吸血鬼47

投稿者桃仔プレイ回数287
難易度(4.5) 5466打 長文 長文モード可タグ江戸川乱歩 明智小五郎 小説 長文 吸血鬼
明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 aria 8255 8.5 97.1% 639.9 5445 162 78 2021/06/08
2 hayao 7709 8.0 95.9% 669.3 5389 229 78 2021/05/16
3 おちり 7704 8.0 95.8% 669.7 5393 233 78 2021/06/10
4 おっ 7050 7.6 93.1% 710.4 5407 398 78 2021/05/14
5 HAKU 6917 S++ 7.2 95.5% 752.7 5459 252 78 2021/05/13

関連タイピング

問題文

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(しかしざんねんながら、かれをまんぞくさせるようなこたえはできぬ。あたし、)

しかし残念ながら、彼を満足させるような答えは出来ぬ。「あたし、

(わかりません。どうしてあんなおそろしいことがおこったのかすこしもわかりません)

分りません。どうしてあんな恐ろしいことが起ったのか少しも分りません」

(けいじのまえでいったおなじことばをくりかえすほかはなかった。しずこさん、しっかりして)

刑事の前でいった同じ言葉を繰返す外はなかった。「倭文子さん、しっかりして

(ください。ないているときではありません。このままじっとしていれば、にかいの)

下さい。泣いている時ではありません。このままじっとしていれば、二階の

(とりしらべがすみしだい、あなたはけいかんにひきたてられていかなければなりませんよ。)

取調べが済み次第、あなたは警官に引立てられて行かなければなりませんよ。

(ぼくはあなたを、けいむしょにおくり、ほうていにたたせるなんて、かんがえただけでもがまんが)

僕はあなたを、刑務所に送り、法廷に立たせるなんて、考えただけでも我慢が

(できない。しずこさん、にげましょう。ぼくとしげるちゃんとさんにんで、よのはてまで)

出来ない。倭文子さん、逃げましょう。僕と茂ちゃんと三人で、世の果まで

(にげましょう みたにのおもいこんだちょうしに、しずこははっとかおをあげた。まあ、)

逃げましょう」三谷の思込んだ調子に、倭文子はハッと顔を上げた。「マア、

(どうしてそんなことが では、やっぱりこのひとも、わたしをほんとうのげしにんとしんじて)

どうしてそんなことが」では、やっぱりこの人も、私を本当の下手人と信じて

(いるのだ。そうでなければ、にげるなどといいだすはずがない。)

いるのだ。そうでなければ、逃げるなどといい出す筈がない。

(かまわないのです。たといあなたが、ほんとうのひとごろしのざいにんであったとしても、)

「構わないのです。たといあなたが、本当の人殺しの罪人であったとしても、

(ぼくはあなたをろうごくにいれ、こうしゅだいにおくることはできません。ぼくもはんぶんのつみを)

僕はあなたを牢獄に入れ、絞首台に送ることは出来ません。僕も半分の罪を

(ひきうけて、あなたといっしょに、せけんからみをかくしてしまいます。にげかたについても)

引受けて、あなたと一緒に、世間から身を隠してしまいます。逃げ方についても

(ぼくはじゅうぶんかんがえたのです。じつにあんぜんなほうほうがあるのです。こういううちにもひとが)

僕は充分考えたのです。実に安全な方法があるのです。こういう内にも人が

(くるといけない。さあ、しずこさん、けっしんをしてください そわそわと)

来るといけない。サア、倭文子さん、決心をして下さい」ソワソワと

(せきたてられてしずこはまっさおになった。むねははやがねをうつようだ。)

せき立てられて倭文子は真青になった。胸は早鐘をうつ様だ。

(でも、・・・・・・・・・・・・ああ、むりもない、かのじょはこころが)

「でも、・・・・・・・・・・・・」アア、無理もない、彼女は心が

(うごいたのだ。たといあくにんでなくても、このばあい、おんなのみで、めさきにちらつく)

