黒蜥蜴15
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 123 | 6265 | S | 6.4 | 97.4% | 898.5 | 5784 | 154 | 86 | 2024/09/29 |
2 | 123 | 6074 | A++ | 6.2 | 96.6% | 918.7 | 5782 | 201 | 86 | 2024/09/29 |
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問題文
(いや、おくさん、そうではないのです。ぼくがうなだれていたのは、あなたを)
「いや、奥さん、そうではないのです。僕がうなだれていたのは、あなたを
(おきのどくにおもったからです あけちはまけずにおうしゅうする。ゆうかいされたむすめのことを)
お気の毒に思ったからです」明智は負けずに応酬する。誘拐された娘のことを
(ほったらかしておいて、これはまあいったいどうしたというのだ。いわせしは)
ほったらかしておいて、これはまあ一体どうしたというのだ。岩瀬氏は
(あまりのことにぼうぜんとして、ふたりのかおをみくらべるばかりであった。まあ、)
あまりのことに茫然として、二人の顔を見くらべるばかりであった。「まあ、
(あたしがきのどくですって。どうしてですの ふじんがつめよる。さすがのにょぞくも)
あたしが気の毒ですって。どうしてですの」夫人が詰め寄る。さすがの女賊も
(めいたんていのめのそこにひそむふしぎなびしょうを、みやぶることができなかったのだ。)
名探偵の眼の底にひそむ不思議な微笑を、見破ることができなかったのだ。
(それはね......あけちはかれじしんのことばをたのしむようにゆっくりゆっくり)
「それはね......」明智は彼自身の言葉を楽しむようにゆっくりゆっくり
(くちをきいた。かけにまけたのは、ぼくではなくて、おくさん、あなただからです)
口をきいた。「賭に負けたのは、僕ではなくて、奥さん、あなただからです」
(まあ、なにをおっしゃいますの。そんなまけおしみなんか......)
「まあ、なにをおっしゃいますの。そんな負け惜しみなんか......」
(まけおしみでしょうか あけちはさもたのしそうだ。ええ、まけおしみ)
「負け惜しみでしょうか」明智はさも楽しそうだ。「ええ、負け惜しみ
(ですとも。ぞくをとらえもしないで、そんなことおっしゃったって ああ、)
ですとも。賊をとらえもしないで、そんなことおっしゃったって」「ああ、
(ではおくさんは、ぼくがぞくをにがしてしまったとでもおもっていらっしゃるのですか。)
では奥さんは、僕が賊を逃がしてしまったとでも思っていらっしゃるのですか。
(けっしてけっして。ぼくはちゃんとそのくせものをとらえたのですよ それをきくと、)
決して決して。僕はちゃんとその曲者をとらえたのですよ」それを聞くと、
(さすがのにょぞくもぎょっとしないではいられなかった。このえたいのしれぬおとこは、)
さすがの女賊もギョッとしないではいられなかった。このえたいの知れぬ男は、
(さっきまであんなにしつぼうしていたくせに、きゅうになにをいいだしたのであろう。)
さっきまであんなに失望していたくせに、急に何を言い出したのであろう。
(ほほほほほ、おもしろうございますこと。ごじょうだんがおじょうずですわね)
「ホホホホホ、おもしろうございますこと。ご冗談がお上手ですわね」
(じょうだんだとおもいますか ええ、そうとしか......では、じょうだんでない)
「冗談だと思いますか」「ええ、そうとしか......」「では、冗談でない
(しょうこをおめにかけましょうか。そうですね、たとえば......あなたの)
証拠をお眼にかけましょうか。そうですね、たとえば......あなたの
(おともだちのやまかわけんさくしが、このほてるをでてどこへいかれたのか、そのいくさきを)
お友だちの山川健作氏が、このホテルを出てどこへ行かれたのか、その行く先を
