黒蜥蜴31
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | ひま | 5177 | B+ | 5.4 | 95.1% | 884.8 | 4828 | 247 | 69 | 2024/10/15 |
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問題文
(かいだん)
怪談
(そのよくみめい、おおさかのかわぐちをしゅっぱんしたにひゃくとんにもたらぬしょうきせんがあった。)
その翌未明、大阪の川口を出帆した二百トンにも足らぬ小汽船があった。
(しあわせとふうはのないこうかいびより、たたみのようなうなばらを、そのふねはみかけによらぬ)
しあわせと風波のない航海日和、畳のような海原を、その船は見かけによらぬ
(かいそくりょくで、ごごにはきいはんとうのなんたんにたっしたが、どこへきこうするでもなく、)
快速力で、午後には紀伊半島の南端に達したが、どこへ寄港するでもなく、
(いせわんなどはみむきもしないで、まっしぐらに、たいへいようのただなかを、)
伊勢湾などは見向きもしないで、まっしぐらに、太平洋のただなかを、
(えんしゅうなだめがけてすすんでいった。ちっぽけなふねのくせに、だいたんにも、えんようこうろの)
遠州灘めがけて進んで行った。ちっぽけな船のくせに、大胆にも、遠洋航路の
(だいきせんとおなじこーすをとおっているのだ。がいけんはなんのへんてつもない)
大汽船と同じコースを通っているのだ。外見はなんのへんてつもない
(まっくろなかもつせん。だが、せんないにはかもつぐらなどはひとつもなくて、はっちをおりると)
まっ黒な貨物船。だが、船内には貨物倉などは一つもなくて、ハッチを降りると
(そとのみすぼらしさにひきかえて、おどろくほどりっぱなせんしつが、ずらりと)
そとのみすぼらしさに引きかえて、驚くほど立派な船室が、ズラリと
(ならんでいた。かもつせんとみせかけたきゃくせん、いやきゃくせんというよりは、ひとつの)
並んでいた。貨物船と見せかけた客船、いや客船というよりは、一つの
(ぜいたくなじゅうたくであった。それらのせんしつのうちでも、せんびにちかいいっしつは、)
ぜいたくな住宅であった。それらの船室のうちでも、船尾に近い一室は、
(ひろさといい、ちょうどといい、きわだってりっぱやかにかざられていた。おそらくは)
広さといい、調度といい、きわだって立派やかに飾られていた。おそらくは
(このふねのもちぬしのいまにちがいない。しきつめたこうかなぺるしゃじゅうたん、)
この船の持主の居間にちがいない。敷きつめた高価なペルシャジュウタン、
(まっしろにぬったてんじょう、せんないとはおもわれぬこったしゃんでりや、かざりだんす、)
まっ白に塗った天井、船内とは思われぬ凝ったシャンデリヤ、飾り箪笥、
(おりものにおおわれたまるてーぶる、そふぁ、いくつかのあーむちぇあ。そのなかに、)
織物に覆われた丸テーブル、ソファ、幾つかのアームチェア。その中に、
(ひとつだけもようのちがうながいすが、いそうろうといったかっこうで、へやのちょうわをやぶって、)
一つだけ模様の違う長椅子が、居候といった恰好で、部屋の調和を破って、
(いっぽうのすみにすえてある。おや、このながいすはどっかでみかけたようにおもうが・・・・・・)
一方の隅にすえてある。おや、この長椅子はどっかで見かけたように思うが……
(ああ、そうだ。かぎざきをつくろったあとがある。たしかにあれだ。みっかいぜん、)
ああ、そうだ。かぎ裂きをつくろったあとがある。確かにあれだ。三日以前、
(いわせていのおうせつまから、おじょうさんのさなえさんをとじこめてかつぎだされた、)
岩瀬邸の応接間から、お嬢さんの早苗さんをとじこめてかつぎ出された、
(あのながいすだ。それが、どうしてこんなふねのなかなどにおいてあるのだろう。)
あの長椅子だ。それが、どうしてこんな船の中などにおいてあるのだろう。
(はて、ここにこのながいすがあるからには、もしかしたら・・・・・・いやいや、)
はて、ここにこの長椅子があるからには、もしかしたら……いやいや、
(もしかしたらではない。われわれはながいすばかりにきをとられ、それに)
もしかしたらではない。われわれは長椅子ばかりに気を取られ、それに
