吸血鬼65
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問題文
(そうです。あのしょうせつかは、はんにんでなかったにもかかわらず、はんにんのかめんを)
「そうです。あの小説家は、犯人でなかったにも拘わらず、犯人の仮面を
(かぶっていたのです。そこに、しんはんにんのおそるべきぎまんがかくされているのです。)
かぶっていたのです。そこに、真犯人の恐るべき欺まんが隠されているのです。
(しかし、そのことは、あとでゆっくりおはなししましょう あけちは、そこでふみよと)
しかし、そのことは、あとでゆっくりお話ししましょう」明智は、そこで文代と
(こばやしにむきなおり、きみたちつかれたでしょう。あちらで、きものをきがえて、ゆっくり)
小林に向き直り、「君達つかれたでしょう。あちらで、着物を着換て、ゆっくり
(おやすみなさい といった。つねかわしは、そのとき、あけちのめとふみよのめとが、)
お休みなさい」といった。恒川氏は、その時、明智の目と文代の目とが、
(いみありげに、ぱちぱちとまぶたのあいずをとりかわしたようにかんじて、みょうに)
意味ありげに、パチパチとまぶたの合図を取かわしたように感じて、妙に
(おもった。ふみよとこばやししょうねんが、ゆかのあげいたをもとどおりにして、ものおきをでていくのを)
思った。文代と小林少年が、床の上げ板を元通りにして、物置を出て行くのを
(みおくりながら、あけちは、さて、おしばいのだいさんまくめですが、それは、さいぜんも)
見送りながら、明智は、「さて、お芝居の第三幕目ですが、それは、さい前も
(いったとおり、くちでおはなしすればわかることです。いどのなかのしたいのしまつは、いずれ)
いった通り、口でお話しすれば分ることです。井戸の中の死体の始末は、いずれ
(あしたのこととして、ともかく、このふゆかいなばしょをでることにしましょう)
明日のこととして、兎も角、この不愉快な場所を出ることにしましょう」
(といって、ふたりをうながして、ものおきをでた。ものおきのとをしめきって、ろうかを)
といって、二人をうながして、物置を出た。物置の戸を締切って、廊下を
(きゃくまのほうへひきかえすと、そのとちゅうに、うばのおなみをはじめ、ながねんのめしつかいたちが、)
客間の方へ引返すと、その途中に、乳母のお波を初め、長年の召使達が、
(おどおどしながら、いちどうをまちうけていた。かれらはあけちから、にかいへあがることも、)
オドオドしながら、一同を待受けていた。彼等は明智から、二階へ上ることも、
(ものおきへちかづくことも、かたくきんじられていたのだ。あけちとつねかわけいぶが、きゃくまの)
物置へ近づくことも、かたく禁じられていたのだ。明智と恒川警部が、客間の
(いすにつくと、うばのおなみは、しんぱいにやつれたかおで、ようすをききたげに、)
椅子につくと、乳母のお波は、心配にやつれた顔で、様子を聞きたげに、
(おちゃなどをはこんでくるのであった。ばあやさん、きみはこのへやにいても)
お茶などを運んで来るのであった。「ばあやさん、君はこの部屋にいても
(かまいませんよ。そのかわりほかのひとたちを、しばらくここへいれないようにして)
構いませんよ。その代りほかの人達を、しばらくここへ入れない様にして
(ください。また、むやみににかいのしょさいや、だいどころのものおきをのぞかぬように、よく)
下さい。また、無暗に二階の書斎や、台所の物置をのぞかぬ様に、よく
(いいつけておいてください あけちがいうと、おなみはろうかのいちどうにそのことを)
いいつけておいて下さい」明智がいうと、お波は廊下の一同にそのことを
(いいわたして、せかせかともどってきた。おくさまや、ぼっちゃんはたすかるで)
いい渡して、セカセカと戻って来た。「奥さまや、坊ちゃんは助かるで
(ございましょうか。・・・・・・あの、おくさまはやっぱり、ろうやへいかなければ)
ございましょうか。・・・・・・アノ、奥さまはやっぱり、牢屋へ行かなければ
(ならないのでしょうか ちゅうじつなかのじょは、なによりもそれがたしかめたいのだ。)
ならないのでしょうか」忠実な彼女は、何よりもそれが確かめたいのだ。
(いや、しんぱいしなくてもいい。あけちさんのごじんりょくで、げしにんはほかにあることが)
「イヤ、心配しなくてもいい。明智さんの御尽力で、下手人は外にあることが
