黒蜥蜴44

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プレイ回数1270難易度(4.2) 4179打 長文 かな 長文モード可
明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。

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問題文

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(かいぞく くろとかげ のためにゆうかいされたとしんじられていたほうせきおういわせしのあいじょう)

怪賊「黒トカゲ」のために誘拐されたと信じられていた宝石王岩瀬氏の愛嬢

(さなえさんが、さくなのかごごいわせけのほんていにきたくした。たんぶんするところによると、)

早苗さんが、昨七日午後岩瀬家の本邸に帰宅した。探聞するところによると、

(いわせしはれいじょうのみがわりとしてだいほうぎょく えじぷとのほし をぞくにあたえたもようで)

岩瀬氏は令嬢の身代りとして大宝玉「エジプトの星」を賊に与えた模様で

(あるから、ぞくはやくそくをまもってれいじょうをおくりかえしたのであろうか。きしゃはそのように)

あるから、賊は約束を守って令嬢を送り返したのであろうか。記者はそのように

(かんがえて、いわせしょうべえしとさなえじょうにめんかいしたのだが、りょうにんともこれはまったく)

考えて、岩瀬庄兵衛氏と早苗嬢に面会したのだが、両人ともこれは全く

(しりつたんていあけちこごろうしのじんりょくによるものであって、けっしてぞくがやくそくを)

私立探偵明智小五郎氏の尽力によるものであって、決して賊が約束を

(まもったわけではない。しかし、くわしいことはいまもうしあげかねるじじょうがあるから)

守ったわけではない。しかし、詳しいことはいま申しあげかねる事情があるから

(ふかくたずねないでくれとのいがいなことばであった。かいぞく くろとかげ はいったいどこに)

深く尋ねないでくれとの意外な言葉であった。怪賊「黒トカゲ」は一体どこに

(すがたをひそめているのであろうか。もんだいのあけちたんていは、たんしん くろとかげ のあとを)

姿をひそめているのであろうか。問題の明智探偵は、単身「黒トカゲ」の後を

(おって、いまのところゆくえふめいのよしであるが、めいたんていとかいとうとのいっきうちは)

追って、今のところ行方不明のよしであるが、名探偵と怪盗との一騎討ちは

(はたしていずれのしょうりとなるであろうか。めいぎょく えじぷとのほし はふたたびいわせしの)

果たしていずれの勝利となるであろうか。名玉「エジプトの星」は再び岩瀬氏の

(てにもどるかいなか。われらはかぎりなきふあんをもってつぎのほうちをまつものである。)

手にもどるか否か。われらは限りなき不安をもって次の報知を待つものである。

(そして よろこびのおやこ とだいするおおきなしゃしんばんがかかげられ、いわせしと)

そして「喜びの親子」と題する大きな写真版がかかげられ、岩瀬氏と

(さなえさんとが、おうせつしつのいすにもたれて、にこにこわらっているかおが、めいりょうに)

早苗さんとが、応接室の椅子にもたれて、ニコニコ笑っている顔が、明瞭に

(いんさつされていた。このしんじがたい、まるでかいだんのようなしんぶんきじをよみ、)

印刷されていた。この信じがたい、まるで怪談のような新聞記事を読み、

(しゃしんをみると、さすがのにょぞくも、めったにみせたことのないおどろきのいろを、)

写真を見ると、さすがの女賊も、めったに見せたことのない驚きの色を、

(そのうつくしいかおにあらわさないではいられなかった。おどろきというよりは、なんとも)

その美しい顔に現わさないではいられなかった。驚きというよりは、なんとも

(けいようのできないきょうふであった。それはきのうのひづけのおおさかのだいしんぶんであったが、)

形容のできない恐怖であった。それはきのうの日付の大阪の大新聞であったが、

(きじちゅうに さくなのか とあるのは、ちょうどぜんぜんじつ、くろとかげ のきせんが)

記事中に「昨七日」とあるのは、ちょうど前々日、「黒トカゲ」の汽船が

(おおさかわんをこうかいしていたときにあたる。そのひ、さなえさんは、ちゃんとふねのなかに)

大阪湾を航海していた時にあたる。その日、早苗さんは、ちゃんと船の中に

など

(いたのだ。いや、そのひばかりではない。きのうもきょうも、ついいましがたまで)

いたのだ。いや、その日ばかりではない。きのうもきょうも、つい今しがたまで

(おりのなかにまっぱだかでふるえていたではないか。これはいったいどうしたことなのだ。)

檻の中にまっぱだかで震えていたではないか。これは一体どうしたことなのだ。

(まさかこれほどのだいしんぶんが、まちがったきじをのせるはずはない。いや、なによりも)

まさかこれほどの大新聞が、間違った記事をのせるはずはない。いや、何よりも

(たしかなのはしゃしんである。ふねのなかにとらわれていたはずのさなえさんが、)

確かなのは写真である。船の中にとらわれていたはずの早苗さんが、

(おなじそのひに、いっぽうではおおさかこうがいのいわせていでにこにこわらってすわっているなんて、)

同じその日に、一方では大阪郊外の岩瀬邸でニコニコ笑って坐っているなんて、

(こんなへんてこなことがありえるだろうか。そうめいなくろこふじんにも、)

こんなへんてこなことがあり得るだろうか。聡明な黒衣婦人にも、

(このききかいかいななぞだけは、どうにもとくすべがなかった。かのじょはいま、)

この奇々怪々な謎だけは、どうにも解くすべがなかった。彼女は今、

(うまれてはじめての、なんともえたいのしれぬきょうふにうちのめされて、かおは)

生れてはじめての、なんともえたいの知れぬ恐怖にうちのめされて、顔は

(しにんのようにあおざめ、ひたいにはあぶらあせのたまがむざんににじみだしていた。)

