吸血鬼30

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明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 kuma 5395 B++ 5.7 93.8% 973.3 5619 368 74 2024/11/15

関連タイピング

問題文

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(きちがいだとおもったのであろう。せいねんは、しかたがないので、そのへんにたっていた)

気違いだと思ったのであろう。青年は、仕方がないので、その辺に立っていた

(けんぶつにんをとらえて、いまのでんとうしんごうのいみを、くどくどせつめいしたが、だれも)

見物人を捉えて、今の電燈信号の意味を、クドクド説明したが、誰も

(とりあうものはなかった。ひゃくしょう、だまれ!ねっしんなけんぶつは、みみざわりなはなしごえに)

取合うものはなかった。「百姓、だまれ!」熱心な見物は、耳ざわりな話声に

(はらをたてて、どなりだした。せいねんはとりつくしまがなかった。かれはとうとう、)

腹を立てて、呶鳴り出した。青年は取りつく島がなかった。彼はとうとう、

(なきだしそうになって、なにかわけのわからぬことをわめきながら、でぐちのほうへはしって)

泣き出し相になって、何か訳の分らぬ事をわめきながら、出口の方へ走って

(いった。ふみよのせっかくのおもいつきも、かくして、むだにおわったのであろうか。)

行った。文代の折角の思いつきも、かくして、無駄に終ったのであろうか。

(どうにも、じょうないには、しんごうのわかるものは、ほかにひとりもいなかった。だが、じょうがいに)

如何にも、場内には、信号の分るものは、外に一人もいなかった。だが、場外に

(こくぎかんめがけてしっそうするじどうしゃのなかに、わがあけちこごろうがいた。かれはとうぜん、はしる)

国技館目がけて疾走する自動車の中に、我が明智小五郎がいた。彼は当然、走る

(くるまのまどから、あのきょだいなまるやねにかがやくいるみねーしょんをみつめていたのだ。)

車の窓から、あの巨大な丸屋根に輝くイルミネーションを見つめていたのだ。

(そのとき、かれらのじどうしゃはまだはまちょうあたりにさしかかったばかりであったが、こくぎかんの)

その時、彼等の自動車はまだ浜町辺にさしかかったばかりであったが、国技館の

(まるやねはどんなえんぽうからでもみとおしだ。まっくろなおおぞらに、べらぼうにおおきな、)

丸屋根はどんな遠方からでも見通しだ。真黒な大空に、ベラ棒に大きな、

(しなじんのぼうしみたいな、まるやねをふちどって、ふくしゃじょうの、いようなほしがつらなって)

支那人の帽子みたいな、丸屋根を縁どって、輻射状の、異様な星がつらなって

(いた。ああ、なんというものすごいこうけいであったか。そのほしどもが、ぱちぱち、)

いた。アア、何という物凄い光景であったか。その星共が、パチパチ、

(ぱちぱちと、あるひょうしをとって、いっせいにまたたいたのだ。s・o・s・・・・・・)

パチパチと、ある拍子を取って、一斉に瞬いたのだ。S・O・S……

(s・o・s・・・・・・と。あけちは、ただちにそのおそろしいいみをさとった。やみのおおぞらに、)

S・O・S……と。明智は、直にその恐ろしい意味を悟った。暗の大空に、

(ふみよさんの、のたうちまわる、きょだいなげんえいがめいめつした。うんてんしゅくん、)

文代さんの、のたうち廻る、巨大な幻影が明滅した。「運転手君、

(ふる・すぴーどだ。ぼくがせきにんをもつ。よんじゅうまいる、ごじゅうまいる、だせるだけだしてくれ)

フル・スピードだ。僕が責任を持つ。四十哩、五十哩、出せるだけ出してくれ」

(あけちは、ほとんどにくたいてきくつうをかんじて、さけんだ。ちょうどそのころ、こくぎかんのじむしょでは、)

明智は、殆ど肉体的苦痛を感じて、叫んだ。丁度その頃、国技館の事務所では、

(このこうぎょうをあずかる、しはいにんのsしがつぎつぎとかかってくる、ふしぎなでんわに、)

この興行を預かる、支配人のS氏が次々とかかって来る、不思議な電話に、

(めんくらっていた。さいしょのでんわは、いまきせいちゅうの、あるふながいしゃのでんしんぎしから)

面くらっていた。最初の電話は、いま帰省中の、ある船会社の電信技師から

など

(であった。わたしのにかいからこくぎかんのまるやねのいるみねーしょんがよくみえるの)

であった。「私の二階から国技館の丸屋根のイルミネーションがよく見えるの

(ですが、いましがた、あのでんとうがへんなふうにめいめつしました。おきづきでしょうか。)

ですが、今し方、あの電燈が変な風に明滅しました。お気づきでしょうか。

(なんぱせんからきゅうじょをもとめるときにつかうs・o・sをさんどもくりかえしたのです。)

難破船から救助を求める時に使うS・O・Sを三度も繰返したのです。

(でんきかかりなんかのいたずらかもしれませんが、すこしいたずらすぎるとおもいます。)

