吸血鬼39
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | ヌオー | 5486 | B++ | 5.9 | 92.7% | 1011.1 | 6018 | 471 | 84 | 2024/12/04 |
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問題文
(しばらくは、てんぷくしたぼーとにちかづくこともできなかったが、やがてまもなく、)
暫くは、転覆したボートに近づくことも出来なかったが、やがて間もなく、
(ほのおはほたるかっせんのくずれるように、かいじょうにちりみだれて、きえていった。みると、)
焔は螢合戦のくずれる様に、海上に散り乱れて、消えて行った。見ると、
(てんぷくしたぼーとまぢかく、うきつしずみつするひとのすがた。それっ というので、)
転覆したボート間近く、浮きつ沈みつする人の姿。「ソレッ」というので、
(らんちはげんばへとはしりだした。おぼれているじんぶつが、てきかみかたかはんぜんしなかった)
ランチは現場へと走り出した。溺れている人物が、敵か味方か判然しなかった
(けれど、いずれにもせよ、すててはおけぬ。おおいそぎでらんちをちかよせ、)
けれど、いずれにもせよ、捨ててはおけぬ。大急ぎでランチを近寄せ、
(にさんにんがかりで、そのじんぶつをひきあげた。ひきあげられたのはなにものであったか。)
二三人がかりで、その人物を引き上げた。引上げられたのは何者であったか。
(あのおそろしいくちびるのないかいぶつか。いや、そうではない。だが、そのかおを)
あの恐ろしい唇のない怪物か。イヤ、そうではない。だが、その顔を
(ひとめみるや、つねかわけいぶがとんきょうなさけびごえをたてた。おや、これはれいのはたやなぎけの)
一目見るや、恒川警部が頓狂な叫び声を立てた。「オヤ、これは例の畑柳家の
(しりあいのみたにというじんぶつだぜ。ぼくはにさんどあってよくしっている それでは、)
知合の三谷という人物だぜ。僕は二三度会ってよく知っている」それでは、
(あのかいそくちょうのあるじは、じけんにかんけいあさからぬみたにせいねんであったのか。かれならば、)
あの快速挺の主は、事件に関係浅からぬ三谷青年であったのか。彼ならば、
(あのようにむがむちゅうで、ぞくをおいかけたのも、むりではない。みたには、さしてみずを)
あの様に無我夢中で、賊を追駆けたのも、無理ではない。三谷は、さして水を
(のんでいないらしく、いちどうのかいほうに、まもなくしょうきをとりもどした。)
飲んでいないらしく、一同の介抱に、間もなく正気を取戻した。
(ああ、つねかわさんでしたか。どうもありがとう。もうだいじょうぶです。あいつは?)
「アア、恒川さんでしたか。どうも有難う。もう大丈夫です。あいつは?
(あいつはどうしましたか まずたずねたのは、ぞくのことだ。いまのばくはつで)
あいつはどうしましたか」先ず尋ねたのは、賊のことだ。「今の爆発で
(やられたのかもしれません。これからさがすところです。だが、みたにさん、)
やられたのかも知れません。これから探すところです。だが、三谷さん、
(きみはどうして、ぼくたちをだしぬいて、あんなことをしたのです。ぼくたちのらんちを)
君はどうして、僕達を出し抜いて、あんなことをしたのです。僕達のランチを
(まちあわせてくれたら、こんなことにはならなかったのですよ みたにせいねんが、)
待合わせてくれたら、こんなことにはならなかったのですよ」三谷青年が、
(ぞんがいしっかりしているので、つねかわしは、ついあいてをしかるくちょうになった。)
存外しっかりしているので、恒川氏は、つい相手を叱る口調になった。
(もうしわけありません。あいつには、これまでたびたび、いまちょっとのところで、)
「申訳ありません。あいつには、これまで度々、今ちょっとの所で、
(うまくにげられていますので、こんどこそはと、ついあせったのです)
