吸血鬼41
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問題文
(このうすきみのわるいしろうとたんていは、いったいぜんたいなにをかんがえているのだ。はんにんが、)
この薄気味の悪い素人探偵は、一体全体何を考えているのだ。犯人が、
(いきかえって、かりまいそうをしたぼちから、ぬけだしたとでもいうのかしら。)
生き返って、仮埋葬をした墓地から、抜け出したとでもいうのかしら。
(それは、どういういみでしょうか けいぶはしかたなく、しょうめんからたずねてみた。)
「それは、どういう意味でしょうか」警部は仕方なく、正面から尋ねて見た。
(このじけんは、いちしょうせつかのしによって、かいけつしてしまうには、あまりにふくざつに)
「この事件は、一小説家の死によって、解決してしまうには、余りに複雑に
(みえるのです。れいのおかだみちひこのあとりえではっけんされた、したいせっこうぞうについて)
見えるのです。例の岡田道彦のアトリエで発見された、死体石膏像について
(かんがえただけでも しかし、あれはぜんぜんべつのはんざいです。そして、そのはんにんである)
考えただけでも」「しかし、あれは全然別の犯罪です。そして、その犯人である
(おかだは、とっくにしんでしまいました。おかだがいきていて、くちびるのないおとこにばけて)
岡田は、とっくに死んでしまいました。岡田が生きていて、唇のない男に化けて
(いたという、ちょっとゆうわくてきなかんがえかたを、やめてしまえば、もんだいはないのです)
いたという、ちょっと誘惑的な考え方を、やめてしまえば、問題はないのです」
(それは、あなたがたにとって、ひじょうにこうつごうなかいしゃくですが、はたしてそんなたんじゅんに)
「それは、あなた方にとって、非常に好都合な解釈ですが、果してそんな単純に
(かたづけてしまってさしつかえないでしょうか。たとえば、こういうことをかんがえて)
かたづけてしまって差支えないでしょうか。たとえば、こういう事を考えて
(みただけでも、すでにおおきなむじゅんがしょうじてくるのです。それは、・・・・・・おかだが)
見ただけでも、既に大きな矛盾が生じて来るのです。それは、……岡田が
(あのしたいのせっこうぞうのはんにんであったとすれば、かれはひじょうにざんぎゃくないっしゅの)
あの死体の石膏像の犯人であったとすれば、彼は非常に残虐な一種の
(へんしつしゃですが、そういうおとこが、ただはたやなぎふじんにしつれんしたために、じゅんじょうなしょうねんの)
変質者ですが、そういう男が、ただ畑柳夫人に失恋した為に、純情な少年の
(ようにじさつするというのは、ちょっとかんがえられないことではありませんか)
ように自殺するというのは、ちょっと考えられないことではありませんか」
(では、あなたは、やっぱり、おかだとくちびるのないおとこと、どういつにんだとおっしゃる)
「では、あなたは、やっぱり、岡田と唇のない男と、同一人だとおっしゃる
(のですか けいぶは、なにをばかばかしいといわぬばかりに、ややけいべつのいろさえ)
のですか」警部は、何を馬鹿馬鹿しいといわぬばかりに、やや軽蔑の色さえ
(うかべて、ききかえした。そのほか、こんどのじけんには、ときがたいなぞが、いろいろ)
浮かべて、聞き返した。「その外、今度の事件には、解き難い謎が、色々
(のこされています あけちはあいてのしつもんにはこたえず、しゃべりつづけた。たとえば、)
残されています」明智は相手の質問には答えず、喋り続けた。「たとえば、
(はたやなぎけのみっぺいされたしょさいでころされたおがわしょういちとなのるおとこのなぞがあります。はんにんは)
畑柳家の密閉された書斎で殺された小川正一と名乗る男の謎があります。犯人は
(どこからでいりしたか。なんのためにころしたのか、またひがいしゃのしたいが、どうして)
どこから出入りしたか。何の為に殺したのか、また被害者の死体が、どうして
(きえうせてしまったのか。それから、あんなにくしんしてゆうかいしたしずこさんを、)
消え失せてしまったのか。それから、あんなに苦心して誘拐した倭文子さんを、
(あのさつじんきが、きずひとつつけないで、なぜやすやすとわれわれのてにもどしたか。あのとき)
あの殺人鬼が、傷一つつけないで、なぜやすやすと我々の手に戻したか。あの時
(つれてにげようとおもえば、わけはなかったのです。いや、もっとへんなことがある。)
連れて逃げようと思えば、訳はなかったのです。イヤ、もっと変なことがある。
(ぼくはしおばらのおんせんやどへでんわをかけて、じょちゅうからききだしたのですが、おんせんじょうで)
僕は鹽原の温泉宿へ電話をかけて、女中から聞き出したのですが、温泉場で
(しずこさんをおどろかせたかいぶつは、ほんとうにくちびるがなかった。ごはんのおきゅうじをしたじょちゅうが)
倭文子さんを驚かせた怪物は、本当に唇がなかった。ご飯のお給仕をした女中が
(たしかにみたというのだから、まちがいはありません。ところが、こんどふうせんにのって)
確かに見たというのだから、間違いはありません。ところが、今度風船に乗って
(にげたやつは、かめんをつけていたとすると、このふたりは、まったくべつじんなので)
