこだまのように、ひとびとのみみをうった。あけちはにどけったばかり)

今石膏の割れた音の谺の様に、人々の耳をうった。明智は二度蹴ったばかり

(なのに、ふしぎなことに、おとだけはさんどひびいたのだ。しかも、さんどめのものおとに)

なのに、不思議なことに、音だけは三度響いたのだ。しかも、三度目の物音に

(つれて、いたばりのゆかにばらばらととびちったのは、せっこうのかけらではなくて、するどく)

つれて、板張りの床にバラバラと飛散ったのは、石膏のかけらではなくて、鋭く

(ひかったがらすのはへんであった。そのおとと、せっこうのわれるおとと、ほとんどどうじで)

光ったガラスの破片であった。その音と、石膏の割れる音と、ほとんど同時で

(あったために、しばらくのあいだ、おとのはっしたかしょをさとることができず、ひとびとはいような)

あった為に、暫くの間、音の発した箇所を悟ることが出来ず、人々は異様な

(こんわくをかんじたが、やがて、あけちが、こうしくひとつのまどにかけよって、そとのゆうやみを)

困惑を感じたが、やがて、明智が、惶しく一つの窓にかけ寄って、外の夕闇を

(のぞいたので、やっとことのしさいがわかった。なにものかが、そのまどのそとから、こいしを)

覗いたので、やっと事の仔細が分った。何者かが、その窓の外から、小石を

(なげこんだのだ。とびちったのは、われたまどがらすのかけらであった。)

投込んだのだ。飛散ったのは、破れた窓ガラスのかけらであった。

(いたずらこぞうめ。このうらのひろっぱへこどもたちがあつまってしようがないのですよ)

「いたずら小僧め。この裏の広っぱへ子供達が集まって仕様がないのですよ」

(やぬしがはらだたしくいった。すばやいやつだ。もうかげもかたちもありやしない あけちは)

家主が腹立たしくいった。「素早い奴だ。もう影も形もありやしない」明智は

(つぶやきながら、まどからかえってきたが、ふとあしもとにおちているしろいものにきづいて、)

呟きながら、窓から帰って来たが、ふと足元に落ている白いものに気づいて、

(それをひろいあげた。こいしをつつんだかみきれだ。ひろげてみると、えんぴつでなにやら)

それを拾い上げた。小石を包んだ紙切れだ。拡げて見ると、鉛筆で何やら

(かいてある。おせっかいは、よせといったらよさぬか。これがにどめの、)

書いてある。『おせっかいは、止せといったら止さぬか。これが二度目の、

(そしてさいごのけいこくだ。こうかいしてもおっつかぬことがおこるぞ れいのかいぶつからあけちへの)

そして最後の警告だ。後悔してもおっつかぬ事が起るぞ』例の怪物から明智への

(けいこくだ。ちくしょうっ さけぶなり、あけちはまどをひらいて、そとへとびだしていったが、)

警告だ。「畜生ッ」叫ぶなり、明智は窓を開いて、外へ飛び出して行ったが、

(しばらくすると、むなしくたちもどってきた。どうもふしぎだ かれは、さっきあおやまで)

暫くすると、空しく立戻って来た。「どうも不思議だ」彼は、さっき青山で

(かいやのたんけんをすませたときとおなじような、いっしゅいようのこんわくのひょうじょうをしめして、つぶやいた。)

怪屋の探検を済ませた時と同じ様な、一種異様の困惑の表情を示して、呟いた。

(このじけんにはにじゅうのそこがあって、かれはそのぶきみなそこを、ちらとのぞいたようなきが)

この事件には二重の底があって、彼はその不気味な底を、チラと覗いた様な気が

(したのである。いえのまわりをいっしゅうして、くまなくさがしてみたけれど、いしをなげた)

したのである。家のまわりを一週して、隈なく探して見たけれど、石を投げた

(やつはどこにもいなかった。ゆうぐれとはいえ、まだものがみえぬほどではない。)

奴はどこにもいなかった。夕暮れとはいえ、まだ物が見えぬ程ではない。

(そのみとおしのひろっぱを、たったにさんじゅうびょうのあいだに、どうしてにげさることが)

その見通しの広っぱを、たった二三十秒の間に、どうして逃げ去ることが

(できたのであろう。ふかのうだ。またしてもふかのうごとがおこなわれたのだ。しかも)

出来たのであろう。不可能だ。またしても不可能事が行われたのだ。しかも

(こんどのは、あけちすらとくすべをしらぬなぞであった。あまりにあばきすぎたので)

今度のは、明智すら解くすべを知らぬ謎であった。「あまりにあばき過ぎたので

(はんにんめたまらなくなって、こんないたずらをしたのですよ。だが、ぼくは)

犯人めたまらなくなって、こんないたずらをしたのですよ。だが、僕は

(そうされれば、されるほど、よけいあばいてやりたくなるおとこです あけちはなにを)

そうされれば、される程、余計あばいてやりたくなる男です」明智は何を

(おもったのか、あとりえのすみから、ちょうこくようのつちをひろってきて、いきなりきずついた)

思ったのか、アトリエの隅から、彫刻用の槌を拾って来て、いきなり傷ついた

(さんにんのらじょの、かおといわず、むねといわず、たたきはじめた。ばらばらととびちる)

三人の裸女の、顔といわず、胸といわず、たたき始めた。バラバラと飛散る

(せっこう。ひとつちごとに、むきだしになっていく、らじょのふにく。かくて、ゆうやみの)

石膏。一槌ごとに、むき出しになって行く、裸女の腐肉。かくて、夕闇の

(あとりえにくりひろげられた、ときならぬじごくふうけいは、ここにさいじょすべく、あまりにも)

アトリエに繰拡げられた、時ならぬ地獄風景は、ここに細叙すべく、あまりにも

(むざんである。すべてどくしゃのそうぞうにまかせるにほかはない。さくしゃはただ、そのぐんぞうのなかに)

無残である。凡て読者の想像に任せるに外はない。作者はただ、その群像の中に

(さんにんのわかきおんなのしたいがかくされていたというじじつ、しがいにはいちめんにしろぬのをまき、)

三人の若き女の死体が隠されていたという事実、死骸には一面に白布を捲き、

(そのうえからせっこうでぬりつぶしてあったというじじつを、しるすにとどめなければ)

その上から石膏で塗りつぶしてあったという事実を、記すに止めなければ

(ならぬ。いうまでもなく、そっこく、このことがしょかつけいさつとけいしちょうにほうぜられ、)

ならぬ。いうまでもなく、即刻、このことが所轄警察と警視庁に報ぜられ、

(けいかんたちにつづいて、さいばんしょのいっこうのらいちゃくとなったのであるが、それはあとのおはなし。)

警官達に続いて、裁判所の一行の来着となったのであるが、それは後のお話。

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