うまく逃げられていますので、今度こそはと、ついあせったのです」
(だが、ぞくはかえって、きみにとびかかってきた そうです。ぼくはじぶんのわんりょくを)
「だが、賊はかえって、君に飛びかかって来た」「そうです。僕は自分の腕力を
(たのみすぎたのです。あいつが、あれほどつよいとはおもいませんでした。ぼくはたちまち)
頼みすぎたのです。あいつが、あれ程強いとは思いませんでした。僕はたちまち
(あいつのいちげきをくって、ぼーとのなかにぶったおれてしまいました。それきり、)
あいつの一撃を食って、ボートの中にぶっ倒れてしまいました。それ切り、
(なにもしりません。ぼーとがばくはつしたというのも、いまきくのがはじめてです)
何も知りません。ボートが爆発したというのも、今聞くのが初めてです」
(それが、きみのしあわせだったかもしれません。なにもしらず、ぼーとのてんぷくと)
「それが、君の仕合わせだったかも知れません。何も知らず、ボートの転覆と
(ともに、みずのなかへもぐったまま、もがきまわらなかったので、やけどもせず、)
共に、水の中へもぐったまま、もがき廻らなかったので、焼けどもせず、
(たいしてみずものまなんだのです、ぞくのほうはきっとおおけがをしているでしょう)
大して水も飲まなんだのです、賊の方はきっと大怪我をしているでしょう」
(このつねかわしのそうぞうは、たちまちてきちゅうした。ちょうどそのとき、さいぜんからふねを)
この恒川氏の想像は、たちまち的中した。丁度その時、さい前から舟を
(じょこうさせて、かいめんをさがしまわっていたけいかんたちが、とうとうぞくのしがいを)
徐行させて、海面を探し廻っていた警官達が、とうとう賊の死骸を
(はっけんしたのだ。したいはすぐさまらんちにひきあげられたが、どうかいほうしても、)
発見したのだ。死体は直様ランチに引上げられたが、どう介抱しても、
(むだであった。ばくはつのときか、それともかいめんをもがきまわっているあいだに)
無駄であった。爆発の時か、それとも海面をもがき廻っている間に
(やられたのかはふくにむざんにやけこげ、てあしにもやけどをしていたが、ことさらかおは、)
やられたのかは服に無慙に焼けこげ、手足にも焼けどをしていたが、殊更顔は、
(ふためともみられぬものすごいぎょうそうにかわっていた。きみがわるいようだね。よくも、)
二目とも見られぬ物すごい形相に変っていた。「気味が悪いようだね。よくも、
(これまでひどくやけただれたものだ ひとびとは、そのがんめんをせいしするに)
これまでひどく焼けただれたものだ」人々は、その顔面を正視するに
(しのびなかった。ただでさえおそろしい、はなもくちびるもないかおが、さらにやけただれて、)
忍びなかった。ただでさえ恐ろしい、鼻も唇もない顔が、更に焼けただれて、
(めちゃめちゃにくずれながれたようすは、このよのものともおもわれぬ。なんだかへんだね。)
滅茶滅茶にくずれ流れた様子は、この世のものとも思われぬ。「何だか変だね。
(これがほんとうのにんげんのかおだろうか ふときづいたように、つねかわけいぶがみょうなことを)
これが本当の人間の顔だろうか」ふと気づいた様に、恒川警部が妙な事を
(いいだした。かれはなにかおもうところがあるらしく、したいのうえにかがみこんで、しばらく)
いい出した。彼は何か思う所があるらしく、死体の上にかがみ込んで、しばらく
(しにんのものすごいぎょうそうをじゅくししていたが、ひょいとてをだして、ほおのあたりを)
死人の物すごい形相を熟視していたが、ヒョイと手を出して、頬のあたりを
(おさえてみた。おさえたかとおもうと、びっくりしててをはなしたが、どうじに、)
おさえて見た。おさえたかと思うと、ビックリして手を放したが、同時に、
(かれのかおに、ひじょうなおどろきのひょうじょうがうかんだ。ああ、これはどうしたというのだ。)
彼の顔に、非常な驚きの表情が浮かんだ。「アア、これはどうしたというのだ。
(ぼくたちは、ひょっとしたら、ぞくのために、まんまといっぱいくわされていたかも)
