吸血鬼64
関連タイピング
-
プレイ回数10万歌詞200打
-
プレイ回数3.2万歌詞1030打
-
プレイ回数4309かな314打
-
プレイ回数75万長文300秒
-
プレイ回数894歌詞1260打
-
プレイ回数6.8万長文かな313打
-
プレイ回数1.8万長文かな102打
-
プレイ回数8.3万長文744打
問題文
(さんまくめ)
三幕目
(はたやなぎしょうぞうが、あくにんだとしっていたけれど、ひとごろしまでやっているとは)
「畑柳庄蔵が、悪人だと知っていたけれど、人殺しまでやっているとは
(いがいでした。しかし、それにしても、ふにおちないのは、おせつのとおり、こんどの)
意外でした。しかし、それにしても、腑に落ちないのは、お説の通り、今度の
(はんにんがはたやなぎだとすると、かれはどうして、わがこをゆうかいして、みのしろきんを)
犯人が畑柳だとすると、彼はどうして、我子を誘拐して、身の代金を
(ようきゅうするような、ひどいまねをしたのでしょう。そのへんのしんりに、おおきなむじゅんが)
要求する様な、ひどいまねをしたのでしょう。その辺の心理に、大きな矛盾が
(あるようなきがしますね つねかわしがいぶかしげにたずねた。そこです。こんやの)
あるような気がしますね」恒川氏がいぶかしげにたずねた。「そこです。今夜の
(おしばいのだいにまくめは、そのてんをはっきりさせるために、じつえんしておめに)
お芝居の第二幕目は、その点をハッキリさせるために、実演してお目に
(かけたのです。ごらんになったとおり、はたやなぎは、もうひとりのやつにころされました。)
かけたのです。ごらんになった通り、畑柳は、もう一人の奴に殺されました。
(あのおとこを、いったいなにものだとおおもいですか わかりません。ただ、そいつが、めがねを)
あの男を、一体何者だとお思いですか」「分りません。ただ、そいつが、眼鏡を
(かけ、ますくをはめていたやつらしいというほかには けいぶはさっきじつえんされた)
かけ、マスクをはめていた奴らしいという外には」警部はさっき実演された
(ことを、そのままこたえるほかはなかった。くちびるのないおとこをだいひょうするちいさなくろいやつは、)
ことを、そのまま答える外はなかった。唇のない男を代表する小さな黒い奴は、
(ますくのじんぶつにころされたのであった。では、そのじんぶつをおめにかけましょう。)
マスクの人物に殺されたのであった。「では、その人物をお目にかけましょう。
(きみ、めがねとますくをとってください あけちは、ものおきのがらくたどうぐのあいだに)
君、眼鏡とマスクをとって下さい」明智は、物置のがらくた道具の間に
(たたずんでいた、さいぜんのくろまんとのはいゆうにこえをかけた。つねかわしとみたにせいねんとは、)
たたずんでいた、最前の黒マントの俳優に声をかけた。恒川氏と三谷青年とは、
(はそんしたいすやてーぶるのつみあげてあるすみっこを、ねっしんにみつめた。いんきな)
破損した椅子やテーブルの積上げてある隅っこを、熱心に見つめた。陰気な
(ごしょくのでんとうが、だいしょうふたりのくろかいぶつを、いようにてらしだしている。くろまんと、)
五燭の電燈が、大小二人の黒怪物を、異様に照らし出している。黒マント、
(くろそふとのふしぎなじんぶつは、ことばにおうじて、かおをあげると、まずおおきないろめがねを)
黒ソフトの不思議な人物は、言葉に応じて、顔を上げると、先ず大きな色眼鏡を
(はずした。めがねがとれただけで、そのじんぶつがひじょうにきかいなかおをしていることが)
はずした。眼鏡がとれただけで、その人物が非常に奇怪な顔をしていることが
(めはやけただれたように、あかくなって、まぶたはみじかく、まつげはぬけおち、)
眼は焼けただれた様に、赤くなって、まぶたは短く、まつげはぬけ落ち、
(そのあいだから、くさりかけたさかなのめのような、しろっぽいりょうめが、あらぬくうかんを)
その間から、腐りかけたさかなの目の様な、白っぽい両眼が、あらぬ空間を
(みつめていた。つねかわしは、あるよかんに、はっとして、おもわずいっぽまえにすすんだ。)
見つめていた。恒川氏は、ある予感に、ハッとして、思わず一歩前に進んだ。
(みたにせいねんもひどくこころをみだされたらしく、まっさおになって、なにかわけのわからぬ)
三谷青年もひどく心を乱されたらしく、真青になって、何か訳の分らぬ
(たわごとをくちばしった。くろまんとのかいぶつは、つぎに、はんめんをおおいかくしていた、)
たわごとを口走った。黒マントの怪物は、次に、半面を覆い隠していた、
(おおきなますくを、ひきちぎるようにとりさった。かおぜんたいが、あかちゃけたでんとうのひかりに、)
大きなマスクを、引きちぎる様に取去った。顔全体が、赤茶けた電燈の光に、
(むきだしになった。そうぞうしたとおり、そいつのはなははんぶんしかなかった。ほおから)