(こしかけているいちじんぶつを、ついかんさつしないでいたが、そのじんぶつこそ・・・・・・つやつやと)
腰かけている一人物を、つい観察しないでいたが、その人物こそ……つやつやと
(ひかるまっくろなきぬのようそう、みみたぶにも、むねにも、ゆびにも、きらきらとかがやく)
光るまっ黒な絹の洋装、耳たぶにも、胸にも、指にも、キラキラとかがやく
(ほうせきそうしんぐ、いっしゅいようのすごみをおびたびぼう、くろぎぬのいしょうのそとまですいてみえる)
宝石装身具、一種異様の凄味を帯びた美貌、黒絹の衣裳のそとまで透いて見える
(ほうまんなにくたい、これをみわすれてよいものか、くろとかげだ。ついいっちゅうやいぜん、)
豊満な肉体、これを見忘れてよいものか、黒トカゲだ。つい一昼夜以前、
(あけちたんていにびこうされているともしらず、おおがたわせんのあぶらしょうじのなかへすがたをかくした)
明智探偵に尾行されているとも知らず、大型和船の油障子のなかへ姿をかくした
(にょぞく くろとかげ だ。にょぞくをかくまったあのわせんは、よるのうちにえだがわから)
女賊「黒トカゲ」だ。女賊をかくまったあの和船は、夜のうちに枝川から
(おおかわへとこぎくだり、かわぐちにていはくしていたこのほんせんへ、くろとかげ を)
大川へと漕ぎ下り、川口に碇泊していたこの本船へ、「黒トカゲ」を
(のりうつらせたものであろう。では、このしょうきせんはいったいどうしたふねかしら。ふつうの)
乗り移らせたものであろう。では、この小汽船は一体どうした船かしら。普通の
(しょうせんなれば、おんなどろぼうなぞが、そのいちばんじょうとうのせんしつを、わがものがおにふるまっている)
商船なれば、女泥棒なぞが、その一ばん上等の船室を、我物顔にふるまっている
(わけがない。ひょっとしたら、これは くろとかげ じしんのもちぶねなのでは)
わけがない。ひょっとしたら、これは「黒トカゲ」自身の持ち船なのでは
(あるまいか。そうだとすれば、ここにれいの にんげんいす があるわけも)
あるまいか。そうだとすれば、ここに例の「人間椅子」があるわけも
(わかってくる。そして にんげんいす があるからには、そのなかにとじこめ)
わかってくる。そして「人間椅子」があるからには、その中にとじこめ
(られていたさなえさんも、いまはこのせんないのどこかにかんきんされているのでは)
られていた早苗さんも、今はこの船内のどこかに監禁されているのでは
(ないだろうか。それはともかく、われわれはめをてんじて、つぎのへやのいりぐちを)
ないだろうか。それはともかく、われわれは眼を転じて、次の部屋の入り口を
(ながめなければならない。そこにまた、べつのいちじんぶつがたちはだかっていたからだ。)
眺めなければならない。そこにまた、別の一人物が立ちはだかっていたからだ。
(きんもーるのきしょうのついたせんいんぼう、くろいふちとりのつめえりふく、ふつうのしょうせんとなれば、)
金モールの徽章のついた船員帽、黒い縁とりの詰襟服、普通の商船となれば、
(じむちょうといったふうていのおとこである。だがこのおとこも、どっかでみかけたような)
事務長といった風体の男である。だがこの男も、どっかで見かけたような
(きがする。ひしゃげたはな、がんじょうなこっかく、まるでけんとうせんしゅみたいなおとこだが・・・・・・)
気がする。ひしゃげた鼻、頑丈な骨格、まるで拳闘選手みたいな男だが……
(ああ、わかった、あいつだ。とうきょうのkほてるで、やまかわはかせにばけてさなえさんを)
ああ、わかった、あいつだ。東京のKホテルで、山川博士に化けて早苗さんを
(ゆうかいした、けんとうふりょうせいねん、くろとかげ にいのちをささげたこぶんのひとり、あまみやじゅんいち、)
誘拐した、拳闘不良青年、「黒トカゲ」に命をささげた子分の一人、雨宮潤一、
(じゅんちゃんのへんそうすがたであった。まあ、あんたまで、そんなこときにかけて)
潤ちゃんの変装姿であった。「まあ、あんたまで、そんなこと気にかけて
(いるの。いやだわねえ。おとこのくせにおばけがこわくって?くろとかげ は、れいの)
いるの。いやだわねえ。男のくせにお化けが怖くって?」「黒トカゲ」は、例の
(ながいすにゆったりともたれて、うつくしいかおでせせらわらってみせた。きみが)
長椅子にゆったりともたれて、美しい顔でせせら笑って見せた。「気味が
