黒蜥蜴43
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | ひま | 5220 | B+ | 5.6 | 92.3% | 842.5 | 4794 | 396 | 69 | 2024/10/18 |
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問題文
(りこんびょう)
離魂病
(あまみやじゅんいちは、おりのなかのせいねんを、いったいどんなこうじつでだましおおせたのか、それから)
雨宮潤一は、檻の中の青年を、一体どんな口実でだましおおせたのか、それから
(しばらくすると、きをうしなったようにぐったりとしたぜんらのおとめを、こわきに)
しばらくすると、気を失ったようにグッタリとしたぜんらの乙女を、小脇に
(かかえて、れいのがらすばりのだいすいそうのまえへやってきた。すいそうのよこにすいちょくのはしごが)
かかえて、例のガラス張りの大水槽の前へやってきた。水槽の横に垂直の梯子が
(かかっている。かれはさなえさんをだいたままそれをのぼって、じょうぶのあしだまりに)
かかっている。彼は早苗さんを抱いたままそれを登って、上部の足だまりに
(たつと、てっぱんでできたすいそうのふたをひらいてかのじょのからだをすいちゅうへなげこんだ。)
立つと、鉄板でできた水槽の蓋をひらいて彼女のからだを水中へ投げこんだ。
(それから、ふたをもとどおりしめて、はしごをおり、くろとかげ のししつのどあをほそめに)
それから、蓋を元通り閉めて、梯子を降り、「黒トカゲ」の私室のドアを細目に
(ひらいて、そのすきまからこえをかけた。まだむ、おめいじのとおりはこびましたよ。)
ひらいて、そのすき間から声をかけた。「マダム、お命じの通り運びましたよ。
(さなえさんはいま、たんくのなかでおよいでいるさいちゅうですぜ。はやくみてやってください)
早苗さんは今、タンクの中で泳いでいる最中ですぜ。早く見てやってください」
(それからかれはしょっこうふくのぽけっとから、ちいさくたたんだいちまいのしんぶんしをとりだすと)
それから彼は職工服のポケットから、小さくたたんだ一枚の新聞紙を取り出すと
(それをひろげ、たんくのよこのいすのうえへそっとおいて、なぜかいそぎあしで、ろうかの)
それをひろげ、タンクの横の椅子の上へソッと置いて、なぜか急ぎ足で、廊下の
(むこうへたちさっていった。それといきちがいに、どあがひらいてくろこふじんが)
向こうへ立ち去って行った。それと行きちがいに、ドアがひらいて黒衣婦人が
(あらわれ、つかつかとすいそうのまえにちかづいていった。すいそうのあおみがかったみずは、)
現われ、ツカツカと水槽の前に近づいて行った。水槽の蒼味がかった水は、
(がらすいたのむこうがわで、ひどくどうようしていた。そこにはだいしょうさまざまのかいそうが)
ガラス板の向こう側で、ひどく動揺していた。底には大小さまざまの海藻が
(むすうのへびのようにかまくびをもたげて、あわただしくゆれうごいていた。そして、)
無数の蛇のように鎌首をもたげて、あわただしくゆれ動いていた。そして、
(そのなかをおよぎもがくらじょのすがた・・・・・・ぜんやさなえさんがげんそうしたこうけいが、)
その中を泳ぎもがく裸女の姿……前夜早苗さんが幻想した光景が、
(そっくりそのままじつげんしたのであった。くろこふじんのりょうめはざんぎゃくにかがやき、)
そっくりそのまま実現したのであった。黒衣婦人の両眼は残虐にかがやき、
(あおざめたほおはこうふんのためにいようにふるえて、りょうのこぶしをかたくにぎりしめ、)
青ざめた頬は昂奮のために異様にふるえて、両のこぶしをかたくにぎりしめ、
(はをくいしばりながら、すいそうにみいっていたが、かのじょはふと、らじょのようすが)
歯を喰いしばりながら、水槽に見入っていたが、彼女はふと、裸女の様子が
(いつものようにかっぱつでないことにきづいた。かっぱつでないどころか、じつはもがきも)
いつものように活溌でないことに気づいた。活溌でないどころか、実はもがきも
(なんにもしていないのだ。そんなふうにみえたのは、どうようするみずのためで、むすめの)
なんにもしていないのだ。そんなふうに見えたのは、動揺する水のためで、娘の
