吸血鬼45
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問題文
(ああ、ぼくはこうしてはいられません。すこしもあてはないけれど、しずこさんを)
「アア、僕はこうしてはいられません。少しも当はないけれど、倭文子さんを
(さがしてきます。じっとしているよりましです みたには、そんなことをひとりごとの)
探して来ます。じっとしているよりましです」三谷は、そんなことを独言の
(ようにくちばしったかとおもうと、ひょろひょろとたちあがって、あいさつもせず、きゃくを)
ように口走ったかと思うと、ヒョロヒョロと立上って、挨拶もせず、客を
(のこしたまま、どこかへでていってしまった。かわいそうに、すこしのぼせあがっている)
残したまま、どこかへ出て行ってしまった。「可哀相に、少しのぼせ上っている
(ようだね つねかわしは、こばやししょうねんをかえりみて、くしょうした。あのはがたのついたようかん)
ようだね」恒川氏は、小林少年を顧みて、苦笑した。「あの歯型のついた羊かん
(もってかえって、くらべてみましょうか しょうねんははがたのはっけんに、むちゅうになっている。)
持って帰って、比べてみましょうか」少年は歯型の発見に、夢中になっている。
(それがいい、きみこれをもって、いちどかえりたまえ。そして、あけちくんにじじょうをはなして)
「それがいい、君これを持って、一度帰り給え。そして、明智君に事情を話して
(ください。ぼくはまだすこししらべたいこともあるから、ここにのこっている。ようじが)
下さい。僕はまだ少し調べたいこともあるから、ここに残っている。用事が
(あったらでんわをかけてくれたまえ つねかわしは、こばやしのねっしんにつりこまれて、つい)
あったら電話をかけてくれ給え」恒川氏は、小林の熱心につり込まれて、つい
(はがたをくらべさせてみるきになった。しょうねんがたちさると、けいぶはにかいのしょさいにあがって)
歯型を比べさせて見る気になった。少年が立去ると、警部は二階の書斎に上って
(きょうこうのあとを、にゅうねんにしらべてみたけれど、べつだんのはっけんもなかった。まどはすべて)
兇行のあとを、入念に調べて見たけれど、別段の発見もなかった。窓はすべて
(げんじゅうにしまりができていた。しつないにひとのかくれるばしょとてもない。つまり、げんばには)
厳重に締りが出来ていた。室内に人の隠れる場所とてもない。つまり、現場には
(しずこさんのほかに、はんにんのはいりこむよちがなかったのだ。といってろうじんが)
倭文子さんの外に、犯人の入り込む余地がなかったのだ。といって老人が
(じさつするどうりがない。いくらかんがえても、しずこさんのほかにげしにんはないのだ。)
自殺する道理がない。いくら考えても、倭文子さんの外に下手人はないのだ。
(しょさいをしらべおわると、にかいをおりて、にわにでてみた。これというもくてきが)
書斎を調べ終ると、二階を降りて、庭に出て見た。これという目的が
(あったのではない。ただていえんからたてものぜんたいを、いちどみておこうとおもったのだ。)
あったのではない。ただ庭園から建物全体を、一度見ておこうと思ったのだ。
(ところが、にわにおりて、すこしあるいたかとおもうと、みょうなものにぶつかった。)
ところが、庭に降りて、少し歩いたかと思うと、妙なものにぶつかった。
(こうしほどもあるおおきないぬが、にわのすみにたおれていたのだ。いうまでもなくかいいぬの)
小牛程もある大きな犬が、庭の隅に倒れていたのだ。いうまでもなく飼犬の
(しぐまである。みけんをひどくなぐられたとみえて、ちがにじんでいる。ていないに)
シグマである。眉間をひどくなぐられたと見えて、血がにじんでいる。邸内に
(いぬごろしがはいりこむはずはない、いったいだれが、なんのために、このいぬをころしたのか。)
犬殺しが入り込む筈はない、一体誰が、何の為に、この犬を殺したのか。
(ふしぎにおもって、しょせいやじょちゅうたちにたずねてみたが、だれもしらぬとのこたえだ。ずっと)
不思議に思って、書生や女中達に尋ねて見たが、誰も知らぬとの答えだ。ずっと
(いぬごやにつないであったのが、いつかぞくにやられたきずが、ほとんどちゆしたので)
犬小屋につないであったのが、いつか賊にやられた傷が、ほとんど治癒したので
(けさくさりをといてやったばかりだと、いうことであった。そんなことを)
