黒蜥蜴47

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明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。

関連タイピング

問題文

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(ふたたびにんぎょういへん)

再び人形異変

(しょっこうふくのおとこは、つまらないどくぐちをきいたばっかりに、ついにいちめいをうしなったか。)

職工服の男は、つまらない毒口をきいたばっかりに、ついに一命を失ったか。

(いやいや、けっしてそんなことはおこらなかった。かれはやっぱりぱんつの)

いやいや、決してそんなことは起こらなかった。彼はやっぱりパンツの

(ぽけっとにりょうてをつっこんだまま、さもおもしろそうにわらっていた。)

ポケットに両手を突っこんだまま、さもおもしろそうに笑っていた。

(ひきがねはひかれたけれど、かちっというおとがしたばかりで、だんがんは)

引き金は引かれたけれど、カチッという音がしたばかりで、弾丸は

(はっしゃされなかったのだ。おや、みょうなおとがしましたね。ぴすとるが)

発射されなかったのだ。「おや、妙な音がしましたね。ピストルが

(くるっているのじゃありませんかい ちょうしょうされて、くろこふじんはあわてだした。)

狂っているのじゃありませんかい」嘲笑されて、黒衣婦人はあわて出した。

(にはつめ、さんぱつめと、ぶっつづけにひきがねをひいたが、やっぱりかちっかちっ)

二発目、三発目と、ぶっつづけに引き金を引いたが、やっぱりカチッカチッ

(というはかないおとがするばかりだ。ちくしょうめ、それじゃあ、おまえがたまを)

というはかない音がするばかりだ。「畜生め、それじゃあ、お前がたまを

(ぬいておいたんだな ははははは、やっとがってんがいきましたね。いかにも)

抜いておいたんだな」「ハハハハハ、やっと合点がいきましたね。いかにも

(おおせのとおり、ほら、これですよ かれはみぎてをぽけっとからだして、てのひらを)

仰せの通り、ほら、これですよ」彼は右手をポケットから出して、手の平を

(ひろげてみせた。そこにはちいさいだんがんがいくつも、かわいらしいおはじきのように)

ひろげて見せた。そこには小さい弾丸が幾つも、可愛いらしいおはじきのように

(のっかっていた。ちょうどそのとき、おりのそとにあわただしいあしおとがして、)

のっかっていた。ちょうどその時、檻のそとにあわただしい足音がして、

(ぶかのあらくれおとこどもがかけつけてきた。まだむ、たいへんだ。いりぐちの)

部下の荒くれ男どもが駈けつけてきた。「マダム、大へんだ。入り口の

(みはりばんをしていたきたむらがしばられているんです しばられたうえにきぜつして)

見張り番をしていた北村が縛られているんです」「縛られた上に気絶して

(いるんです さては、これもまつこうのしわざにちがいない。だが、どうして)

いるんです」さては、これも松公の仕業にちがいない。だが、どうして

(きたむらだけをしばって、ほかのものをそのままにしておいたのだろう。これにもなにか)

北村だけを縛って、ほかの者をそのままにしておいたのだろう。これにも何か

(とくべつのわけがあるのかしら。おや、こいつはいったいなにものですかい?おとこどもは)

特別のわけがあるのかしら。「おや、こいつは一体何者ですかい?」男どもは

(ふたりのじゅんいちせいねんにきづいて、おどろきのめをみはった。かふのまつこうだよ。なにもかも)

二人の潤一青年に気づいて、驚きの眼を見はった。「火夫の松公だよ。何もかも

(このまつこうのしわざだってことがわかったのだよ。はやくこいつをひっくくって)

この松公の仕業だってことがわかったのだよ。早くこいつを引っくくって

など

(おくれ くろこふじんがえんぐんにちからをえて、かんだかいこえをふりしぼった。なに、)

おくれ」黒衣婦人が援軍に力を得て、かん高い声をふりしぼった。「なに、

(まつこうだって?こんちくしょう、ふざけたまねをしやがったな おとこどもはどかどかと)

松公だって?こん畜生、ふざけたまねをしやがったな」男共はドカドカと

(おりのなかへふみこんで、しょっこうふくのまつこうをとらえようとした。だが、なんという)

檻の中へふみこんで、職工服の松公を捕えようとした。だが、なんという

(すばやさであろう。まつこうはかさなりあっておしよせてくるおとこどものてのしたを、)

