【タイピング文庫】宮沢賢治「オツベルと象2」

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難易度(4.2) 5286打 長文 かなタグ長文 小説 文字 宮沢 タイピング文庫
独特の世界観にみちた作品を残した宮沢賢治の童話です。
地主のオツベルのもとにやってきた白象。最初は楽しく働いていたが、やがて酷使され、食べ物も減らされ、弱り切って、ついに月の助けを借りて、仲間に救出を求める。

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問題文

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(すまないが、ぜいきんがごばいになった、きょうはすこうしかじばへいって、すみびを)

「済まないが、税金が五倍になった、今日は少うし鍛冶場へ行って、炭火を

(ふいてくれないかああ、ふいてやろう。ほんきでやったら、ぼく、もう、)

吹いてくれないか」「ああ、吹いてやろう。本気でやったら、ぼく、もう、

(いきで、いしもなげとばせるよおつべるはまたどきっとしたが、きをおちつけて)

息で、石もなげとばせるよ」オツベルはまたどきっとしたが、気を落ち付けて

(わらっていた。ぞうはのそのそかじばへいって、べたんとあしをおってすわり、)

わらっていた。象はのそのそ鍛冶場へ行って、べたんと肢を折って座り、

(ふいごのかわりにはんにちすみをふいたのだ。そのばん、ぞうはぞうごやで、ななわのわらを)

ふいごの代りに半日炭を吹いたのだ。その晩、象は象小屋で、七把の藁を

(たべながら、そらのいつかのつきをみてああ、つかれたな、うれしいな、)

たべながら、空の五日の月を見て「ああ、つかれたな、うれしいな、

(さんたまりあとこういった。どうだ、そうしてつぎのひから、ぞうはあさから)

サンタマリア」と斯う言った。どうだ、そうして次の日から、象は朝から

(かせぐのだ。わらもきのうはただごわだ。よくまあ、ごわのわらなどで、あんなちからが)

かせぐのだ。藁も昨日はただ五把だ。よくまあ、五把の藁などで、あんな力が

(でるもんだ。じっさいぞうはけいざいだよ。それというのもおつべるが、)

でるもんだ。じっさい象はけいざいだよ。それというのもオツベルが、

(あたまがよくてえらいためだ。おつべるときたらたいしたもんさ。)

頭がよくてえらいためだ。オツベルときたら大したもんさ。

(だいごにちようおつべるかね、そのおつべるは、おれもいおうとしてたんだが、)

(第五日曜)オツベルかね、そのオツベルは、おれも云おうとしてたんだが、

(いなくなったよ。まあおちついてききたまえ。まえにはなしたあのぞうを、)

居なくなったよ。まあ落ちついてききたまえ。前にはなしたあの象を、

(おつべるはすこしひどくしすぎた。しかたがだんだんひどくなったから、)

オツベルはすこしひどくし過ぎた。しかたがだんだんひどくなったから、

(ぞうがなかなかわらわなくなった。ときにはあかいりゅうのめをして、じっとこんなに)

象がなかなか笑わなくなった。時には赤い竜の眼をして、じっとこんなに

(おつべるをみおろすようになってきた。あるばんぞうはぞうごやで、さんわのわらを)

オツベルを見おろすようになってきた。ある晩象は象小屋で、三把の藁を

(たべながら、とおかのつきをあおぎみて、くるしいです。さんたまりあ。といった)

たべながら、十日の月を仰ぎ見て、「苦しいです。サンタマリア。」と云った

(ということだ。こいつをきいたおつべるは、ことごとぞうにつらくした。あるばん、)

ということだ。こいつを聞いたオツベルは、ことごと象につらくした。ある晩、

(ぞうはぞうごやで、ふらふらたおれてじべたにすわり、わらもたべずにじゅういちにちのつきをみて、)

象は象小屋で、ふらふら倒れて地べたに座り、藁もたべずに十一日の月を見て、

(もう、さようなら、さんたまりあ。とこういった。おや、なんだって?)

「もう、さようなら、サンタマリア。」と斯う言った。「おや、何だって?

