黒蜥蜴37

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投稿者投稿者桃仔いいね3お気に入り登録
プレイ回数1630難易度(4.5) 4225打 長文 長文モード可
明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 ひま 5097 B+ 5.4 93.2% 778.3 4276 309 61 2024/10/15

関連タイピング

問題文

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(きょうふびじゅつかん)

恐怖美術館

(さなえさんは、ほんせんからぼーとにのりうつるさいに、げんじゅうなめかくしをされたままで)

早苗さんは、本船からボートに乗り移る際に、厳重な眼かくしをされたままで

(あったから、ぼーとがどこへついたのか、じょうりくしてどこをどうあるいたのか、)

あったから、ボートがどこへ着いたのか、上陸してどこをどう歩いたのか、

(ここはちじょうなのかちかなのか、まったくそうぞうさえつかなかった。さなえさん、)

ここは地上なのか地下なのか、全く想像さえつかなかった。「早苗さん、

(ずいぶんきゅうくつなおもいをさせたわね。さあもういいのよ。じゅんちゃん、すっかり)

ずいぶん窮屈な思いをさせたわね。さあもういいのよ。潤ちゃん、すっかり

(じゆうにしてあげるといいわ くろとかげ のしんせつらしいこえがしたかとおもうと、)

自由にして上げるといいわ」「黒トカゲ」の親切らしい声がしたかと思うと、

(さるぐつわやりょうてのなわがじゅんじにほどかれていって、がんかいがぱっとあかるくなった。)

猿ぐつわや両手の縄が順次にほどかれていって、眼界がパッと明かるくなった。

(ながいあいだくらいめかくしにおさえつけられていたかのじょのめには、まぶしいほどの)

長いあいだ暗い眼かくしに押さえつけられていた彼女の眼には、まぶしいほどの

(あかるさであった。そこは、てんじょうもゆかも、さゆうのかべも、こんくりーとでかためた、)

明かるさであった。そこは、天井も床も、左右の壁も、コンクリートで固めた、

(ながいまがりまがったろうかのようなばしょであった。てんじょうからは、かびな)

長い曲がり曲がった廊下のような場所であった。天井からは、華美な

(きりこがらすのしゃんでりやがさがっていた。そのきらきらとまぶしいひかりに)

切子ガラスのシャンデリヤが下がっていた。そのキラキラとまぶしい光に

(てらされて、さゆうのかべぎわにずらりとならんだがらすばりのちんれつだい。そのなかには、)

照らされて、左右の壁ぎわにズラリと並んだガラス張りの陳列台。その中には、

(あらゆるけいじょうのほうぎょくが、しゃんでりやのひかりをうけて、むすうのほしのように)

あらゆる形状の宝玉が、シャンデリヤの光を受けて、無数の星のように

(きらめいていた。さなえさんは、あまりのうつくしさ、ごうかさに、とらわれのみをも)

きらめいていた。早苗さんは、あまりの美しさ、豪華さに、捕われの身をも

(わすれて、おもわずあっとかんたんのこえをあげた。ひごろほうせきるいはあきあきするほど)

忘れて、思わずアッと感嘆の声を上げた。日頃宝石類はあきあきするほど

(みなれているはずのだいほうせきしょうのむすめさんが、こえをたてておどろいたのだ。そこに)

見なれているはずの大宝石商の娘さんが、声を立てて驚いたのだ。そこに

(あつまっていたほうせきのしつとりょうとがいかにすばらしいものであったかは、)

集まっていた宝石の質と量とがいかにすばらしいものであったかは、

(くだくだしくとくまでもないであろう。まあかんしんしてくれたのね。)

くだくだしく説くまでもないであろう。「まあ感心してくれたのね。

(これあたしのびじゅつかんなのよ。いいえ、びじゅつかんのほんのいりぐちなのよ。どう?)

これあたしの美術館なのよ。いいえ、美術館のほんの入り口なのよ。どう?

