吸血鬼69

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明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。

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問題文

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(さいぜんのおしばいもそれだ。あれはつねかわさんにみせるよりもむしろきみのかおいろなり)

「さい前のお芝居もそれだ。あれは恒川さんに見せるよりもむしろ君の顔色なり

(きょどうなりにあらわれる、はんのうをためすのが、ぼくのもくてきだった。そして、それは)

挙動なりに現われる、反応をためすのが、僕の目的だった。そして、それは

(みごとにせいこうした。きみはおしばいをみていて、あぶらあせをながし、ぶるぶる)

見事に成功した。君はお芝居を見ていて、あぶら汗を流し、ブルブル

(ふるえだしたではないか。・・・・・・では、なぜきみをためすきになったか。きみを)

ふるえ出したではないか。……では、なぜ君を試す気になったか。君を

(うたがいはじめたりゆうはなんであったか。それはね、きみのとりっくが、あんまり)

疑い始めた理由は何であったか。それはね、君のトリックが、あんまり

(だいたんすぎたからだよ。つねかわさんたちが、くちびるのないおとこをおいつめて、あおやまの)

大胆すぎたからだよ。恒川さんたちが、唇のない男を追いつめて、青山の

(かいやふきんのろみちで、みうしなってしまった。かいじんぶつはとつぜんけむりのようにきえうせて)

怪屋附近の露路で、見失ってしまった。怪人物は突然煙の様に消えうせて

(しまった。だが、じつはきえうせたのではない。きみはちゃんとそこにいたのだ。)

しまった。だが、実は消えうせたのではない。君はちゃんとそこにいたのだ。

(とっさのあいだにまんととおめんとぼうしとぎしゅぎそくとをとりさり、それをへいのうちがわの)

とっさの間にマントとお面と帽子と義手義足とを取去り、それを塀の内側の

(しげみのなかへなげこんでおいて、すがおのみたににかえって、だいたんにも、ぶらぶらと)

茂みの中へ投げ込んでおいて、素顔の三谷に返って、大胆にも、ブラブラと

(さんぽしているていをよそおい、つねかわさんたちにちかづいていったのだ。・・・・・・きみはこの)

散歩している体をよそおい、恒川さん達に近づいて行ったのだ。……君はこの

(おなじてをたびたびもちいている。きみがさいしょぼくをたずねてきたとき、どあのすきまからきょうはくじょうが)

同じ手を度々用いている。君が最初僕を訪ねて来た時、ドアの隙間から脅迫状が

(なげこんであった。あれは、なげこんだのではなく、きみじしんがわざわざそこへ)

投げ込んであった。あれは、投げ込んだのではなく、君自身がわざわざそこへ

(おとして、ひろいあげてみせたのだ。・・・・・・また、よよぎのあとりえで、がらすまどを)

落として、拾い上げて見せたのだ。……また、代々木のアトリエで、ガラス窓を

(くだいたいしつぶても、やっぱり、きみがまずきょうはくじょうをおとしておいて、ぎゃくにうちがわから)

砕いた石つぶても、やっぱり、君が先ず脅迫状を落としておいて、逆に内側から

(がらすをわってみせたのだ。あのとき、ぼくがいっしょうけんめいそとをさがしているのをみて、)

ガラスを破って見せたのだ。あの時、僕が一生懸命外を探しているのを見て、

(きみはさぞおかしくおもったことだろうね。・・・・・・しながわわんのふうせんおとこのばあいも)

君はさぞおかしく思ったことだろうね。……品川湾の風船男の場合も

(おなじことだ。ふみよさんにきくと、あのふうせんおとこは、くちびるのない、いつものやつとは)

同じことだ。文代さんに聞くと、あの風船男は、唇のない、いつもの奴とは

(ちがっていた。きみのすがおでもなかった。あれはきみのじょしゅのもうそうしじんそのだこっこうの、)

違っていた。君の素顔でもなかった。あれは君の助手の妄想詩人園田黒虹の、

(とんだばんくるわせのきちがいざたにすぎなかったのだ。きみはただふみよさんを)

飛んだ番狂わせの気違い沙汰に過ぎなかったのだ。君はただ文代さんを

など

(ゆうかいさせるのがもくてきで、なにもこくぎかんのやねへのぼったり、ふうせんでにげたりする)

誘拐させるのが目的で、何も国技館の屋根へ昇ったり、風船で逃げたりする

(はなれわざをめいじたわけではなかった。こいつはこまったことになったとおもったに)