(しろいからだは、ただみずのまにまにゆらめいていたにすぎないことがわかって)
白いからだは、ただ水のまにまにゆらめいていたにすぎないことがわかって
(きた。きのよわいさなえさんは、すいそうにはいるまえに、すでにしっしんしていたので、)
きた。気の弱い早苗さんは、水槽にはいる前に、すでに失神していたので、
(すいちゅうのくもんをあじわわなくてすんだのであろうか。だが、どうもそれだけでは)
水中の苦悶を味わわなくてすんだのであろうか。だが、どうもそれだけでは
(ないらしい。みていると、すいちゅうのむすめのからだがじょじょにかいてんして、いままで)
ないらしい。見ていると、水中の娘のからだが徐々に廻転して、今まで
(むこうがわにあったかおが、しょうめんのがらすいたにあらわれた。おや、これがさなえさんの)
向こう側にあった顔が、正面のガラス板に現われた。おや、これが早苗さんの
(かおだろうか。いやいや、いくらみずのなかだといって、こんなそうごうにかわるはずは)
顔だろうか。いやいや、いくら水の中だといって、こんな相好に変るはずは
(ない。ああ、わかった、わかった。これはさなえさんではなくて、)
ない。ああ、わかった、わかった。これは早苗さんではなくて、
(あのにんぎょうちんれつしょにかざってあったはくせいのにほんむすめではないか。だがいったいぜんたいどうして)
あの人形陳列所に飾ってあった剥製の日本娘ではないか。だが一体全体どうして
(こんなまちがいがおこったのであろう。だれか、だれかいないかい。じゅんちゃんは)
こんな間違いが起こったのであろう。「だれか、だれかいないかい。潤ちゃんは
(どこへいったの くろこふじんはわれをわすれておおごえにさけびたてた。すると、ぶかの)
どこへ行ったの」黒衣婦人はわれを忘れて大声に叫び立てた。すると、部下の
(おとこたちが、はくせいにんぎょうちんれつしょのほうから、どやどやとやってきたが、かれらのほうにも)
男たちが、剥製人形陳列所の方から、ドヤドヤとやってきたが、彼らの方にも
(なにかいへんがあったのか。いちどうかおいろがかわっている。まだむ、またへんなことが)
何か異変があったのか。一同顔色が変っている。「マダム、またへんなことが
(おっぱじまったのですよ。にんぎょうがひとりたりねえんだ。さっききものをぬがせたり、)
おっぱじまったのですよ。人形が一人足りねえんだ。さっき着物を脱がせたり、
(ほうせきをかたづけたりしたときにはちゃんとあったんですが、いまみると、ほら、)
宝石をかたづけたりした時にはちゃんとあったんですが、今見ると、ほら、
(あのねそべっているむすめさんね、あれがひとりだけゆくえふめいなんです ひとりのおとこが、)
あの寝そべっている娘さんね、あれが一人だけ行方不明なんです」一人の男が、
(あわただしくほうこくした。だが、それはくろこふじんのほうではせんこくしょうちのことで)
あわただしく報告した。だが、それは黒衣婦人の方では先刻承知のことで
(あった。おまえたち、おりのなかをみなかった?さなえさんはまだおりのなかにいたかい)
あった。「お前たち、檻の中を見なかった?早苗さんはまだ檻の中にいたかい」
(いいえ、おとこひとりっきりですぜ。さなえさんといやあ、じゅんちゃんがそのたんくの)
「いいえ、男一人っきりですぜ。早苗さんといやあ、潤ちゃんがそのタンクの
(なかへほうりこんだんじゃありませんかい ああ、ほうりこんだには)
中へほうりこんだんじゃありませんかい」「ああ、ほうりこんだには
(ほうりこんだけれど、さなえさんでなくて、よくごらん、おまえたちがさがしている)
ほうりこんだけれど、早苗さんでなくて、よくごらん、お前たちが探している
(はくせいにんぎょうなんだよ そういわれておとこたちはすいそうをのぞきこんだが、いかにも)
剥製人形なんだよ」そういわれて男たちは水槽をのぞきこんだが、いかにも
(そのなかにういているのは、ふんしつしたはくせいにんぎょうにちがいなかった。はあてね、)
その中に浮いているのは、紛失した剥製人形に違いなかった。「はあてね、
(こいつあめんようだわい。だれがいったいこんなまねをしたんですい?じゅんちゃんよ。)
こいつあ面妖だわい。だれが一体こんなまねをしたんですい?」「潤ちゃんよ。
(おまえたちじゅんちゃんをみかけなかったかい。いまここにいたばかりなんだが)
