吸血鬼43

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明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。

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問題文

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(ちょうどいまあけちくんとじけんについてはなしあっていたところです。あけちくんは、ぞくはまだ)

「丁度今明智くんと事件について話し合っていた所です。明智くんは、賊はまだ

(いきている、はんざいはらくちゃくしたのではないとしゅちょうしていましたが、それがこんなに)

生きている、犯罪は落着したのではないと主張していましたが、それがこんなに

(はやくうらがきされようとは、じつにいがいでした つねかわしは、ぞくからのよこくの)

早く裏書きされようとは、実に意外でした」恒川氏は、賊からの予告の

(てがみのこと、つづいてとうけからでんわがあったこと、あけちはまだがいしゅつできぬので、)

手紙のこと、続いて当家から電話があったこと、明智はまだ外出できぬので、

(ともかくこばやししょうねんをどうこうしてかけつけたことなどを、てみじかにかたった。ぞくが、)

兎も角小林少年を同行してかけつけたことなどを、手短に語った。「賊が、

(きょうのじけんをよこくしたとおっしゃるのですか みたにがいぶかしげにたずねる。)

今日の事件を予告したとおっしゃるのですか」三谷がいぶかしげにたずねる。

(そうです。そのてがみをよんでいるところへ、もうしあわせたように、あなたからの)

「そうです。その手紙を読んでいる所へ、申合わせたように、あなたからの

(でんわでした ぞくというのは、れいのくちびるのないやつのことでしょう むろん、)

電話でした」「賊というのは、例の唇のない奴のことでしょう」「無論、

(あいつです。ふうせんでにげたやつはかえだまだったとかんがえるほかはありません いや、)

あいつです。風船で逃げた奴は換玉だったと考える外はありません」「イヤ、

(そんなはずはない みたにはなぜか、くもん、こんわくのひょうじょうをうかべて、さいとうろうじんは、)

そんな筈はない」三谷はなぜか、苦悶、困惑の表情を浮かべて、「斎藤老人は、

(まったくかしつのためにころされたのです。ぞくのいしがはたらいているとおもえません。あのひとが)

全く過失の為に殺されたのです。賊の意志が働いていると思えません。あの人が

(ぞくのどうるいだなんて、そんなばかなことがあるものですか つねかわしはみたにのいような)

賊の同類だなんて、そんな馬鹿なことがあるものですか」恒川氏は三谷の異様な

(ことばをききもらさなかった。あのひととは?・・・・・・ではもうげしにんが)

言葉を聞き漏らさなかった。「あの人とは?・・・・・・ではもう下手人が

(わかっているのですか わかっているのです。まったくかしつのさつじんなのです みたには)

分っているのですか」「分っているのです。全く過失の殺人なのです」三谷は

(あおざめたかおを、なきだしそうにゆがめて、くもんのみもだえをした。だれです。)

青ざめた顔を、泣き出し相にゆがめて、苦悶の身もだえをした。「誰です。

(そのはんにんというのは けいぶがつめよる。ぼくがわるいのです。ぼくがいなかったら、)

その犯人というのは」警部がつめよる。「僕が悪いのです。僕がいなかったら、

(こんなことはおこらなかったのです みたにせいねんが、これほどとりみだすのは、)

こんな事は起らなかったのです」三谷青年が、これ程取乱すのは、

(よくよくのことにそういない。だれです。そして、そのはんにんはもうたいほされた)

よくよくのことに相違ない。「誰です。そして、その犯人はもう逮捕された

(のですか にげたのです。しかし、こどもをつれたおんなのみで、にげおおせる)

のですか」「逃げたのです。併し、子供を連れた女の身で、逃げおおせる

(ものではありません。あのひとはまもなくつかまるでしょう。そしておそろしい)

ものではありません。あの人は間もなくつかまるでしょう。そして恐ろしい

など

(ほうていにたたなければならないのです こどもをつれた、おんなですって?では)

法廷に立たなければならないのです」「子供を連れた、女ですって?では

(もしや・・・・・・そうです。ここのおんなしゅじんのしずこさんです。)