今朝鎖を解いてやったばかりだと、いうことであった。そんなことを
(しているところへ、あけちからでんわがかかってきた。もうこばやししょうねんがあぱーとのびょうしつへ)
している所へ、明智から電話がかかって来た。もう小林少年がアパートの病室へ
(かえりついたものとみえる。じゅわきをとると、あけちのややこうふんしたこえがきこえて)
帰りついたものと見える。受話器をとると、明智のやや昂奮した声が聞えて
(きた。べっどをおりて、わざわざたくじょうでんわまであるいたのだ。じしんでんわぐちへでなければ)
来た。べッドを降りて、態々卓上電話まで歩いたのだ。自身電話口へ出なければ
(ならぬほどの、ようけんがあるのかしら。もしもし、つねかわさんですか。はがたを)
ならぬ程の、用件があるのかしら。「モシモシ、恒川さんですか。歯型を
(くらべてみました。ぴったりいっちします。あれがしずこさんのはがたなら、)
くらべて見ました。ピッタリ一致します。あれが倭文子さんの歯型なら、
(しずこさんこそ、われわれのさがしているかいぞくだという、みょうなけつろんになります)
倭文子さんこそ、我々の探している怪賊だという、妙な結論になります」
(ほんとうですか つねかわしはびっくりしてさけんだ。ぼくにはなんだかしんじられん。)
「本当ですか」恒川氏はびっくりして叫んだ。「僕には何だか信じられん。
(どっかにまちがいがあるようなきがしますね ぼくもそうおもうのです。あれが)
どっかに間違いがあるような気がしますね」「僕もそう思うのです。あれが
(しずこさんのはがただというしょうこは?みたにくんのしょうげんです。きっぱりいいきった)
倭文子さんの歯型だという証拠は?」「三谷君の証言です。キッパリいい切った
(のです みたにくんがね あけちはそういって、しばらくかんがえているようすだったが、)
のです」「三谷君がね」明智はそういって、暫く考えている様子だったが、
(やがて、ところで、そこにしぐまというかいいぬがいるはずですね。あれはまだ)
やがて、「ところで、そこにシグマという飼犬がいる筈ですね。あれはまだ
(いぬごやにつないでありますか つねかわしはぎょっとした。いまそのいぬのしがいをみた)
犬小屋につないでありますか」恒川氏はギョッとした。今その犬の死骸を見た
(ばかりではないか。あけちはなんというこわいおとこだ。けさくさりをといたのだそうです。)
ばかりではないか。明智は何という怖い男だ。「今朝鎖を解いたのだ相です。
(しかし、そのいぬは、いつのまにか、だれともしれず、ころされているのです)
しかし、その犬は、いつの間にか、誰とも知れず、殺されているのです」
(えっ、ころされた。どこで?あけちはなぜ、そんなにおどろくのだ。にわのすみに)
「エッ、殺された。どこで?」明智は何故、そんなに驚くのだ。「庭の隅に
(ころがっているのを、いまぼくがはっけんしたところです ああ、おそろしいやつだ。そいつを)
ころがっているのを、今僕が発見した所です」「アア、恐ろしい奴だ。そいつを
(ころしたやつがしんはんにんですよ。なぜって、はんにんをほんとうにしっているのは、ひろいせかいに)
殺した奴が真犯人ですよ。なぜって、犯人を本当に知っているのは、広い世界に
(そのいぬのほかにはないからです。にんげんのめは、かめんやへんそうでごまかされても、いぬの)
その犬の外にはないからです。人間の目は、仮面や変装でごまかされても、犬の
(きゅうかくは、めったにごまかせませんからね。・・・・・・ぼくのきづきようが、すこしおそかった)
嗅覚は、滅多にごまかせませんからね。……僕の気づきようが、少し遅かった」
(あけちはさもさもざんねんそうにいった。)
明智はさもさも残念そうにいった。
(ははとこ)
母と子
(おそろしいしつじごろしのげしにんとなり、そのうえ、かのじょこそくちびるのないかいぶつではないかと)
恐ろしい執事殺しの下手人となり、その上、彼女こそ唇のない怪物ではないかと
(とほうもないうたがいさえうけた、かわいそうなはたやなぎしずこは、いったいぜんたいどこへみをかくして)
途方もない疑いさえ受けた、可哀相な畑柳倭文子は、一体全体どこへ身を隠して
(いたのか。それにはまた、いちじょうのせんりつすべきものがたりがあるのだ。それでは、)
いたのか。それにはまた、一場の戦慄すべき物語りがあるのだ。「それでは、