(あんたのおみせのちんれつとくらべて、まさかみおとりはしないでしょう。じゅうなんねんの)

あんたのお店の陳列とくらべて、まさか見おとりはしないでしょう。十何年の

など

(あいだ、いのちをかけて、ちえというちえをしぼり、きけんというきけんをおかして、)

あいだ、命をかけて、智恵という智恵をしぼり、危険という危険をおかして、

(しゅうしゅうしたんだもの。せかいじゅうのどんなこうきのおかたのほうせきぐらにだって、これほどの)

収集したんだもの。世界中のどんな高貴のお方の宝石蔵にだって、これほどの

(かずはあつまっていないとおもうわ くろこふじんはほこらしげにせつめいしながら、れいのだいほうぎょく)

数は集まっていないと思うわ」黒衣婦人は誇らしげに説明しながら、例の大宝玉

(えじぷとのほし をおさめたぎんせいのこばこをとりだした。あんたのおとうさまには)

「エジプトの星」をおさめた銀製の小函を取り出した。「あんたのお父さまには

(ちっとばかりおきのどくだったけれど、これ、あたしのながいあいだの)

ちっとばかりお気の毒だったけれど、これ、あたしの長いあいだの

(ねんがんだったのよ。きょうこそ、それがこのびじゅつかんへおさまることに)

念願だったのよ。きょうこそ、それがこの美術館へおさまることに

(なったのだわ ぱちんとこばこのふたをひらくと、しゃんでりやのひかりをうけて、)

なったのだわ」パチンと小函の蓋をひらくと、シャンデリヤの光を受けて、

(ごしきのほのおともえたつだいほうせき。くろとかげ は、さもうれしげに、それを)

五色の焔と燃え立つ大宝石。「黒トカゲ」は、さも嬉しげに、それを

(ながめていたが、やがてはんど・ばっぐからかぎたばをとりだし、ひとつのかざりだいの)

眺めていたが、やがてハンド・バッグから鍵束を取り出し、一つの飾り台の

(がらすどをひらき、ぎんきのふたをひらいたまま、そのおおだいやもんどをちゅうおうに)

ガラス戸をひらき、銀器の蓋をひらいたまま、その大ダイヤモンドを中央に

(あんちした。まあ、なんてすばらしいのでしょう。ほかのほうせきなんか、みんな)

安置した。「まあ、なんてすばらしいのでしょう。ほかの宝石なんか、みんな

(いしころかなんぞのようね。これであたしのびじゅつかんのめいぶつが、ひとつふえたって)

石ころかなんぞのようね。これであたしの美術館の名物が、一つ増えたって

(わけだわ。さなえさん、ありがとう ひにくをいったわけではないのだが、)

わけだわ。早苗さん、ありがとう」皮肉をいったわけではないのだが、

(さなえさんに、どうこたえることばがあろう。かのじょはかなしげにめをふせたまま)

早苗さんに、どう答える言葉があろう。彼女は悲しげに眼を伏せたまま

(だまっていた。さあ、ではもっとおくへいきましょう。あんたにみせるものが、)

だまっていた。「さあ、ではもっと奥へ行きましょう。あんたに見せるものが、

(まだまだたくさんあるんだから それから、ちていのかいろうをすすむにつれて、)

まだまだたくさんあるんだから」それから、地底の廻廊を進むにつれて、

(ふるめかしいめいがをかけならべたいっかくがあるかとおもうと、そのとなりにはぶつぞうのむれ、)

古めかしい名画を懸け並べた一郭があるかと思うと、その隣には仏像の群、

(それからせいようもののだいりせきぞう、ゆいしょありげなこだいこうげいひん、まことにびじゅつかんのなに)

それから西洋ものの大理石像、由緒ありげな古代工芸品、まことに美術館の名に

(そむかぬほうふなちんれつひんであった。しかも、くろこふじんのせつめいによれば、それらの)

そむかぬ豊富な陳列品であった。しかも、黒衣婦人の説明によれば、それらの

(びじゅつこうげいひんのたいはんは、かくちのはくぶつかん、びじゅつかん、きぞくふごうのほうこにおさまっていた)