若しや・・・・・・」「そうです。ここの女主人の倭文子さんです。

(しずこさんが、あやまってさいとうしつじをころしたのです つねかわしは、あまりにいがいな)

倭文子さんが、過って斎藤執事を殺したのです」恒川氏は、余りに意外な

(げしにんにあっけにとられてしまった。ぼくがしずこさんのこういにあまえすぎた)

下手人にあっけにとられてしまった。「僕が倭文子さんの好意にあまえ過ぎた

(のです。ぼくはわかかったのです。ぞくのことで、すこしばかりじんりょくしたのを、みなに)

のです。僕は若かったのです。賊のことで、少しばかり尽力したのを、皆に

(かんしゃされているとおもって、いいきになりすぎたのです。しつじのろうじんにしては、)

感謝されていると思って、いい気になり過ぎたのです。執事の老人にしては、

(めにあまるようなふるまいもなかったとはいえません。とうとうろうじんが、しずこさんに)

目にあまる様な振舞もなかったとはいえません。とうとう老人が、倭文子さんに

(そのことをいいだしたのです ふうせんおとこのできしによって、はたやなぎけにわざわいするあくまは)

そのことをいい出したのです」風船男の溺死によって、畑柳家に禍する悪魔は

(ほろびてしまった、とだれしもかんがえた。だいじけんがしゅうそくすると、そのかげにかくれていた)

亡びてしまった、と誰しも考えた。大事件が終息すると、その蔭に隠れていた

(しょうじけんが、ひどくめだってくるものだ。ろうじんがしずこさんとみたにせいねんとの、)

小事件が、ひどく目立って来るものだ。老人が倭文子さんと三谷青年との、

(みだらなかんけいをにがにがしくおもいだしたのはむりもない。それがとうとう)

みだらな関係を苦々しく思い出したのは無理もない。それがとうとう

(ばくはつしたのだ。あさからたずねてきたみたにとふたりきりで、ひとまにこもっていた)

爆発したのだ。朝から訪ねて来た三谷と二人切りで、一間にこもっていた

(しずこを、ろうじんがそとのようじにかこつけて、べっしつへよびだした。しずこもおおかた)

倭文子を、老人が外の用事にかこつけて、別室へ呼び出した。倭文子も大方

(それとさっしたのであろう。めしつかいたちにきかれることをおそれて、さきにたって、にかいの)

それと察したのであろう。召使達に聞かれることを恐れて、先に立って、二階の

(しょさいへはいっていった。ふたりはそこでながいあいだこうろんをつづけた。げきしたことばが、)

書斎へ入って行った。二人はそこで長い間口論を続けた。激した言葉が、

(ぐうぜんそとのろうかをとおりかかったじょちゅうのみみにさえ、もれきえたほどだ。)

偶然外の廊下を通りかかった女中の耳にさえ、漏れ聞えた程だ。

(いつまでまっても、ふたりともおりてくるようすがないので、いちどうすこししんぱいに)

いつまで待っても、二人とも降りて来る様子がないので、一同少し心配に

(なりだした。ひっそりして、はなしごえもきこえやしない。どうしたんでしょう。)

なり出した。「ひっそりして、話声も聞えやしない。どうしたんでしょう。

(へんだわね たちぎきのすきなじょちゅうが、にかいからおりてきて、いちどうにほうこくした。)

変だわね」立聞きの好きな女中が、二階から降りて来て、一同に報告した。

(けっきょく、みたにがさしずをして、しょせいにみせにやることになった。しょせいが、さいさん)

結局、三谷が指図をして、書生に見せにやることになった。書生が、再三

(のっくしたあとで、そっとどあをひらくと、そこにおそろしいこうけいがあった。)

ノックしたあとで、ソッとドアを開くと、そこに恐ろしい光景があった。

(しずこがちみどろのたんとうをてにして、きちがいのようなめつきで、ろうじんのしがいのそばに)

倭文子が血みどろの短刀を手にして、気違いの様な目つきで、老人の死骸の側に

(うずくまっていた。おそろしいこうけいを、ひとめみたしょせいは、どきんとして)

うずくまっていた。恐ろしい光景を、一目見た書生は、ドキンとして

(たちすくんでしまった。しずこのほうでも、ひじょうにびっくりしたらしく、)