(わかったのだよ つねかわしがなぐさめる。でも、おくさまは、いったいどこへかくれて)
分ったのだよ」恒川氏が慰める。「でも、奥様は、一体どこへ隠れて
(いらっしゃるのでございましょうね。もしや、とりかえしのつかないような)
いらっしゃるのでございましょうね。若しや、取返しのつかない様な
(ことが......それもだいじょうぶです。おくさんたちのゆくえはわかっている。)
ことが......」「それも大丈夫です。奥さん達の行方はわかっている。
(ふたりともけっしてじさつするようなことはありませんよ あけちがたのもしくこたえた。)
二人とも決して自殺する様なことはありませんよ」明智が頼もしく答えた。
(おなみはそれをきいて、ほっとあんどのためいきをつく。え、きみは、しずこさんたちの)
お波はそれを聞いて、ホッと安堵の溜息をつく。「エ、君は、倭文子さん達の
(ありかをしっているんですって、どうしてわかったのです。それはいったい)
ありかを知っているんですって、どうして分ったのです。それは一体
(どこなのです はつみみのつねかわしは、びっくりしないではいられなかった。とどうじに)
どこなのです」初耳の恒川氏は、びっくりしないではいられなかった。と同時に
(あけちのなにからなにまでぬけめのない、すばらしいたんていりょくが、いっそおそろしく)
明智の何から何まで抜け目のない、すばらしい探偵力が、いっそ恐ろしく
(なってきた。そうです。まもなくしずこさんたちのぶじなすがたをおみせすることが)
なって来た。「そうです。間もなく倭文子さん達の無事な姿をお見せすることが
(できるでしょう。しかし、そのまえに、おしばいのほうのけつまつをつけなければ)
出来るでしょう。しかし、その前に、お芝居の方の結末をつけなければ
(なりません あけちは、おなみのだしてくれた、こうちゃをすすりながら、またせつめいを)
なりません」明智は、お波の出してくれた、紅茶をすすりながら、また説明を
(はじめた。だいさんまくめは、さいとうろうじんごろしです。あれも、むろんしずこさんが)
始めた。「第三幕目は、斎藤老人殺しです。あれも、無論倭文子さんが
(はんにんではなく、はたやなぎしょうぞうをころした、れいのろうかめんのかいぶつのしわざです。あのてんじょうの)
犯人ではなく、畑柳庄蔵を殺した、例のろう仮面の怪物の仕業です。あの天井の
(とりっくをごぞんじのあなたには、くわしくせつめいするまでもなく、ぞくのたくみなぎまんが)
トリックを御存知のあなたには、くわしく説明するまでもなく、賊の巧な欺瞞が
(おわかりになるでしょう。......。きゃつは、ちょうどそのとき、てんじょううらにひそんで)
お分りになるでしょう。......。彼奴は、丁度その時、天井裏にひそんで
(またなんかおそろしいことをたくらんでいたのです。ひょっとしたら、かれのはんざいに)
またなんか恐ろしいことをたくらんでいたのです。ひょっとしたら、彼の犯罪に
(かいだんめいたかむふらーじゅをつけるために、そこへはいってきたかじんを、)
怪談めいたカムフラージュをつけるために、そこへ這入って来た家人を、
(れいのかおでおどしつけるためであったかもしれません。いずれにもせよ、あいつは)
例の顔でおどしつけるためであったかも知れません。いずれにもせよ、あいつは
(そのときぐうぜんてんじょうにひそんでいたのです。......そこへ、さいとうろうじんと)
その時偶然天井にひそんでいたのです。......そこへ、斎藤老人と
(しずこさんが、いいあらそいながらはいってきた。きいていると、あらそいははげしくなる)
倭文子さんが、いい争いながら入って来た。聞いていると、争いは烈しくなる
(ばかりです。そこで、かれはじつにきばつなさつじんをかんがえついた。れいのたんけんを、てんじょうから)
ばかりです。そこで、彼は実に奇抜な殺人を考えついた。例の短剣を、天井から
(なげつけて、さいとうろうじんをころし、そのつみをしずこさんにてんかしようとたくらんだ。)
投げつけて、斎藤老人を殺し、その罪を倭文子さんに転嫁しようとたくらんだ。
(そして、それがまんまとせいこうしたのです。......しずこさんは、こうろんに)
そして、それがまんまと成功したのです。......倭文子さんは、口論に
(ぎゃくじょうしていた。ろうじんをころしかねまじいほど、こうふんしきっていた。ちょうどその)