逃げた奴は、仮面をつけていたとすると、この二人は、全く別人なので
(しょうか。かぞえあげると、せつめいのできないてんが、まだたくさんあります。それでも、)
しょうか。数え上げると、説明の出来ない点が、まだ沢山あります。それでも、
(じけんがらくちゃくしたといえましょうか すると、きみは、おかだみちひこが、どこかに)
事件が落着したといえましょうか」「すると、君は、岡田道彦が、どこかに
(いきのこっていて、それがほんとうのはんにんだとおっしゃるのですね おそらく・・・・・・、)
生き残っていて、それが本当の犯人だとおっしゃるのですね」「恐らく……、
(いや、そうぞうはきんもつです。われわれはけっていてきなしょうこひんによって、はんだんしなければ)
イヤ、想像は禁物です。我々は決定的な証拠品によって、判断しなければ
(なりません。そのしょうこひんが、たぶんいまに・・・・・・ああ、きました。さいぜんから、ぼくは)
なりません。その証拠品が、多分今に……アア、来ました。さい前から、僕は
(これをまちかねていたのですよ ちょうどそのとき、そとにひとのあしおとがして、しんしつの)
これを待ち兼ねていたのですよ」丁度その時、外に人の足音がして、寝室の
(どあがひらき、こばやししょうねんのりんごのようなほおがのぞいた。こばやしくん、ああ、きみは)
ドアが開き、小林少年のリンゴの様な頬がのぞいた。「小林君、アア、君は
(あれをてにはいれてきたね あけちが、しょうねんのかおいろをよんでいった。ええ、あんがい)
あれを手に入れて来たね」明智が、少年の顔色を読んでいった。「エエ、案外
(わけなくみつかりました。やっぱり、あのきんじょのしかいいんでした。たのんだら、すぐ)
訳なく見つかりました。やっぱり、あの近所の歯科医院でした。頼んだら、すぐ
(かしてくれましたよ しょうねんは、かいかつにいって、ちいさなかみづつみをさしだした。あけちは)
貸してくれましたよ」少年は、快活にいって、小さな紙包を差出した。明智は
(それをうけとって、てーぶるにおき、ふみよさんにめいじて、とだなから、もうひとつ、)
それを受取って、テーブルに置き、文代さんに命じて、戸棚から、もう一つ、
(おなじようなつつみものをとりださせた。てーぶるのうえには、さっきつねかわけいぶがじさんしたのと)
同じ様な包物を取出させた。テーブルの上には、さっき恒川警部が持参したのと
(あわせて、みっつのちいさなつつみがならべられたわけだ。つねかわさん、それをひらいて、よく)
合わせて、三つの小さな包が並べられた訳だ。「恒川さん、それを開いて、よく
(みくらべてください。そのなかのどれかふたつが、まったくおなじであったら、もんだいはたちまち)
見くらべて下さい。その中のどれか二つが、全く同じであったら、問題は忽ち
(かいけつするのです。しかし、おそらく・・・・・・つねかわしは、ことばなかばに、あけちのこころを)
解決するのです。しかし、恐らく……」恒川氏は、言葉半ばに、明智の心を
(さっして、あわただしく、つつみをひらいた。あかいごむようのかたまりがひとつ、しろいせっこうの)
察して、あわただしく、包を開いた。赤いゴム様のかたまりが一つ、白い石膏の
(かたまりがふたつ。みっつのつつみからころがりだした。すべてにんげんのはがたである。)
かたまりが二つ。三つの包からころがり出した。すべて人間の歯型である。
(そのうち、あかいのは、つねかわしじしん、ふうせんおとこのしがいのはがたをとって、じさんした)
その内、赤いのは、恒川氏自身、風船男の死骸の歯型を取って、持参した
(ものだ。おなじのがありますか ぎょうがしたまま、あけちがいらだたしくたずねる。)
ものだ。「同じのがありますか」仰臥したまま、明智がいらだたしくたずねる。
(つねかわしは、みっつのはがたを、あれこれとみくらべていたが、ありません。)
恒川氏は、三つの歯型を、あれこれと見くらべていたが、「ありません。
(みっつがみっつとも、まったくちがったはがたです。ひとめでわかります と、ややしつぼうして)
三つが三つとも、全く違った歯型です。一目で分ります」と、やや失望して
(こたえた。そのあとを、ふみよさんとこばやししょうねんが、ねっしんにみくらべてみたが、こたえは)
答えた。そのあとを、文代さんと小林少年が、熱心に見くらべてみたが、答えは
(おなじことだ。いっちするはがたはひとつもない。で、このせっこうのほうのはがたは、いったい)
同じことだ。一致する歯型は一つもない。「で、この石膏の方の歯型は、一体
(だれのものですか けいぶが、おおかたはさっしながら、たずねた。いま、こばやしくんがもって)
誰のものですか」警部が、大方は察しながら、尋ねた。「今、小林君が持って
(きたのは、おかだみちひこのはがたです。こばやしくんがふつかがかりで、おかだがはいしゃにかよって)
来たのは、岡田道彦の歯型です。小林君が二日がかりで、岡田が歯医者に通って
(いたことをさぐりだし、そのいしゃをさがして、やっとてにいれたものです)
いたことを探り出し、その医者を探して、やっと手に入れたものです」
(で、あとひとつは?それが、しんはんにんのはがたです え、しんはんにんのはがた?)