美術工芸品の大半は、各地の博物館、美術館、貴族富豪の宝庫におさまっていた

(ちょめいのしなを、たくみなもぞうひんとすりかえて、ほんもののほうをこのちていびじゅつかんへ)

著明の品を、たくみな模造品とすりかえて、本物の方をこの地底美術館へ

(おさめてあるのだという。もしそれがじじつとすれば、はくぶつかんはもぞうひんを)

おさめてあるのだという。もしそれが事実とすれば、博物館は模造品を

(とくとくとしててんらんにきょうし、きぞくふごうはもぞうひんをでんらいのかほうとしてちんぞうしている)

得々として展覧に供し、貴族富豪は模造品を伝来の家宝として珍蔵している

(ことになる。しかも、しょゆうしゃはもちろん、せけんいっぱんも、すこしもこれを)

ことになる。しかも、所有者はもちろん、世間一般も、少しもこれを

(あやしまないとは、なんというおどろくべきことであろう。でも、これでは、)

怪しまないとは、なんという驚くべきことであろう。「でも、これでは、

(よくできたしせつはくぶつかんというだけのことだわね。すこしあたまのはたらく、しりょくのある)

よくできた私設博物館というだけのことだわね。少し頭のはたらく、資力のある

(ぞくならば、だれだってまねのできることだわ。あたしはこんなもので)

賊ならば、だれだってまねのできることだわ。あたしはこんなもので

(じまんしようなんておもっていやしない。さなえさんにぜひみてもらいたいものは、)

自慢しようなんて思っていやしない。早苗さんにぜひ見てもらいたいものは、

(まだこのさきにあるのよ そして、かのじょらが、かいろうのかどをまがると、そこには、)

まだこの先にあるのよ」そして、彼女らが、廻廊の角を曲がると、そこには、

(これまでとはまったくちがった、ふしぎなこうけいがひらけていた。おや、これは)

これまでとは全く違った、不思議な光景がひらけていた。おや、これは

(ろうにんぎょうではないか。だが、なんとよくできたろうにんぎょうであろう。いっぽうのかべが、)

蝋人形ではないか。だが、なんとよくできた蝋人形であろう。一方の壁が、

(ながささんけんほど、しょう・うぃんどうのようながらすばりになって、そのなかに、)

長さ三間ほど、ショウ・ウィンドウのようなガラス張りになって、その中に、

(せいようじんのおんながひとり、くろんぼうのおとこがひとり、にほんのせいねんとしょうじょとがひとりずつ、)

西洋人の女が一人、黒ン坊の男が一人、日本の青年と少女とが一人ずつ、

(つごうよにんのだんじょが、ぜんらたいで、あるものはたちはだかり、あるものはうずくまり)

つごう四人の男女が、ぜんら体で、ある者は立ちはだかり、ある者はうずくまり

(あるものはねそべっているのだ。ふしくれだったうでをくんで、におうだちになった、)

あるものは寝そべっているのだ。節くれ立った腕をくんで、仁王立ちになった、

(けんとうせんしゅのようなこくじん。しゃがんだひざのうえに、りょうひじをもたせて、ほおづえを)

拳闘選手のような黒人。しゃがんだ膝の上に、両肘をもたせて、頬杖を

(ついているきんぱつむすめ。ながながとうつぶせにねそべって、くろかみをかたのあたりに)

ついている金髪娘。長々とうつぶせに寝そべって、黒髪を肩のあたりに

(ふさふさとなみうたせ、かさねたうでにあごをのせて、じっとこちらをみつめている)

ふさふさと波打たせ、重ねた腕に顎をのせて、じっとこちらを見つめている

(にほんむすめ。えんばんなげのしせいでからだじゅうのきんにくをりゅうきさせているにほんせいねん。)

日本娘。円盤投げの姿勢でからだじゅうの筋肉を隆起させている日本青年。

(それらのだんじょはことごとく、ようぼうといいにくたいといい、くらべるものもないほど、)

それらの男女はことごとく、容貌といい肉体といい、比べるものもないほど、

(うつくしいのである。)

美しいのである。

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