黒死館事件73
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問題文
(ねえはぜくらくん、ぼくにはれヴぇずのそうれつなすがたが、たえずしつっこく)
「ねえ支倉君、僕にはレヴェズの壮烈な姿が、絶えず執拗っこく
(つきまとっているのだがね。あのおとこのしんりは、じつにさくざつをきわめているのだ。)
つき纏っているのだがね。あの男の心理は、実に錯雑をきわめているのだ。
(あるいはだれかをかばおうとしてのきしてきせいしんかもしれないし、またああいうしんこくな)
あるいは誰かを庇おうとしての騎士的精神かもしれないし、またああいう深刻な
(せいしんかっとうが、すでにもう、あのおとこにきょうじんのきょうかいをまたがせているのかも)
精神葛藤が、すでにもう、あの男に狂人の境界を跨がせているのかも
(わからない。だが、なによりのうこうなのは、あのおとこがしたいうんぱんしゃに)
判らない。だが、なにより濃厚なのは、あの男が死体運搬車に
(のっているすがたなんだよ となんらへんてつもないれヴぇずのげんどうにいようなかいしゃくをのべ)
乗っている姿なんだよ」となんら変哲もないレヴェズの言動に異様な解釈を述べ
(それからふんせんのぐんぞうにめがゆくと、かれはあわててだしかけたたばこをひっこめた。)
それから噴泉の群像に眼がゆくと、彼は慌てて出しかけた莨を引っ込めた。
(では、これからうぉーたー・さーぷらいずをしらべることにしよう。おそらくはんにんであるという)
「では、これから驚駭噴泉を調べることにしよう。恐らく犯人であると云う
(いみでなしに、きょうのじけんのしゅやくは、きっとれヴぇずにちがいないのだ)
意味でなしに、今日の事件の主役は、きっとレヴェズに違いないのだ」
(そのうぉーたー・さーぷらいずのちょうじょうは、おうどうせいのぱるなすぐんぞうになっていて、すいばんのしほうに)
その驚駭噴泉の頂上は、黄銅製のパルナス群像になっていて、水盤の四方に
(ふみいしがあり、それにあしをかけると、ぞうのずじょうからそれぞれのがわに、しじょうのみずが)
踏み石があり、それに足をかけると、像の頭上からそれぞれの側に、四条の水が
(たかくほうしゅつされるしかけになっていた。そして、そのほうすいが、やくじゅうびょうほどのあいだ)
高く放出される仕掛になっていた。そして、その放水が、約十秒ほどの間
(けいぞくすることもはんめいした。ところが、そのふみいしのうえには、しもどけのどろがめいりょうな)
継続することも判明した。ところが、その踏み石の上には、霜溶けの泥が明瞭な
(くつあととなってのこっていて、それによるとれヴぇずしは、そのひとつひとつをふくざつな)
靴跡となって残っていて、それによるとレヴェズ氏は、その一つ一つを複雑な
(けいろでたどっていって、しかもそれぞれに、ただのいちどしかふんでいないことが)
経路で辿って行って、しかもそれぞれに、ただの一度しか踏んでいないことが
(あきらかになった。すなわち、さいしょはほんかんのほうからあゆんできて、いちばんしょうめんのひとつを)
明らかになった。すなわち、最初は本館の方から歩んで来て、一番正面の一つを
(ふみ、それから、つぎにそのむこうがわを、そしてさんどめにはみぎがわのを、さいごには、)
踏み、それから、次にその向う側を、そして三度目には右側のを、最後には、
(ひだりがわのひとつをふんでおわっている。しかし、そのふくざつきわまるこうどうのいみが、)
左側の一つを踏んで終っている。しかし、その複雑きわまる行動の意味が、
(いったいなへんにあるのか、さすがにのりみずでさえ、かいもくそのときはけんとうが)
いったい那辺にあるのか、さすがに法水でさえ、皆目その時は見当が
(つかなかった。それから、ほんかんにもどると、いっさくじつじんもんしつにあてたれいのあけずのま)
つかなかった。それから、本館に戻ると、一昨日訊問室に当てた例の開けずの間
(すなわちだんねべるぐふじんがしたいとなっていたへやで、まずさいしょのかんもんしゃとして)
すなわちダンネベルグ夫人が死体となっていた室で、まず最初の喚問者として
(のぶこをよぶことになった。そして、かのじょがくるまでのあいだに、どこからとなく)
