黒蜥蜴11

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プレイ回数1604難易度(4.2) 5229打 長文 かな 長文モード可
明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 デコポン 6576 S+ 6.8 96.6% 758.2 5167 181 79 2024/03/22

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問題文

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(それから、つぎのまのしんしつにはいり、かべのあかるいでんとうをけして、ちいさな)

それから、次の間の寝室にはいり、壁の明かるい電燈を消して、小さな

(すたんどだけにしたうえで、ぼーいしつへのべるをおした。まもなくのっくのおとが)

スタンドだけにしたうえで、ボーイ室へのベルを押した。間もなくノックの音が

(して、ひとりのぼーいがいまのほうへはいってきた。およびでございましたか)

して、一人のボーイが居間の方へはいってきた。「お呼びでございましたか」

(ええ、あの、したのひろまにおとうさまがいらっしゃるからね。もうおやすみに)

「ええ、あの、下の広間にお父さまがいらっしゃるからね。もうおやすみに

(なりませんかって、よんでくださいませんか ふじんは、しんしつのどあをほそめに)

なりませんかって、呼んでくださいませんか」夫人は、寝室のドアを細めに

(あけて、かおはかげに、きものだけがいまのでんとうにてらされるようなしせいで、たくみに)

あけて、顔は影に、着物だけが居間の電燈に照らされるような姿勢で、たくみに

(さなえさんのこえをまねてたのんだ。ぼーいがこころえてたちさると、やがて、)

早苗さんの声をまねて頼んだ。ボーイが心得て立ち去ると、やがて、

(あわただしいあしおとがして、いわせしがはいってきて、おまえひとりだったのかい。)

あわただしい足音がして、岩瀬氏がはいってきて、「お前一人だったのかい。

(みどりかわさんといっしょじゃなかったのかい としかるようにいった。ふじんはやっぱり)

緑川さんと一しょじゃなかったのかい」と叱るようにいった。夫人はやっぱり

(くらいしんしつからきものだけをみせるようにして、いっそうたくみにさなえさんのくちょうを)

暗い寝室から着物だけを見せるようにして、一そうたくみに早苗さんの口調を

(まねて、ちいさいこえでこたえた。ええ、あたしきぶんがわるくなったものですから、)

まねて、小さい声で答えた。「ええ、あたし気分がわるくなったものですから、

(さっきかいだんのところで、あのかたとおわかれしてひとりでかえってきましたの。)

さっき階段のところで、あの方とお別れして一人で帰ってきましたの。

(あたしもうやすみますわ。おとうさまもおやすみにならない こまるねえおまえは、)

あたしもうやすみますわ。お父さまもおやすみにならない」「困るねえお前は、

(ひとりぼっちになっちゃいけないって、あれほどいいきかしてあるじゃないか。)

一人ぼっちになっちゃいけないって、あれほど言いきかしてあるじゃないか。

(もしものことがあったらどうするんだ ちちはしんしつのこえをむすめとしんじきって、いまの)

もしものことがあったらどうするんだ」父は寝室の声を娘と信じきって、居間の

(あんらくいすにかけたまま、こごとをいっている。ええ、ですから、あたし、)

安楽椅子にかけたまま、小言をいっている。「ええ、ですから、あたし、

(おとうさまをおよびしたんだわ しんしつから、あどけないこえがこたえる。そこへ、)

お父さまをお呼びしたんだわ」寝室から、あどけない声が答える。そこへ、

(あけちたんていが、いわせしのあとをおってはいってきた。おじょうさんは)

明智探偵が、岩瀬氏のあとを追ってはいってきた。「お嬢さんは

(おやすみですか ええ、いまきがえをしているようです。なんだかきぶんが)

おやすみですか」「ええ、今着がえをしているようです。なんだか気分が

(わるいといいましてね じゃあぼくもへやへひきとりましょう。では あけちが)

わるいと言いましてね」「じゃあ僕も部屋へ引き取りましょう。では」明智が

など

(りんしつへたちさると、いわせしはどあにかぎをかけておいて、しばらくてがみをかいて)

隣室へ立ち去ると、岩瀬氏はドアに鍵をかけておいて、しばらく手紙を書いて

(いたが、やがていつものとおりひきだしのかるもちんをとりだし、たくじょうのみずがめのみずで)

いたが、やがていつもの通り引出しのカルモチンを取り出し、卓上の水瓶の水で

(それをのんで、しんしつへはいってきた。さなえ、どうだい、きぶんは)

それをのんで、寝室へはいってきた。「早苗、どうだい、気分は」

(そういいながら、かれはすみのべっどのほうへまわってきそうにするので、さなえに)

そう言いながら、彼は隅のベッドの方へ廻って来そうにするので、早苗に

(なりすましたふじんは、もうふをあごまでかぶって、かおをでんとうのかげにそむけて、)

なりすました夫人は、毛布を顎までかぶって、顔を電燈の蔭にそむけて、

(うしろむきのまま、さもふきげんらしくこたえた。ええ、いいのよ。)