死人のように青ざめ、額には脂汗の玉が無残ににじみ出していた。

(りこんびょう というみょうなことばが、ふとかのじょのあたまにうかんだ。ひとりのにんげんがふたりに)

「離魂病」という妙な言葉が、ふと彼女の頭に浮かんだ。一人の人間が二人に

(なって、べつべつのこうどうをするという、ふかかいないいつたえである。おおむかしのそうしるいでも)

なって、別々の行動をするという、不可解な言い伝えである。大昔の草子類でも

(よんだことがある。がいこくのしんれいがくざっしでもみたことがある。しんれいげんしょうなどをまったく)

読んだことがある。外国の心霊学雑誌でも見たことがある。心霊現象などを全く

(しんじないげんじつかはだのくろこふじんではあったが、いまはそのしんじがたいものを)

信じない現実家肌の黒衣婦人ではあったが、今はその信じがたいものを

(しんじでもするほかに、かんがえようがないのである。そうしているところへ、)

信じでもするほかに、考えようがないのである。そうしているところへ、

(あまみやせいねんをさがしにいったおとこたちがどやどやかえってきて、どこをさがしても)

雨宮青年を探しに行った男たちがドヤドヤ帰ってきて、どこを探しても

(じゅんちゃんのすがたがみえないとほうこくした。いま、いりぐちのばんをしているのはだれなの)

潤ちゃんの姿が見えないと報告した。「今、入口の番をしているのはだれなの」

(くろこふじんはちからないこえでたずねた。きたむらですよ、だれもとおらないっていうんです。)

黒衣婦人は力ない声で尋ねた。「北村ですよ、だれも通らないっていうんです。

(あのおとこにかぎってまちがいはありませんからね じゃあ、このなかにいるはずじゃ)

あの男にかぎって間違いはありませんからね」「じゃあ、この中にいるはずじゃ

(ないか。まさか、けむりみたいにきえてなくなるはずはありやしない。もういちどよく)

ないか。まさか、煙みたいに消えてなくなるはずはありやしない。もう一度よく

(さがしてごらん。それから、さなえさんもよ。このたんくのなかのがそうじゃないと)

探してごらん。それから、早苗さんもよ。このタンクの中のがそうじゃないと

(すると、あのむすめもどこかにかくれているはずなんだから おとこたちは、しゅりょうの)

すると、あの娘もどこかに隠れているはずなんだから」男たちは、首領の

(あおざめたかおを、ふしんらしくじろじろとながめていたが、またふしょうぶしょうに、ろうかの)

青ざめた顔を、不審らしくジロジロと眺めていたが、また不承不承に、廊下の

(むこうへとひきかえしていこうとした。ああ、ちょっとおまち。おまえたちのうち)

向こうへと引き返して行こうとした。「ああ、ちょっとお待ち。お前たちのうち

(ふたりだけのこってね、このたんくのなかのにんぎょうをとりだしておくれ。ねんのために)

二人だけ残ってね、このタンクの中の人形を取り出しておくれ。念のために

(よくしらべてみたいんだから そこで、ふたりのおとこがのこって、はしごをのぼって、)

よく調べてみたいんだから」そこで、二人の男が残って、梯子を登って、

(だいすいそうのなかから、はくせいにんぎょうをだきおろし、ゆかのうえにながながとよこたえたのであるが、)

大水槽の中から、剥製人形を抱きおろし、床の上に長々と横たえたのであるが、

(そのぐったりとなったにんぎょうを、いくらねんいりにしらべてみても、さなえさんでない)

そのグッタリとなった人形を、いくら念入りにしらべてみても、早苗さんでない

(ことはいうまでもなく、おそろしいなぞをとくてがかりなどは、どこにも)

ことはいうまでもなく、恐ろしい謎を解く手がかりなどは、どこにも

(はっけんできないのであった。くろこふじんは、いらいらとそのへんをあるきまわっていたが、)

発見できないのであった。黒衣婦人は、イライラとその辺を歩き廻っていたが、

(またもとのいすにこしかけて、もういちどしんぶんきじをよみはじめた。なんどよんでも)

また元の椅子に腰かけて、もう一度新聞記事を読みはじめた。何度読んでも

(おなじことだ。さなえさんはふたりになったのだ。しゃしんのかおもさなえさんにまちがいは)

同じことだ。早苗さんは二人になったのだ。写真の顔も早苗さんに間違いは

(ない。そうしていると、とつぜん、かのじょのいすのうしろで、まだむとよぶこえがした。)

ない。そうしていると、突然、彼女の椅子のうしろで、マダムと呼ぶ声がした。

(くろこふじんはぎょっとしてふりかえったが、そこにたっているおとこをみると、まあ、)

黒衣婦人はギョッとしてふり返ったが、そこに立っている男を見ると、「まあ、

(じゅんちゃん、おまえどこへいっていたの としかるようにいった。そして、)

潤ちゃん、お前どこへ行っていたの」と叱るように言った。「そして、

(このしまつはいったいどうしたっていうのよ。さなえさんのかわりにこんなにんぎょうを)

この始末は一体どうしたっていうのよ。早苗さんのかわりにこんな人形を

(ほうりこんでおくなんて、いたずらもたいがいにするがいいじゃないか)

ほうりこんでおくなんて、いたずらも大概にするがいいじゃないか」

(だがあまみやせいねんは、だまってつったったまま、なにもこたえなかった。じらすように)

だが雨宮青年は、だまって突っ立ったまま、何も答えなかった。じらすように

(にやにやわらいながら、いつまでも、くろこふじんのかおをながめていた。)

ニヤニヤ笑いながら、いつまでも、黒衣婦人の顔を眺めていた。

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