吸血鬼35

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投稿者投稿者桃仔いいね2お気に入り登録
プレイ回数1514難易度(4.2) 4844打 長文 かな 長文モード可
明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 zero 6187 A++ 6.4 95.9% 750.4 4847 204 66 2024/04/06
2 じゅん 4136 C 4.2 96.6% 1122.3 4811 169 66 2024/02/25

関連タイピング

問題文

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(とぶあくま)

飛ぶ悪魔

(よふけといっても、こくぎかんまえのおおどおりには、まだでんしゃやじどうしゃが)

夜更けといっても、国技館前の大通りには、まだ電車や自動車が

(いきちがっていたし、ふきんのしょうてんは、めいめいとでんとうをつけてしょうばいをしていたし、)

行き違っていたし、付近の商店は、明々と電燈をつけて商売をしていたし、

(ひとどおりをいききするひとびとも、すくなくなかった。きくにんぎょうのいりぐちに、ものものしくみはりを)

人通を往き来する人々も、少くなかった。菊人形の入口に、物々しく見張りを

(つづけているけいかんのすがた、かんないをうおうさおうする、ただならぬひとかげ、しぜん、)

続けている警官の姿、館内を右往左往する、ただならぬ人影、自然、

(おうらいのひとびとのちゅういをひかぬわけにはいかなかった。ひとりたち、ふたりたち)

往来の人々の注意をひかぬ訳には行かなかった。一人立ち、二人立ち

(こくぎかんのまえは、いつのまにか、くろやまのひとだかりになっていた。そこへ、たかい)

国技館の前は、いつの間にか、黒山の人だかりになっていた。そこへ、高い

(まるやねのうえから、ひびいてくる、ののしりごえ。びっくりしてみあげるそらから、)

丸屋根の上から、響いて来る、罵り声。びっくりして見上げる空から、

(とっくみあいにんげんのあめだ。わーっ とあがるときのこえ、きのよわいれんちゅうは、)

とっ組み合い人間の雨だ。「ワーッ」と上るときの声、気の弱い連中は、

(ひめいをあげてにげだすので、ひとなみがみぎにもひだりにももみかえす。やねからてんらくした)

悲鳴をあげて逃げ出すので、人波が右にも左にももみ返す。屋根から転落した

(ふたりが、そのままちじょうへおちたならば、むろんいのちはなかったであろうが、)

二人が、そのまま地上へ落ちたならば、無論命はなかったであろうが、

(あのたてものは、やねのしたに、ふくざつなでっぱりができている。かれらは、)

あの建物は、屋根の下に、複雑な出っ張りが出来ている。彼等は、

(とっくみあったまま、そのでっぱりのひとつにおちたのだ。いのちはたすかった。)

とっ組み合ったまま、その出っ張りの一つに落ちたのだ。命は助かった。

(だが、きゅうにおきあがるげんきはない。りょうにんとも、そこにへたばったまま、)

だが、急に起き上る元気はない。両人とも、そこにへたばったまま、

(ばかやろう、ばかやろう とののしるこえがふってくるばかりだ。あのせまいたなのような)

「馬鹿野郎、馬鹿野郎」と罵る声が降って来るばかりだ。あの狭い棚のような

(ばしょで、あらそいをつづけたなら、まけたほうが、こんどこそ、まっさかさまに、じめんへついらくして)

場所で、争いを続けたなら、負けた方が、今度こそ、真逆様に、地面へ墜落して

(いのちをうしなうのはひつじょうだ。くろやまのけんぶつにんには、ひとのすがたはみえぬけれど、ののしりあうこえで)

命を失うのは必定だ。黒山の見物人には、人の姿は見えぬけれど、罵り合う声で

(ふたりがきけんなあらそいをつづけていることがわかるので あぶない、あぶない と)

二人が危険な争いを続けていることが分るので「あぶない、あぶない」と

(わめきたてるこえが、あらしのようにわきかえる。やがて、そのことがかんないにつたえられ、)

わめき立てる声が、嵐の様にわき返る。やがて、その事が館内に伝えられ、

(なだれをうって、とびだしてきたいちぐんのひとは、さいぜんかんないで、ぞくをおっかけた)

なだれを打って、飛び出してきた一群の人は、さい前館内で、賊を追っかけた

など

(けいかん、かかりいん、しごとしなどのれんちゅうだ。そのなかに、いようなぐんぷくすがたのふみよさんや、)

