吸血鬼55

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明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。

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問題文

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(つねかわしが、このなぞのようなせつめいをもとめても、あけちはそれいじょうかたろうと)

恒川氏が、このなぞのような説明を求めても、明智はそれ以上語ろうと

(しなかった。また、つねかわしにしても、わがむのうをさらけだして、ねどいするぐは)

しなかった。また、恒川氏にしても、我が無能をさらけ出して、根問いする愚は

(えんじなかった。では、ぼちはっくつのことをしょうちしました。それぞれてつづきを)

演じなかった。「では、墓地発掘のことを承知しました。それぞれ手続きを

(とって、ぼくのほうでやりましょう。むろん、きみがたちあってくださるのはごじゆうです)

とって、僕の方でやりましょう。無論、君が立会って下さるのは御自由です」

(どうかおねがいします。しかし、つねかわさん。これはただねんのために、うごかしがたい)

「どうかお願いします。併し、恒川さん。これはただ念のために、動かし難い

(しょうこをしゅうしゅうしておくというまでのことで、ほかにきんきゅうなしごとがないのでは)

証拠を蒐集して置くというまでのことで、外に緊急な仕事がないのでは

(ありません。ぼくはそれをすませておいて、ぼちのほうへいくことにしましょう)

ありません。僕はそれを済ませて置いて、墓地の方へ行くことにしましょう」

(かいわがへんにこじれてきた。かんりとみんかんたんていとが、おなじじけんにかんけいし、しかも、)

会話が変にこじれて来た。官吏と民間探偵とが、同じ事件に関係し、しかも、

(こうしゃのうでまえがすぐれているのだから、ぜひもないことだ。そのよくじつ、やくそくに)

後者の腕前がすぐれているのだから、是非もないことだ。その翌日、約束に

(したがって、しおばらみょううんじのおかだみちひこのぼちがはっくつされた。さいばんしょのひとびと、)

従って、鹽原妙雲寺の岡田道彦の墓地が発掘された。裁判所の人々、

(けいしちょうからはつねかわし、とちのけいさつしょちょう、あけちこごろうなどがたちあった。よしんはんじの)

警視庁からは恒川氏、土地の警察署長、明智小五郎などが立会った。予審判事の

(sしは、がいゆういぜんからあけちとしりあいで、すくなからずこういをもっていたので、)

S氏は、外遊以前から明智と知り合いで、少からず好意を持っていたので、

(しろうとたんていのもうしでをさいようするのに、こだわることもなく、すらすらとことがはこんだ。)

素人探偵の申出を採用するのに、こだわることもなく、スラスラと事が運んだ。

(にんぷのくわのひとふりごとに、つちがほりおこされ、そのしたから、そまつなかんおけのふたが)

人夫の鍬の一振りごとに、土が掘起され、その下から、粗末な棺桶のふたが

(あらわれてきた。おけはしっけのために、くろずんでいたけれど、もとのかたちをたもっていた。)

現れて来た。桶は湿気のために、黒ずんでいたけれど、元の形を保っていた。

(にんぷはなれたもので、なんのためらいもなく、そのふたをこじあけた。とたんにはなをつく)

人夫はなれたもので、何の躊躇もなく、そのふたをこじあけた。途端に鼻をつく

(いしゅう、くさりただれて、なかばとけてながれた、おそろしいしがい。ふためとみられぬありさまだ。)

異臭、腐りただれて、半とけて流れた、恐ろしい死骸。二目と見られぬ有様だ。

(にんぷたちはそのかんおけを、そっとちじょうへぬきだして、まぶしいはくじつのもとにさらした。)

人夫達はその棺桶を、ソッと地上へ抜き出して、まぶしい白日の下にさらした。

(あまりのきみわるさにひとびとはおもわずかおをそむけたが、やくめがら、にげだすわけには)

あまりの気味悪さに人々は思わず顔をそむけたが、役目柄、逃げ出す訳には

(いかぬ。はがたを、はがたを よしんはんじsしのことばに、あけちはよういのはがた)

行かぬ。「歯型を、歯型を」予審判事S氏の言葉に、明智は用意の歯型

など

(をとりだし、ひとりのけいかんに)

(歯医者から手に入れた、生前の岡田道彦のものだ)を取出し、一人の警官に

(てわたした。しがいのくちをひらくのだ けいかんは、おこったようなこえで、にんぷにめいじた。)

手渡した。「死骸の口を開くのだ」警官は、怒った様な声で、人夫に命じた。

(だが、くちをひらくまでもない。しがいのかおには、もうほとんどにくというものはなく、)

だが、口を開くまでもない。死骸の顔には、もうほとんど肉というものはなく、

(ながいはなみが、むきだしになっているのだ。へえ。こうですか にんぷは、)

