黒蜥蜴46

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プレイ回数1365難易度(4.5) 2818打 長文 長文モード可
明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。

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問題文

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(おい、そこのおかた、てをあげてもらおう。じゅんちゃんのはなしをきくあいだ、)

「おい、そこのお方、手をあげてもらおう。潤ちゃんの話を聞くあいだ、

(おとなしくしているんだ じたいよういならずとさっしたくろこふじんは、すばやく)

おとなしくしているんだ」事態容易ならずと察した黒衣婦人は、すばやく

(よういのぴすとるをにぎって、しょっこうすがたのほうのじゅんいちせいねんにねらいをさだめた。)

用意のピストルをにぎって、職工姿の方の潤一青年にねらいを定めた。

(ことばはやさしいけれど、きらきらひかるがんしょくにけっしんのほどがあらわれている。)

言葉はやさしいけれど、キラキラ光る眼色に決心のほどが現われている。

(しょっこうふくはいわれるままに、おとなしくりょうてをあげたが、かおはあいかわらず)

職工服はいわれるままに、おとなしく両手をあげたが、顔は相変らず

(にやにやわらっている。うすきみのわるいおとこだ。さあ、じゅんちゃんはなしてごらん。)

ニヤニヤ笑っている。薄気味のわるい男だ。「さあ、潤ちゃん話してごらん。

(いったいこれはどうしたわけなの?じゅんちゃんはにわかにらたいをはじるように、)

一体これはどうしたわけなの?」潤ちゃんはにわかに裸体を恥じるように、

(からだをちぢめながら、はなしはじめた。みながゆうべここへついてから、)

からだをちぢめながら、話しはじめた。「皆がゆうべここへ着いてから、

(ぼくだけがもういちどほんせんへかえったのはごぞんじですね。あのときですよ。ほんせんのようじを)

僕だけがもう一度本船へ帰ったのはご存じですね。あの時ですよ。本船の用事を

(すませて、ぼーとでじょうりくすると、いつのまにか、こいつが・・・・・・かふのまつこうが)

すませて、ボートで上陸すると、いつの間にか、こいつが……火夫の松公が

(くらやみのなかをのそのそついてくるじゃありませんか。ぼくはおもいきりどなりつけて)

暗闇の中をノソノソついてくるじゃありませんか。僕は思いきり呶鳴りつけて

(やったんですが、すると、こいつめ、いきなりぼくにとびかかってきやあがった。)

やったんですが、すると、こいつめ、いきなり僕に飛びかかってきやあがった。

(ぼんくらのまつこうがあんなにつよいとはおもいもよらなかったですよ。このぼくを)

ボンクラの松公があんなに強いとは思いもよらなかったですよ。この僕を

(ひどいめにあわせやあがった。とうとうあてみでもってきをうしなってしまった。)

ひどい目にあわせやあがった。とうとう当身でもって気を失ってしまった。

(それから、どれほどたったか、ふとめをさますと、ぼくはてあしをしばられて、)

それから、どれほどたったか、ふと眼をさますと、僕は手足を縛られて、

(まっぱだかにされて、ここのものおきべやにころがされていたんです。)

まっぱだかにされて、ここの物置き部屋にころがされていたんです。

(どなろうとしても、さるぐつわがはめてあるので、どうにもならねえ。)

どなろうとしても、猿ぐつわがはめてあるので、どうにもならねえ。

(もがいていると、こいつがものおきべやへはいってきやあがった。みると、)

もがいていると、こいつが物置き部屋へはいってきやあがった。見ると、

(ちゃんとぼくのしょっこうふくをきているんです。ふくばかりじゃない、つけひげまでして、)

ちゃんと僕の職工服を着ているんです。服ばかりじゃない、つけひげまでして、

(なんてへんそうのうまいやつでしょう。ぼくとそっくりのかおつきをしているじゃ)

なんて変装のうまいやつでしょう。僕とそっくりの顔つきをしているじゃ

など

(ありませんか。ははあ、こいつおれにばけてなにかひとしごとたくらんでいるな。)