(さよならだ?つきがにわかにぞうにきく。ええ、さよならです。さんたまりあ。)

さよならだ?」月が俄かに象に訊く。「ええ、さよならです。サンタマリア。」

など

(なんだい、なりばかりおおきくて、からっきしいくじのないやつだなあ。)

「何だい、なりばかり大きくて、からっきし意気地のないやつだなあ。

(なかまへてがみをかいたらいいや。つきがわらってこういった。おふでもかみも)

仲間へ手紙を書いたらいいや。」月がわらって斯う云った。「お筆も紙も

(ありませんよう。ぞうはほそういきれいなこえで、しくしくしくしくなきだした。)

ありませんよう。」象は細ういきれいな声で、しくしくしくしく泣き出した。

(そら、これでしょう。すぐめのまえで、かわいいこどものこえがした。ぞうがあたまを)

「そら、これでしょう。」すぐ眼の前で、可愛い子どもの声がした。象が頭を

(あげてみると、あかいきもののわらしがたって、すずりとかみをささげていた。ぞうはさっそく)

上げて見ると、赤い着物の童子が立って、硯と紙を捧げていた。象は早速

(てがみをかいた。ぼくはずいぶんめにあっている。みんなででてきてたすけて)

手紙を書いた。「ぼくはずいぶん眼にあっている。みんなで出て来て助けて

(くれ。わらしはすぐにてがみをもって、はやしのほうへあるいていった。せきいのわらしが、)

くれ。」童子はすぐに手紙をもって、林の方へあるいて行った。赤衣の童子が、

(そうしてやまについたのは、ちょうどひるめしごろだった。このときやまのぞうどもは)

そうして山に着いたのは、ちょうどひるめしごろだった。このとき山の象どもは

(さらじゅのしたのくらがりで、ごなどをやっていたのだが、ひたいをあつめてこれをみた。)

沙羅樹の下の暗がりで、碁などをやっていたのだが、額をあつめてこれを見た。

(ぼくはずいぶんめにあっている。みんなででてきてたすけてくれ。ぞうはいっせい)

「ぼくはずいぶん眼にあっている。みんなで出てきて助けてくれ。」象は一せい

(にたちあがり、まっくろになってほえだした。おつべるをやっつけよう)

に立ちあがり、まっ黒になって吠えだした。「オツベルをやっつけよう」

(ぎちょうのぞうがたかくさけぶと、おう、でかけよう。ぐららあがあ、ぐららあがあ。)

議長の象が高く叫ぶと、「おう、でかけよう。グララアガア、グララアガア。」

(みんながいちどにこおうする。さあ、もうみんな、あらしのようにはやしのなかをなきぬけて)

みんながいちどに呼応する。さあ、もうみんな、嵐のように林の中をなきぬけて

(ぐららあがあ、ぐららあがあ、のはらのほうへとんでいく。どいつもみんな)

グララアガア、グララアガア、野原の方へとんで行く。どいつもみんな

(きちがいだ。ちいさなきなどはねこぎになり、やぶやなにかもめちゃめちゃだ。)

きちがいだ。小さな木などは根こぎになり、藪や何かもめちゃめちゃだ。

(ぐわあぐわあぐわあぐわあ、はなびみたいにのはらのなかへとびだした。)

グワア グワア グワア グワア、花火みたいに野原の中へ飛び出した。

(それから、なんの、はしって、はしって、とうとうむこうのあおくかすんだのはらのはてに、)

それから、何の、走って、走って、とうとう向うの青くかすんだ野原のはてに、

(おつべるのやしきのきいろなやねをみつけると、ぞうはいちどにふんかした。)

オツベルの邸の黄いろな屋根を見附けると、象はいちどに噴火した。

(ぐららあがあ、ぐららあがあ。そのときはちょうどいちじはん、おつべるはかわのしんだいの)

グララアガア、グララアガア。その時はちょうど一時半、オツベルは皮の寝台の

(うえでひるねのさかりで、からすのゆめをみていたもんだ。あまりおおきなおとなので、)

上でひるねのさかりで、烏の夢を見ていたもんだ。あまり大きな音なので、

(おつべるのいえのひゃくしょうどもが、もんからすこしそとへでて、こてをかざしてむこうをみた。)

