怪人二十面相66 江戸川乱歩

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少年探偵団シリーズ1作目

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問題文

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(とうきょうまいにちしんぶんは、べつにぞくのきかんしんぶんというわけではありませんが、このさわぎの)

東京毎日新聞は、別に賊の機関新聞という訳ではありませんが、この騒ぎの

(ちゅうしんになっているにじゅうめんそうそのひとからのとうしょとあっては、もんだいにしないわけには)

中心になっている二十面相その人からの投書とあっては、問題にしない訳には

(いきません。ただちにへんしゅうかいぎまでひらいて、けっきょくそのぜんぶんをのせることにしたのです)

いきません。直ちに編集会議まで開いて、結局その全文を載せる事にしたのです

(それはながいぶんしょうでしたが、いみをかいつまんでしるしますと、)

それは長い文章でしたが、意味を掻い摘んで記しますと、

(「わたしはかねて、はくぶつかんしゅうげきのひを12がつ10かとよこくしておいたが、もっとせいかくに)

「私はかねて、博物館襲撃の日を十二月十日と予告しておいたが、もっと正確に

(やくそくするほうが、いっそうおとこらしいとかんじたので、ここにとうきょうとみんしょくんのまえに、)

約束する方が、一層男らしいと感じたので、ここに東京都民諸君の前に、

(そのじかんをつうこくする。 それは「12がつ10かごご4じ」である。)

その時間を通告する。  それは『十二月十日午後四時』である。

(はくぶつかんちょうもけいしそうかんも、できるかぎりのけいかいをしていただきたい。けいかいが)

博物館長も警視総監も、出来る限りの警戒をして頂きたい。警戒が

(げんじゅうであればあるほど、わたしのぼうけんはそのかがやきをますであろう」)

厳重であればある程、私の冒険はその輝きを増すであろう」

(ああ、なんたることでしょう。ひづけをよこくするだけでも、おどろくべきだいたんさですのに)

ああ、何たる事でしょう。日付けを予告するだけでも、驚くべき大胆さですのに

(そのうえじかんまではっきりとこうひょうしてしまったのです。そして、はくぶつかんちょうや)

その上時間まではっきりと公表してしまったのです。そして、博物館長や

(けいしそうかんにしつれいせんばんなちゅういまであたえているのです。 これをよんだとみんのおどろきは)

警視総監に失礼千万な注意まで与えているのです。 これを読んだ都民の驚きは

(もうすまでもありません。いままでは、そんなばかばかしいことがと、あざわらって)

申すまでもありません。今までは、そんな馬鹿馬鹿しい事がと、嘲笑って

(いたひとびとも、もうわらえなくなりました。 とうじのはくぶつかんちょうは、しがくかいのだいせんぱい、)

いた人々も、もう笑えなくなりました。 当時の博物館長は、史学界の大先輩、

(きたこうじぶんがくはかせでしたが、そのえらいろうがくしゃさえも、ぞくのよこくをほんきにしないでは)

北小路文学博士でしたが、その偉い老学者さえも、賊の予告を本気にしないでは

(いられなくなって、わざわざけいしちょうにでむき、けいかいほうほうについて、けいしそうかんと)

いられなくなって、わざわざ警視庁に出向き、警戒方法について、警視総監と

(いろいろうちあわせをしました。 いや、そればかりではありません。)

色々打ち合わせをしました。  いや、そればかりではありません。

(にじゅうめんそうのことは、こくむだいじんかたのかくぎのわだいにさえ、のぼりました。)

二十面相のことは、国務大臣方の閣議の話題にさえ、のぼりました。

(なかでもそうりだいじんやほうむだいじんなどは、しんぱいのあまり、けいしそうかんをべっしつにまねいて、)

中でも総理大臣や法務大臣などは、心配のあまり、警視総監を別室に招いて、

(げきれいのことばをあたえたほどです。 そして、ぜんとみんのふあんのうちに、むなしく)

激励の言葉を与えたほどです。  そして、全都民の不安のうちに、虚しく

など

(ひがたって、とうとう12がつ10かとなりました。 こくりつはくぶつかんでは、そのひは)

