怪人二十面相62 江戸川乱歩
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問題文
(ちかしつにおりても、まだそこがしゅりょうのへやではありません。うすぐらいでんとうのひかりを)
地下室に降りても、まだそこが首領の部屋ではありません。薄暗い電燈の光を
(たよりに、こんくりーとのろうかをすこしいくと、がんじょうなてつのとびらがゆくてを)
たよりに、コンクリートの廊下を少し行くと、頑丈な鉄の扉が行く手を
(さえぎっているのです。 こじきにばけたおとこが、そのとびらを、みょうなちょうしで)
遮っているのです。 乞食に化けた男が、その扉を、妙な調子で
(とんとんとん、とんとんとたたきました。すると、おもいてつのとびらがないぶからひらかれて)
トントントン、トントンと叩きました。すると、重い鉄の扉が内部から開かれて
(ぱっとめをいるでんとうのひかり、まばゆいばかりにかざりつけられたりっぱなようしつ、そのしょうめんの)
パッと目を射る電燈の光、眩いばかりに飾り付けられた立派な洋室、その正面の
(おおきなあんらくいすにこしかけて、にこにこわらっている30さいほどのようふくしんしが、)
大きな安楽イスに腰掛けて、にこにこ笑っている三十歳程の洋服紳士が、
(にじゅうめんそうそのひとでありました。これが、すがおかどうかはわかりませんけれど、)
二十面相その人でありました。これが、素顔かどうかは分かりませんけれど、
(あたまのけをきれいにちぢれさせた、ひげのないこうだんしです。 「よくやった。よくやった)
頭の毛を綺麗に縮れさせた、髭のない好男子です。 「よくやった。よくやった
(きみたちのはたらきはわすれないよ」 しゅりょうは、たいてきあけちこごろうをとりこにしたことが、)
君達の働きは忘れないよ」 首領は、大敵明智小五郎を虜にしたことが、
(もう、うれしくてたまらないようすです。むりもありません。あけちさえ、こうして)
もう、嬉しくて堪らない様子です。無理もありません。明智さえ、こうして
(とじこめておけば、にほんじゅうにおそろしいあいてはひとりもいなくなるわけですからね。)
閉じ込めておけば、日本中に恐ろしい相手は一人もいなくなる訳ですからね。
(かわいそうなあけちたんていは、ぐるぐるまきにしばられたまま、そこのゆかのうえに)
可哀想な明智探偵は、ぐるぐる巻きに縛られたまま、そこの床の上に
(ころがされました。あかいとらぞうは、ころがしただけではたりないとみえて、)
転がされました。赤井寅三は、転がしただけでは足りないとみえて、
(きをうしなっているあけちのあたまを、あしで2ども3どもけとばしさえしました。)
気を失っている明智の頭を、足で二度も三度も蹴飛ばしさえしました。
(「ああ、きみは、よくよくそいつにうらみがあるんだね。それでこそぼくのみかただ。)
「ああ、君は、よくよくそいつに恨みがあるんだね。それでこそ僕の味方だ。
(だが、もうよしたまえ。てきはいたわるものだ、それに、このおとこはにほんにたったひとり)
だが、もうよしたまえ。敵は労わるものだ、それに、この男は日本にたった一人
(しかいないめいたんていなんだからね。そんなにらんぼうにしないで、なわをといて、)
しかいない名探偵なんだからね。そんなに乱暴にしないで、縄を解いて、
(そちらのながいすにねかしてやりたまえ」 さすがにしゅりょうにじゅうめんそうは、)
そちらの長イスに寝かしてやりたまえ」 さすがに首領二十面相は、
(とりこをあつかうすべをしっていました。 そこで、ぶかたちは、めいじられたとおり、)
虜を扱う術を知っていました。 そこで、部下たちは、命じられた通り、
(なわをといてあけちたんていをいすにねかせましたが、まだくすりがさめぬのか、たんていは)
縄を解いて明智探偵をイスに寝かせましたが、まだ薬が醒めぬのか、探偵は
(ぐったりしたまま、しょうたいもありません。 こじきにばけたおとこは、あけちたんていゆうかいの)
グッタリしたまま、正体もありません。 乞食に化けた男は、明智探偵誘拐の
(しだいと、あかいとらぞうをみかたにひきいれたりゆうを、くわしくほうこくしました。 「うん、)
次第と、赤井寅三を味方に引き入れた理由を、詳しく報告しました。 「ウン、
(よくやった。あかいくんは、なかなかやくにたちそうなじんぶつだ。それに、あけちに)
よくやった。赤井君は、なかなか役に立ちそうな人物だ。それに、明智に
(ふかいうらみをもっているのがなによりきにいったよ」 にじゅうめんそうは、めいたんていを)
深い恨みを持っているのが何より気に入ったよ」 二十面相は、名探偵を
(とりこにしたうれしさに、なにもかもじょうきげんです。 そこであかいはあらためて、)
虜にした嬉しさに、何もかも上機嫌です。 そこで赤井は改めて、
(でしいりのおごそかなちかいをたてさせられましたが、それがすむと、このふろうにんは)
弟子入りの厳かな誓いを立てさせられましたが、それがすむと、この浮浪人は
(さいぜんから、ふしぎでたまらなかったことを、さっそくたずねたものです。)
最前から、不思議で堪らなかったことを、早速尋ねたものです。
(「このうちのしかけにはおどろきましたぜ。これならけいさつなんかこわくないはずですねえ)
「このうちの仕掛けには驚きましたぜ。これなら警察なんか恐くない筈ですねえ
(だが、どうもまだふにおちねえことがある。さっきげんかんへきたばっかりのときに、)
だが、どうもまだ腑に落ちねえことがある。さっき玄関へ来たばっかりの時に、
(どうして、おかしらにあっしのすがたがみえたんですかい」 「ははは・・・・・・、それかい。)
どうして、お頭にあっしの姿が見えたんですかい」 「ハハハ……、それかい。
(それはね。ほら、ここをのぞいてみたまえ」 しゅりょうはてんじょうのいちぐうから)
それはね。ほら、ここを覗いてみたまえ」 首領は天井の一隅から
(さがっているすとーぶのえんとつみたいなものをゆびさしました。 のぞいてみよと)
下がっているストーブの煙突みたいな物を指差しました。 覗いてみよと
(いわれるものですから、あかいはそこへいって、えんとつのしたのはしがかぎのてに)
言われるものですから、赤井はそこへ行って、煙突の下の端が鉤の手に
(まがっているつつぐちへ、めをあててみました。 すると、これはどうでしょう。)
曲がっている筒口へ、目を当ててみました。 すると、これはどうでしょう。
(そのつつのなかに、このいえのげんかんからもんにかけてのけしきが、かわいらしくしゅくしょうされて)
その筒の中に、この家の玄関から門にかけての景色が、可愛らしく縮小されて
(うつっているではありませんか。さいぜんのもんばんのおとこが、ちゅうじつにもんのうちがわに)
写っているではありませんか。最前の門番の男が、忠実に門の内側に
(たっているのもはっきりみえます 「せんすいかんにつかうせんぼうきょうとおなじしかけなんだよ)
立っているのもハッキリ見えます 「潜水艦に使う潜望鏡と同じ仕掛けなんだよ
(あれよりも、もっとふくざつにおれまがっているけれどね」 どうりで、あんなに)
あれよりも、もっと複雑に折れ曲がっているけれどね」 どうりで、あんなに
(ひかりのつよいでんとうがひつようだったのです。)
光の強い電燈が必要だったのです。