素早さであろう。松公はかさなり合って押し寄せてくる男どもの手の下を、

(ひらり、ひらりとくぐりぬけて、あっとおもうあいだにおりのそとにとびだしていた。)

ヒラリ、ヒラリとくぐり抜けて、アッと思う間に檻のそとに飛び出していた。

(そして、やっぱりにやにやわらいながら、ここまでおいで のかっこうで、)

そして、やっぱりニヤニヤ笑いながら、「ここまでお出で」のかっこうで、

(てまねきをしながら、だんだんあとずさりをしていく。そこのしれない)

手まねきをしながら、だんだんあとずさりをして行く。底の知れない

(ふてきさである。くろこふじんとあらくれおとこどもとは、ひかれるようにおりをでて、)

不敵さである。黒衣婦人と荒くれ男どもとは、引かれるように檻を出て、

(じりじりとそのあとをおっていく。ぶきみないどうさつえい。こんくりーとかべの)

ジリジリとそのあとを追っていく。無気味な移動撮影。コンクリート壁の

(ちかどうを、にげるものはあとずさり、おうものはしょうめんをきって、ふんぬのぎょうそう)

地下道を、逃げるものはあとずさり、追うものは正面を切って、憤怒の形相

(ものすごく、けむくじゃらのうでをぼくさーのようにかまえながら、のそのそとせまって)

物凄く、毛むくじゃらの腕をボクサーのように構えながら、ノソノソとせまって

(いく。やがて、このふしぎなぎょうれつが、はくせいにんぎょうちんれつしょのまえにさしかかったとき、)

行く。やがて、この不思議な行列が、剥製人形陳列所の前にさしかかった時、

(しょっこうふくのまつこうはとつぜんぴったりとたちどまってしまった。おい、きみたち、なぜ)

職工服の松公は突然ピッタリと立ち止まってしまった。「おい、君たち、なぜ

(きたむらがしばられていたか、そのわけをしっているかね かれはやっぱり、)

北村が縛られていたか、そのわけを知っているかね」彼はやっぱり、

(のんきそうにりょうてをぽけっとにいれたまま、うすみのわるいしつもんをはっした。)

のん気そうに両手をポケットに入れたまま、薄気味のわるい質問を発した。

(ちょっとおどき、あたし、このひとにたずねたいことがあるんだから)

「ちょっとおどき、あたし、この人にたずねたいことがあるんだから」

(くろこふじんはなにをおもったのか、おとこどもをかきわけるようにして、まつこうのめのまえに)

黒衣婦人は何を思ったのか、男どもをかき分けるようにして、松公の眼の前に

(ちかづいていった。もしおまえがまつこうだったら、これほどのじんぶつをみそくなって)

近づいて行った。「もしお前が松公だったら、これほどの人物を見そくなって

(いたことを、こころからおわびするよ。だがおまえほんとうにまつこうなの?)

いたことを、心からお詫びするよ。だがお前ほんとうに松公なの?

(あたしかんがえればかんがえるほどしんじられない。あなたはまつこうやなんかじゃ)

あたし考えれば考えるほど信じられない。あなたは松公やなんかじゃ

(ないでしょう。そのうるさいつけひげをとってください。はやくそのひげをとって)

ないでしょう。そのうるさいつけひげを取ってください。早くそのひげを取って

(ください かのじょはみじめにも、まるでたんがんするようなくちょうであった。)

ください」彼女はみじめにも、まるで嘆願するような口調であった。

(ははははは、ひげなんかとらなくっても、きみはもうちゃんとしって)

「ハハハハハ、ひげなんか取らなくっても、君はもうちゃんと知って

(いるでしょう。しっているけれど、ぼくのなをいいあてるのがこわいのでしょう。)

いるでしょう。知っているけれど、僕の名を言い当てるのが怖いのでしょう。

(そのしょうこに、きみのかおいろはまるでゆうれいみたいにあおざめているじゃありませんか)

その証拠に、君の顔色はまるで幽霊みたいに青ざめているじゃありませんか」

(しょっこうふくははたしてまつこうではなかった。ことばさえも、もはやとうぞくのてしたなどの)

職工服ははたして松公ではなかった。言葉さえも、もはや盗賊の手下などの

(ものではない。しかも、そのこえ!そのはぎれのよいくちょうには、なにかしらみみなれた)