(ぼくがしっていたら、あなたはどうおもいます みどりかわふじんはそれをきくと、さっと)
僕が知っていたら、あなたはどう思います」緑川夫人はそれを聞くと、サッと
(あおざめて、おもわずよろよろとよろめいた。やまかわしがなごやまでのきっぷを)
青ざめて、思わずヨロヨロとよろめいた。「山川氏が名古屋までの切符を
(かいながら、どうしてとちゅうげしゃしたか。そして、おなじしないのmほてるへやどを)
買いながら、どうして途中下車したか。そして、同じ市内のMホテルへ宿を
(とったか。また、どうしのおおがたとらんくのなかには、いったいなにがはいっていたのか。)
取ったか。また、同氏の大型トランクの中には、一体なにがはいっていたのか。
(それをぼくがしっていたら、あなたはどうおもいます うそです。うそです)
それを僕が知っていたら、あなたはどう思います」「うそです。うそです」
(にょぞくはもうものをいうちからもないかにみえた。ただくちのなかでひていのことばをつぶやく)
女賊はもう物をいう力もないかに見えた。ただ口の中で否定の言葉をつぶやく
(ばかりだ。うそですって。ああ、あなたはさっきのでんわが、どこからかかって)
ばかりだ。「うそですって。ああ、あなたはさっきの電話が、どこからかかって
(きたかをきづかないのですね。では、せつめいしてあげましょう。ぼくの)
きたかを気づかないのですね。では、説明してあげましょう。僕の
(ぶかからです。ぼくはさいぜんあなたにばとうされながらも、ただそれだけを)
部下からです。僕はさいぜんあなたに罵倒されながらも、ただそれだけを
(まっていたのです。なぜといって、もしさなえさんがほてるからつれだされたと)
待っていたのです。なぜといって、もし早苗さんがホテルからつれ出されたと
(したら、ほてるのしほうにはいちしておいたごにんものぼくのぶかが、それをみのがす)
したら、ホテルの四方に配置しておいた五人もの僕の部下が、それを見逃す
(はずはないからです。ごにんのものに、いささかでもうたがわしいじんぶつはかたっぱしから)
はずはないからです。五人のものに、いささかでも疑わしい人物は片っぱしから
(びこうしてみよと、かたくいいつけておいたからです。ああ、あのでんわが、どんなに)
尾行して見よと、固く言いつけておいたからです。ああ、あの電話が、どんなに
(まちどおだったでしょう。だが、けっきょくしょうりはぼくのものでしたね。おくさん、あなたの)
待ち遠だったでしょう。だが、結局勝利は僕のものでしたね。奥さん、あなたの
(しっさくは、ぼくがひとりぼっちだとはやがてんをなすったことですよ。ぼくにはぶかなんか)
失策は、僕が一人ぼっちだと早合点をなすったことですよ。僕には部下なんか
(ないものと、ひとりぎめをなすったことですよ。では、おくさん、おやくそくに)
ないものと、ひとりぎめをなすったことですよ。では、奥さん、お約束に
(したがって、あなたのほうせきをすっかりいただくことにしましょうかね。)
したがって、あなたの宝石をすっかり頂くことにしましょうかね。
(ははははははは とめどのないこうしょうであった。いまこそしょうしゃとはいしゃのいちが)
ハハハハハハハ」止めどのない哄笑であった。今こそ勝者と敗者の位置が
(ぎゃくてんしたのだ。ついいましがたまでみどりかわふじんがあじわったとおなじ、あるいはそれいじょうの)
逆転したのだ。つい今し方まで緑川夫人が味わったと同じ、或いはそれ以上の
(しょうりのかいかんが、あけちのむねをくすぐった。にょぞくはしかし、さすがに、さっきあけちが)
勝利の快感が、明智の胸をくすぐった。女賊はしかし、さすがに、さっき明智が
(しめしたのとおなじほどのきりょくをもって、このこうしょうをたえしのんだ。では、)
示したのと同じほどの気力をもって、この哄笑を堪え忍んだ。「では、
(さなえさんはとりもどせたのですか。おめでとう。そして、やまかわさんはどうなったの)
早苗さんは取り戻せたのですか。おめでとう。そして、山川さんはどうなったの
