【タイピング文庫】宮沢賢治「黄いろのトマト3」

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プレイ回数1386順位2989位  難易度(4.2) 5196打 長文 かな
独特の世界観にみちた作品を残した宮沢賢治の童話です。
仲良く果樹園で暮らしていた兄妹二人がある日、風に運ばれたいい音に誘われ街に出かける。そこで見つけたサーカスに入ろうとして、お金というものを理解していない二人は、畑にできていた黄いろのトマトを代わりに渡した。しかし、それは通用せず、ひどく咎められてしまう。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 daifuku 3264 D 3.4 93.8% 1488.6 5200 341 76 2024/04/19

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問題文

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(よんほんのあしが、ゆっくりゆっくりあがったりくだったりしていたのだ。ぺむぺると)

四本の脚が、ゆっくりゆっくり上ったり下ったりしていたのだ。ペムペルと

(ねりとは、こくじんはほんとうにこわかったけれどまたおもしろかった。しかくなものも)

ネリとは、黒人はほんとうに恐かったけれど又面白かった。四角なものも

(こわかったけれど、めずらしかった。そこでみんながすぎてから、ふたりはかおを)

恐かったけれど、めずらしかった。そこでみんなが過ぎてから、二人は顔を

(みあわせた。そしてついていこうか。ええ、いきましょう。と、まるで)

見合せた。そして『ついて行こうか。』『ええ、行きましょう。』と、まるで

(かすれたこえでいったのだ。そしてふたりはよほどとおくからついていった。)

かすれた声で云ったのだ。そして二人はよほど遠くからついて行った。

(こくじんたちは、ときどきなにかわからないことをさけんだり、そらをみながらはねたりした。)

黒人たちは、時々何かわからないことを叫んだり、空を見ながら跳ねたりした。

(よんほんのあしはゆっくりゆっくり、あがったりくだったりしていたし、ときどきふう、ふうと)

四本の脚はゆっくりゆっくり、上ったり下ったりしていたし、時々ふう、ふうと

(いうこきゅうのおともきこえた。ふたりはいよいよかたくてをにぎってついていった。)

いう呼吸の音も聞えた。二人はいよいよ堅く手を握ってついて行った。

(そのうちおひさまは、へんにあかくどんよりなって、にしのほうのやまにはいってしまい、)

そのうちお日さまは、変に赤くどんよりなって、西の方の山に入ってしまい、

(のこりのそらはきいろにひかり、くさはだんだんあおからくろくみえてきた。)

残りの空は黄いろに光り、草はだんだん青から黒く見えて来た。

(さっきからのおとがいよいよちかくなり、すぐむこうのおかのかげでは、さっきのらしい)

さっきからの音がいよいよ近くなり、すぐ向うの丘のかげでは、さっきのらしい

(うまのひんひんなくのもはなをぶるるっとならすのもきこえたんだ。しかくないえのせいぶつが)

馬のひんひん啼くのも鼻をぶるるっと鳴らすのも聞えたんだ。四角な家の生物が

(あしをひゃっぺんあげたりさげたりしたら、ぺむぺるとねりとはびっくりしてめを)

脚を百ぺん上げたり下げたりしたら、ペムペルとネリとはびっくりして眼を

(こすった。むこうはおおきなまちなんだ。あかりがいっぱいについている。それからすぐめのまえは)

擦った。向うは大きな町なんだ。灯が一杯についている。それからすぐ眼の前は

(たいらなくさちになっていて、おおきなてんとがかけてある。てんとはまるたでくんである。)

平らな草地になっていて、大きな天幕がかけてある。天幕は丸太で組んである。

(まだすこしあかるいのに、あおいあせちれんや、ゆえんをながくひくかんてらがたくさん)

まだ少しあかるいのに、青いアセチレンや、油煙を長く引くカンテラがたくさん

(ともって、そのにかいにはきれいなえかんばんがたくさんかけてあったのだ。)