うしろ向きのまま、さも不機嫌らしく答えた。「ええ、いいのよ。

(もういいのよ。あたしねむいんですから ははははは、おまえ、なんだか)

もういいのよ。あたしねむいんですから」「ハハハハハ、お前、なんだか

(きょうはへんだね。おこっているのかね だが、いわせしは、ふかくもうたがわず、)

きょうはへんだね。おこっているのかね」だが、岩瀬氏は、深くも疑わず、

(ふきげんなむすめにはさからわぬようにして、こごえでうたなどうなりながら、ねまきに)

不機嫌な娘には逆らわぬようにして、小声で謡などうなりながら、寝間着に

(きがえると、べっどについた。ふじんがすりかえておいた、つよいすいみんざいのききめは)

着がえると、ベッドについた。夫人がすりかえておいた、強い睡眠剤の効き目は

(てきめんであった。かれはまくらについたかとおもうと、おそいかかるすいまに、なにを)

てきめんであった。彼は枕についたかと思うと、おそいかかる睡魔に、何を

(かんがえるひまもなく、たちまちぐっすりとねいってしまった。それからいちじかんあまり)

考える暇もなく、たちまちグッスリと寝入ってしまった。それから一時間あまり

(たったごごじゅうじごろ、じしつでどくしょをしていたあけちこごろうは、りんしつのどあとおぼしき)

たった午後十時頃、自室で読書をしていた明智小五郎は、隣室のドアとおぼしき

(あたりにきこえる、あわただしいのっくのおとにおどろかされて、ろうかにでて)

あたりに聞こえる、あわただしいノックの音におどろかされて、廊下に出て

(みると、ぼーいがいっつうのでんぽうをてにして、しきりといわせしをよびおこしていた。)

見ると、ボーイが一通の電報を手にして、しきりと岩瀬氏を呼び起こしていた。

(そんなによんでもへんじがないのはへんだね あけちはふとふあんをかんじて、)

「そんなに呼んでも返事がないのはへんだね」明智はふと不安を感じて、

(ぼーいといっしょに、たしつのめいわくもかまわず、はげしくどあをたたいた。)

ボーイと一しょに、他室の迷惑もかまわず、はげしくドアをたたいた。

(たたきつづけていると、つよいすいみんざいのねむりも、さすがにさまたげられたのか、)

たたきつづけていると、強い睡眠剤の眠りも、さすがに妨げられたのか、

(へやのなかから、かすかにいわせしのねぼけごえがきこえた。なんだ、なんだ、)

部屋の中から、かすかに岩瀬氏の寝ぼけ声が聞こえた。「なんだ、なんだ、

(そうぞうしい ちょっとあけてください。でんぽうがきたんです あけちがさけぶと、)

そうぞうしい」「ちょっとあけてください。電報がきたんです」明智が叫ぶと、

(やっとかちかちとかぎのおとがして、どあがひらかれた。ねまきすがたのいわせしは、)

やっとカチカチと鍵の音がして、ドアがひらかれた。寝間着姿の岩瀬氏は、

(さもねむくてたまらないというように、めをこすりながら、でんぽうをひらいて、)

さもねむくてたまらないというように、眼をこすりながら、電報をひらいて、

(ぼんやりとながめていたが、ちくしょう、また、いたずらだ。こんなもので、ひとの)

ぼんやりと眺めていたが、「畜生、また、いたずらだ。こんなもので、人の

(ねいりばなをおこすなんて としたうちをして、それをあけちにわたした。)

寝入りばなを起こすなんて」と舌打ちをして、それを明智に渡した。

(こんやじゅうにじをちゅういせよ ぶんめんはかんたんだけれど、そのいみはめいりょうで)

「コンヤジュウニジヲチュウイセヨ」文面は簡単だけれど、その意味は明瞭で

(あった。こんやじゅうにじにさなえさんのゆうかいがおこなわれるぞ というれいの)

あった。「今夜十二時に早苗さんの誘拐が行なわれるぞ」という例の

(おどしもんくなのだ。おじょうさんべつじょうありませんか あけちはちょっとしんけんなちょうしに)

おどし文句なのだ。「お嬢さん別状ありませんか」明智はちょっと真剣な調子に

(なってたずねた。だいじょうぶ、だいじょうぶ、さなえはちゃんとわしのとなりにねています)

なってたずねた。「大丈夫、大丈夫、早苗はちゃんとわしの隣に寝ています」

(いわせしはよろよろとしんしつのどあにちかづいて、そこからすみのべっどをみながら、)

岩瀬氏はヨロヨロと寝室のドアに近づいて、そこから隅のベッドを見ながら、

(あんしんしたようにいった。あけちもそのうしろから、そっとのぞいてみたが、)

安心したように言った。明智もそのうしろから、ソッとのぞいて見たが、

(さなえさんはむこうをむいて、すやすやとねむっていた。さなえはこのごろ、わしと)

早苗さんは向こうをむいて、スヤスヤと眠っていた。「早苗はこのごろ、わしと

(おなじようにまいばんかるもちんをのむので、よくねいってます。それに、こんやは)

