黒蜥蜴23

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投稿者投稿者桃仔いいね3お気に入り登録
プレイ回数1470難易度(4.2) 4239打 長文 かな 長文モード可
明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 123 6240 A++ 6.4 97.3% 660.8 4238 114 66 2024/10/02
2 ひま 5689 A 6.0 93.7% 708.0 4317 289 66 2024/09/20

関連タイピング

問題文

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(まじゅつしのかいぎ)

魔術師の怪技

(よっぱらいさわぎがあってからにじかんほどあと、きゅうほうにせっしておおさかからかえった)

酔っぱらい騒ぎがあってから二時間ほど後、急報に接して大阪から帰った

(いわせしとあけちこごろうとが、しゅじんのいまで、このふかかいなできごとについて、)

岩瀬氏と明智小五郎とが、主人の居間で、この不可解な出来事について、

(あわただしいかいわをとりかわしていた。そのそばにはいわせふじんとばあやとがひかえ)

あわただしい会話を取りかわしていた。そのそばには岩瀬夫人と婆やとがひかえ

(せきにんしゃのふたりのしょせいもよびだされて、かしこまっている。しっさくでした。ぼくは)

責任者の二人の書生も呼び出されて、かしこまっている。「失策でした。僕は

(またしてもゆだんしすぎたようです あけちはいかにももうしわけがないというようすで)

またしても油断しすぎたようです」明智はいかにも申し訳がないという様子で

(あった。いやいや、あなたのしっさくじゃない。これはまったくわしがわるかった)

あった。「いやいや、あなたの失策じゃない。これは全くわしがわるかった

(のです。むすめがあまりしずみこんでいるものだから、ついかわいそうになって、)

のです。娘があまり沈み混んでいるものだから、ついかわいそうになって、

(おうせつまなどへつれだしたのがわるかったのです。ゆだんといえば、わしこそ、)

応接間などへ連れ出したのがわるかったのです。油断といえば、わしこそ、

(まったくゆだんしておりましたよ わたくしたちもふちゅういでございました。しょせいに)

全く油断しておりましたよ」「わたくしたちも不注意でございました。書生に

(まかせておいてあんしんしていたのがいけませんでした いわせふじんもおなじような)

まかせておいて安心していたのがいけませんでした」岩瀬夫人も同じような

(ことをいう。しかし、そういうことはいまさらいってみてもしかたがありません。)

ことをいう。「しかし、そういうことは今さら言ってみても仕方がありません。

(それよりも、われわれは、おじょうさんがいつおうせつしつをでられたか、そしてどこへ)

それよりも、われわれは、お嬢さんがいつ応接室を出られたか、そしてどこへ

(つれさられたか、そのてんをたしかめなければなりません あけちがかえらぬくりごとを)

連れ去られたか、その点を確かめなければなりません」明智が返らぬ繰り言を

(うちきるようにいった。さあ、それですて。そこがわしにはどうも)

打ち切るようにいった。「さあ、それですて。そこがわしにはどうも

(げせぬのじゃが、おいくらた、おまえたちはわきみをしていたんじゃあるまいな。)

解せぬのじゃが、おい倉田、お前たちはわき見をしていたんじゃあるまいな。

(おじょうさんがあのへやをでていくのを、きがつかなかったのじゃあるまいな)

お嬢さんがあの部屋を出て行くのを、気がつかなかったのじゃあるまいな」

(いわせしがたずねると、くらたとよばれたしょせいのひとりは、すこしふんがいのおももちでこたえた。)

岩瀬氏がたずねると、倉田と呼ばれた書生の一人は、少し憤慨の面持で答えた。

(いや、だんじてそんなことはありません。ぼくらは、ちゃんとどあのほうを)

「いや、断じてそんなことはありません。僕らは、ちゃんとドアの方を

(みはりつづけていたのです。それに、おじょうさんがおうせつまからほかのへやへ)

見張りつづけていたのです。それに、お嬢さんが応接間からほかの部屋へ

など

(いらっしゃるためには、どうしてもぼくらのたっているろうかをとおらなければ)