むき出しになった。想像した通り、そいつの鼻は半分しかなかった。頬から
(あごにかけて、むざんなあかはげがひかっていた。そして、くちびるが、ああ、くちびるが。)
あごにかけて、無慙な赤はげが光っていた。そして、唇が、アア、唇が。
(あっ、くちびるのないおとこ!つねかわしが、とんきょうなこえでさけんだ。なにがなんだか、さっぱり)
「アッ、唇のない男!」恒川氏が、頓狂な声で叫んだ。何が何だか、さっぱり
(わからぬ。まるであくむのようにうなされているようなきもちだ。けいぶはねんのために、)
分らぬ。まるで悪夢のようにうなされているような気持だ。警部は念の為に、
(かいちゅうでんとうをさしつけて、ふるいどのそこをのぞいてみた。くちびるのないかいぶつ、はたやなぎしょうぞうの)
懐中電燈をさしつけて、古井戸の底をのぞいて見た。唇のない怪物、畑柳庄蔵の
(ふくれあがったしたいは、ちゃんともとのばしょによこたわっている。りこんびょうのように、)
ふくれ上った死体は、ちゃんと元の場所に横たわっている。離魂病の様に、
(まったくおなじかいぶつがふたりあらわれたのだ。どちらがほんもので、どちらがゆうれいなのだ。)
全く同じ怪物が二人現れたのだ。どちらが本物で、どちらが幽霊なのだ。
(つねかわしにとって、こいつは、ただしくいえば、だいさんばんめの くちびるのないおとこ で)
恒川氏にとって、こいつは、正しくいえば、第三番目の「唇のない男」で
(あった。さいしょは、しながわわんでやけしんだそのだこっこうのかぶっていたろうせいのおめん、)
あった。最初は、品川湾で焼け死んだ園田黒虹のかぶっていたろう製のお面、
(だいにはいまいどのそこにしんでいるはたやなぎしょうぞう、そして、ここにだいさんのかいぶつが)
第二は今井戸の底に死んでいる畑柳庄蔵、そして、ここに第三の怪物が
(たたずんでいるのだ。すると、くちびるのないやつが、くちびるのないやつをころしたという)
たたずんでいるのだ。「すると、唇のない奴が、唇のない奴を殺したという
(ことになるわけですが......かれはめんくらってあけちのかおをみた。)
ことになる訳ですが......」彼は面食らって明智の顔を見た。
(そうです。くちびるのないやつが、くちびるのないはたやなぎしょうぞうをころしたのです。つまり、こんどの)
「そうです。唇のない奴が、唇のない畑柳庄蔵を殺したのです。つまり、今度の
(じけんには、ふたりのくちびるのないじんぶつがいて、まったくべつのもくてきで、べつのつみをおかして)
事件には、二人の唇のない人物がいて、全く別の目的で、別の罪を犯して
(いたのです。われわれはいままでそれをこんどうしていたために、じけんのしんそうをつかむことが)
いたのです。我々は今までそれを混同していた為に、事件の真相をつかむことが
(できなかったのです そんなことが、こんなによくにたかたわものが、おなじじけんに)
出来なかったのです」「そんなことが、こんなによく似た片輪者が、同じ事件に
(かんけいするなんて、あまりばかばかしいぐうぜんです つねかわしは、あけちのことばが)
関係するなんて、余り馬鹿馬鹿しい偶然です」恒川氏は、明智の言葉が
(こどもだましみたいで、どうにもがてんできなかった。ぐうぜんではありません。)
子供だましみたいで、どうにも合点出来なかった。「偶然ではありません。
(りょうほうともほんとうのかたわだとすれば、そんなふうにおかんがえになるのもむりでは)
両方とも本当の片輪だとすれば、そんな風にお考えになるのも無理では
(ありませんが、いっぽうはまっかなうそです。・・・・・・さあ、それをとってください)
ありませんが、一方は真赤な嘘です。・・・・・・サア、それを取って下さい」
(あけちははんぶんをつねかわしに、あとのはんぶんを、くろまんとにじんぶつにむかっていった。)
明智は半分を恒川氏に、あとの半分を、黒マントに人物に向っていった。
(そのさしずをきくと、くろまんとのおとこ、いやおんなは、てばやくぼうしをかなぐりすて、)
その指図を聞くと、黒マントの男、いや女は、手早く帽子をかなぐり捨て、
(みみのうしろまで、じぶんのあごにてをかけると、いきなり、わがかおを、めりめりと)
耳のうしろまで、自分のあごに手をかけると、いきなり、我が顔を、メリメリと
(めくりとった。・・・・・・それはひじょうにせいこうなろうせいのおめんにすぎなかった)
めくり取った。・・・・・・それは非常に精巧なろう製のお面に過ぎなかった
(のだ。おめんのしたからあらわれたのは、 けんぶつのふたりは、さいぜんからうすうすかんづいては)
のだ。お面の下から現れたのは、――見物の二人は、さい前から薄々感づいては
(いたが、 あけちのおんなじょしゅふみよさんの、うつくしいえがおであった。よっちゃん、)
いたが、――明智の女助手文代さんの、美しい笑顔であった。「よっちゃん、
