吸血鬼60

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明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。

関連タイピング

問題文

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(なるほど、なるほど、したいふんしつのいっけんはこれでめいりょうになった。しかし、まだわからぬことが)

成程、成程、死体紛失の一件はこれで明瞭になった。しかし、まだ分らぬことが

(やまほどある。で、げしにんは?あのちっぽけなくろいやつは、いったいぜんたいなにものです)

山程ある。「で、下手人は?あのちっぽけな黒い奴は、一体全体何者です」

(けいぶがだいにもんをはなった。あのくろふくめんがえんじているのは、だれしもかんがえ)

警部が第二問をはなった。「あの黒覆面が演じているのは、誰しも考え

(およばなかった、じつにおどろくべきじんぶつです。ぼくもついにさんにちまえに、それをはっけんした)

及ばなかった、実に驚くべき人物です。僕もつい二三日前に、それを発見した

(のですが、あまりいがいなじんぶつなので、ちょっとほんとうにおもえなかったほどです で、)

のですが、余り意外な人物なので、ちょっと本当に思えなかった程です」「で、

(つまり つねかわしはもどかしげに、あいつが、こんどのじけんのしんはんにんだと)

つまり」恒川氏はもどかしげに、「あいつが、今度の事件の真犯人だと

(おっしゃるのですね しんはんにん、・・・・・・そうです。あるいみでは あけちは)

おっしゃるのですね」「真犯人、・・・・・・そうです。ある意味では」明智は

(ことばをにごして、あいつが、なにものであるかをおはなしするまえに、まだおみせする)

言葉を濁して、「あいつが、何者であるかをお話しする前に、まだお見せする

(ものがあります。これから、こんばんのおしばいのだいにまくめがはじまるのです と、)

ものがあります。これから、今晩のお芝居の第二幕目が始まるのです」と、

(またもやこうじょうめかしていう。だいにまくめですって。じゃ、いまのつづきが、まだ)

またもや口上めかしていう。「第二幕目ですって。じゃ、今の続きが、まだ

(あるのですか ええ、そして、こんどのじつえんこそ、あなたがたにおみせしたい、)

あるのですか」「エエ、そして、今度の実演こそ、あなた方にお見せしたい、

(ごくかんようなばめんなのです ほほう、それは けいぶは、しろうとたんていのおもわせぶりに)

ごく肝要な場面なのです」「ホホウ、それは」警部は、素人探偵の思わせぶりに

(すくなからずへきえきしたが、ことのしんそうをしりたさに、しばらくあけちのおしばいっけを、)

少からずへき易したが、事の真相を知りたさに、しばらく明智のお芝居気を、

(ゆるしておくほかはなかった。で、こんどは、いまのできごと、すなわちおがわしょういちしたいふんしつ)

許しておく外はなかった。「で、今度は、今の出来事、即ち小川正一死体紛失

(じけんがあってから、にさんにちのうちにおこったできごとをおめにかけるわけです。じつに)

事件があってから、二三日の内に起った出来事をお目にかける訳です。実に

(きかいせんばんなさつじんじけんです。しかし、これはまったくかげのできごとで、けいさつでも、)

奇怪千万な殺人事件です。しかし、これは全く蔭の出来事で、警察でも、

(はたやなぎけのひとたちさえも、まるでしらなかったはんざいです さいとうろうじんのじけんとは)

畑柳家の人達さえも、まるで知らなかった犯罪です」「斎藤老人の事件とは

(べつにですか けいぶがびっくりしてさけんだ。べつにです。おがわのじけんと、さいとうの)

別にですか」警部がびっくりして叫んだ。「別にです。小川の事件と、斎藤の

(じけんのあいだに、だれもしらないもうひとつのさつじんじけんが、しかもこのへやで)

事件の間に、誰も知らないもう一つの殺人事件が、しかもこの部屋で

(おこなわれたのです このまえこうじょうは、たしかにだいせいこうであった。けんぶつたちは、すくなからず)

行われたのです」この前口上は、確に大成功であった。見物達は、少からず

など

(こうふんして、だいにまくめのかいえんを、いまやおそしとまちうけた。では、またしばらくの)

興奮して、第二幕目の開演を、今やおそしと待受けた。「では、またしばらくの

(あいだ、でんとうをけします。そのまえに、おことわりしておきますが、いまこのへやで、)

間、電燈を消します。その前に、お断りしておきますが、今この部屋で、

(まことにいようなさつじんざいが、にょじつにえんじられますが、それはもちろんおしばいに)

まことに異様な殺人罪が、如実に演じられますが、それは勿論お芝居に

(すぎません。どんなおそろしいことがおこっても、けっしてくちだしやてだしを)

過ぎません。どんな恐ろしいことが起っても、決して口出しや手出しを

(なさらぬようにおねがいします。では、......まえこうじょうがおわると、ぱちんと)