日が経って、とうとう十二月十日となりました。  国立博物館では、その日は

(そうちょうから、かんちょうのきたこうじろうはかせをはじめとして、3にんのかかりちょう、10にんのしょき、)

早朝から、館長の北小路老博士を始めとして、三人の係長、十人の書記、

(16にんのしゅえいやこづかいが、ひとりのこらずしゅっきんして、それぞれけいかいのぶしょに)

十六人の守衛や小使いが、一人残らず出勤して、それぞれ警戒の部署に

(つきました。 むろんとうじつは、おもてもんをとじて、かんらんきんしです。)

つきました。  無論当日は、表門を閉じて、観覧禁止です。

(けいしちょうからは、なかむらそうさかかりちょうのひきいるえりすぐったけいかんたい50にんがしゅっちょうして、)

警視庁からは、中村捜査係長の率いる選りすぐった警官隊五十人が出張して、

(はくぶつかんのおもてもん、うらもん、へいのまわり、かんないのようしょようしょにがんばって、ありのはいいる)

博物館の表門、裏門、塀の周り、館内の要所要所に頑張って、アリの這い入る

(すきまもないだいけいかいじんです。 ごご3じはん、あますところわずかに30ふん、)

隙間もない大警戒陣です。  午後三時半、余すところ僅かに三十分、

(けいかいじんはものものしくさっきだってきました。 そこへけいしちょうのおおがたじどうしゃがとうちゃくして)

警戒陣は物々しく殺気立ってきました。 そこへ警視庁の大型自動車が到着して

(けいしそうかんがけいじぶちょうをしたがえてあらわれました。そうかんは、しんぱいのあまり、もうじっとして)

警視総監が刑事部長を従えて現れました。総監は、心配の余り、もうじっとして

(いられなくなったのです。そうかんじしんのめで、はくぶつかんをみまもっていなければ、)

いられなくなったのです。総監自身の目で、博物館を見守っていなければ、

(がまんができなくなったのです。 そうかんたちはいちどうのけいかいぶりをしさつしたうえ、)

我慢が出来なくなったのです。  総監達は一同の警戒ぶりを視察した上、

(かんちょうしつにとおってきたこうじはかせにめんかいしました。 「わざわざ、あなたがおでかけ)

館長室に通って北小路博士に面会しました。 「わざわざ、貴方がお出掛け

(くださるとはおもいませんでした。きょうしゅくです」 ろうはかせがあいさつしますと、)

下さるとは思いませんでした。恐縮です」  老博士が挨拶しますと、

(そうかんは、すこしきまりわるそうにわらってみせました。 「いや、おはずかしいことですが)

総監は、少し決り悪そうに笑ってみせました。 「いや、お恥ずかしい事ですが

(じっとしていられませんでね。たかが1とうぞくのために、これほどのさわぎをしなければ)

じっとしていられませんでね。たかが一盗賊の為に、これ程の騒ぎをしなければ

(ならないとは、じつにちじょくです。わしはけいしちょうにはいっていらい、こんなひどいちじょくを)

ならないとは、実に恥辱です。儂は警視庁に入って以来、こんな酷い恥辱を

(うけたことははじめてです」 「あはは・・・・・・」ろうはかせはちからなくわらって、)

受けた事は初めてです」 「アハハ……」老博士は力なく笑って、

(「わたしもどうようです。あのあおにさいのとうぞくのために、1しゅうかんというもの、ふみんしょうに)

「私も同様です。あの青二才の盗賊の為に、一週間というもの、不眠症に

(かかっておるのですからな」 「しかし、もうあますところ20ふんほどですよ。)

かかっておるのですからな」 「しかし、もう余すところ二十分ほどですよ。

(え、きたこうじさん、まさか20ふんのあいだにこのげんじゅうなけいかいをやぶって、たくさんのびじゅつひんを)

え、北小路さん、まさか二十分の間にこの厳重な警戒を破って、沢山の美術品を

(ぬすみだすなんて、いくらまほうつかいでも、すこしむずかしいげいとうじゃありますまいか」)

盗み出すなんて、いくら魔法使いでも、少し難しい芸当じゃありますまいか」

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