僕達は、ひょっとしたら、賊の為に、まんまと一杯食わされていたかも
(しれない かれはそういって、いちどうのかおをみかえした。ひとびとはそのいみをかいしかねて)
知れない」彼はそういって、一同の顔を見返した。人々はその意味を解し兼ねて
(めをぱちぱちやるばかりだ。このやけただれたものは、ほんとうのにんげんのかおでは)
目をパチパチやるばかりだ。「この焼けただれたものは、本当の人間の顔では
(ないというのさ つねかわしは、ますますへんなことをいう。いちどう、おもわずぞくの)
ないというのさ」恒川氏は、益々変なことをいう。一同、思わず賊の
(おそろしいかおをみつめたが、みつめていると、だんだん、つねかわしのみょうなことばのいみが)
恐ろしい顔を見つめたが、見つめていると、段々、恒川氏の妙な言葉の意味が
(わかってくるようにおもわれた。だが、はたしてそんなことがあるのだろうか。)
分って来る様に思われた。だが、果してそんなことがあるのだろうか。
(あまりにもきかいなちゃくそうである。いつのまにか、そらいちめん、ねずみいろのあまぐもにおおわれ、)
あまりにも奇怪な着想である。いつの間にか、空一面、鼠色の雨雲に覆われ、
(らんちはわきかえるなみに、たとえばおおどけいのふりこのように、ほとんどりずみかるに、)
ランチはわき返る波に、たとえば大時計の振子の様に、ほとんどリズミカルに、
(たえまもなくどうようしていた。みわたせば、めじのかぎり、くろいなみが、むすうのかいぶつの)
絶え間もなく動揺していた。見渡せば、眼路の限り、黒い波が、無数の怪物の
(あたまのように、こんきよくうごいていた。そのふねのなかによこたわっているしがいの、)
頭の様に、根気よくうごいていた。その船の中に横たわっている死骸の、
(このよのものともおもわれぬ、おそろしいぎょうそう。けさからの、きそうてんがいなぞくの)
この世のものとも思われぬ、恐ろしい形相。今朝からの、奇想天外な賊の
(とうそうといい、うちつづくきかいことに、ひとびとはいようなぞくのあくむをみつづけているような)
逃走といい、打ち続く奇怪事に、人々は異様な賊の悪夢を見続けているような
(きがした。じわじわとあぶらあせがにじみだすほど、なんともいえぬきょうふをかんじた。)
気がした。ジワジワとあぶら汗がにじみ出す程、何ともいえぬ恐怖を感じた。
(つねかわしは、おもいきって、ぞくのかおにりょうてをかけると、ちからをこめて、めりめりと)
恒川氏は、思い切って、賊の顔に両手をかけると、力をこめて、メリメリと
(そのかわをはいだ。しゅうかいきまる、かいぶつのかおが、うすきみわるく、めくれていく。)
その皮をはいだ。醜怪極まる、怪物の顔が、薄気味悪く、めくれて行く。
(ああ、なんというざんぎゃく、うしのかわをはぐように、たといしにんとはいえ、かおのかわを)
アア、何という残虐、牛の皮をはぐように、たとい死人とはいえ、顔の皮を
(はぎとるとは。ひとびとはどきんとして、おもわずめをとじた。めくれたかわのしたから、)
はぎとるとは。人々はドキンとして、思わず目を閉じた。めくれた皮の下から、
(くろちがほとばしって、べろべろの、みるもさがなしなあかはだがあらわれてくることを、)
黒血がほとばしって、ベロベロの、見るも無悪な赤肌が現れて来ることを、
(そうぞうしたからだ。しかし、ちもながれなければ、にくもあらわれなかった。しゅうかいのかわの)
想像したからだ。しかし、血も流れなければ、肉も現れなかった。醜怪の皮の
(したからでてきたのは、まったくちがった、もうひとつのかおであった。つまり、)
下から出て来たのは、全く違った、もう一つの顔であった。つまり、
(やけただれたくちびるのないかおは、よにもたくみなろうせいのかめんであったのだ。ひとびとは、)
焼けただれた唇のない顔は、世にも巧みな蝋製の仮面であったのだ。人々は、
(それがろうざいくとわかっても、そんなもので、どうしてながいあいだ、せじんをあざむくことが)
