怪人二十面相67 江戸川乱歩

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少年探偵団シリーズ1作目

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問題文

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(「わかりません。わしにはまほうつかいのことはわかりません。ただいっこくもはやく4じが)

「分かりません。儂には魔法使いの事は分かりません。ただ一刻も早く四時が

(すぎさってくれればよいとおもうばかりです」 ろうはかせは、おこったような)

過ぎ去ってくれればよいと思うばかりです」  老博士は、怒ったような

(くちょうでいいました。あまりのことに、にじゅうめんそうのはなしをするのもはらだたしい)

口調で言いました。あまりのことに、二十面相の話をするのも腹だたしい

(のでしょう。 しつないの3にんは、それきりだまりこんで、ただかべのとけいとにらめっこ)

のでしょう。  室内の三人は、それきり黙り込んで、ただ壁の時計と睨めっこ

(するばかりでした。 きんもーるいかめしいせいふくにつつまれた、すもうとりのように)

するばかりでした。  金モール厳めしい制服に包まれた、相撲取りのように

(りっぱなたいかくのけいしそうかん、ちゅうにくちゅうぜいで、はちじひげのうつくしいけいじぶちょう、)

りっぱな体格の警視総監、中肉中背で、八字髯の美しい刑事部長、

(せびろすがたでつるのようにやせたしらがしらひげのきたこうじはかせ、その3にんがそれぞれ)

背広姿でツルのように痩せた白髪白髯の北小路博士、その三人がそれぞれ

(あんらくいすにこしかけて、ちらちらととけいのはりをながめているようすは、ものものしいと)

安楽イスに腰掛けて、チラチラと時計の針を眺めている様子は、物々しいと

(いうよりは、なにかしらきみょうな、ばしょにそぐわぬこうけいでした。そうして10すうふんが)

言うよりは、何かしら奇妙な、場所にそぐわぬ光景でした。そうして十数分が

(けいかしたとき、ちんもくにたえかねたけいじぶちょうがとつぜんくちをきりました。)

経過した時、沈黙に堪えかねた刑事部長が突然口を切りました。

(「ああ、あけちくんは、いったいどうしているんでしょうね。わたしは、あのおとことは)

「ああ、明智君は、いったいどうしているんでしょうね。私は、あの男とは

(こんいにしていたんですが、どうもふしぎですよ。いままでのけいけんからかんがえても、)

懇意にしていたんですが、どうも不思議ですよ。今までの経験から考えても、

(こんなしっさくをやるおとこではないのですがね」 そのことばに、そうかんはふとったからだを)

こんな失策をやる男ではないのですがね」  その言葉に、総監は太った身体を

(ねじまげるようにして、ぶかのかおをみました。 「きみたちは、あけちあけちと、まるで)

捻じ曲げるようにして、部下の顔を見ました。 「君達は、明智明智と、まるで

(あのおとこをすうはいでもしているようなことをいうが、ぼくはふさんせいだね。いくらえらいと)

あの男を崇拝でもしているような事を言うが、僕は不賛成だね。幾ら偉いと

(いってもたかがいちみんかんたんていじゃないか。どれほどのことができるものか。ひとりのちからで)

言ってもたかが一民間探偵じゃないか。どれ程の事が出来るものか。一人の力で

(にじゅうめんそうをとらえてみせるなどといっていたそうだが、こうげんがすぎるよ。)

二十面相を捕らえてみせるなどと言っていたそうだが、広言がすぎるよ。

(こんどのしっぱいは、あのおとこにはよいくすりじゃろう」 「ですが、あけちくんのこれまでの)

今度の失敗は、あの男には良い薬じゃろう」 「ですが、明智君のこれまでの

(こうせきをかんがえますと、いちがいにそうもいいきれないのです。いまもそとでなかむらくんとはなした)

功績を考えますと、一概にそうも言い切れないのです。今も外で中村君と話した

(ことですが、こんなさい、あのおとこがいてくれたらとおもいますよ」 けいじぶちょうのことばが)

事ですが、こんな際、あの男がいてくれたらと思いますよ」 刑事部長の言葉が

など

(おわるかおわらぬときでした。かんちょうしつのどあがしずかにひらかれて、ひとりのじんぶつが)

終わるか終わらぬときでした。館長室のドアが静かに開かれて、一人の人物が

(あらわれました。 「あけちはここにおります」)

現れました。 「明智はここにおります」

(そのじんぶつがにこにこわらいながら、よくとおるこえでいったのです。)

その人物がにこにこ笑いながら、よく通る声で言ったのです。

(「おお、あけちくん!」 けいじぶちょうがいすからとびあがってさけびました。)

「おお、明智君!」  刑事部長がイスから飛び上がって叫びました。

(それは、かっこうのよいくろのせびろをぴったりとみにつけ、あたまのけをもじゃもじゃに)

それは、格好の良い黒の背広をピッタリと身に付け、頭の毛をモジャモジャに

(した、いつにかわらぬあけちこごろうそのひとでした 「あけちくん、きみはどうして・・・・・・」)

した、いつに変わらぬ明智小五郎その人でした 「明智君、君はどうして……」

(「それはあとでおはなしします。いまは、もっとたいせつなことがあるのです」 「むろん、)

「それは後でお話します。今は、もっと大切な事があるのです」 「無論、

(びじゅつひんのとうなんはふせがなくてはならんが」 「いや、それはもうおそいのです。)

美術品の盗難は防がなくてはならんが」 「いや、それはもう遅いのです。

(ごらんなさい。やくそくのじかんはすぎました」 あけちのことばに、かんちょうも、そうかんも、)

ご覧なさい。約束の時間は過ぎました」  明智の言葉に、館長も、総監も、

(けいじぶちょうもいっせいにかべのでんきどけいをみあげました。いかにも、ちょうしんはもう)

刑事部長も一斉に壁の電気時計を見上げました。いかにも、長針はもう

(12じのところをすぎているのです。 「おやおや、するとにじゅうめんそうはうそを)

十二時のところを過ぎているのです。 「おやおや、すると二十面相は嘘を

(ついたわけかな。かんないには、べつにいじょうもないようだが・・・・・・」 「ああ、そうです。)

吐いた訳かな。館内には、別に異状もないようだが……」 「ああ、そうです。

(やくそくの4じはすぎたのです。あいつ、やっぱりてだしができなかったのです」)

約束の四時は過ぎたのです。あいつ、やっぱり手出しができなかったのです」

(けいじぶちょうががいかをあげるようにさけびました 「いや、ぞくはやくそくをまもりました。)

刑事部長が凱歌をあげるように叫びました 「いや、賊は約束を守りました。

(このはくぶつかんは、もうからっぽもどうようです」 あけちが、おもおもしいくちょうでいいました。)

この博物館は、もう空っぽも同様です」 明智が、重々しい口調で言いました。

(めいたんていのろうぜき 「え、え、きみはなにをいっているんだ。なにもぬすまれてなんか)

【名探偵の狼藉】 「え、え、君は何を言っているんだ。何も盗まれてなんか

(いやしないじゃないか。ぼくは、ついいましがた、このめでちんれつしつをずっと)

いやしないじゃないか。僕は、つい今し方、この目で陳列室をずっと

(みまわってきたばかりなんだぜ。それに、はくぶつかんのまわりには、50にんのけいかんが)

見回って来たばかりなんだぜ。それに、博物館の周りには、五十人の警官が

(はいちしてあるんだ。ぼくのところのけいかんたちはめくらじゃないんだからね」)

配置してあるんだ。僕のところの警官たちはめくらじゃないんだからね」

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