黒蜥蜴20
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 123 | 6362 | S | 6.5 | 97.5% | 806.1 | 5260 | 131 | 76 | 2024/10/02 |
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問題文
(くもとこちょうと)
クモと胡蝶と
(おおさかのみなみのこうがい、なんかいでんしゃえんせんhまちに、だいほうせきしょういわせしょうべえしの)
大阪の南の郊外、南海電車沿線H町に、大宝石商岩瀬庄兵衛氏の
(ていたくがある。このごろそのやしきをとりまくこんくりーとべいのいただきに、いちめんに)
邸宅がある。このごろその邸をとりまくコンクリート塀の頂きに、一面に
(がらすのはへんがうえつけられた。どうしたんだろう。いわせさんは、あんな)
ガラスの破片が植えつけられた。「どうしたんだろう。岩瀬さんは、あんな
(こうりかしみたいなまねをするひとがらじゃないんだが と、ふきんのひとびとはいぶかしく)
高利貸みたいなまねをする人柄じゃないんだが」と、付近の人々はいぶかしく
(おもわないではいられなかった。だが、いわせていのいへんは、それだけにとどまった)
思わないではいられなかった。だが、岩瀬邸の異変は、それだけにとどまった
(のではない。まずだいいちに、もんながやのじゅうにんがかわった。これまではいわせしょうかいのふるい)
のではない。先ず第一に、門長屋の住人が変った。これまでは岩瀬商会の古い
(てんいんがすんでいたのにいれかわって、とちのけいさつにきんむしているけんどうのごうのものと)
店員が住んでいたのに入れかわって、土地の警察に勤務している剣道の剛の者と
(うわさのたかい、ぼうけいかんのいっかがひっこしてきた。ていえんにはところどころにはしらをたてて、あかるい)
噂の高い、某警官の一家が引越してきた。庭園には所々に柱を立てて、明かるい
(おくがいでんとうがとりつけられ、たてもののようしょようしょのまどには、さもがんじょうなてつごうしが)
屋外電燈が取りつけられ、建物の要所要所の窓には、さも頑丈な鉄格子が
(はめられた。そのうえ、じゅうらいからいるしょせいのほかに、きんこつたくましいふたりのせいねんが)
はめられた。その上、従来からいる書生のほかに、筋骨たくましい二人の青年が
(ようじんぼうとしてていないにねとまりすることになった。いわせていはいまやちいさいじょうかくで)
用心棒として邸内に寝泊りすることになった。岩瀬邸はいまや小さい城廓で
(あった。そもそもなにをおそれて、これほどのようじんをしなければならなかったのか。)
あった。そもそも何を恐れて、これほどの用心をしなければならなかったのか。
(ほかではない、おんなあるせーぬ・りゅぱんとまでいわれる、にょぞく くろとかげ の)
ほかではない、女アルセーヌ・リュパンとまでいわれる、女賊「黒トカゲ」の
(しゅうらいがよちされていたからだ。いわせしのさいあいのおじょうさんのしんぺんに、よにも)
襲来が予知されていたからだ。岩瀬氏の最愛のお嬢さんの身辺に、世にも
(おそろしいきけんがせまっていたからだ。とうきょうのkほてるでは、めいたんていあけちこごろうに)
恐ろしい危険がせまっていたからだ。東京のKホテルでは、名探偵明智小五郎に
(さまたげられて、にょぞくのゆうかいのくわだてはしっぱいにおわったけれど、それであきらめて)
さまたげられて、女賊の誘拐の企ては失敗に終ったけれど、それであきらめて
(しまったのではない。かのじょはかならず、かならず、さなえさんをうばいとって)
しまったのではない。彼女はかならず、かならず、早苗さんをうばい取って
(みせるとようげんしているのだ。いずれはもうこのおおさかへせんにゅうしているに)
見せると揚言しているのだ。いずれはもうこの大阪へ潜入しているに
(ちがいない。ひょっとしたら、hまちのいわせていのまぢかくまでしのびよっていないとも)
ちがいない。ひょっとしたら、H町の岩瀬邸の間近くまで忍び寄っていないとも
(かぎらぬのだ。まじゅつしのようなにょぞくのてなみのほどは、kほてるのじけんできもに)
限らぬのだ。魔術師のような女賊の手なみのほどは、Kホテルの事件で肝に
(めいじている。いわせしょうべえしならずとも、これほどのようじんをしないでは)
銘じている。岩瀬庄兵衛氏ならずとも、これほどの用心をしないでは
(いられなかったにちがいない。とうのさなえさんはかわいそうに、おくのひとま、れいの)
いられなかったに違いない。当の早苗さんは可哀そうに、奥の一間、例の
(てつごうしをはったへやに、かんきんどうぜんのみのうえとなった。つぎのまには、)