動いたのだ。たとい悪人でなくても、この場合、女の身で、目先にちらつく

(ろうごくやこうしゅだいを、いっときでも、いっぽでも、とおざかろうとあせるのはあたりまえだ。)

牢獄や絞首台を、一ときでも、一歩でも、遠ざかろうとあせるのは当り前だ。

(かくればしょがあるのです。ぶきみでしょうが、よふけまで、ふたりでそこで)

隠れ場所があるのです。不気味でしょうが、夜ふけまで、二人でそこで

など

(さあ、はやく、はやく、こちらへいらっしゃい。ぼくがみつけておいたあんぜんしごくの)

「サア、早く、早く、こちらへいらっしゃい。僕が見つけておいた安全至極の

(ひそんでいてください。あとはぼくがいいようにはからいます。ぼくをしんじてください。)

ひそんでいて下さい。あとは僕がいい様に計らいます。僕を信じて下さい。

(どんなことがあろうとも、あきらめないで、じっとしんぼうしていてください。)

どんなことがあろうとも、あきらめないで、じっと辛抱していて下さい。

(まんいちにげそくなったばあいには、ぼくがすべてのせきにんをおいます。ぼくがあなたを)

万一逃げそくなった場合には、僕が凡ての責任を負います。僕があなたを

(きょうはくしてむりににがしたのだといいます そうまでいわれて、よわいおんなに、)

脅迫して無理に逃がしたのだといいます」そうまでいわれて、弱い女に、

(どうはんこうするちからがあろう。しずこは、しげるしょうねんのてをとって)

どう反抗する力があろう。倭文子は、茂少年の手をとって(母も子も、

(あしおとをしのばせ、おずおずとあたりに)

一瞬間でも離れていることは出来なかった)足音を忍ばせ、おずおずとあたりに

(きをくばりながら、みたにのあとにしたがっていった。さいわいめしつかいにもであわず、)

気を配りながら、三谷のあとに随って行った。幸い召使にも出会わず、

(たどりついたのは、だいどころよこのものおきべやだ。みたにがそこのゆかいたをめくり、つちに)

たどりついたのは、台所横の物置部屋だ。三谷がそこの床板をめくり、土に

(おおわれたいしのふたをのけると、おどろいたことには、そのしたからぽっかりと、まっくろな)

覆われた石の蓋をのけると、驚いたことには、その下からポッカリと、真黒な

(ほらあなのくちがあらわれてきた。みずのかれたふるいどです。きけんなことはありません。)

洞穴の口が現れて来た。「水のかれた古井戸です。危険なことはありません。

(このなかでしばらくしんぼうしていてください いいながら、みたにはびんしょうにはたらいて、)

この中で暫く辛抱していて下さい」いいながら、三谷は敏捷に働いて、

(どこからか、おおきなやぐをにまいもかかえてきて、そのふるいどのなかへなげこんだ。)

どこからか、大きな夜具を二枚も抱えて来て、その古井戸の中へ投込んだ。

(いまにもひとがきはせぬか、きはせぬかと、そればかりきにかけているさいとて、)

今にも人が来はせぬか、来はせぬかと、そればかり気にかけている際とて、

(みたにがどうして、しゅじんのしずこさえすこしもしらなかった、このゆかしたのふるいどを)

三谷がどうして、主人の倭文子さえ少しも知らなかった、この床下の古井戸を

(はっけんしたのかと、うたがってみるすきもなかった。しずこは、みたにのてをかりて、)

発見したのかと、疑って見る隙もなかった。倭文子は、三谷の手を借りて、

(さしてふかくもないほらあなのなかにへ、ずるずるとすべりこんだ。したにはにまいの)

さして深くもない洞穴の中にへ、ズルズルとすべり込んだ。下には二枚の

(だいやぐが、あついくっしょんのようにかさなっているので、けがをするしんぱいはすこしも)