なさらぬようにお願いします。では、......」前口上が終ると、パチンと

(でんとうがきえてまっくらになった。まどのそとには、もうくれきって、うつくしいほしが)

電燈が消えて真っ暗になった。窓の外には、もう暮れ切って、美しい星が

(またたいている。こんなにくらくっては、おしばいがみえやしないと、いぶかるうちに)

またたいている。こんなに暗くっては、お芝居が見えやしないと、いぶかる内に

(ぽっかりとむこうのかべに、おおきなえんこうがあらわれて、ぶきみなぶつぞうたちが、げんとうの)

ポッカリと向うの壁に、大きな円こうが現れて、不気味な仏像達が、幻燈の

(えのようにうきあがった。あけちが、いつのまにか、かいちゅうでんとうをよういしていて、その)

絵の様に浮き上った。明智が、いつの間にか、懐中電燈を用意していて、その

(まるいひかりを、しょうめんのかべになげていたのだ。えんこうは、じょじょに、ぶつぞうぐんを)

丸い光を、正面の壁に投げていたのだ。円こうは、徐々に、仏像郡を

(とおりすぎて、かべのはずれ、いりぐちのどあのまえにとまった。みると、そのひかりのなかで、)

通り過ぎて、壁のはずれ、入口のドアの前にとまった。見ると、その光の中で、

(どあのひきてがそろりそろりとまわっている。なにものかが、そとからどあをひらこうと)

ドアの引手がソロリソロリと廻っている。何者かが、外からドアを開こうと

(しているのだ。ひきてのかいてんがとまると、どあそのものが、いちぶずつ、いちぶずつ、)

しているのだ。引手の廻転が止まると、ドアそのものが、一分ずつ、一分ずつ、

(きょくどにようじんぶかく、ひらきはじめた。くろいいっすんぼうしは、まだてんじょううらにいるはずだ。)

極度に用心深く、開き始めた。黒い一寸法師は、まだ天井裏にいる筈だ。

(かれではない。とすると、いま、おそろしいほどのようじんぶかさで、どあをひらいているやつは、)

彼ではない。とすると、今、恐ろしい程の用心深さで、ドアを開いている奴は、

(そもそもなにものであろう。おにといわれたつねかわけいぶでさえ、わきおこるこうきしんと、)

そもそも何者であろう。鬼といわれた恒川警部でさえ、湧き起る好奇心と、

(なんともいえぬきょうふのために、いきがはずんでくるほどであった。いっすん、にすん、いっしゃく、)

何ともいえぬ恐怖の為に、呼吸がはずんで来る程であった。一寸、二寸、一尺、

(にしゃく、ついにどあはまったくひらかれた。そとのやつはあいかぎをしょじしていたのだ。)

二尺、遂にドアは全く開かれた。外の奴は合鍵を所持していたのだ。

(かいちゅうでんとうをもつ、あけちのどうきをかくだいして、かべのえんこうは、ぶるぶると)

懐中電燈を持つ、明智の動悸を拡大して、壁の円こうは、ブルブルと

(りずみかるにゆれている。そのゆれるひかりのなかへ、そとのろうかから、すーっと)

リズミカルに揺れている。その揺れる光の中へ、外の廊下から、スーッと

(はいってきた、いようのじんぶつ。それをみると、ふたりのけんぶつは、あらかじめあけちのちゅういが)

入って来た、異様の人物。それを見ると、二人の見物は、予め明智の注意が

(あったにもかかわらず、おもわず あっ とちいさなさけびごえをたてないでは)

あったにも拘わらず、思わず「アッ」と小さな叫び声を立てないでは

(いられなかった。そのじんぶつは、くろいそふとぼう、くろまんと、おおがたのいろめがねに、)

いられなかった。その人物は、黒いソフト帽、黒マント、大型の色眼鏡に、

(ますくをつけた、れいのくちびるのないかいぞくと、そっくりそのままのいでたちであった)

マスクをつけた、例の唇のない怪賊と、そっくりそのままの扮装であった

(からだ。かいじんぶつは、えんこうのなかを、じりじりとすすんでいく。すすむにつれて、)

からだ。怪人物は、円こうの中を、ジリジリと進んで行く。進むにつれて、

(あけちのかいちゅうでんとうも、ちょうどすぽっとらいとが、ぶたいのえんぎをおうように、じんぶつと)

明智の懐中電燈も、丁度スポットライトが、舞台の演技を追うように、人物と

(ともにかべをはっていく。いどうさつえいのえいがをみるかんじだ。かいぶつのめは、あるきながら、)

共に壁をはって行く。移動撮影の映画を見る感じだ。怪物の眼は、歩きながら、

(かくてんじょうの、れいのいっすんぼうしがかくれたひとこまに、くぎづけになっている。かれは、あの)