長い歯並が、むき出しになっているのだ。「ヘエ。こうですか」人夫は、

(ゆうかんにも、そのがいこつの、くいしばったはにてをかけて、がたんとくちをひらいた。)

勇敢にも、その骸骨の、食いしばった歯に手をかけて、ガタンと口を開いた。

(けいかんはしゃがみこんで、じゅうめんをつくりながら、せっこうのはがたを、しがいのはにあわせて)

警官はしゃがみこんで、渋面を作りながら、石膏の歯型を、死骸の歯に合せて

(みた。たちあいのひとびとも、あたまをあつめて、ちかぢかとがいこつのくちをのぞきこんだ。)

見た。立会いの人々も、頭を集めて、近々と骸骨の口をのぞき込んだ。

(すんぶんちがいません。まったくおなじです けいかんが、てがらかおにおおごえをあげた。いかにも、)

「寸分違いません。全く同じです」警官が、手柄顔に大声を上げた。如何にも、

(がいこつのはなみと、せっこうのかたとはだれがみても、まったくおなじものであった。)

骸骨の歯並と、石膏の型とは誰が見ても、全く同じものであった。

(まずみたにせいねんがうたがい、あけちをはじめけいさつのひとびとも、いちじはおなじうたがいをいだいていた、)

先ず三谷青年が疑い、明智を始め警察の人々も、一時は同じ疑いを抱いていた、

(かいがかおかだみちひこは、ほんとうにしんでいたのだ。かおのくずれたできしたいは、かれが)

怪画家岡田道彦は、本当に死んでいたのだ。顔のくずれた溺死体は、彼が

(くちびるのないおとことばけて、あくじをたくましゅうするために、べつじんのしがいをかえだまにつかった)

唇のない男と化けて、悪事をたくましゅうする為に、別人の死骸を替玉に使った

(わけではなくて、しつれんじさつをとげたうえ、あらぬおめいをきせられた、あわれむべきじんぶつ)

訳ではなくて、失恋自殺をとげた上、あらぬ汚名を着せられた、憐れむべき人物

(であることがわかった。しかし、これでおかだのえんざいはあきらかになったが、)

であることが分った。しかし、これで岡田のえん罪は明かになったが、

(そうなると、いっぽうにおいて、またあたらしいぎもんがしょうじてくる。どくやくけっとうを)

そうなると、一方において、また新しい疑問が生じて来る。「毒薬決闘を

(もうしでたり、しずこさんのしゃしんにふでをくわえて、おそろしいしたいしゃしんをおきみやげに)

申出たり、倭文子さんの写真に筆を加えて、恐ろしい死体写真を置みやげに

(したり、またれいのあとりえにしがいのせっこうぞうをつくったりしたおかだみちひこが、まるで、)

したり、また例のアトリエに死骸の石膏像を作ったりした岡田道彦が、まるで、

(せけんしらずのうぶなせいねんのように、あのくらいのことで、じさつしてしまったしんりの)

世間知らずのウブな青年のように、あの位のことで、自殺してしまった心理の

(ひやくが、ひじょうにふしぜんにみえたのです。このてんをはっきりさせることができたら)

飛躍が、非常に不自然に見えたのです。この点をハッキリさせることが出来たら

(そのときこそ、くちびるのないかいぶつのなぞもしぜんとけてくるのではないかとおもいます)

その時こそ、唇のない怪物のなぞも自然解けてくるのではないかと思います」

(みょううんじのぼちで、sよしんはんじやつねかわけいぶにもらした、あけちのこのことばは、)

妙雲寺の墓地で、S予審判事や恒川警部に洩らした、明智のこの言葉は、

(まもなくなるほどとおもいあたるときがきた。それはさておき、そのよくじつ、こんどはよよぎの)

間もなく成程と思い当る時が来た。それはさておき、その翌日、今度は代々木の

(かいあとりえからほどとおからぬ、oむらのせいみょうじというおてらのぼちに、ひきつづいてはっくつが)

怪アトリエから程遠からぬ、O村の西妙寺というお寺の墓地に、引続いて発掘が

(おこなわれた。どういうかんけいか、oむらにはこふうなどそうのしゅうかんがのこっていて、とむらいが)

行われた。どういう関係か、O村には古風な土葬の習慣が残っていて、葬いが

(あるごとに、せいみょうじのひろいぼちには、なまなましいむかしながらの、つちまんじゅうがきずかれた。)

ある毎に、西妙寺の広い墓地には、生々しい昔ながらの、土饅頭が築かれた。

(そのことをききこんだあけちが、せいみょうじにでむいてしらべてみると、ねんぱいも、まいそうの)