警官、係員、仕事師などの連中だ。その中に、異様な軍服姿の文代さんや、

(こばやししょうねんもまじっていた。かんないから、ながいはしごがもちだされ、ふたりのあらそっている、)

小林少年もまじっていた。館内から、長い梯子が持出され、二人の争っている、

(たなのようなかしょへかけられた。にさんにんのしごとしが、さきをあらそって、はしごをかけのぼり、)

棚の様な個所へかけられた。二三人の仕事師が、先を争って、梯子を駆け上り、

(まだとっくみあっているふたりを、とりおさえた。ひとりはいうまでもなく、さっきの)

まだとっ組み合っている二人を、とり押えた。一人はいうまでもなく、さっきの

(ゆうかんなわかもの、いまひとりはぞくのはずだ。ところが、きみょうなことに、そのぞくのほうが、)

勇敢な若者、今一人は賊の筈だ。ところが、奇妙なことに、その賊の方が、

(ばかやろう、ばかやろう と、さもはらだたしげに、わかものをののしっているではないか。)

「馬鹿野郎、馬鹿野郎」と、さも腹立たしげに、若者を罵っているではないか。

(わかもののほうはとみると、さっきのいせいはどこへやら、ぐったりとなって、あいての)

若者の方はと見ると、さっきの威勢はどこへやら、グッタリとなって、相手の

(ののしるにまかせている。おい、どうしたんだ せなかをこづいて、たずねてみると、)

罵るに任せている。「オイ、どうしたんだ」背中をこづいて、尋ねて見ると、

(わかものは、がっかりしたちょうしで、そのひとは、ぞくじゃないんだ。みかたの)

若者は、がっかりした調子で、「その人は、賊じゃないんだ。味方の

(あけちさんだ。それがいまやっとわかったのだ とうめいた。なるほど、そういわれて)

明智さんだ。それが今やっと分ったのだ」とうめいた。成程、そう言われて

(みれば、さっきまで、かんないで、おってのせんとうにたっていた、あけちたんていにそういない。)

見れば、さっきまで、館内で、追手の先頭に立っていた、明智探偵に相違ない。

(ぞくはまだやねのうえにいるはずだ、はやくとらえてくれたまえ あけちはかおを)

「賊はまだ屋根の上にいる筈だ、早く捕らえてくれ給え」明智は顔を

(しかめながら、さしずした。このおとこが、とんだおもいちがいをしたものだから、)

しかめながら、指図した。「この男が、飛んだ思い違いをしたものだから、

(ぼくのけいかくがめちゃめちゃになってしまった あけちがばかやろう、ばかやろうとののしったのも)

僕の計画が滅茶滅茶になってしまった」明智が馬鹿野郎、馬鹿野郎と罵ったのも

(むりではない。せっかく、かれがたんしん、てきのはいごをおそって、やねのうえでぞくを)

無理ではない。折角、彼が単身、敵の背後を襲って、屋根の上で賊を

(ひっとらえようとしたけいかくが、すっかりそごしてしまったのだ。そこで、あけちと)

引捕らえようとした計画が、すっかり齟齬してしまったのだ。そこで、明智と

(わかものをたすけおろすとどうじに、いっぽうでは、みがるなれんちゅうをすぐって、おくじょうのだいそうさくが)

若者を助けおろすと同時に、一方では、身軽な連中をすぐって、屋上の大捜索が

(おこなわれた。てすきのものは、やかたのないがい、ぞくのおりてきそうなかしょを、すこしの)

行われた。手隙のものは、館の内外、賊のおりて来そうな個所を、少しの

(すきもなく、みはりつづけた。だがぞくはどこにもいなかった。またしてもときがたき)

隙もなく、見張り続けた。だが賊はどこにもいなかった。またしても解き難き

(ふしぎがおこったのだ。まよなかまで、おおがかりなそうさくがつづけられたが、)

不思議が起ったのだ。真夜中まで、大がかりな捜索が続けられたが、

(なんのうるところもない。けっきょく、みはりのにんずうはそのままのこして、よるのあけるのを)

何の得る処もない。結局、見張りの人数はそのまま残して、夜の明けるのを

(まつことになった。さて、よるがあけると、ぞくはじつにいがいなばしょに)

待つことになった。さて、夜があけると、賊は実に意外な場所に

(かくされていたことがわかった。かれはじょうはつしてしまったのではないかとうたがわれたが、)

隠されていたことが分った。彼は蒸発してしまったのではないかと疑われたが、

(ほんとうにじょうはつしていたのだ。やねよりも、もっとたかい、おおぞらへとすがたをかくして)