(なくなられただんなさまにすみますまい。せけんていもあります。ごしんせきのくちも)
なくなられた旦那様にすみますまい。世間体もあります。御親戚の口も
(うるさい。いやだいいち、むっつにもなるぼっちゃんにおはじなさい こうろんがこうじて、)
うるさい。いや第一、六つにもなる坊ちゃんにお恥じなさい」口論がこうじて、
(ろうじんもつよいくちをきいた。そうせめられると、しずこはよわみがあるだけに、)
老人も強い口を利いた。そう責められると、倭文子は弱味がある丈けに、
(かっとした。いったいかのじょは、これまでのやりかたでもわかるとおり、ねんちょうのおっとのきょくたんな)
カッとした。一体彼女は、これまでのやり方でも分る通り、年長の夫の極端な
(あいぶに、わがままいっぱいにくらしてきた、かんじょうばかりのおんなだ。いいだしたことは)
愛撫に、我まま一杯に暮らして来た、感情ばかりの女だ。いい出したことは
(やりとおす、かちきのようだが、じつはおおきなだだっこにすぎない。そのかのじょが、いわば)
やり通す、勝気の様だが、実は大きな駄々っ子に過ぎない。その彼女が、いわば
(めしつかいのさいとうろうじんに、じゃくてんをつかれ、あまつさえ、なきおっとのくちからもきいたことの)
召使の斎藤老人に、弱点をつかれ、あまつさえ、なき夫の口からも聞いたことの
(ない、はげしいしっせきをうけて、くやしさに、のぼせあがったのはむりもない。)
ない、はげしい叱責を受けて、くやしさに、のぼせ上ったのは無理もない。
(たったいまでていってください。やといにんのくせになまいきな!あられもないぼうげんが、)
「たった今出て行って下さい。傭人の癖に生意気な!」あられもない暴言が、
(くちをついてほとばしる。わがままもののくせとして、かのじょはもうめがくらんで)
口をついてほとばしる。我まま者の癖として、彼女はもう目がくらんで
(いたのだ。いちじてききょうきのほっさにおそわれていたのだ。めはしのきかぬろうじんは、)
いたのだ。一時的狂気の発作に襲われていたのだ。目はしの利かぬ老人は、
(こらえこらえたかんげんだけに、よういにあとへひこうとはせぬ。でていきませぬ。)
こらえこらえた諌言だけに、容易にあとへ引こうとはせぬ。「出て行きませぬ。
(どちらのいいぶんがただしいか、ごしんせきのごひはんをまちましょう とまでいわれては)
どちらのいい分が正しいか、御親戚の御批判を待ちましょう」とまでいわれては
(もうがまんができぬ。しずこは、じだんだをふんで、そのへんのしなものを、)
もう我慢が出来ぬ。倭文子は、じだんだを踏んで、その辺の品物を、
(てあたりしだいになげつけてやりたいほど、くやしがった。にくいにくいおいぼれおやじめ)
手当り次第に投げつけてやりたい程、くやしがった。「憎い憎いおいぼれ親爺め
(くたばってしまえ。くたばってしまえ くちにはださなかったけれど、こころのなかの)
くたばってしまえ。くたばってしまえ」口には出さなかったけれど、心の中の
(どくちが、そのようにわきたった。しゅじんをおさえつけようと、せけんていをこうじつに、)
毒血が、その様にわき立った。主人を押えつけ様と、世間体を口実に、
(のしかかってくる、しぶかわおやじのかおをみていると、はぎしりがでた。ひたいのしわも、)
のしかかって来る、渋皮親爺の顔を見ていると、歯ぎしりが出た。額のしわも、
(ながいまゆも、しろっぽいめも、わしのようなはなも、いればのくちもとも、どれもこれも、)
長い眉も、白っぽい目も、ワシの様な鼻も、入歯の口元も、どれもこれも、
(たたきつぶしてやりたいほど、にくたらしくおもわれる。さあ、でていってください。)
たたきつぶしてやりたい程、憎たらしく思われる。「サア、出て行って下さい。
(でないと、あたし、かんしゃくもちだから、どんなことをするか)
でないと、あたし、かん癪持ちだから、どんなことをするか
(わからなくってよ しずこはもう、このろうじんととっくみあいでもしかねまじき)
分らなくってよ」倭文子はもう、この老人と取組み合いでもしかねまじき
(けんまくだ。さあ、おのき、おまえのかおをみているとむねがわるくなる。)
権幕だ。「サア、おのき、お前の顔を見ていると胸が悪くなる。
(おのきったら!かのじょはろうじんをかきのけて、しつがいへたちさろうとした。)
おのきったら!」彼女は老人を掻きのけて、室外へ立去ろうとした。