伸子を喚ぶことになった。そして、彼女が来るまでの間に、どこからとなく
(のりみずのしんけいに、あとにはそれとうなずかせた、いようなよかんがふれてきたというのは、)
法水の神経に、後にはそれと頷かせた、異様な予感が触れてきたと云うのは、
(すうじゅうねんこのかたこのへやにくんりんしていて、いくどかとざされひらかれ、また、なんどかりゅうけつの)
数十年以来この室に君臨していて、幾度か鎖され開かれ、また、何度か流血の
(さんじをもくげきしてきた あのしんだいのほうにひかれていったのだった。かれはかーてんの)
惨事を目撃してきた――あの寝台の方に惹かれていったのだった。彼は帷幕の
(そとからかおをさしいれただけで、おもわずはっとしてたちすくんでしまった。ぜんかいには)
外から顔を差し入れただけで、思わずハッとして立ち竦んでしまった。前回には
(いささかもおぼえなかったところの、ふしぎなしょうどうにおそわれたからだ。したいがひとつ)
些かも覚えなかったところの、不思議な衝動に襲われたからだ。死体が一つ
(なくなっただけで、かーてんでくぎられたいっかくには、いようなせいきがはつどうしている。)
なくなっただけで、帷幕で区切られた一劃には、異様な生気が発動している。
(あるいは、したいがなくなってこうずがかわったので、じゅんすいのかどとかど、せんとせんとの)
あるいは、死体がなくなって構図が変ったので、純粋の角と角、線と線との
(こうさくをながめるためにたった、しんりじょうのえいきょうであるかもしれない。けれども、)
交錯を眺めるために起った、心理上の影響であるかもしれない。けれども、
(それとはどこかことなったかんじで、おなじつめたさにしても、いきたさかなのひふにふれる)
それとはどこか異なった感じで、同じ冷たさにしても、生きた魚の皮膚に触れる
(といったような、なんとなくこのいっかくのくうきから、かすかなどうきでも)
といったような、なんとなくこの一劃の空気から、微かな動悸でも
(きこえてきそうであって、まあいわば、おーがにずむをそうじゅうしている、ふしぎのちからが)
聴えてきそうであって、まあ云わば、生体組織を操縦している、不思議の力が
(あるのをしんしんとかんずるのだった。しかし、けんじとくましろにはいられてしまうと、)
あるのを浸々と感ずるのだった。しかし、検事と熊城に入られてしまうと、
(のりみずのげんそうはあとかたもなくとびちってしまった。そして、やはりこうずのせいかなと)
法水の幻想は跡方もなく飛び散ってしまった。そして、やはり構図のせいかなと
(おもうのだった。のりみずはこのときほど、しんだいをしさいにながめたことはなかった。)
思うのだった。法水はこの時ほど、寝台を仔細に眺めたことはなかった。
(てんがいをささえているよんほんのはしらのうえには、まつかさがたをたてばながかしらぼりになっていて、)
天蓋を支えている四本の柱の上には、松毬形をした頂花が冠彫になっていて、
(そのしたからぜんぶにかけては、ものすごいほどこくめいなかたなのあとをみせた、)
その下から全部にかけては、物凄いほど克明な刀の跡を見せた、
(じゅうごせいきヴぇねちあのぶちんとーろがうきぼりになっていた。そして、そのみよしの)
十五世紀ヴェネチアの三十櫓楼船が浮彫になっていた。そして、その舳の
(ちゅうおうには、くびのない ぶらんでんぶるくのあらわし が、きょくふうにさからってつばさを)
中央には、首のない「ブランデンブルクの荒鷲」が、極風に逆らって翼を
(ひろげているのだった。そういう、いちけんしぶんもようめいたきみょうなとりあわせが、)
拡げているのだった。そういう、一見史文模様めいた奇妙な配合が、
(このまほがにーのしんだいをかざってるこうずだったのである。そして、ようやくのりみずが、)
この桃花木の寝台を飾ってる構図だったのである。そして、ようやく法水が、
(そのだんけいわしのうきぼりからかおをはなしたときだった。しずかにのっぶのかいてんするおとがして、)
その断頸鷲の浮彫から顔を離した時だった。静かに把手の廻転する音がして、
(よばれたかみたにのぶこがはいってきた。)
喚ばれた紙谷伸子が入って来た。