鉄格子を張った部屋に、監禁同然の身の上となった。次の間には、
(さなえさんおきにいりのばあや、そのもうひとつてまえのへやには、とうきょうから)
早苗さんお気に入りの婆や、そのもう一つ手前の部屋には、東京から
(しゅっちょうしてきたあけちこごろうがねとまりをして、げんかんわきにはさんにんのしょせい、そのほか)
出張してきた明智小五郎が寝泊りをして、玄関わきには三人の書生、そのほか
(すうにんのだんじょのめしつかいたちが、さなえさんのへやをとおまきにして、ことあらばわれいちばんに)
数人の男女の召使いたちが、早苗さんの部屋を遠巻にして、事あらばわれ一番に
(かけつけんものと、てぐすねひいてまちかまえていた。さなえさんはへやに)
駈けつけんものと、手ぐすね引いて待ちかまえていた。早苗さんは部屋に
(とじこもったまま、いっぽもがいしゅつしなかった。ときたまていえんをさんぽするのにも、かならず)
とじこもったまま、一歩も外出しなかった。時たま庭園を散歩するのにも、必ず
(あけちなりしょせいなりがつきそっていた。いかなまじゅつしの くろとかげ でも、)
明智なり書生なりが付きそっていた。いかな魔術師の「黒トカゲ」でも、
(これではてもあしもでないにちがいない。それかあらぬか、さなえさんたちがほんていに)
これでは手も足も出ないにちがいない。それかあらぬか、早苗さんたちが本邸に
(かえってから、もうはんつきほどもけいかしたけれど、にょぞくのけはいはまったく)
帰ってから、もう半月ほども経過したけれど、女賊のけはいは全く
(かんじられなかった。わしはどうやらおくびょうすぎたようだわい。あいつの)
感じられなかった。「わしはどうやら臆病すぎたようだわい。あいつの
(おどしもんくをまにうけたのは、ちとおとなげなかったかもしれんて。それとも、)
おどし文句をまに受けたのは、ちとおとなげなかったかもしれんて。それとも、
(あいつは、こちらのよういをしって、とてもてだしができないとあきらめて)
あいつは、こちらの用意を知って、とても手出しができないとあきらめて
(しまったのだろうか いわせしはだんだんそんなふうにかんがえるようになった。)
しまったのだろうか」岩瀬氏はだんだんそんなふうに考えるようになった。
(だが、ぞくのほうのしんぱいがうすらぐと、こんどはむすめのことがこころがかりになりだした。)
だが、賊の方の心配が薄らぐと、今度は娘のことが心がかりになり出した。
(わしのようじんはちとてきびしすぎたかもしれない。むすめをざしきろうへなどとじこめる)
「わしの用心はちと手きびし過ぎたかもしれない。娘を座敷牢へなどとじこめる
(ようにしておいたのがいけなかったかもしれない。それでなくてもびくびくして)
ようにしておいたのがいけなかったかもしれない。それでなくてもビクビクして
(いるむすめを、いっそうおじけさせてしまった。あれのこのころのようすはまるでひとが)
いる娘を、一そうおじけさせてしまった。あれのこの頃の様子はまるで人が
(かわったようだ。あおいかおをしてふさぎこんでばかりいる。わしがものをいっても)
変ったようだ。青い顔をしてふさぎこんでばかりいる。わしが物をいっても
(へんじをするのもいやそうにして、そっぽをむいてしまう。どうかして、すこしきを)
返事をするのもいやそうにして、そっぽを向いてしまう。どうかして、少し気を
(ひきたててやりたいものだが そんなことをかんがえていたとき、いわせしはふと、)
引き立ててやりたいものだが」そんなことを考えていた時、岩瀬氏はふと、
(きょうできあがってきた、おうせつしつのようかぐのことをおもいだした。うん、)
きょうでき上がってきた、応接室の洋家具のことを思い出した。「ウン、
(そうだ。あれをみせたら、きっとよろこぶにちがいないて ようかぐというのは、)
そうだ。あれを見せたら、きっと喜ぶにちがいないて」洋家具というのは、
(ぜいたくないすのせっとで、ひとつきばかりまえそれをちゅうもんするとき、いすにはるおりものを、)
贅沢な椅子のセットで、一と月ばかり前それを注文する時、椅子に張る織物を、
(さなえさんがせんていしたのであった。いわせしはこのおもいつきにげんきづいて、さっそく)
早苗さんが選定したのであった。岩瀬氏はこの思いつきに元気づいて、さっそく
(おくのさなえさんのいまへやっていった。さなえ、おまえのこのみでちゅうもんしたいすが、)
奥の早苗さんの居間へやって行った。「早苗、お前の好みで注文した椅子が、
(きょうできてきたんだよ。もうおうせつまにすえつけてある。いちどみにきてごらん。)
きょうできてきたんだよ。もう応接間にすえつけてある。一度見にきてごらん。
(おもったよりもりっぱなできばえだったよ ふすまをあけて、へやをのぞきこみ)