電気係なんかのいたずらかも知れませんが、少しいたずら過ぎると思います。

(それともなにかとくべつのじけんでもおこったのではありませんか。ねんのために)

それとも何か特別の事件でも起ったのではありませんか。念の為に

(ごちゅういします というのだ。しばらくすると、こんどはすいじょうしょから、おなじような)

御注意します」というのだ。暫くすると、今度は水上署から、同じ様な

(おしかりのでんわ、つづいて、だれかがほうこくしたとみえて、しょかつけいさつしょからもおこごとが)

お叱りの電話、続いて、誰かが報告したと見えて、所轄警察署からもお小言が

(くるというしまつだ。あけちこごろうがとうちゃくして、しはいにんのsしにしをつうじたのは、)

来るという始末だ。明智小五郎が到着して、支配人のS氏に刺を通じたのは、

(ちょうどそのさわぎのさいちゅうであった。sしはいよいよただごとではないと、あおくなって、)

丁度その騒ぎの最中であった。S氏は愈々ただ事ではないと、青くなって、

(ともかくも、ゆうめいなしろうとたんていを、じむしつへしょうじいれた。あけちはいさいをかたって、)

兎も角も、有名な素人探偵を、事務室へ招じ入れた。明智は委細を語って、

(いちおうはいでんしつをしらべてみたいともうしいでたので、sしはちょくせつかれをそこへあんないしたが、)

一応配電室を検べて見たいと申出でたので、S氏は直接彼をそこへ案内したが、

(むろん、そのじぶんには、へやはからっぽ、なんのいじょうもない。はいでんかかりをさがしだして、)

無論、その時分には、部屋は空っぽ、何の異状もない。配電係を探し出して、

(あけちじしんで、ねほりはほり、たずねてみると、ついにかくしきれず、みょうなますくのおとこに、)

明智自身で、根掘葉掘り、尋ねて見ると、遂に隠し切れず、妙なマスクの男に、

(たがくのれいきんをもらって、はいでんしつのかぎをかしたことをはくじょうした。やっぱり、)

多額の礼金を貰って、配電室の鍵を貸たことを白状した。「やっぱり、

(このへやで、なにごとかあったのです。あのしんごうをしたのはおそらく、とじこめられた)

この部屋で、何事かあったのです。あの信号をしたのは恐らく、とじこめられた

(ひがいしゃでしょう。わたしは、そのひがいしゃのふみよというふじんが、でんしんのぎじゅつにつうじて)

被害者でしょう。私は、その被害者の文代という婦人が、電信の技術に通じて

(いたことをしっているのです あけちはしんぱいにひたいをくもらせて、いらだたしく)

いたことを知っているのです」明智は心配に額をくもらせて、いらだたしく

(いった。にわかにさわぎがおおきくなった。ただちにけいさつへでんわがかけられ、かかりいんたちは、)

いった。俄に騒ぎが大きくなった。直に警察へ電話がかけられ、係員達は、

(あるものはでいりぐちにとんで、でいりのけんぶつにんにめをひからせ、あるものは、ひろいじょうないを)

ある者は出入口に飛んで、出入の見物人に眼を光らせ、ある者は、広い場内を

(うおうさおうして、それらしいふうていのじんぶつをさがしまわった。やがてしょかつけいさつから、)

右往左往して、それらしい風体の人物を探し廻った。やがて所轄警察から、

(すうめいのけいかんがかけつけたが、きょうぎのけっか、もはやくじのへいかんにまもないので、)

数名の警官が駆けつけたが、協議の結果、最早九時の閉館に間もないので、

(けんぶつがのこらずたちさるまで、てわけをして、かくでいりぐちを、げんじゅうにみはることと)

見物が残らず立去るまで、手分けをして、各出入口を、厳重に見張ることと

(なった。くじさんじゅっぷん、けんぶつはひとりのこらず、かえりさった。じょうないばいてんのうりこ、はいゆう、)

なった。九時三十分、見物は一人残らず、帰り去った。場内売店の売子、俳優、

(どうぐかた、そのたしたまわりのかかりいんたちも、ほとんどきたくした。だが、ふしぎなことに、)

道具方、その他下廻りの係員達も、ほとんど帰宅した。だが、不思議なことに、

(ますくのおとこも、ふみよらしいようそうのおんなも、どのでいりぐちにもすがたをあらわさなかった。)

マスクの男も、文代らしい洋装の女も、どの出入口にも姿を現わさなかった。

(のこったのは、しはいにんをはじめにじゅうにんほどのおもだったかかりいん、じゅうめいのけいかん、それにあけちと)

残ったのは、支配人を始め二十人程の重だった係員、十名の警官、それに明智と

(こばやししょうねんである。かくきどぐち、ひじょうぐちは、げんじゅうにとじまりをしたうえ、ひとりずつけいかんの)

小林少年である。各木戸口、非常口は、厳重に戸締りをした上、一人ずつ警官の

(みはりがついた。そうしておいて、のこるにじゅうなんにんが、もういちど、それぞれうけもちくいきを)