オツベルの家の百姓どもが、門から少し外へ出て、小手をかざして向うを見た。

(はやしのようなぞうだろう。きしゃよりはやくやってくる。さあ、まるっきり、ちのけも)

林のような象だろう。汽車より早くやってくる。さあ、まるっきり、血の気も

(うせてかけこんでだんなあ、ぞうです。おしよせやした。だんなあ、ぞうです。)

失せてかけ込こんで 「旦那あ、象です。押し寄せやした。旦那あ、象です。」

(とこえをかぎりにさけんだもんだ。ところがおつべるはやっぱりえらい。めを)

と声をかぎりに叫んだもんだ。ところがオツベルはやっぱりえらい。眼を

(ぱっちりとあいたときは、もうなにもかもわかっていた。おい、ぞうのやつは)

ぱっちりとあいたときは、もう何もかもわかっていた。「おい、象のやつは

(こやにいるのか。いる?いる?いるのか。よし、とをしめろ。とをしめるんだよ)

小屋にいるのか。居る?居る?居るのか。よし、戸をしめろ。戸をしめるんだよ

(はやくぞうごやのとをしめるんだ。ようし、はやくまるたをもってこい。とじこめちまえ)

早く象小屋の戸をしめるんだ。ようし、早く丸太を持って来い。とじこめちまえ

(ちくしょうめじたばたしやがるな、まるたをそこへしばりつけろ。なにができるもんか。)

畜生めじたばたしやがるな、丸太をそこへしばりつけろ。何ができるもんか。

(わざとちからをへらしてあるんだ。ようし、もうごろっぽんもってこい。さあだいじょうぶだ。)

わざと力を減らしてあるんだ。ようし、もう五六本持って来い。さあ大丈夫だ。

(だいじょうぶだとも。あわてるなったら。おい、みんな、こんどはもんだ。もんをしめろ。)

大丈夫だとも。あわてるなったら。おい、みんな、こんどは門だ。門をしめろ。

(かんぬきをかえ。つっぱり。つっぱり。そうだ。おい、みんなしんぱいするなったら)

かんぬきをかえ。つっぱり。つっぱり。そうだ。おい、みんな心配するなったら

(しっかりしろよ。おつべるはもうしたくができて、らっぱみたいないいこえで、)

しっかりしろよ。」オツベルはもう支度ができて、ラッパみたいないい声で、

(ひゃくしょうどもをはげました。ところがどうして、ひゃくしょうどもはきがきじゃない。)

百姓どもをはげました。ところがどうして、百姓どもは気が気じゃない。

(こんなしゅじんにまきぞいなんぞくいたくないから、みんなたおるやはんけちや、)

こんな主人に巻き添いなんぞ食いたくないから、みんなタオルやはんけちや、

(よごれたようなしろいようなものを、ぐるぐるうでにまきつける。こうさんをするしるし)

よごれたような白いようなものを、ぐるぐる腕に巻きつける。降参をするしるし

(なのだ。おつべるはいよいよやっきとなって、そこらあたりをかけまわる。)

なのだ。オツベルはいよいよやっきとなって、そこらあたりをかけまわる。

(おつべるのいぬもきがたって、ひのつくようにほえながら、やしきのなかを)

オツベルの犬も気が立って、火のつくように吠えながら、やしきの中を

(はせまわる。まもなくじめんはぐらぐらとゆられ、そこらはばしゃばしゃ)

はせまわる。間もなく地面はぐらぐらとゆられ、そこらはばしゃばしゃ

(くらくなり、ぞうはやしきをとりまいた。ぐららあがあ、ぐららあがあ、)

くらくなり、象はやしきをとりまいた。グララアガア、グララアガア、

(そのおそろしいさわぎのなかから、いまたすけるからあんしんしろよ。やさしいこえも)

その恐ろしいさわぎの中から、「今助けるから安心しろよ。」やさしい声も

(きこえてくる。ありがとう。よくきてくれて、ほんとにぼくはうれしいよ。)