思ったよりも立派な出来栄えだったよ」ふすまをあけて、部屋をのぞきこみ
(ながらこえをかけると、つくえにもたれていたさなえさんが、びくっとしたように)
ながら声をかけると、机にもたれていた早苗さんが、ビクッとしたように
(ふりむいたが、すぐまたうなだれてしまって、そうですか、でも、あたし)
振り向いたが、すぐまたうなだれてしまって、「そうですか、でも、あたし
(いま・・・・・・と、いっこうにきのりのしないへんじだ。そんなあいそうのないへんじを)
今……」と、いっこうに気乗りのしない返事だ。「そんなあいそうのない返事を
(するものじゃない。まあいいからきてごらんなさい。ばあや、ちょっとさなえを)
するものじゃない。まあいいからきてごらんなさい。婆や、ちょっと早苗を
(かりていきますよ いわせしは、りんしつのばあやにそうことわって、すすまぬさなえさんの)
借りて行きますよ」岩瀬氏は、隣室の婆やにそうことわって、進まぬ早苗さんの
(てをとるようにして、つれだしていった。ばあやのつぎのあけちたんていのへやは、)
手を取るようにして、つれ出して行った。婆やのつぎの明智探偵の部屋は、
(あけはなったままからっぽになっていた。かれはやむをえないしょようがあって、)
あけ放ったままからっぽになっていた。彼はやむを得ない所用があって、
(ごぜんからがいしゅつしたまま、まだかえらないのだ。かれがでかけるとき、いわせしのざいたくを)
午前から外出したまま、まだ帰らないのだ。彼が出かける時、岩瀬氏の在宅を
(たしかめ、めしつかいたちにも、さなえさんからめをはなさぬよう、くどくちゅういを)
たしかめ、召使いたちにも、早苗さんから眼をはなさぬよう、くどく注意を
(あたえていったことはいうまでもない。やがて、さなえさんはおとうさんのあとに)
与えて行ったことはいうまでもない。やがて、早苗さんはお父さんのあとに
(したがって、ひろいおうせつまにはいった。どうだね、すこしはですぎるくらい)
したがって、広い応接間にはいった。「どうだね、少し派手すぎるくらい
(だったね いわせしはいいながら、そのあたらしいいすのひとつへこしをおろした。)
だったね」岩瀬氏は言いながら、その新らしい椅子の一つへ腰をおろした。
(まるてーぶるをかこんで、そふぁ、あーむちぇあ、ふじんようのもたれのないいす、)
丸テーブルをかこんで、ソファ、アームチェア、婦人用のもたれのない椅子、
(もくせいのもたれのこがたのいすなど、つごうななきゃくのせっとが、はでやかに)
木製のもたれの小型の椅子など、つごう七脚のセットが、はでやかに
(ならんでいた。まあ、きれいですこと・・・・・・むくちのさなえさんがやっとものを)
並んでいた。「まあ、きれいですこと……」無口の早苗さんがやっと物を
(いった。いかにもそのいすがきにいったらしい。かのじょはながいすにこしをかけて)
言った。いかにもその椅子が気に入ったらしい。彼女は長椅子に腰をかけて
(みた。すこしかたいようですわ なにかしらふつうのながいすとは、かけごこちが)
みた。「少し固いようですわ」何かしら普通の長椅子とは、掛け心地が
(ちがうようなかんじがした。そりゃ、こしらえたてには、すこしかたいものなんだよ。)
違うような感じがした。「そりゃ、こしらえたてには、少し固いものなんだよ。
(そのうちになれてやわらかみがでてくるだろう もしそのとき、いわせしもさなえさんと)
そのうちになれて柔らかみが出てくるだろう」もしその時、岩瀬氏も早苗さんと
(ならんで、そのながいすにこしかけてみたならば、かれとてもふしんをいだかないでは)
並んで、その長椅子に腰かけてみたならば、彼とても不審をいだかないでは
(いられなかったにちがいない。ながいすのかけごこちは、それほどいようであった。)
いられなかったにちがいない。長椅子の掛け心地は、それほど異様であった。
(だが、かれはひとつのあーむちぇあにしずみこんだまま、ほかのいすをこころみようとも)
だが、彼は一つのアームチェアに沈みこんだまま、ほかの椅子を試みようとも
(しなかったのだ。そうしているところへ、こまづかいがどあからかおをだして、)
しなかったのだ。そうしているところへ、小間使いがドアから顔を出して、
(でんわをしらせた。おおさかのみせからのようけんらしい。いわせしはおくのいまのたくじょうでんわへと)
電話を知らせた。大阪の店からの用件らしい。岩瀬氏は奥の居間の卓上電話へと
(いそいででていった。だが、さすがにようじんぶかく、しょせいべやにこえをかけて、)
いそいで出て行った。だが、さすがに用心深く、書生部屋に声をかけて、
(おうせつしつのさなえさんをちゅういするようにとめいじることをわすれなかった。)
応接室の早苗さんを注意するようにと命じることを忘れなかった。