同じように毎晩カルモチンを呑むので、よく寝入ってます。それに、今夜は

(きぶんがすぐれぬといっていましたから、かわいそうです、おこさないで)

気分がすぐれぬといっていましたから、かわいそうです、起こさないで

(おきましょう まどはしめてありますか それもだいじょうぶ、ひるまから、すっかり)

おきましょう」「窓はしめてありますか」「それも大丈夫、昼間から、すっかり

(かけがねがかけてあります いわせしはそういうと、もうべっどのうえにはいあがって)

掛け金がかけてあります」岩瀬氏はそういうと、もうベッドの上に這いあがって

(いた。あけちさん、きょうしゅくだが、いりぐちをしめて、かぎはあんたがあずかっておいて)

いた。「明智さん、恐縮だが、入り口をしめて、鍵はあんたが預かっておいて

(くださらんか かれはもう、ねむいのがいっぱいで、かぎをかけるのもめんどうなのだ。)

くださらんか」彼はもう、眠いのが一ぱいで、鍵をかけるのも面倒なのだ。

(いや、それよりも、ぼくはしばらくこのへやにいましょう。しんしつのどあは)

「いや、それよりも、僕はしばらくこの部屋にいましょう。寝室のドアは

(あけたままにしておいてください。そうすれば、あなたがおやすみになっても、)

あけたままにしておいてください。そうすれば、あなたがおやすみになっても、

(まどのがわはここからみえますから、もしだれかまどをやぶってしんにゅうしてきても、)

窓のがわはここから見えますから、もしだれか窓を破って侵入してきても、

(すぐにわかります。まどさえちゅういしていれば、ほかにでいりぐちはないのですから)

すぐにわかります。窓さえ注意していれば、ほかに出入り口はないのですから」

(あけちはいちどひきうけたじけんには、あくまでちゅうじつであった。かれはそのまま)

明智は一度引き受けた事件には、あくまで忠実であった。彼はそのまま

(いまのほうのいすにこしをおろして、たばこにひをつけて、じっとしんしつを)

居間の方の椅子に腰をおろして、煙草に火をつけて、じっと寝室を

(かんししていた。さんじゅっぷんほどけいかしたが、なにごともおこらない。ときどきたって)

監視していた。三十分ほど経過したが、何事も起こらない。ときどき立って

(いってしんしつをのぞいてみたが、さなえさんはおなじしせいでねむりつづけている。)

行って寝室をのぞいて見たが、早苗さんは同じ姿勢でねむりつづけている。

(いわせしもたかいびきだ。あら、まだおきていらっしゃいましたの。ぼーいが、)

岩瀬氏も高いびきだ。「あら、まだ起きていらっしゃいましたの。ボーイが、

(さっきみょうなでんぽうがきたといっていましたので、きがかりになって、あがって)

さっき妙な電報がきたといっていましたので、気がかりになって、あがって

(きたのですけど こえにおどろいてふりむくと、なかばひらいたままになっていた)

きたのですけど」声におどろいて振り向くと、半ばひらいたままになっていた

(どあのそとに、みどりかわふじんがたっていた。ああ、おくさんですか。でんぽうがきたには)

ドアのそとに、緑川夫人が立っていた。「ああ、奥さんですか。電報がきたには

(きたんですが、こうしていればだいじょうぶですよ。ぼくはばかばかしいみはりやくです)

きたんですが、こうしていれば大丈夫ですよ。僕はばかばかしい見張り役です」

(では、やっぱりこのほてるへまで、おどかしのでんぽうがきたんですか くろこの)

「では、やっぱりこのホテルへまで、おどかしの電報がきたんですか」黒衣の

(ふじんはいいながら、どあをひらいてへやのなかへはいってきた。どくしゃしょくんは)

婦人は言いながら、ドアをひらいて部屋の中へはいってきた。読者諸君は

(もしかしたら、さくしゃはとんでもないまちがいをかいている。みどりかわふじんはさなえに)

もしかしたら、「作者はとんでもない間違いを書いている。緑川夫人は早苗に

(ばけて、いわせしのとなりのべっどにねているではないか、そのおなじみどりかわふじんが、)

化けて、岩瀬氏の隣のベッドに寝ているではないか、その同じ緑川夫人が、

(ろうかからはいってくるなんて、まったくつじつまのあわぬはなしだ とこうぎを)

廊下からはいってくるなんて、まったくつじつまの合わぬ話だ」と抗議を

(もちだされるかもしれぬ。だがさくしゃはけっしてまちがってはいない。りょうほうとも)

持ち出されるかもしれぬ。だが作者は決して間違ってはいない。両方とも

(ほんとうなのだ。そして、みどりかわふじんはこのよにたったひとりしかいないのだ。)

ほんとうなのだ。そして、緑川夫人はこの世にたった一人しかいないのだ。

(それがどういういみであるかは、ものがたりがすすむにしたがってあきらかに)

それがどういう意味であるかは、物語りが進むにしたがって明らかに

(なっていくであろう。)

なって行くであろう。

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