(あなたもふくめんをおとりなさいな ふみよさんは、おしばいのなかでかのじょがしめころした、)
あなたも覆面をおとりなさいな」文代さんは、お芝居の中で彼女がしめ殺した、
(くろしょうぞくのしょうかいぶつに、やさしくこえをかけた。するとしゅうかいないっすんぼうしは、こえにおうじて、)
黒装束の小怪物に、優しく声をかけた。すると醜怪な一寸法師は、声に応じて、
(かおにまきつけていたくろぬのを、くるくるとといて、ああ、くるしかった と、)
顔にまきつけていた黒布を、クルクルと解いて、「アア、苦しかった」と、
(かいかつなちょうしで、ひとりごとをいった。どくしゃもそうぞうされたとおり、それはおなじくあけちの)
快活な調子で、ひとり言をいった。読者も想像された通り、それは同じく明智の
(じょしゅの、こばやししょうねんであった。ああ、やっぱりきみたちでしたね。あんまりおしばいが)
助手の、小林少年であった。「アア、やっぱり君達でしたね。あんまりお芝居が
(じょうずだものだから、やねうらのひめいをきかされたときなどは、ぞっとしましたよ)
上手だものだから、屋根裏の悲鳴を聞かされた時などは、ゾッとしましたよ」
(つねかわしは、しろうとはいゆうたちをねぎらいながら、ふみよさんのてからろうせいのおめんを)
恒川氏は、素人俳優達をねぎらいながら、文代さんの手からろう製のお面を
(とって、しばらくながめていたが、や、あけちさん、きみはそのだこっこうのかぶっていた)
取って、しばらく眺めていたが、「ヤ、明智さん、君は園田黒虹のかぶっていた
(ろうめんのさいくにんをさがしあてたのですね と、ややおどろいていった。そういうかれの)
ろう面の細工人を探し当たのですね」と、やや驚いていった。そういう彼の
(あたまのなかには、ふつかまえに、あけちのあぱーとでもくげきした、しずことしげるしょうねんの)
頭の中には、二日前に、明智のアパートで目撃した、倭文子と茂少年の
(ろうにんぎょうがまぼろしのようにうかんでいた。ごすいさつのとおりです。ぼくはその)
ろう人形がまぼろしのように浮かんでいた。「御推察の通りです。僕はその
(さいくにんをさぐりあてたのです。そして、れいのにんぎょう といいかけて、あけちはなぜか)
細工人を探り当たのです。そして、例の人形」といいかけて、明智は何故か
(みたにせいねんのかおをぬすみみた。れいのにんぎょうといっしょに、これをつくらせておいたのです。)
三谷青年の顔を盗み見た。「例の人形と一緒に、これを作らせておいたのです。
(ちゃんとかたがのこっていましたからね え、あのおめんのさいしょのいらいしゃをしらべて)
ちゃんと型が残っていましたからね」「エ、あのお面の最初の依頼者を調べて
(みたかとおっしゃるのですか しらべてみました。みょうなことには、そのいらいしゃは)
見たかとおっしゃるのですか」「調べてみました。妙なことには、その依頼者は
(そのだこっこうではなかったのですよ だれでした。なまえがわかっているんですか)
園田黒虹ではなかったのですよ」「誰でした。名前が分っているんですか」
(けいぶはおもわず、せきこんだ。むろんへんめいでちゅうもんしたのでしょうから、なまえが)
警部は思わず、せき込んだ。「無論変名で注文したのでしょうから、名前が
(わかったところで、しかたがありません。にんそうふうていはききだしておきました。しかし、)
分ったところで、仕方がありません。人相風体は聞き出しておきました。併し、
(それもひじょうにあいまいなのです で、そのろうめんを、あなたのまえに、もうひとつ)
それも非常にあいまいなのです」「で、そのろう面を、あなたの前に、もう一つ
(ちゅうもんしたやつがあるのですか。つまり、おなじくちびるのないおめんがみっつせいさくされた)
注文した奴があるのですか。つまり、同じ唇のないお面が三つ製作された
(のですか つねかわしはさすがにきゅうしょをつく。ところが、ぼくのちゅうもんのほかには、)
のですか」恒川氏は流石に急所を突く。「ところが、僕の注文の外には、
(たったひとつつくったばかりなのです。ぼくもそのてんにきづいたのですから、ぜんぶの)
たった一つ作ったばかりなのです。僕もその点に気づいたのですから、全部の
(ろうざいくにんをしらべてみましたが、ほかにおなじようなおめんをつくったものはひとりも)
ろう細工人を調べて見ましたが、外に同じようなお面を作った者は一人も
(ありません すると、ぼくがしながわわんではぎとった、そのだこっこうのかぶっていた、)
ありません」「すると、僕が品川湾ではぎ取った、園田黒虹のかぶっていた、
(あのかめんが、すなわちはんにんのちゅうもんしたものだということになりますね けいぶは)
あの仮面が、即ち犯人の注文したものだということになりますね」警部は
(ふにおちぬていで、あけちのかおをみた。)
腑に落ちぬ体で、明智の顔を見た。