(でしょうか かのじょはこえをふるわすまいときをはりながら、さもひややかに)
でしょうか」彼女は声をふるわすまいと気を張りながら、さも冷やかに
(たずねた。ざんねんながらとうぼうしてしまったそうです あけちがしょうじきにこたえる。)
たずねた。「残念ながら逃亡してしまったそうです」明智が正直に答える。
(おや、はんにんはにげてしまいましたの。まあ......みどりかわふじんは、)
「おや、犯人は逃げてしまいましたの。まあ......」緑川夫人は、
(あんどのいろをかくすことができなかった。いや、ありがとう、ありがとう、)
安堵の色をかくすことができなかった。「いや、ありがとう、ありがとう、
(あけちさん。わたしはそうともしらずこうふんしてしまって、しつれいしました。)
明智さん。わたしはそうとも知らず昴奮してしまって、失礼しました。
(ゆるしてください。だが、さっきあんたは、はんにんをとらえたようにおっしゃったと)
許して下さい。だが、さっきあんたは、犯人をとらえたようにおっしゃったと
(おもうが、いまのおはなしでは、やっぱりにがしてしまったのですか いわせしが、)
思うが、今のお話では、やっぱり逃がしてしまったのですか」岩瀬氏が、
(このいがいのきっぽうに、すっかりきげんをなおしてたずねる。いや、そうでは)
この意外の吉報に、すっかり機嫌を直してたずねる。「いや、そうでは
(ありません。やまかわというのはこんどのはんざいのしゅぼうしゃではないのです。ぼくがさっき)
ありません。山川というのは今度の犯罪の主謀者ではないのです。僕がさっき
(はんにんをとらえたといったのは、けっしてでたらめではありません あけちの)
犯人をとらえたと言ったのは、決してでたらめではありません」明智の
(このことばは、みどりかわふじんのかおをむらさきいろにするちからをもっていた。かのじょはたちまち、)
この言葉は、緑川夫人の顔を紫色にする力を持っていた。彼女はたちまち、
(おいつめられたもうじゅうのようなおそろしいひょうじょうになって、きょろきょろとあたりを)
追いつめられた猛獣のような恐ろしい表情になって、キョロキョロとあたりを
(みまわした。だがにげだそうにも、いりぐちのどあにはちゃんとかぎがかけてあるのだ。)
見廻した。だが逃げ出そうにも、入口のドアにはちゃんと鍵がかけてあるのだ。
(では、はんにんはどこにいるのです いわせしはそれともきづかずききかえす。)
「では、犯人はどこにいるのです」岩瀬氏はそれとも気づかず聞きかえす。
(ここに、われわれのめのまえにいます あけちがずばりといってのける。ほう、)
「ここに、われわれの眼の前にいます」明智がズバリといってのける。「ホウ、
(めのまえに、だが、ここにはあんたとわたしとみどりかわさんのほかには、だれも)
眼の前に、だが、ここにはあんたとわたしと緑川さんのほかには、だれも
(いないようじゃが......そのみどりかわふじんこそおそろしいにょぞくです。)
いないようじゃが......」「その緑川夫人こそ恐ろしい女賊です。
(さなえさんをゆうかいしたちょうほんにんです じゅうすうびょうのあいだ、しのようなちんもくがつづいた。)
早苗さんを誘拐した張本人です」十数秒のあいだ、死のような沈黙がつづいた。
(さんにんがさんようのまなざしをもって、おたがいをにらみあった。やがてそのちんもくを)
三人が三様のまなざしをもって、お互いをにらみ合った。やがてその沈黙を
(やぶったのはみどりかわふじんであった。まあ、とんでもないことです。やまかわさんが)
破ったのは緑川夫人であった。「まあ、飛んでもないことです。山川さんが
(なにをなさろうと、あたしのしったことではありません。ただ、ちょっとした)
何をなさろうと、あたしの知ったことではありません。ただ、ちょっとした
(おしりあいのえんで、ほてるへごしょうかいしただけですもの。あんまりですわ。)
お知り合いの縁で、ホテルへご紹介しただけですもの。あんまりですわ。
(そんな、そんな......だが、これがようふのさいごのおしばいであった。)