見張りがついた。そうして置いて、残る二十何人が、もう一度、夫々受持区域を

(さだめて、じょうないくまなくしらべまわったが、どこのすみにも、ひとのかげさえなかった。)

定めて、場内隈なく検べ廻ったが、どこの隅にも、人の影さえなかった。

(これだけさがしてもいないところをみると、くせものはとっくに、そとへでてしまったの)

「これだけ探してもいない所を見ると、曲者はとっくに、外へ出てしまったの

(でしょう。あのおおぜいのけんぶつにんのあいだにまじっていますと、いくらちゅういしてみはって)

でしょう。あの大勢の見物人の間に混っていますと、いくら注意して見張って

(いても、みのがすということもありましょうからね けいかんたいをひきつれてきた)

いても、見逃すということもありましょうからね」警官隊を引きつれて来た

(ろうけいぶが、あきらめたようにいった。いや、ぼくにはどうもそうおもえないです)

老警部が、あきらめた様にいった。「イヤ、僕にはどうもそう思えないです」

(あけちがはんたいした。ぞくはふみよさんを、わざわざここへおびきだしたのです。)

明智が反対した。「賊は文代さんを、態々ここへおびき出したのです。

(おびきだしたからには、このこくぎかんのたてものが、あるはんざいをおこなうために、とくに)

おびき出したからには、この国技館の建物が、ある犯罪を行う為に、特に

(こうつごうであったとかんがえなければなりません。はいでんしつへつれこむのが、さいしゅうの)

好都合であったと考えなければなりません。配電室へつれ込むのが、最終の

(もくてきではなかったのでしょう。ごしょうちのとおり、あいつはさつじんきなのです。)

目的ではなかったのでしょう。御承知の通り、あいつは殺人鬼なのです。

(たとえぞくはここからにげだしたとしても、ひがいしゃか、あるいは・・・・・・ひがいしゃのしがいが、)

仮令賊はここから逃げ出したとしても、被害者か、或は……被害者の死骸が、

(じょうないのどこかにかくされているはずです さらにきょうぎのけっか、こんどはしゅだんをかえて、)

場内のどこかに隠されている筈です」更に協議の結果、今度は手段を変えて、

(けいかんたちは、かくでいりぐちにあつまり、あけちとこばやししょうねんとふたりだけで、あしおとをぬすみ、みみを)

警官達は、各出入口に集まり、明智と小林少年と二人丈で、足音を盗み、耳を

(すまして、ひろいじょうないをいちじゅんしてみることにした。もうそうさくをだんねんしたとみせかけ)

すまして、広い場内を一巡して見ることにした。もう捜索を断念したと見せかけ

(あいてがゆだんをして、すがたをあらわすか、ものおとをたてるのをまって、ひっとらえようと)

相手が油断をして、姿を現すか、物音を立てるのを待って、引捕えようと

(いうのだ。そのころには、さわぎをききつけて、とちのしごとしれんちゅうがじむしょへ)

いうのだ。その頃には、騒ぎを聞きつけて、土地の仕事師連中が事務所へ

(つめかけていたので、まんいちのために、そのひとびとのてで、ぴすとるがよういされ、)

つめかけていたので、万一の為に、その人々の手で、ピストルが用意され、

(あけちもこばやししょうねんも、それをいっちょうずつぽけっとにしのばせて、さいごのそうさくにと)

明智も小林少年も、それを一挺ずつポケットにしのばせて、最後の捜索にと

(しゅっぱつした。でんとうはまだつけたままになっていたが、あかるければあかるいほど、)

出発した。電燈はまだつけたままになっていたが、明るければ明るい程、

(ひとけのない、がらんとしたじょうないは、いようにものさびしく、ぶきみであった。)

人気のない、ガランとした場内は、異様に物淋しく、不気味であった。

(いまやじょうないひっくるめて、なにびゃくたいという、にんぎょうどものてんかであった。かれらは、)

今や場内ひっくるめて、何百体という、人形共の天下であった。彼等は、

(だれもみていないときには、こっそりあくびをしたり、こごえではなしあったり)

誰も見ていない時には、コッソリあくびをしたり、小声で話し合ったり

(するのではないかとおもわれた。そのなかを、たったふたりであるいているにんげんは、かえって)

するのではないかと思われた。その中を、たった二人で歩いている人間は、却て

(にんぎょうどもにながめられ、ひはんされているようで、うすきみがわるかった。じっとみていると)

人形共に眺められ、批判されている様で、薄気味が悪かった。じっと見ていると

(どのにんぎょうも、どのにんぎょうも、それぞれのぽーずで、ひそかにこきゅうし、まばたきさえした。)

どの人形も、どの人形も、夫々のポーズで、ひそかに呼吸し、瞬きさえした。

(かれらにぞくのゆくえをたずねてみたら ほら、そこにいるじゃないか と)

彼等に賊の行方を尋ねて見たら「ホラ、そこにいるじゃないか」と

(おしえてくれたかもしれないのだ。)

教えてくれたかも知れないのだ。

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