きこえてくる。「ありがとう。よく来てくれて、ほんとに僕はうれしいよ。」

(ぞうごやからもこえがする。さあ、そうすると、まわりのぞうは、いっそうひどく、)

象小屋からも声がする。さあ、そうすると、まわりの象は、一そうひどく、

(ぐららあがあ、ぐららあがあ、へいのまわりをぐるぐるはしっているらしく、)

グララアガア、グララアガア、塀のまわりをぐるぐる走っているらしく、

(たびたびなかから、おこってふりまわすはなもみえる。けれどもへいはせめんとで、なかには)

度々中から、怒ってふりまわす鼻も見える。けれども塀はセメントで、中には

(てつもはいっているから、なかなかぞうもこわせない。へいのなかにはおつべるが、)

鉄も入っているから、なかなか象もこわせない。塀の中にはオツベルが、

(たったひとりでさけんでいる。ひゃくしょうどもはめもくらみ、そこらをうろうろするだけだ)

たった一人で叫んでいる。百姓どもは眼もくらみ、そこらをうろうろするだけだ

(そのうちそとのぞうどもは、なかまのからだをだいにして、いよいよへいをこしかかる。)

そのうち外の象どもは、仲間のからだを台にして、いよいよ塀を越しかかる。

(だんだんにゅうとかおをだす。そのしわくちゃではいいろの、おおきなかおをみあげたとき)

だんだんにゅうと顔を出す。その皺くちゃで灰いろの、大きな顔を見あげたとき

(おつべるのいぬはきぜつした。さあ、おつべるはうちだした。ろくれんぱつのぴすとるさ。)

オツベルの犬は気絶した。さあ、オツベルは射ちだした。六連発のピストルさ。

(どーん、ぐららあがあ、どーん、ぐららあがあ、どーん、ぐららあがあ、)

ドーン、グララアガア、ドーン、グララアガア、ドーン、グララアガア、

(ところがたまはとおらない。きばにあたればはねかえる。いっぴきなぞはこういった。)

ところが弾丸は通らない。牙にあたればはねかえる。一疋なぞは斯う言った。

(なかなかこいつはうるさいねえ。ぱちぱちかおへあたるんだ。おつべるは)

「なかなかこいつはうるさいねえ。ぱちぱち顔へあたるんだ。」オツベルは

(いつかどこかで、こんなもんくをきいたようだとおもいながら、けーすをおびから)

いつかどこかで、こんな文句をきいたようだと思いながら、ケースを帯から

(つめかえた。そのうち、ぞうのかたあしが、へいからこっちへはみだした。それから)

つめかえた。そのうち、象の片脚が、塀からこっちへはみ出した。それから

(もひとつはみだした。ごひきのぞうがいっぺんに、へいからどっとおちてきた。)

も一つはみ出した。五匹の象が一ぺんに、塀からどっと落ちて来た。

(おつべるはけーすをにぎったまま、もうくしゃくしゃにつぶれていた。はやくももんが)

オツベルはケースを握ったまま、もうくしゃくしゃに潰れていた。早くも門が

(あいていて、ぐららあがあ、ぐららあがあ、ぞうがどしどしなだれこむ。)

あいていて、グララアガア、グララアガア、象がどしどしなだれ込む。

(ろうはどこだ。みんなはこやにおしよせる。まるたなんぞは、)

「牢はどこだ。」みんなは小屋に押し寄せる。丸太なんぞは、

(まっちのようにへしおられ、あのはくぞうはたいへんやせてこやをでた。)

マッチのようにへし折られ、あの白象は大へん瘠せて小屋を出た。

(まあ、よかったねやせたねえ。みんなはしずかにそばにより、)

「まあ、よかったねやせたねえ。」みんなはしずかにそばにより、

(くさりとどうをはずしてやった。ああ、ありがとう。ほんとにぼくはたすかったよ。)

鎖と銅をはずしてやった。「ああ、ありがとう。ほんとにぼくは助かったよ。」

(はくぞうはさびしくわらってそういった。)

白象はさびしくわらってそう云った。

(おや、かわへはいっちゃいけないったら。)

おや〔一字不明〕、川へはいっちゃいけないったら。

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