そんな、そんな......」だが、これが妖婦の最後のお芝居であった。
(かのじょのことばがおわるかおわらぬに、こつこつとどあをのっくするおとがきこえた。)
彼女の言葉が終るか終らぬに、コツコツとドアをノックする音が聞こえた。
(あけちはそれをまちかねていたように、すばやくどあにちかづいて、てにしていたかぎで)
明智はそれを待ちかねていたように、素早くドアに近づいて、手にしていた鍵で
(それをひらいた。みどりかわふじん、きみがいかにいいのがれようとしても、ここにいきた)
それをひらいた。「緑川夫人、君がいかに言い逃れようとしても、ここに生きた
(しょうにんがいる。きみはさなえさんのまえでも、そんなそらぞらしいうそをいえるのか)
証人がいる。君は早苗さんの前でも、そんな空々しい嘘をいえるのか」
(あけちがさいごのとどめをさした。どあのむこうからあらわれたのは、あけちのぶかの)
明智が最後のとどめを刺した。ドアの向こうから現われたのは、明智の部下の
(せいねん、せいねんのかたにぐったりとよりかかってわずかにたっているあおざめた)
青年、青年の肩にぐったりとよりかかってわずかに立っている青ざめた
(さなえさん、それをまもるようにつきそっているせいふくけいかんのさんにんのすがたであった。)
早苗さん、それを守るように付きそっている制服警官の三人の姿であった。
(にょぞく くろとかげ はぜったいぜつめいのきゅうちにたった。みかたはかよわいおんなひとり、てきは)
女賊「黒トカゲ」は絶体絶命の窮地に立った。味方はかよわい女一人、敵は
(さなえさんをのぞいても、けいかんまでくわわったよにんのおとこ、にげようとてにげられる)
早苗さんを除いても、警官まで加わった四人の男、逃げようとて逃げられる
(ものではない。だが、なんというやせがまんであろう。かのじょはまだへこたれた)
ものではない。だが、なんというやせ我慢であろう。彼女はまだへこたれた
(ようにはみえなかった。いや、そればかりではない。じつにおどろくべきことには、)
ようには見えなかった。いや、そればかりではない。実に驚くべきことには、
(かのじょのあおざめたほおに、ひとみゃくのちのけがのぼったかとおもうと、ぞっとするような)
彼女の青ざめた頬に、一脈の血の気がのぼったかと思うと、ゾッとするような
(びしょうがうかび、それがだんだんおおきくほころびていったではないか。ああ、)
微笑が浮かび、それがだんだん大きくほころびて行ったではないか。ああ、
(ふてきのにょぞくは、さいごのどたんばにたって、なにがおかしいのか、いように)
不敵の女賊は、最後のどたん場に立って、何がおかしいのか、異様に
(わらいだしたのだ。ふふふふふ、これがこんばんのおしばいのおおづめってわけかい。)
笑い出したのだ。「フフフフフ、これが今晩のお芝居の大詰めってわけかい。
(まあ、めいたんていっていわれるだけのことはあったわね。こんどはどうやらぼくの)
まあ、名探偵っていわれるだけのことはあったわね。今度はどうやら僕の
(まけということにしておこうよ。だが、それで、どうしようっていうの?)
負けということにしておこうよ。だが、それで、どうしようっていうの?
(ぼくをほばくしようとでもおもっているの?そいつはすこしむしがよすぎはしないかしら。)
僕を捕縛しようとでも思っているの?そいつは少し虫がよすぎはしないかしら。
(たんていさん、よくおもいだしてごらん。あんたなにかしっさくをしてやしない。え、)
探偵さん、よく思い出してごらん。あんた何か失策をしてやしない。え、
(どうなの?うっかりしているあいだに、なにかなくしやしなくって、ほほほほほ)
どうなの?うっかりしているあいだに、何か無くしやしなくって、ホホホホホ」
(かのじょはいったいなんのたのむところがあって、このたいげんをはいているのであろう。)
彼女は一体なんの頼むところがあって、この大言を吐いているのであろう。
(あけちがどんなしっさくをしたというのであろう。)
明智がどんな失策をしたというのであろう。