ものではない。しかも、その声!その歯切れのよい口調には、何かしら耳なれた

(ひびきがあったではないか。くろこふじんはあまりのげきじょうに、みうちがぶるぶると)

響きがあったではないか。黒衣婦人はあまりの激情に、身内がブルブルと

(ふるえてくるのをどうすることもできなかった。それじゃあ、あなたは・・・・・・)

ふるえてくるのをどうすることもできなかった。「それじゃあ、あなたは……」

(えんりょすることはない。なにをためらっているのです。いってごらんなさい、)

「遠慮することはない。何をためらっているのです。言ってごらんなさい、

(そのさきを しょっこうふくはもうわらっていなかった。かれのからだぜんたいに、なにかしらげんしゅくな)

その先を」職工服はもう笑っていなかった。彼のからだ全体に、何かしら厳粛な

(ものがかんじられた。くろこふじんはじりじりと、わきのしたをつめたいものが)

ものが感じられた。黒衣婦人はジリジリと、腋の下を冷たいものが

(ながれおちるのをおぼえた。あけちこごろう・・・・・・あなたはあけちさんでしょう)

流れ落ちるのを覚えた。「明智小五郎……あなたは明智さんでしょう」

(ひとおもいにいってのけて、ほっとした。そうです。きみはそれを、ずっとまえから)

ひと思いにいってのけて、ホッとした。「そうです。君はそれを、ずっと前から

(きづいていたではありませんか。きづきながら、きみのおくびょうがそのかんがえをむりに)

気づいていたではありませんか。気づきながら、君の臆病がその考えを無理に

(おさえつけていたのです しょっこうふくのじんぶつは、いいながら、かおじゅうのつけひげを)

抑えつけていたのです」職工服の人物は、言いながら、顔じゅうの付けひげを

(むしりとった。すると、そのしたからあらわれてきたのは、じゅんちゃんらしいかおいろに)

むしり取った。すると、その下から現われてきたのは、潤ちゃんらしい顔色に

(めーく・あっぷはしていたけれど、まぎれもないあけちこごろう、なつかしの)

メーク・アップはしていたけれど、まぎれもない明智小五郎、なつかしの

(あけちこごろうであった。でも、どうして・・・・・・そんなことがありえるので)

明智小五郎であった。「でも、どうして……そんなことがあり得るので

(しょうか あのえんしゅうなだのまっただなかに、ほうりこまれたぼくが、どうして)

しょうか」「あの遠州灘のまっただ中に、ほうりこまれた僕が、どうして

(たすかったかというのでしょう。はははは、きみはあのとき、このぼくを、ほうりこんだ)

助かったかというのでしょう。ハハハハ、君はあの時、この僕を、ほうりこんだ

(つもりでいるのですか。そこに、こんぽんてきなさっかくがあるのだ。ぼくはあのいすの)

つもりでいるのですか。そこに、根本的な錯覚があるのだ。僕はあの椅子の

(なかにはいなかったのですよ。いすのなかへとじこめられていたのは、かわいそうな)

中にはいなかったのですよ。椅子の中へとじこめられていたのは、かわいそうな

(まつこうです。まさかあんなことになろうとはおもわなかったので、ぼくはかふに)

松公です。まさかあんなことになろうとは思わなかったので、僕は火夫に

(へんそうしてたんていのしごとをつづけるために、まつこうをしばって、さるぐつわをはめて、)

変装して探偵の仕事をつづけるために、松公を縛って、猿ぐつわをはめて、

(ぜっこうのかくしばしょ、あのにんげんいすのなかへとじこめておいたのです。そのため、)

絶好の隠し場所、あの人間椅子の中へとじこめておいたのです。そのため、

(まつこうがああいうさいごをとげたのは、じつにもうしわけないことだとおもっています)

松公がああいう最期をとげたのは、実に申しわけないことだと思っています」

(まあ、それじゃあ、あれがまつこうでしたの?そして、あなたはまつこうにばけて、)

「まあ、それじゃあ、あれが松公でしたの? そして、あなたは松公に化けて、

(ずっときかんしつにいらしったの?さすがのにょぞくもどくけをぬかれて、まるで)

ずっと機関室にいらしったの?」さすがの女賊も毒気を抜かれて、まるで

(きふじんのようにおとなしやかなくちをきいた。)

貴婦人のようにおとなしやかな口をきいた。

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