放れ業を命じた訳ではなかった。こいつは困ったことになったと思ったに

(ちがいない。そこで、ふうせんがうみにおちると、きみはまっさきにげんばへもーたーぼーとを)

違いない。そこで、風船が海に落ると、君は真っ先に現場へモーターボートを

(とばした。そしてけいさつのらんちがちかづかぬうちに、ふねのなかでじょしゅのそのだをしめころし)

飛ばした。そして警察のランチが近づかぬ内に、舟の中で助手の園田を絞め殺し

(れいのかめんをかぶせておいて、いきなりがそりんをばくはつさせ、きみじしんはすばやく)

例の仮面をかぶせておいて、いきなりガソリンを爆発させ、君自身は素早く

(うみのなかへとびこんで、めいをまっとうしたのだ。・・・・・・たにやまさぶろうくん!どうだね。)

海の中へ飛び込んで、命を全うしたのだ。……谷山三郎君!どうだね。

(ぼくのいったことがまちがっているかね あけちは、いがいななまえで、みたにに)

僕のいったことが間違っているかね」明智は、意外な名前で、三谷に

(よびかけた。みたにのかおには、いよいよふかいおどろきのいろがうかぶ。ははははは、)

呼びかけた。三谷の顔には、いよいよ深い驚きの色が浮かぶ。「ハハハハハ、

(ぼくがきみのほんみょうをしっていたからといって、そんなにびっくりしないでもいい。)

僕が君の本名を知っていたからといって、そんなにびっくりしないでもいい。

(どうしてしったというのかね。これだ。みたまえ。ここにきみのしょうねんじだいのしゃしんが)

どうして知ったというのかね。これだ。見給え。ここに君の少年時代の写真が

(ある あけちは、ぽけっとのてちょうにはさんでおいた、いちまいのてふだがたのしゃしんを)

ある」明智は、ポケットの手帳にはさんでおいた、一枚の手札型の写真を

(とりだして、みたににしめした。ほら、きみたちきょうだいがなかよくならんでうつっている。みぎのが)

取出して、三谷に示した。「ホラ、君達兄弟が仲よく並んで写っている。右のが

(にいさんのたにやまじろうくんだ。ひだりがきみだ。ぼくはこれをきみたちのきょうりのしんしゅうsまちの)

兄さんの谷山二郎君だ。左が君だ。僕はこれを君達の郷里の信州S町の

(しゃしんやからさがしだしてきたんだよ すると、あなたは・・・・・・みたにのたにやまは、)

写真屋から探し出して来たんだよ」「すると、あなたは……」三谷の谷山は、

(ぎょっとしたように、しろうとたんていのかおをみつめた。そうだよ。ぼくはしずこさんに)

ギョッとしたように、素人探偵の顔を見つめた。「そうだよ。僕は倭文子さんに

(みのうえばなしをきいたのだ。このじけんは、しずこさんをちゅうしんとしてはってんしている。)

身の上話を聞いたのだ。この事件は、倭文子さんを中心として発展している。

(ちょっとかんがえたのでは、そんなふうにみえぬけれど、そのじつはんにんのめざすところは、)

ちょっと考えたのでは、そんな風に見えぬけれど、その実犯人の目ざす所は、

(さいしょからしずこさんひとりなのだ。ぼくはそこへきがついたものだから、あのひとの)

最初から倭文子さん一人なのだ。僕はそこへ気がついたものだから、あの人の

(かこのせいかつをけんきゅうしてみることにした。そして、さがしあてたのが、しずこさんに)

過去の生活を研究して見ることにした。そして、探しあてたのが、倭文子さんに

(こいこがれて、じさつをした、きみのにいさんのたにやまじろうくんだ。じろうくんのこいがどんなに)

恋こがれて、自殺をした、君の兄さんの谷山二郎君だ。二郎君の恋がどんなに

(ねつれつであったか、したがってそのしつれんがいかにさんたんたるものであったかと)

熱烈であったか、したがってその失恋が如何に惨澹たるものであったかと

(いうことをしるにおよんで、ぼくはさとるところがあった。しずこさんのしょうがいに、)

いうことを知るに及んで、僕は悟るところがあった。倭文子さんの生涯に、

(たにんのうらみをうけたことがあるとすれば、このたにやまじろうくんのほかにはない。)

他人の恨みを受けたことがあるとすれば、この谷山二郎君の外にはない。

(しずこさんは、いちどはどうせいまでしたじろうくんに、かなりざんこくなしうちをした。)

倭文子さんは、一度は同棲までした二郎君に、可成残酷なしうちをした。

(あのひとは、いまになってそれをひどくこうかいしているほどだ。・・・・・・ちょっとでも)