ともって、その二階には奇麗な絵看板がたくさんかけてあったのだ。

(そのかんばんのうしろから、さっきからのいいおとがおこっていたのだ。かんばんのなかには、)

その看板のうしろから、さっきからのいい音が起っていたのだ。看板の中には、

(さっききすをなげたこが、にひきのうまにかたっぽずつてをついて、さかだちしてるところ)

さっきキスを投げた子が、二疋の馬に片っ方ずつ手をついて、逆立ちしてる処

(もある。さっきのうまはみなそのまえにつながれて、そのほかにだってじゅうごろっぴき)

もある。さっきの馬はみなその前につながれて、その他にだって十五六疋

など

(ならんでいた。みんなおーとをたべていた。おとなやおんなやこどもらがそのくさはらに)

ならんでいた。みんなオートを食べていた。おとなや女や子供らがその草はらに

(たくさんつどってかんばんをみあげていた。かんばんのうしろからは、さっきのおとがさかんに)

たくさん集って看板を見上げていた。看板のうしろからは、さっきの音が盛んに

(おこった。けれどもあんまりちかくできくと、そんなにすてきなおとじゃない。)

起った。けれどもあんまり近くで聞くと、そんなにすてきな音じゃない。

(ただのがくたいだったんだい。ただそのおとが、のはらをとおっていくとちゅう、だんだんおとが)

ただの楽隊だったんだい。ただその音が、野原を通って行く途中、だんだん音が

(かすれるほど、はなのにおいがついていったんだ。しろいしかくないえも、ゆっくり)

かすれるほど、花のにおいがついて行ったんだ。白い四角な家も、ゆっくり

(ゆっくりなかへはいっていってしまった。なかではなにかがほそいたかいこえでないた。)

ゆっくり中へはいって行ってしまった。中では何かが細い高い声でないた。

(ひとはだんだんふえてきた。がくたいはまるでばかのようにさかんにやった。みんなは)

人はだんだん増えて来た。楽隊はまるで馬鹿のように盛んにやった。みんなは

(すいこまれるように、さんにんごにんずつなかへはいっていったのだ。ぺむぺるとねり)

吸いこまれるように、三人五人ずつ中へはいって行ったのだ。ペムペルとネリ

(とはいきをこらして、じっとそれをみた。ぼくたちもはいってこうか。ぺむぺるが)

とは息をこらして、じっとそれを見た。『僕たちも入ってこうか。』ペムペルが

(むねをどきどきさせながらいった。はいりましょうとねりもこたえた。けれども)

胸をどきどきさせながら云った。『入りましょう』とネリも答えた。けれども

(なんだかふたりとも、あんしんにならなかったのだ。どうもみんながいりぐちでなにかばんにんに)

何だか二人とも、安心にならなかったのだ。どうもみんなが入口で何か番人に

(わたすらしいのだ。ぺむぺるはすこしちかくへよって、じっとそれをみた。くいつく)

渡すらしいのだ。ペムペルは少し近くへ寄って、じっとそれを見た。食い付く

(ようにみていたよ。そしたらそれはたしかにぎんかきんかのかけらなのだ。)

ように見ていたよ。そしたらそれはたしかに銀か黄金かのかけらなのだ。

(きんをだせばぎんのかけらをかえしてよこす。そしてそのひとははいっていく。)

黄金をだせば銀のかけらを返してよこす。そしてその人は入って行く。

(だからぺむぺるもきんをぽけっとにさがしたのだ。ねり、おまえはここに)

だからペムペルも黄金をポケットにさがしたのだ。『ネリ、お前はここに

(まっといで。ぼくちょっとうちまでいってくるからね。わたしもいくわ。)

待っといで。僕一寸うちまで行って来るからね。』『わたしも行くわ。』

(ねりはいったけれども、ぺむぺるはもうかけだしたので、ねりはしんぱいそうに)