「で、あと一つは?」「それが、真犯人の歯型です」「エ、真犯人の歯型?
(あなたは、しんはんにんをしっていたのですか。いったいどうしててにいれたのです)
あなたは、真犯人を知っていたのですか。一体どうして手に入れたのです」
(つねかわしは、ますますいがいなあけちのことばに、あっけにとられてしまった。ぼくが)
恒川氏は、益々意外な明智の言葉に、あっけにとられてしまった。「僕が
(みたにくんといっしょに、あおやまのあきやをしらべたことは、ごぞんじでしょう。れいの)
三谷君と一緒に、青山の空家を調べたことは、御存じでしょう。例の
(しずこさんがゆうへいされた、ぞくのすみかです あけちがせつめいした。それはきいて)
倭文子さんが幽閉された、賊の住家です」明智が説明した。「それは聞いて
(ますが、・・・・・・そのとき、あのあきやのとだなのなかで、たべあましのびすけっとと)
ますが、……」「その時、あの空家の戸棚の中で、たべあましのビスケットと
(ちーずをはっけんしたのです。びすけっとのうえにちーずをかさねて、かじったもので、)
チーズを発見したのです。ビスケットの上にチーズを重ねて、かじったもので、
(それにはっきりはがたがのこっていたのを、そっともちかえって、せっこうのかたに)
それにハッキリ歯型が残っていたのを、ソッと持帰って、石膏の型に
(こしらえたのです しかし、それがぞくのはがたというのは・・・・・・あのいえは、)
こしらえたのです」「しかし、それが賊の歯型というのは……」「あの家は、
(にかげついじょうもあきやになっていたのですから、ほかにそんなところへたべものをもちこむ)
二ヶ月以上も空家になっていたのですから、他にそんな所へ食べ物を持込む
(ものはありません。しずこさんもしげくんも、ぞくにびすけっととちーずを、たびたび)
ものはありません。倭文子さんも茂君も、賊にビスケットとチーズを、度々
(すすめられたけれど、ゆうへいされているあいだ、なにものもくちにしなかったといって)
勧められたけれど、幽閉されている間、何ものも口にしなかったといって
(います。そのことばによっても、ぞくのたべあましであることはたしかです。それが)
います。その言葉によっても、賊のたべあましであることは確かです。それが
(かれらのしょくりょうだったのです あのとき、あけちはそのはっけんについて、どうこうしゃの)
彼等の食料だったのです」あの時、明智はその発見について、同行者の
(みたににさえなにごともいわなかった。ただ、みょうななぞみたいなひとりごとをしたばかりだ。)
三谷にさえ何事もいわなかった。ただ、妙ななぞみたいな独言をしたばかりだ。
(なぜみたににかくさなければならなかったのか、あけちがむいみにかくしだてをするはずは)
なぜ三谷に隠さなければならなかったのか、明智が無意味に隠し立てをする筈は
(ない。なにかそこにとくべつのじじょうがあったのではなかろうか。すると、つまり)
ない。何かそこに特別の事情があったのではなかろうか。「すると、つまり
(これは、ぞくかそのあいぼうか、どちらかのはがたですね。あのときあきやには、ふたりのやつが)
これは、賊かその相棒か、どちらかの歯型ですね。あの時空家には、二人の奴が
(いたはずだから つねかわけいぶは、やっとあけちのせつめいをりかいした。そうです。しかし)
いた筈だから」恒川警部は、やっと明智の説明を理解した。「そうです。しかし
(それがおかだみちひこのはがたとも、しながわわんでおぼれたしょうせつかのはがたともいっちしないと)
それが岡田道彦の歯型とも、品川湾で溺れた小説家の歯型とも一致しないと
(すれば、やつらはまだどこかにいきのこっているのです。そして、おそらくは、さらに)
すれば、奴等はまだどこかに生残っているのです。そして、恐らくは、更に
(おそろしいあくじをけいかくしていることでしょう)
恐ろしい悪事を計画していることでしょう」