格天井の、例の一寸法師が隠れた一こまに、釘づけになっている。彼は、あの

(きみょうなてんじょううらへのつうろを、ちゃんとしっているようすだ。やがて、しょうめんのかべの)

奇妙な天井裏への通路を、ちゃんと知っている様子だ。やがて、正面の壁の

(なかほどまですすむと、いったいのにょらいざぞうのまえにたちどまり、やっぱりめだけはかくてんじょうを)

中程まで進むと、一体の如来座像の前に立止まり、やっぱり目丈けは格天井を

(みつめたまま、そこへしゃがみこんでしまった。いったいなにをしようと)

見つめたまま、そこへしゃがみ込んでしまった。一体何をしようと

(いうのだろう。と、まるでそれがあいずででもあったように、てんじょうのれいのかしょに)

いうのだろう。と、まるでそれが合図ででもあった様に、天井の例の個所に

(あたって、かたんとみょうなおとがしたかとおもうと、ぱっとかぜをきって、しろがねの)

当って、カタンと妙な音がしたかと思うと、パッと風を切って、白銀の

(ぼうのように、うずくまるかいぶつめがけて、なげつけられたのは、あのおそろしい)

棒のように、蹲る怪物めがけて、投げつけられたのは、あの恐ろしい

(せいようたんけんだ。ああ、だいにのさつじん!これだな!とおもったときには、ますくのかいじんは、)

西洋短剣だ。アア、第二の殺人!これだな!と思った時には、マスクの怪人は、

(まるでかるわざしのようにみをひるがえして、たんけんのきどうをよけていた。めにもとまらぬ)

まるで軽業師のように身を翻して、短剣の軌道をよけていた。目にも止まらぬ

(はやわざだ。よけながら、すばやくたんけんのひもをつかんでひきちぎってしまった。)

早業だ。よけながら、素早く短剣の紐を掴んで引きちぎってしまった。

(きゃっ といういようなさけびごえ。つづいてごとごとてんじょうをはしるあしおと。ぶきを)

「キャッ」という異様な叫び声。続いてゴトゴト天井を走る足音。武器を

(うばわれたいっすんぼうしが、ひめいをあげて、にげだしたのだ。ますくのじんぶつは、)

奪われた一寸法師が、悲鳴を上げて、逃げ出したのだ。マスクの人物は、

(へやのまんなかにおいてあったしょうてーぶるを、てんじょうのあなのしたへひきずっていき、)

部屋の真中においてあった小テーブルを、天井の穴の下へ引ずって行き、

(そのうえにいすをにきゃくつみあげて、あしばをつくり、ひじょうなみがるさで、それを)

その上に椅子を二脚積み上げて、足場を作り、非常な身軽さで、それを

(よじのぼり、かくてんじょうのわくへとびついた。そのあいだ、かいちゅうでんとうのすぽっとらいとが)

よじのぼり、格天井のわくへ飛びついた。その間、懐中電燈のスポットライトが

(めいゆうのえんぎをおって、いどうしたことはいうまでもない。しばらくのあいだ、その)

名優の演技を追って、移動したことはいうまでもない。しばらくの間、その

(えんこうのなかに、かいじんのあしがばたばたともがいていたが、やがて、それもてんじょうの)

円こうの中に、怪人の足がバタバタともがいていたが、やがて、それも天井の

(あなへきえてしまった。かいちゅうでんとうは、むなしくてんじょうのすみをてらすばかり、はいゆうは)

穴へ消えてしまった。懐中電燈は、空しく天井の隅を照らすばかり、俳優は

(ふたりとも、けんぶつのしやから、まっくらなやねうらへと、すがたをけしたまま、きゅうに)

二人とも、見物の視野から、真暗な屋根裏へと、姿を消したまま、急に

(おりてくるようすもない。このところ、ややしばらくぶたいはくうきょである。そのかわり、おとが)

降りて来る様子もない。この所、やや暫く舞台は空虚である。その代り、音が

(きこえる。まるでねずみでもあばれているような、ひどいおとが、てんじょうからふってくる。)

聞える。まるで鼠でもあばれているような、ひどい音が、天井から降って来る。

(やがて、そのものおとが、ばったりとまった。にげるいっすんぼうしが、つかまったのだ。)

やがて、その物音が、バッタリ止った。逃げる一寸法師が、つかまったのだ。

(ややしばらく、ぶきみなせいじゃく。かいぶつたちはあらそっている。むごんのまま、ものおともたてず)

ややしばらく、不気味な静寂。怪物達は争っている。無言のまま、物音も立てず

(あせみどろにたたかっている。そのものすごいありさまが、まざまざとみえるようだ。)

汗みどろに闘っている。その物すごい有様が、まざまざと見えるようだ。

(ぶたいかんとくあけちこごろう、なかなかあじをやる。)

舞台監督明智小五郎、仲々味をやる。

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