立ちすくんでしまった。倭文子の方でも、非常にびっくりしたらしく、

(ちょっとのあいだ、がらすのようにむじょうなめを、いっぱいにみひらいて、しょせいのかおを)

ちょっとの間、ガラスの様に無情な目を、一杯に見開いて、書生の顔を

(みていたが、ちみどろのたんとうをもったてを、ゆっくりあげさげしながらさも)

見ていたが、血みどろの短刀を持った手を、ゆっくり上げ下げしながらさも

(きまりわるそうに、にやにやわらいだした。しょせいは わっ といって、にげだしたい)

極り悪そうに、ニヤニヤ笑い出した。書生は「ワッ」といって、逃げ出したい

(ほどのきょうふをかんじた。てっきり、おんなしゅじんははっきょうしたものとおもった。おくさん、)

程の恐怖を感じた。てっきり、女主人は発狂したものと思った。「奥さん、

(おくさん といったまま、にのくがつげなかった。しょせいがかいだんを、くろいかぜのように、)

奥さん」といったまま、二の句がつげなかった。書生が階段を、黒い風の様に、

(おともなくすべりおりてきて、つったったまま、くちびるをわなわなふるわせているので)

音もなくすべり降りて来て、突っ立ったまま、唇をワナワナふるわせているので

(いちどうたちまちきょうへんをさとった。どやどやとしょさいへあがってみるとしずこは、まだもとの)

一同忽ち兇変を悟った。ドヤドヤと書斎へ上って見ると倭文子は、まだ元の

(しせいで、たんとうをゆっくりゆっくり、あげさげしていた。ひがいしゃのさいとうろうじんはと)

姿勢で、短刀をゆっくりゆっくり、上げ下げしていた。被害者の斎藤老人はと

(みると、しんぞうのひとつきで、もろくもぜつめいしていた。しずこはこうふんのあまり、)

見ると、心臓の一突きで、もろくも絶命していた。倭文子は昴奮のあまり、

(はんきょうらんのていなので、ともかくきをしずめるために、かいかのかのじょのしんしつへ)

半狂乱の体なので、兎も角気を静めるために、階下の彼女の寝室へ

(つれおろした。べつにもがくようなこともなく、ひとこともくちをきかなかった。)

つれおろした。別にもがく様なこともなく、一言も口を効かなかった。

(くちをきくちからもないのだ。きゅうほうによって、けいさつから、つづいてけんじ、よしんはんじなどが)

口を効く力もないのだ。急報によって、警察から、続いて検事、予審判事などが

(かけつけた。はたやなぎけをめぐってぞくはつするきかいごとに、かれらがこのとっぱつじけんをひじょうに)

駆けつけた。畑柳家を廻って続発する奇怪事に、彼等がこの突発事件を非常に

(じゅうだいにかんがえたのはとうぜんである。かたのごとくとりしらべがすすめられた。きょうこうげんばのしょさいは)

重大に考えたのは当然である。型の如く取調べが進められた。兇行現場の書斎は

(まどはすべてしまりができていたし、りんしつとのさかいはあついかべ、いりぐちといっては、)

窓はすべて締りが出来ていたし、隣室との境は厚い壁、入口といっては、

(しょせいのひらいたどあばかりだ。しずこいがいにはんにんをそうぞうすることは、ぜったいに)

書生の開いたドアばかりだ。倭文子以外に犯人を想像することは、絶対に

(ふかのうである。また、しずこがげしにんであることは、ほんにんのおびえきったたいどが)

不可能である。また、倭文子が下手人であることは、本人のおびえ切った態度が

(しょうめいしている。たずねられると、わかりません。わたしわかりません と、はを)

証明している。尋ねられると、「わかりません。私わかりません」と、歯を

(がちがちいわせながら、うわずったこえでこたえるのみで、ちょくせつじはくはしないけれど、)

ガチガチいわせながら、上ずった声で答えるのみで、直接自白はしないけれど、

(げしにんでなかったら、きっぱりしたへんとうができぬはずはないのだ。)

下手人でなかったら、キッパリした返答が出来ぬ筈はないのだ。

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