お前たち潤ちゃんを見かけなかったかい。今ここにいたばかりなんだが」
(みかけませんでしたよ。せんせいきょうはなんだかひどくおこりっぽいんですぜ。)
「見かけませんでしたよ。先生きょうはなんだかひどく怒りっぽいんですぜ。
(ぼくたちをなにかじゃまものみたいに、あっちへいけ、あっちへいけって、)
僕たちを何か邪魔者みたいに、あっちへ行け、あっちへ行けって、
(おいまくるんですからね ふーん、それはみょうね。でもどこへ)
追いまくるんですからね」「フーン、それは妙ね。でもどこへ
(いったんでしょう。そとへでるはずはないんだから、おまえたちよくさがして)
行ったんでしょう。そとへ出るはずはないんだから、お前たちよく探して
(ごらん。そして、いたら、すぐくるようにってね おとこたちが、ひきさがって)
ごらん。そして、いたら、すぐくるようにってね」男たちが、引き下がって
(いくと、くろこふじんはなにかふあんらしく、じっとくうをみつめてかんがえごとをしていた。)
行くと、黒衣婦人は何か不安らしく、じっと空を見つめて考えごとをしていた。
(いったいこれはどうしたことであろう。きせんのかふがゆくえふめいになってしまった。)
一体これはどうしたことであろう。汽船の火夫が行方不明になってしまった。
(それから、はくせいにんぎょうのいへんがおこった。いまはまた、さなえさんであるべきはずの)
それから、剥製人形の異変が起こった。今はまた、早苗さんであるべきはずの
(むすめが、はくせいにんぎょうにはやがわりしてしまった。これらのきみょうなできごとのあいだになにか)
娘が、剥製人形に早変りしてしまった。これらの奇妙な出来事のあいだに何か
(れんらくがあるのではないかしら。ぐうぜんのいっちともおもわれぬふしがみえるではないか。)
連絡があるのではないかしら。偶然の一致とも思われぬ節が見えるではないか。
(なにかしらじんりきいじょうのおそろしいちからがはたらいているようなきがする。それはいったい)
何かしら人力以上の恐ろしい力が働いているような気がする。それは一体
(なんであろう・・・・・・ああ、もしかしたら。いやいや、そんなばかなことがあって)
なんであろう……ああ、もしかしたら。いやいや、そんなばかなことがあって
(たまるものか。だんじて、だんじて、そんなことはありゃあしない。くろこふじんは)
たまるものか。断じて、断じて、そんなことはありゃあしない。黒衣婦人は
(しんじゅうにわきあがってくるおおきなばけものみたいなものを、おさえつけるのに)
心中に湧き上がってくる大きな化物みたいなものを、押さえつけるのに
(いっしょけんめいだった。さすがのにょぞくも、からだじゅうにつめたいあぶらあせがじっとりと)
一所懸命だった。さすがの女賊も、からだじゅうに冷たい脂汗がじっとりと
(うかんでくるほどのおそろしいふあんになやまされていた。やがて、かのじょは)
浮かんでくるほどの恐ろしい不安になやまされていた。やがて、彼女は
(そこにあったいすにこしかけようとして、ひょいとそのうえのしんぶんにきがついた。)
そこにあった椅子に腰かけようとして、ヒョイとその上の新聞に気がついた。
(さいぜんあまみやじゅんいちがなにかいみありげにひろげておいたしんぶんである。はじめは)
さいぜん雨宮潤一が何か意味ありげにひろげておいた新聞である。はじめは
(なにげなく、やがてひじょうにしんけんなひょうじょうになって、くろこふじんのめが、)
なにげなく、やがて非常に真剣な表情になって、黒衣婦人の眼が、
(そのしんぶんきじにすいよせられていった。)
その新聞記事に吸い寄せられて行った。
(あけちめいたんていのしょうり いわせさなえじょうぶじにかえる ほうせきおういっかのよろこび)
「明智名探偵の勝利――岩瀬早苗嬢無事に帰る――宝石王一家の喜び――」
(さんだんぬきのおおみだしが、しんじがたいいみをもってにょぞくをとらえたのだ。かのじょは)
三段抜きの大見出しが、信じがたい意味をもって女賊を捉えたのだ。彼女は
(おおいそぎでしんぶんをひろいとると、そのいすにかけてねっしんによみはじめた。)
大急ぎで新聞を拾い取ると、その椅子にかけて熱心に読みはじめた。
(きじのないようはたいりゃくさのようなものであった。)
記事の内容は大略左のようなものであった。