大夜具が、厚いクッションの様に重なっているので、怪我をする心配は少しも

(ない。つづいて、しげるしょうねんが、おなじほうほうでいどのそこへおろされた。では、こんや)

ない。続いて、茂少年が、同じ方法で井戸の底へおろされた。「では、今夜

(いちじごろに、きっときますから、それまでがまんしていらっしゃい。しげるちゃん)

一時頃に、きっと来ますから、それまで我慢していらっしゃい。茂ちゃん

(なくんじゃないよ。ちっともこわいことなんかありやしない。ぼくのうでをしんじて、)

泣くんじゃないよ。ちっとも怖いことなんかありやしない。僕の腕を信じて、

(あんしんしてまっててください あたまのうえで、みたにのささやきごえがしたのかとおもうと、)

安心して待ってて下さい」頭の上で、三谷の囁き声がしたのかと思うと、

(ぱらぱらとつちがおちて、いどのなかは、しんのやみとなった。いしのふたがでぐちを)

パラパラと土がおちて、井戸の中は、真の闇となった。石の蓋が出口を

(ふさいだのだ。かわいそうなははとこは、しょっかくばかりのやみのなかで、おたがいにひしと)

ふさいだのだ。可哀相な母と子は、触覚ばかりの闇の中で、お互にひしと

(だきあったまま、ぶるぶるふるえていた。かんがえるちからもない。なくにはあまりに)

抱き合ったまま、ブルブル震えていた。考える力もない。泣くには余りに

(おそろしいみのうえだ。しげるちゃん。いいこですから、こわくないわね はははただ)

恐ろしい身の上だ。「茂ちゃん。いい子ですから、怖くないわね」母はただ

(あいじをきづかった。ぼくこわくないの、ちっとも そのくせしょうねんのこえは、きょうふに)

愛児を気づかった。「僕怖くないの、ちっとも」その癖少年の声は、恐怖に

(おののいていた。いだきしめたちいさなからだが、あわれなこいぬのように、びくびく)

戦いていた。抱きしめた小さな体が、あわれな子犬の様に、ビクビク

(けいれんしていた。おちつくにしたがって、いどのそこのさむさがみにしみた。)

けいれんしていた。落ちつくに従って、井戸の底の寒さが身にしみた。

(それにつけても、なんといういきとどいたみたにのこころづかいであったか。)

それにつけても、何という行届いた三谷の心遣いであったか。

(あのあわただしいばあい、よくふとんのことまできがついたものだ。そのおかげで、)

あのあわただしい場合、よく蒲団のことまで気がついたものだ。そのお蔭で、

(ふるいどのそこのみにしむかんきのなかで、あしのしたばかりは、ふかふかと、あつい)

古井戸の底の身にしむ寒気の中で、足の下ばかりは、フカフカと、厚い

(くっしょんのようにあたたかいのだ。しずこは、そのやぐのはしのあまったぶぶんを、)

クッションの様に暖かいのだ。倭文子は、その夜具の端のあまった部分を、

(しげるにもかけてやり、じぶんもかたにまいて、さらにさむさをしのぐくふうをした。だが、)

茂にもかけてやり、自分も肩にまいて、更に寒さをしのぐ工夫をした。だが、

(もしもかのじょが、そのあついやぐのしたに、なにがあるかをしったならば、)

若しも彼女が、その厚い夜具の下に、何があるかを知ったならば、

(かんしゃするどころか、いかにけいばつがおそろしいからとて、もはやいっこくも、いどのそこに)

感謝するどころか、いかに刑罰が恐ろしいからとて、最早や一刻も、井戸の底に

(かくれているきはしなかったにそういない。かさなりあったやぐのしたに、つちが)

隠れている気はしなかったに相違ない。重なり合った夜具の下に、土が

(あるのではなかった。やぐとつちとのあいだに、あるみのけもよだつぶったいが)