ネリは云ったけれども、ペムペルはもうかけ出したので、ネリは心配そうに

(はんぶんなくようにして、またかんばんをみていたよ。それからぼくはしんぱいだから、ねりのところ)

半分泣くようにして、又看板を見ていたよ。それから僕は心配だから、ネリの処

(にばんしようか、ぺむぺるについていこうか、ずいぶんしばらくかんがえたけれども、)

に番しようか、ペムペルについて行こうか、ずいぶんしばらく考えたけれども、

(いくらそこらをとんでみても、みんなかんばんばかりみていて、ねりをさらって)

いくらそこらを飛んで見ても、みんな看板ばかり見ていて、ネリをさらって

(いきそうなあっかんはひとりもいないんだ。そこであんしんして、ぺむぺるについて)

行きそうな悪漢は一人も居ないんだ。そこで安心して、ペムペルについて

(とんでいった。ぺむぺるはそれはひどくはしったよ。よっかのおつきさんが、)

飛んで行った。ペムペルはそれはひどく走ったよ。四日のお月さんが、

(にしのそらにしずかにかかっていたけれど、そのぼんやりしたあおじろいひかりで、)

西のそらにしずかにかかっていたけれど、そのぼんやりした青じろい光で、

(どんどんどんどんぺむぺるはかけた。ぼくはおいつくのがほんとうにつらかった。)

どんどんどんどんペムペルはかけた。僕は追いつくのがほんとうに辛かった。

(めがぐるぐるして、かぜがぶうぶうなったんだ。かばのきもやなぎのきも、みんなまっくろ)

眼がぐるぐるして、風がぶうぶう鳴ったんだ。樺の木も楊の木も、みんなまっ黒

(くさもまっくろ、そのなかをどんどんどんどんぺむぺるはかけた。それからとうとう)

草もまっ黒、その中をどんどんどんどんペムペルはかけた。それからとうとう

(あのかじゅえんにはいったのだ。がらすのおうちがつきのあかりでたいへんなつかしく)

あの果樹園にはいったのだ。ガラスのお家が月のあかりで大へんなつかしく

(ひかっていた。ぺむぺるはちょっとたちどまってそれをみたけれども、またはしってもう)

光っていた。ペムペルは一寸立ちどまってそれを見たけれども、又走ってもう

(まっくろにみえているとまとのきから、あのきいろのみのなるとまとのきから、)

まっ黒に見えているトマトの木から、あの黄いろの実のなるトマトの木から、

(きいろのとまとのみをよっつとった。それからまるでかぜのよう、あらしのように)

黄いろのトマトの実を四つとった。それからまるで風のよう、あらしのように

(あせとどうきでもえながら、さっきのくさばにとってかえした。ぼくもまったくつかれていた。)

汗と動悸で燃えながら、さっきの草場にとって返した。僕も全く疲れていた。

(ねりはちらちらこっちのほうをみてばかりいた。けれどもぺむぺるは、さあ、)

ネリはちらちらこっちの方を見てばかりいた。けれどもペムペルは、『さあ、

(いいよ。はいろう。とねりにいった。ねりはよろこんでとびあがり、ふたりはてを)

いいよ。入ろう。』とネリに云った。ネリは悦んで飛びあがり、二人は手を

(つないできどぐちにきたんだ。ぺむぺるはだまってふたつのとまとをだしたんだ。)

つないで木戸口に来たんだ。ペムペルはだまって二つのトマトを出したんだ。

(ばんにんはええ、いらっしゃい。といいながら、とまとをうけとり、それから)

番人は『ええ、いらっしゃい。』と言いながら、トマトを受けとり、それから

(へんなかおをした。しばらくそれをみつめていた。それからにわかにかおがゆがんで)

変な顔をした。しばらくそれを見つめていた。それから俄かに顔が歪んで

(どなりだした。なんだ。このがきめ。ひとをばかにしやがるな。とまとふたつで、)