それが蝋細工と分っても、そんなもので、どうして長い間、世人を欺くことが
(できたのかと、ふしぎにたえなかった。だが、ろうざいくのぎじゅつは、わがくにでも、)
出来たのかと、不思議にたえなかった。だが、蝋細工の技術は、我国でも、
(ちょっとそうぞうもおよばぬほど、しんぽしているのだ。しょううぃんどうのろうにんぎょうが、)
ちょっと想像も及ばぬ程、進歩しているのだ。ショウウィンドウの蝋人形が、
(ほんとうにいきてみえるのも、おかしや、かじつのろうざいくが、ほんものとすんぶんたがわぬのも、)
本当に生きて見えるのも、お菓子や、果実の蝋細工が、本物と寸分違わぬのも、
(なににでもばける、ろうというものの、ぶきみなせいしつをかたるものだ。げんにはいゆうは、)
何にでも化ける、蝋というものの、不気味な性質を語るものだ。現に俳優は、
(じぶんのかおといきうつしの、ろうせいのかめんをつかって、たびたびひとりふたやくのぶたいをつとめている)
自分の顔と生写しの、蝋製の仮面を使って、度々一人二役の舞台を勤めている
(じじつさえあるほどだ。これがぞくのしょうたいだ。ながいあいだ、くちびるのないかおで、われわれを)
事実さえある程だ。「これが賊の正体だ。長い間、唇のない顔で、我々を
(おどかしていたのは、こいつなんだ つねかわしは、はぎとった、ろうめんを)
おどかしていたのは、こいつなんだ」恒川氏は、はぎ取った、蝋面を
(てにしたまま、ぞくのかおをぎょうししていった。だれも、そのかおをしらなかった。)
手にしたまま、賊の顔を凝視していった。誰も、その顔を知らなかった。
(さんじゅごろくさいの、むぜんのおとこだ。これというとくちょうもない。そのかおのところどころに、)
三十五六歳の、無ぜんの男だ。これという特徴もない。その顔の所々に、
(あついろうにやけどをして、いようなはんもんがあらわれている。みたにさん。きみは)
熱い蝋にやけどをして、異様な斑紋が現れている。「三谷さん。君は
(おかだみちひこのかおをきおくしているでしょうね つねかわしがたずねた。ええ、けっして)
岡田道彦の顔を記憶しているでしょうね」恒川氏がたずねた。「エエ、決して
(わすれません みたにせいねんは、ゆうれいのように、まっさおなかおをして、ちからなくこたえた。)
忘れません」三谷青年は、幽霊の様に、真青な顔をして、力なく答えた。
(で、このおとこが、そのおかだみちひこですか いや、ちがいます。ぼくはおかだだと)
「で、この男が、その岡田道彦ですか」「イヤ、違います。僕は岡田だと
(しんじきって、あけちさんとかれのあとりえをしらべにいったりしたのです。おかだが)
信じ切って、明智さんと彼のアトリエを調べに行ったりしたのです。岡田が
(くすりでかおをやいて、あのおそろしいへんそうをしていたのだとおもいこんでいたのです。)
薬で顔を焼いて、あの恐ろしい変装をしていたのだと思い込んでいたのです。
(ところが、このおとこは、おかだではありません。まったくみしらぬじんぶつです みたには、)
ところが、この男は、岡田ではありません。全く見知らぬ人物です」三谷は、
(しんじきれないような、こんわくのひょうじょうでいった。きょくめんはにわかにいっぺんした。はんにんはおかだでは)
信じ切れない様な、困惑の表情でいった。局面は俄に一変した。犯人は岡田では
(なかったのだ。とすると、どういうことになるのだ。あのあとりえに、したいの)
なかったのだ。とすると、どういう事になるのだ。あのアトリエに、死体の
(せっこうぞうをつくったのは、おかだにちがいはない。では、このぞくは、あのさつじんじけんに)
石膏像を作ったのは、岡田に違いはない。では、この賊は、あの殺人事件に
(ついては、まったくむざいであったのか。ふたつのぜんぜんべつなはんざいじけんが、みたにのあたまのなかで)
ついては、全く無罪であったのか。二つの全然別な犯罪事件が、三谷の頭の中で
(こんがらがっていたのであろうか。)
こんがらがっていたのであろうか。