あの人は、今になってそれをひどく後悔している程だ。……ちょっとでも

(うたがわしいじんぶつは、ひとりももらさずけんきゅうちょうさしてみるのが、ぼくのやりかただ。ぼくは)

疑わしい人物は、一人も漏らさず研究調査して見るのが、僕のやり方だ。僕は

(しんしゅうへひとをやって、じろうくんのかていをしらべさせ、このしゃしんまでてにいれた。)

信州へ人をやって、二郎君の家庭を調べさせ、この写真まで手に入れた。

(じろうくんのいっかはみなしにたえて、のこっているのは、しょうねんじだいにあくじをはたらいて)

二郎君の一家は皆死に絶えて、残っているのは、少年時代に悪事を働いて

(いえでをしたおとうとのさぶろうだけだということがわかった。ぼくはそのさぶろうのしゃしんがおを)

家出をした弟の三郎だけだということが分った。僕はその三郎の写真顔を

(ひとめみると、あらゆるひみつがわかったようなきがした。ねんれいこそちがえ、さぶろうの)

一目見ると、あらゆる秘密が分った様な気がした。年齢こそ違え、三郎の

(しゃしんがおは、みたにくん、きみとまったくおなじだったからだ・・・・・・みたにのたにやまは、ふかくふかく)

写真顔は、三谷君、君と全く同じだったからだ……」三谷の谷山は、深く深く

(うなだれて、ものをいうちからもなかった。けいぶがはがいじめにしていたてをはなすと、)

うなだれて、物をいう力もなかった。警部がはがい締にしていた手を離すと、

(へなへなとゆかのうえへ、へたばってしまった。あけちのすいりがおそろしいほどずぼしを)

ヘナヘナと床の上へ、へたばってしまった。明智の推理が恐ろしい程図星を

(さしていたからだ。ああ、きみは、おかしたつみのかずかずをみとめたのだね。こうべんする)

さしていたからだ。「アア、君は、犯した罪の数々を認めたのだね。抗弁する

(よちがないのだね。では、はくじょうしたまえ、しずこさんとしげしょうねんをどこへ)

余地がないのだね。では、白状し給え、倭文子さんと茂少年をどこへ

(かくしたのだ。あのひとたちはいまどこにいるのだ つねかわしが、はんにんのうえに)

隠したのだ。あの人達は今どこにいるのだ」恒川氏が、犯人の上に

(しゃがみこんで、せいきゅうにといつめた。ここです。このこうじょうのなかにいるのです)

しゃがみ込んで、性急に問いつめた。「ここです。この工場の中にいるのです」

(たにやまは、やっとしてから、やけくそなちょうしでいいはなった。さては、まだ)

谷山は、やっとしてから、やけくそな調子でいい放った。「さては、まだ

(どこかのへやにかんきんしてあるのだね。さあ、あんないしたまえ けいぶは、たにやまのみぎてを)

どこかの部屋に監禁してあるのだね。サア、案内し給え」警部は、谷山の右手を

(つかんで、ひったてるようにした。かれはもうかんねんしたようすで、ふらふらとたちあがると)

つかんで、引立てるようにした。彼はもう観念した様子で、フラフラと立上ると

(いわれるままに、さきにたって、じむしつをでた。つねかわ、あけちのりょうにんが、はんにんの)

いわれるままに、先に立って、事務室を出た。恒川、明智の両人が、犯人の

(とうぼうをようじんしながら、そのあとにしたがったのはいうまでもない。たにやまはうなだれて)

逃亡を用心しながら、そのあとに従ったのはいうまでもない。谷山はうなだれて

(まっくらなほそいろうかを、とぼとぼとあるいていった。ろうかのつきあたりはきかいしつだ。)

真暗な細い廊下を、トボトボと歩いて行った。廊下のつき当りは機械室だ。

(しずことしげるしょうねんは、はたしてぶじであろうか。あけちはそれをうけあっているけれど、)

倭文子と茂少年は、果して無事であろうか。明智はそれを請合っているけれど、

(せいひょうがいしゃのきかいしつとは、あまりにいようなかくればしょではないか。ふくしゅうきたにやまさぶろうは)

製氷会社の機械室とは、あまりに異様な隠れ場所ではないか。復讐鬼谷山三郎は

(すでにかれらをおそろしいめにあわせてしまったあとのまつりではないのかしら。)

已に彼等を恐ろしい目に合わせてしまったあとの祭りではないのかしら。

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