あるのではなかった。夜具と土との間に、ある身の毛もよだつ物体が

(よこたわっていたのだ。それがなんであったかは、まもなくどくしゃにわかるときが)

横たわっていたのだ。それが何であったかは、間もなく読者に分る時が

(くるであろう。それはさておき、みたにせいねんがたくらんだとうぼうしゅだんとは、いかなる)

来るであろう。それはさておき、三谷青年が企んだ逃亡手段とは、如何なる

(ものであったか。しずこたちはひとまずふるいどにかくれたけれど、そんなところにながく)

ものであったか。倭文子達は一先ず古井戸に隠れたけれど、そんな所に長く

(いられるものではない。いずれはやしきをぬけださなければならぬ。もんぜんには)

いられるものではない。いずれは邸を抜け出さなければならぬ。門前には

(みはりのじゅんさがいる。ていないにはめしつかいのめがひかっている。たとえぶじにやしきを)

見張りの巡査がいる。邸内には召使の目が光っている。たとえ無事に邸を

(でたとしても、どちらへいくにもこうばんがある。きんじょのひとめがある。しずこが)

出たとしても、どちらへ行くにも交番がある。近所の人目がある。倭文子が

(おたずねものであることは、もうかいわいにしれわたっているのだ。それをみたには、)

お尋ねものであることは、もう界わいに知れ渡っているのだ。それを三谷は、

(いったいぜんたいどうしてぬけだすつもりであろう。しずこをいどにかくしてから、みたにが)

一体全体どうして抜け出す積りであろう。倭文子を井戸に隠してから、三谷が

(あけちにでんわをかけたこと、それによって、つねかわけいぶとこばやししょうねんがやってきた)

明智に電話をかけたこと、それによって、恒川警部と小林少年がやって来た

(ことはまえにしるした。さすがのつねかわけいぶも、ものおきのゆかしたにふるいどがあろうとは)

ことは前に記した。流石の恒川警部も、物置の床下に古井戸があろうとは

(きづかず、ただようかんのはがたをてにいれ、しぐまのしがいをはっけんしたばかりで、)

気づかず、ただ羊羹の歯型を手に入れ、シグマの死骸を発見したばかりで、

(むなしくひきあげていった。それから、しんやのいちじ みたにがしずこにやくそくした)

空しく引上げて行った。それから、深夜の一時――三谷が倭文子に約束した

(じかんまではべつだんのできごともなかった。はちじごろ、ひるまみたにのさしずでちゅうもんした)

時間までは別段の出来事もなかった。八時頃、昼間三谷の指図で注文した

(おおきなねかんがとどけられ、いちどうでさいとうろうじんのしがいをそのなかにおさめたほかには。)

大きな寝棺が届けられ、一同で斎藤老人の死骸をその中に納めた外には。

(ねかんはかいかのひろいにほんまにあんちされ、こうげをたむけ、よるふけるまで、かぞくや)

寝棺は階下の広い日本間に安置され、香華をたむけ、夜更けるまで、家族や

(ちょうもんきゃくのどきょうのこえがたえなかったが、じゅうにじぜんご、それらのひとびともあるはかえりさり)

弔問客の読経の声が絶えなかったが、十二時前後、それらの人々も或は帰り去り

(あるはしんにつき、でんとうをけしたまっくらなひろいへやに、ただろうじんのしがいだけが)

或は寝につき、電燈を消した真暗な広い部屋に、ただ老人の死骸だけが

(とりのこされた。いちじとおぼしきころ、そのやみのひろまへ、かげのようにおともなくしのびこんだ)

とり残された。一時と覚しき頃、その闇の広間へ、影の様に音もなく忍び込んだ

(じんぶつがある。かれはてさぐりでろうじんのねかんにちかづくと、そろそろとそのふたを)

人物がある。彼は手さぐりで老人の寝棺に近づくと、ソロソロとそのふたを

(ひらきはじめた。)

開き始めた。

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