本当に蒸発していたのだ。屋根よりも、もっと高い、大空へと姿を隠して

(いたのだ。だいそうさくがむだにおわって、よるがあけるじぶんには、けいかんも、やかたのかかりいんも、)

いたのだ。大捜索が無駄に終って、夜が明ける時分には、警官も、館の係員も、

(だいぶぶんあらてのひとびとにかわっていた。あけちこごろうは、やねからついらくしたとき、)

大部分新手の人々に代っていた。明智小五郎は、屋根から墜落した時、

(かたのあたりにだぼくきずをおって、とうていかつどうをつづけることができなかったので、)

肩のあたりに打撲傷を負って、到底活動を続けることが出来なかったので、

(ふみよさんとこばやししょうねんがつきそって、ひとまずじむしょへひきあげた。おもわぬじゃまがはいって)

文代さんと小林少年が付添って、一先ず事務所へ引上げた。思わぬ邪魔が入って

(ぞくはとりにがしたけれど、ふみよさんをぞくのてからうばいかえしたのだから、もくてきの)

賊はとり逃がしたけれど、文代さんを賊の手から奪い返したのだから、目的の

(いっぱんはたっしたわけである。さて、げんばでは、よるがあけて、まるやねのそらがしらむころ、)

一半は達した訳である。さて、現場では、夜があけて、丸屋根の空が白む頃、

(はやくもぞくのかくればしょがはっけんされた。よるのやみが、こうもひとをめくらにするものかと)

早くも賊の隠れ場所が発見された。夜の闇が、こうも人をめくらにするものかと

(ひとびとは、いまさらたいようのありがたさをかんじないではいられなかった。あんなにも)

人々は、今さら太陽の有難さを感じないではいられなかった。あんなにも

(さがしまわって、はっけんできなかったぞくが、あかつきのひかりのなかでは、たったひとめで、)

探し廻って、発見出来なかった賊が、暁の光の中では、たった一目で、

(ばかばかしいほどぞうさなく、みつかってしまったのだ。それにしても、なんという)

馬鹿馬鹿しい程造作なく、見つかってしまったのだ。それにしても、何という

(きそうてんがいなかくればしょであったろう。ひとびとは、まさかやねよりたかいばしょへ、)

奇想天外な隠れ場所であったろう。人々は、まさか屋根より高い場所へ、

(ぞくがにげだそうとは、そうぞうもしなかった。うっかり、それをどがいししていた。)

賊が逃げ出そうとは、想像もしなかった。うっかり、それを度外視していた。

(こくぎかんは、あのきょだいなまるやねが、りっぱなめじるしになっているのだから、べつに)

国技館は、あの巨大な丸屋根が、立派な目印になっているのだから、別に

(そんなものを、しようするひつようはなかったのだが、せんでんずきのこうぎょうしゅにんが、)

そんなものを、使用する必要はなかったのだが、宣伝好きの興業主任が、

(かんばんがわりのこうこくふうせんをさいようしていた。ひこうせんがたのふうせんが、まるやねのそらたかく、)

看板代りの広告風船を採用していた。飛行船型の風船が、丸屋根の空高く、

(けいりゅうされ、そのおおきなどうちゅうに きっかたいかい のよんもじが、どんなとおくからでも)

繋留され、その大きな胴中に「菊花大会」の四文字が、どんな遠くからでも

(みえるように、くろくそめだしてあるのだ。ふうせんをつないだ、ふといあさなわは、)

見えるように、黒く染め出してあるのだ。風船をつないだ、太い麻縄は、

(やかたのうらてのちじょうから、まるやねのふちをつたって、いっちょくせんに、そらへのぼっている。)

館の裏手の地上から、丸屋根の縁を伝って、一直線に、空へ昇っている。

(ぞくはやねからあさなわをよじのぼって、そのこうこくふうせんへてんじょうしていたのだ。)

賊は屋根から麻縄をよじ昇って、その広告風船へ天上していたのだ。

(ふうせんのはらのしほうからちょうどたこのように、たくさんのほそいなわがあつまって、ちじょうからの)

風船の腹の四方から丁度たこの様に、沢山の細い縄が集まって、地上からの

(おおなわにむすびつけてあるのだが、そのほそいなわのちゅうしんに、はんもっくにのった)

太縄にむすびつけてあるのだが、その細い縄の中心に、ハンモックに乗った

(かっこうで、ぞくはらくらくとみをよこたえていたのである。)

格好で、賊は楽々と身を横たえていたのである。

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