いらっしゃるためには、どうしても僕らの立っている廊下を通らなければ

(ならないのです。いくらなんでも、おじょうさんがめのまえをおとおりなさるのを、)

ならないのです。いくらなんでも、お嬢さんが眼の前をお通りなさるのを、

(ぼくらがみのがしたはずはありません ふん、おまえたちはそんななまいきなことを)

僕らが見のがしたはずはありません」「フン、お前たちはそんな生意気なことを

(いうが、それじゃ、どうしておじょうさんがいなくなったのだ。それとも、)

いうが、それじゃ、どうしてお嬢さんがいなくなったのだ。それとも、

(おじょうさんはあのがんじょうなてつごうしをやぶってとびだしていったとでもいうのか。)

お嬢さんはあの頑丈な鉄格子を破って飛び出して行ったとでもいうのか。

(え、どうだね。てつごうしがはずれてでもいたかね いわせしはかんじょうがげきすると、)

え、どうだね。鉄格子がはずれてでもいたかね」岩瀬氏は感情が激すると、

(ついにくまれくちをきくくせがあるようだ。しょせいはたちまちきょうしゅくして、あたまを)

つい憎まれ口を利くくせがあるようだ。書生はたちまち恐縮して、頭を

(かきながら、わかりきったことをしょうじきにこたえる。いえ、てつごうしどころか、)

かきながら、わかり切ったことを正直に答える。「いえ、鉄格子どころか、

(がらすまどさえも、かけがねをはずしたけいせきはありませんでした それみろ、)

ガラス窓さえも、掛け金をはずした形跡はありませんでした」「それ見ろ、

(それじゃ、つまりおまえたちがみのがしたことになるじゃないか まあおまち)

それじゃ、つまりお前たちが見逃したことになるじゃないか」「まあお待ち

(ください。どうもこのひとたちがみのがしたようにもおもわれません。みのがしたと)

ください。どうもこの人たちが見逃したようにも思われません。見逃したと

(いえば、おじょうさんだけではなくて、あのよっぱらいがおうせつまへはいるところも)

いえば、お嬢さんだけではなくて、あの酔っぱらいが応接間へはいるところも

(みのがしているわけです。いくらふちゅういでも、ふたりものにんげんがでたりはいったり)

見逃しているわけです。いくら不注意でも、二人もの人間が出たりはいったり

(するのをきづかないでいるというのは、どうもありそうもないことですな)

するのを気づかないでいるというのは、どうもありそうもないことですな」

(あけちがかんがえかんがえいった。いかにもありそうもないことです。だが、それが)

明智が考え考え言った。「いかにもありそうもないことです。だが、それが

(あったのじゃ いわせしはなおもどくぐちをたたく。あけちはそれにかまわずつづけた。)

あったのじゃ」岩瀬氏はなおも毒口をたたく。明智はそれにかまわずつづけた。

(てつごうしもやぶれていない。しょせいいさんたちもみのがしていないとすると、けつろんは)

「鉄格子も破れていない。書生さんたちも見逃していないとすると、結論は

(たったひとつ、あのおうせつしつへはいったものも、でたものもいなかったということに)

たった一つ、あの応接室へはいったものも、出たものもいなかったということに

(なります ふふん、すると、さなえがそのよっぱらいにばけたのだとでも)

なります」「フフン、すると、早苗がその酔っぱらいに化けたのだとでも

(おっしゃるのですね。じょうだんじゃない、わしのむすめはやくしゃじゃありませんぜ)

おっしゃるのですね。冗談じゃない、わしの娘は役者じゃありませんぜ」

(ごしゅじん、あなたはおじょうさんに、あたらしくできたいすをおみせなすった)

「御主人、あなたはお嬢さんに、新らしくできた椅子をお見せなすった

(のですね。そのいすはきょうとどけられたのですか そうです。あんたが)

のですね。その椅子はきょう届けられたのですか」「そうです。あんたが

(でかけられてまもなくとどいたのです みょうですね。あなたは、そのいすが)