逆上していた。老人を殺しかねまじい程、昴奮し切っていた。丁度その
(しずこさんのこころもちを、かたちであらわすがごとく、ろうじんのむねにたんけんがつきささった)
倭文子さんの心持を、形で現わすが如く、老人の胸に短剣が突きささった
(のです。へやにはだれもいない。たんけんのとんでくるようなすきまもみあたらぬ。こういう)
のです。部屋には誰もいない。短剣の飛んで来る様な隙間も見当らぬ。こういう
(きみょうなじょうたいにおかれたしずこさんが、じぶんがげしにんだ、むいしきのうちに、あいてを)
奇妙な状態におかれた倭文子さんが、自分が下手人だ、無意識の内に、相手を
(さしころしてしまったのだと、われとわがみをうたがったのは、むりもない)
刺し殺してしまったのだと、我と我が身を疑ったのは、無理もない
(ことです。......そこへけんじやよしんはんじがやってきて、まるでさいばんしょの)
ことです。......そこへ検事や予審判事がやって来て、まるで裁判所の
(ような、おそろしいくうきがただよいはじめる。もしちょっとでも、そそのかすものがあったら)
様な、恐ろしい空気が漂い始める。若しちょっとでも、そそのかす者があったら
(きのよわいおんなが、いえでをするきになるのは、とうぜんですよ なるほど、じつによく)
気の弱い女が、家出をする気になるのは、当然ですよ」「成程、実によく
(すじみちがたっていますね。ぼくにしたって、そのほかにかんがえようがありません つねかわしは)
筋道が立っていますね。僕にしたって、その外に考え様がありません」恒川氏は
(いちおうはかんぷくしてみせたが、しかし、そのつぎのしゅんかんには、やっぱりどこやら)
一応は感服して見せたが、しかし、その次の瞬間には、やっぱりどこやら
(ふにおちぬおももちになる。だが、どうもつじつまのあわぬてんがありますよ。)
腑に落ちぬ面持になる。「だが、どうも辻つまの合わぬ点がありますよ。
(ろうかめんのはんにんは、いったいなんのために、そんなまわりくどいことをやっているの)
ろう仮面の犯人は、一体何のために、そんな廻りくどいことをやっているの
(でしょう。きゃつのしんいはどこにあるのでしょう。はたやなぎしょうぞうをころしてほうせきを)
でしょう。彼奴の真意はどこにあるのでしょう。畑柳庄蔵を殺して宝石を
(うばったところをみると、それがもくてきであったようにもおもわれるが、それなら、なにも)
奪った所を見ると、それが目的であった様にも思われるが、それなら、何も
(さいとうろうじんまでころさなくてもよいではありませんか いや、はたやなぎをころしたのも、)
斎藤老人まで殺さなくてもよいではありませんか」「イヤ、畑柳を殺したのも、
(さいとうろうじんをころしたのもかれのしんいではありません。せんじつももうしあげたとおりあいつはまだ)
斎藤老人を殺したのも彼の真意ではありません。先日も申上げた通り彼奴はまだ
(もくてきをはたしていないのです。ほんとうにやつがころそうとたくらんでいるじんぶつは、もっとほかに)
目的を果していないのです。本当に奴が殺そうと企んでいる人物は、もっと外に
(あるのです だれです。そのじんぶつというのは つねかわしは、またしても、まっこうから)
あるのです」「誰です。その人物というのは」恒川氏は、またしても、真向から
(ひとたちあびせられたかんじて、しどろもどろにたずねる。はたやなぎしずこさんです。)
一太刀浴びせられた感じて、しどろもどろにたずねる。「畑柳倭文子さんです。
(そして、おそらくはしげしょうねんもいっしょにです あけちはずばりといった。つねかわしは、)
そして、恐らくは茂少年も一緒にです」明智はズバリといった。恒川氏は、
(ついさいぜんまで、しずこをひとごろしのたいざいにんとしてつかまえることばかり)
ついさい前まで、倭文子を人殺しの大罪人として捕まえることばかり
(かんがえていた。それが、いちじかんかそこいらのあいだにまったくてんとうして、しずこはむざいと)
考えていた。それが、一時間かそこいらの間に全く転倒して、倭文子は無罪と
(はんめいしたうえに、かのじょじしんが、おそろしいさつじんきのえじきとねらわれていたのだとは。)
判明した上に、彼女自身が、恐ろしい殺人鬼の餌食とねらわれていたのだとは。
(ああ、なんということだ。)
アア、何ということだ。