どなり出した。『何だ。この餓鬼め。人をばかにしやがるな。トマト二つで、

(このおおいりのなかへおまえたちをおしこんでやってたまるか。うせやがれ、ちくしょう。)

この大入の中へ汝たちを押し込んでやってたまるか。失せやがれ、畜生。』

(そしてとまとをなげつけた。あのきのとまとをなげつけたんだ。そのひとつは)

そしてトマトを投げつけた。あの黄のトマトをなげつけたんだ。その一つは

(ひどくねりのみみにあたり、ねりはわっとなきだし、みんなはどっとわらったんだ。)

ひどくネリの耳にあたり、ネリはわっと泣き出し、みんなはどっと笑ったんだ。

(ぺむぺるはすばやくねりをさらうようにだいて、そこをにげだした。みんなの)

ペムペルはすばやくネリをさらうように抱いて、そこを遁げ出した。みんなの

(わらいごえがなみのようにきこえた。まっくらなおかのあいだまでにげてきたとき、ぺむぺるも)

笑い声が波のように聞えた。まっくらな丘の間まで遁げて来たとき、ペムペルも

(にわかにたかくなきだした。ああいうかなしいことを、おまえはきっとしらないよ。)

俄かに高く泣き出した。ああいうかなしいことを、お前はきっと知らないよ。

(それからふたりはだまってだまってときどきしくりあげながら、ひるのぞうについて)

それから二人はだまってだまってときどきしくりあげながら、ひるの象について

(きたみちをもどった。それからぺむぺるは、にぎりこぶしをにぎりながら、)

来たみちを戻った。それからペムペルは、にぎりこぶしを握りながら、

(ねりはときどきつばをのみながら、かばのきのはえたまっくろなこやまをこえて、ふたりは)

ネリは時々唾をのみながら、樺の木の生えたまっ黒な小山を越えて、二人は

(おうちにかえったんだ。ああかあいそうだよ。ほんとうにかあいそうだ。)

おうちに帰ったんだ。ああかあいそうだよ。ほんとうにかあいそうだ。

(わかったかい。じゃさよなら、わたしはもうはなせない。じいさんをよんできちゃ)

わかったかい。じゃさよなら、私はもうはなせない。じいさんを呼んで来ちゃ

(いけないよ。さよなら。こういってしまうとはちすずめのほそいくちばしは、またとがって)

いけないよ。さよなら。」斯う云ってしまうと蜂雀の細い嘴は、また尖って

(じっととじてしまい、そのめはむこうのしじゅうからをだまってみていたのです。)

じっと閉じてしまい、その眼は向うの四十雀をだまって見ていたのです。

(わたしもたいへんかなしくなってじゃはちすずめ。さようなら。ぼくまたくるよ。けれどおまえが)

私も大へんかなしくなって「じゃ蜂雀。さようなら。僕又来るよ。けれどお前が

(なにかいいたかったらいっておくれ。さよなら、ありがとうよ。はちすずめ、)

何か云いたかったら云ってお呉れ。さよなら、ありがとうよ。蜂雀、

(ありがとうよ。といいながら、かばんをそっととりあげて、そのちゃいろがらすの)

ありがとうよ。」と云いながら、鞄をそっと取りあげて、その茶いろガラスの

(かけらのなかのようなへやを、しずかにろうかへでたのです。そしてにわかにあんまりの)

かけらの中のような室を、しずかに廊下へ出たのです。そして俄かにあんまりの

(あかるさと、あのきょうだいのかあいそうなのとに、めがちくちくっといたみ、)

明るさと、あの兄妹のかあいそうなのとに、眼がチクチクッと痛み、

(なみだがぼろぼろこぼれたのです。わたしのまだまるでちいさかったときのことです。)

涙がぼろぼろこぼれたのです。私のまだまるで小さかったときのことです。

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