出かけられて間もなく届いたのです」「妙ですね。あなたは、その椅子が

(とどいたのと、おじょうさんのゆうかいとのあいだに、なにかぐうぜんでないつながりが)

届いたのと、お嬢さんの誘拐とのあいだに、何か偶然でないつながりが

(あるようにはおもわれませんか。ぼくにはなんだか......あけちは)

あるようには思われませんか。僕にはなんだか......」明智は

(そういいかけたまま、めをほそくして、しばらくかんがえにしずんでいたが、はっと)

そう言いかけたまま、眼を細くして、しばらく考えに沈んでいたが、ハッと

(かおをあげる。と、なにかしらいみのわからぬことをくちばしった。)

顔を上げる。と、何かしら意味のわからぬことを口走った。

(にんげんいす......あんましょうせつかのくうそうが、はたしてじっこうできるの)

「人間椅子......あんま小説家の空想が、はたして実行できるの

(だろうか そして、かれはすっくとたちあがると、なにかひじょうにこうふんしたようすで、)

だろうか」そして、彼はスックと立ちあがると、何か非常に昴奮した様子で、

(ひとびとにあいさつもせず、いきなりへやをでていってしまった。ひとびとは、めいたんていの)

人々に挨拶もせず、いきなり部屋を出て行ってしまった。人々は、名探偵の

(とっぴなこうどうに、あっけにとられて、しばらくはくちをきくものもなくぼんやりと)

突飛な行動に、あっけにとられて、しばらくは口を利くものもなくぼんやりと

(かおをみあわせていたが、すると、たちまちあけちのかけもどってくるあしおとがして、)

顔を見合わせていたが、すると、たちまち明智の駈けもどってくる足音がして、

(ろうかからどなるのがきこえた。ながいすをどこへやったのです。おうせつまに)

廊下からどなるのが聞こえた。「長椅子をどこへやったのです。応接間に

(みえないじゃありませんか まあ、あけちさん、おちついてください。)

見えないじゃありませんか」「まあ、明智さん、落ちついてください。

(いすなんかどうだっていい、わしたちはいまむすめのことをしんぱいしているのだ)

椅子なんかどうだっていい、わしたちはいま娘のことを心配しているのだ」

(いわせしがこえをかけると、あけちはやっとへやのなかへはいってきたが、)

岩瀬氏が声をかけると、明智はやっと部屋の中へはいってきたが、

(まだたちはだかったままおなじことをくりかえす。いや、ぼくはながいすのゆくえが)

まだ立ちはだかったまま同じことをくり返す。「いや、僕は長椅子の行方が

(しりたいのです。どこへやったのですか するとしょせいのひとりが、それに)

知りたいのです。どこへやったのですか」すると書生の一人が、それに

(こたえた。あれは、ついいましがた、かぐやのしょくにんがうけとりにきたので、)

答えた。「あれは、つい今しがた、家具屋の職人が受取りにきたので、

(わたしてやりました。はりかえさせるようにという、おくさまのいいつけだった)

渡してやりました。張りかえさせるようにという、奥様の言いつけだった

(ものですから おくさん、それはほんとうですか ええ、よっぱらいが)

ものですから」「奥さん、それはほんとうですか」「ええ、酔っぱらいが

(やぶいたり、よごしたりして、あんまりむさいものですから、いそいでとりに)

破いたり、よごしたりして、あんまりむさいものですから、急いで取りに

(こさせましたの いわせふじんが、まだそれともきづかないで、とりすまして)

こさせましたの」岩瀬夫人が、まだそれとも気づかないで、とりすまして

(こたえる。そうでしたか、ああ、こまったことをしてしまったなあ。)

答える。「そうでしたか、ああ、困ったことをしてしまったなあ。

(もうとりかえしがつかない......いやもしかしたら、そうだ、もしかしたら)

もう取り返しがつかない......いやもしかしたら、そうだ、もしかしたら

(ぼくのおもいちがいかもしれない。ちょっとそのおでんわをはいしゃくします)

僕の思いちがいかもしれない。ちょっとそのお電話を拝借します」

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