(わるいのですよ。なんだかへんなぐあいですからね。それに、ふねのやつらは、)
わるいのですよ。なんだかへんなぐあいですからね。それに、船のやつらは、
(そろいもそろってめいしんかときている。あんただって、あいつらがものかげでぼそぼそ)
揃いも揃って迷信家ときている。あんただって、あいつらが物蔭でボソボソ
(ささやいているのをきいたら、きっといやなきがしますぜ ふねのどうように)
ささやいているのを聞いたら、きっといやな気がしますぜ」船の動揺に
(よろよろとよろけながら、じゅんちゃんのじむちょうはさもぶきみそうなかおをする。)
よろよろとよろけながら、潤ちゃんの事務長はさも無気味そうな顔をする。
(しつないには、しゃんでりやがあかあかとついているけれど、てっぱんのかべひとえそとは、)
室内には、シャンデリヤがあかあかとついているけれど、鉄板の壁一重そとは、
(とっぷりとひがくれて、みわたすかぎりくろいみず、くろいそら、しずかだとはいっても、)
とっぷりと日が暮れて、見渡すかぎり黒い水、黒い空、静かだとはいっても、
(やまのようなうねりが、あいだをおいてはおしよせてくる、そのたびごとに、あわれな)
山のようなうねりが、間をおいては押し寄せてくる、そのたびごとに、あわれな
(こぶねは、むげんのくらやみにただよういちまいのらくようのように、たよりなくゆれて)
小船は、無限の暗闇にただよう一枚の落葉のように、たよりなくゆれて
(いるのだ。いったいどんなことがあったっていうの?くわしくはなして)
いるのだ。「一体どんなことがあったっていうの?くわしく話して
(ごらんなさい。そのおばけをだれがみたの?だれもすがたをみたものは)
ごらんなさい。そのお化けをだれが見たの?」「だれも姿を見たものは
(ありません。しかし、そいつのこえは、きたむらとあいだのふたりが、べつべつのじかんに、)
ありません。しかし、そいつの声は、北村と合田の二人が、別々の時間に、
(たしかにきいたっていうんです。ひとりならともかく、ふたりまで、おなじこえに)
たしかに聞いたっていうんです。一人ならともかく、二人まで、同じ声に
(でっくわしたんですからね どこで?れいのおきゃくさんのへやです まあ、)
出っくわしたんですからね」「どこで?」「例のお客さんの部屋です」「まあ、
(さなえさんのへやで そうですよ。きょうおひるごろに、きたむらがどあのまえをとおり)
早苗さんの部屋で」「そうですよ。きょうお昼頃に、北村がドアの前を通り
(かかると、へやのなかで、ひくいこえでぼそぼそものをいっているやつがあったんです。)
かかると、部屋の中で、低い声でボソボソ物をいっているやつがあったんです。
(あんたもぼくも、みんなしょくどうにいたときですよ。さなえさんはれいのさるぐつわをはめて)
あんたも僕も、みんな食堂にいた時ですよ。早苗さんは例の猿ぐつわをはめて
(あるんだから、ものをいうはずはない。ひょっとしたらすいふかなにかがいたずらを)
あるんだから、物をいうはずはない。ひょっとしたら水夫か何かがいたずらを
(しているんじゃないかとおもって、どあをあけようとすると、そとからじょうが)
しているんじゃないかと思って、ドアをあけようとすると、そとから錠が
(かかったままになっている。きたむらはへんにおもって、おおいそぎでかぎをとってきて、)
かかったままになっている。北村はへんに思って、大急ぎで鍵を取ってきて、
(どあをあけてみたというのです さるぐつわがとれていたんじゃない?そして、)
ドアをあけて見たというのです」「猿ぐつわがとれていたんじゃない?そして、
(あのおじょうさん、またのろいのことばでもつぶやいていたんじゃない?ところが、)
あのお嬢さん、また呪いの言葉でもつぶやいていたんじゃない?」「ところが、
(さるぐつわはちゃんとはめてあったのです。りょうてをしばったなわもべつにゆるんで)
猿ぐつわはちゃんとはめてあったのです。両手を縛った縄もべつにゆるんで
(なんかいなかったのです。むろんへやのなかには、さなえさんのほかにだれも)
なんかいなかったのです。むろん部屋の中には、早苗さんのほかにだれも
(いやあしない。きたむらはそれをみて、なんだかぞーっとしたっていいます)
いやあしない。北村はそれを見て、なんだかゾーッとしたって言います」