ありませんか。ははあ、こいつおれに化けて何か一仕事たくらんでいるな。

(みかけによらないあくとうだわい、とかんづいたけれど、しばられていて)

見かけによらない悪党だわい、と感づいたけれど、縛られていて

(どうにもできない。すると、こいつめ、もうすこしがまんしろよとぬかして、)

どうにもできない。すると、こいつめ、もう少し我慢しろよとぬかして、

(またあてみをくらわしゃあがった。いくじのないはなしですが、もういちどきを)

また当身を喰らわしゃあがった。意気地のない話ですが、もう一度気を

(うしなっちまったんです。そしていまやっとしょうきにかえったわけなんですよ。やいまつこう、)

失っちまったんです。そして今やっと正気に返ったわけなんですよ。ヤイ松公、

(ざまあみろ。こうなったらきさま、もううんのつきだぜ。いまにおもうぞんぶんしかえしを)

ざまあ見ろ。こうなったら貴様、もう運のつきだぜ。今に思う存分仕返しを

(してやるから、たのしみにしてまっているがいい じゅんちゃんのはなしを)

してやるから、楽しみにして待っているがいい」潤ちゃんの話を

(ききおわったくろこふじんは、ひとかたならぬきょうがくをおしかくして、さもゆかいらしく)

聞き終った黒衣婦人は、一方ならぬ驚愕を押しかくして、さも愉快らしく

(わらいだした。ほほほほほ、あじをやるわね。まつこうがそんなすみにおけないあくとうとは)

笑い出した。「ホホホホホ、味をやるわね。松公がそんな隅におけない悪党とは

(しらなかった。ほめてあげるよ。するとさいぜんからのへんてこなできごとは、)

知らなかった。ほめて上げるよ。するとさいぜんからのへんてこな出来事は、

(みんなおまえのしわざだったのね。たんくのなかへにんぎょうをほうりこんだのも、)

みんなお前の仕業だったのね。タンクの中へ人形をほうりこんだのも、

(はくせいにんぎょうどもにみょうなきものをきせたのも。だが、いったいなんのために)

剥製人形どもに妙な着物を着せたのも。だが、一体なんのために

(あんなまねをしたんだい。かまわないからいってごらん。ねえ、)

あんなまねをしたんだい。かまわないからいってごらん。ねえ、

(にやにやわらってないでへんじをしたらどう?へんじをしなかったら)

ニヤニヤ笑ってないで返事をしたらどう?」「返事をしなかったら

(どうするつもりだい?しょっこうふくのじんぶつが、からかうようにいうのだ。)

どうするつもりだい?」職工服の人物が、からかうようにいうのだ。

(いのちをもらうのさ。おまえは、おまえのごしゅじんのきしつをまだしらないと)

「いのちを貰うのさ。お前は、お前の御主人の気質をまだ知らないと

(みえるわね。ごしゅじんが、ちをみることがなによりもこうぶつだってことをさ)

見えるわね。御主人が、血を見ることが何よりも好物だってことをさ」

(つまり、そのぴすとるを、ぶっぱなすというわけなんだね。ははははは)

「つまり、そのピストルを、ぶっぱなすというわけなんだね。ハハハハハ」

(ぼうじゃくぶじんのたかわらいだ。みると、かれはいつのまにか、あげていたりょうてをおろして、)

傍若無人の高笑いだ。見ると、彼はいつの間にか、上げていた両手をおろして、

(ぶしょうらしく、ぱんつのぽけっとにおしこんでいた。くろこふじんはおもいもよらぬ)

無精らしく、パンツのポケットに押しこんでいた。黒衣婦人は思いもよらぬ

(ぶかのぶじょくにあって、ぎりぎりとはがみをした。もうがまんができなかった。)

部下の侮辱にあって、ギリギリと歯がみをした。もう我慢ができなかった。

(わらったね、じゃあ、これをうけてごらん と、さけぶようにいったかとおもうと、)

「笑ったね、じゃあ、これを受けてごらん」と、叫ぶようにいったかと思うと、

(いきなりぴすとるのねらいをさだめて、ぐっとひきがねをひいた。)

いきなりピストルの狙いを定めて、グッと引き金を引いた。

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