そのことを聞き込んだ明智が、西妙寺に出向いて調べて見ると、年配も、埋葬の

(じきも、ちょうどれいのあとりえのさんにんのむすめにそうとうする、わかいおんなのしにんがあったことが)

時期も、丁度例のアトリエの三人の娘に相当する、若い女の死人があったことが

(わかった。なおさぐっていくと、てらおとこのはなしでは、そのむすめさんたちをまいそうして)

分った。なお探って行くと、寺男の話しでは、その娘さん達を埋葬して

(まもなく、しんやそのはかばを、あやしげなひとかげがうろついているのをみた、)

間もなく、深夜その墓場を、怪しげな人影がうろついているのを見た、

(というじじつさえわかってきた。ぼちのようすをみても、どことなくいようなてんが)

という事実さえ分って来た。墓地の様子を見ても、どことなく異様な点が

(あったし、それに、かのさんにんにそうとうするいえでむすめがないことも、きょうのぼちはっくつの)

あったし、それに、彼の三人に相当する家出娘がないことも、今日の墓地発掘の

(じゅうだいなりゆうとなった。さて、はっくつの、けっかはどうであったか。てっとりばやくいえば)

重大な理由となった。さて、発掘の、結果はどうであったか。手っ取早くいえば

(あけちのそうぞうがてきちゅうしたのだ。めざすさんこのかんおけは、まったくからっぽであることが)

明智の想像が的中したのだ。目ざす三個の棺桶は、全く空っぽであることが

(わかったのだ。いや、からっぽといってはすこしあたらぬ、ひつぎのなかには、したいはなかった)

分ったのだ。イヤ、空っぽといっては少し当らぬ、棺の中には、死体はなかった

(けれど、そのかわりにみょうなものがはいっていた。おや、みょうなかみきれが)

けれど、その代りに妙なものが入っていた。「オヤ、妙な紙切れが

(おちてますよ にんぷのひとりが、ひつぎのそこから、それをひろいあげて、つねかわしに)

落ちてますよ」人夫の一人が、棺の底から、それを拾い上げて、恒川氏に

(わたした。なんだかかいてある。てがみのようですぜ かんおけのなかにてがみとは、いったいぜんたい)

渡した。「何だか書いてある。手紙の様ですぜ」棺桶の中に手紙とは、一体全体

(だれにあてたものであろう。あけちこごろうくん・・・・・・や、や けいぶがとんきょうなさけびごえを)

誰に宛たものであろう。「明智小五郎君……ヤ、ヤ」警部が頓狂な叫び声を

(たてた。あけちさん、これはきみのあてなになっていますぜ あけちがうけとって、)

立てた。「明智さん、これは君の宛名になっていますぜ」明智が受取って、

(よんでみると、そのぶんめんはさのようなものであった。)

読んで見ると、その文面は左の様なものであった。

(あけちこごろうくん。このぼちにきづき、このひつぎをあばくものは、おそらくきみであろう。)

明智小五郎君。この墓地に気づき、この棺をあばくものは、恐らく君であろう。

(だが、まことにざんねんながらきみはすこしおそすぎた。もうすべてはおわったのだ。)

だが、まことに残念ながら君は少し遅すぎた。もうすべては終ったのだ。

(このひつぎのなかから、しがいをぬすみだしたじんぶつは、すでにかれのさいごのもくてきをたっしたのだ。)

この棺の中から、死骸を盗み出した人物は、既に彼の最後の目的を達したのだ。

(きみは、ついにこのひつぎをあばいた。だが、それがなにをいみするか、きみは)

君は、ついにこの棺をあばいた。だが、それが何を意味するか、君は

(しっているだろうか。そのじんぶつは、ちゃんとぷろぐらむをきめておいたのだ。)

知っているだろうか。その人物は、ちゃんとプログラムを定めておいたのだ。

(あけちこごろうがこのひつぎをあばいたときこそ、かれのさいごだと。きみは、すでにしのせんこくを)

明智小五郎がこの棺をあばいた時こそ、彼の最期だと。君は、既に死の宣告を

(あたえられたのだ。いかなるぼうびも、てきたいも、そのじんぶつにとっては、ぜんぜんむりょくで)

与えられたのだ。如何なる防備も、敵対も、その人物にとっては、全然無力で

(あることをしるがいい。またか。ぼくはやつのきょうはくじょうをうけとるのが、これで)

あることを知るがいい。「またか。僕はやつの脅迫状を受取るのが、これで

(さんどめですよ。なんというおしばいっけだ あけちは、しへんをまるめすてて、くしょうした。)

三度目ですよ。何というお芝居気だ」明智は、紙片を丸め捨てて、苦笑した。

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