【タイピング文庫】夢野久作「きのこ会議」

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プレイ回数3780難易度(4.2) 3328打 長文 かな
怪奇色と幻想性の色濃い作風が特徴の夢野久作の短編。
ある晩、きのこ達が集まって談話会を催す。傘を広げ種子を撒く前に人間に摘み取られてしまうことをなげく松茸に対して、毒きのこの一団は、自分たちのように「人間の役に立たない毒」になるべきと主張するのだったが、そこに人間の家族が現れる。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 てんぷり 5355 B++ 5.5 95.8% 585.0 3274 141 49 2024/10/28

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問題文

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(はつたけ、まつたけ、しいたけ、きくらげ、しらたけ、がんたけ、ぬめりたけ、しもふりたけ、ししたけ、)

初茸、松茸、椎茸、木くらげ、白茸、鴈茸、ぬめり茸、霜降り茸、獅子茸、

(ねずみたけ、かわはぎたけ、こめしょうろ、むぎしょうろなぞいうきのこれんちゅうがあるよるあつまって、)

鼠茸、皮剥ぎ茸、米松露、麦松露なぞいうきのこ連中がある夜集まって、

(だんわかいをはじめました。いちばんはじめに、はつたけがたちあがってあいさつをしました。)

談話会を始めました。一番初めに、初茸が立ち上って挨拶をしました。

(みなさん。このごろはだんだんさむくなりましたので、そろそろわたくしどもはつちのなかへ)

「皆さん。この頃はだんだん寒くなりましたので、そろそろ私共は土の中へ

(ひきこまねばならぬようになりました。こんやはおわかれのえんかいですから、)

引き込まねばならぬようになりました。今夜はお別れの宴会ですから、

(みなさんはなんでもおもうぞんぶんにえんぜつをしてください。わたしがかいてしんぶんにだしますから)

皆さんは何でも思う存分に演説をして下さい。私が書いて新聞に出しますから」

(みんながぱちぱちとてをたたくと、おつぎにしいたけがたちあがりました。)

皆がパチパチと手をたたくと、お次に椎茸が立ち上りました。

(みなさん、わたしはしいたけというものです。このごろにんげんはわたしをたいへんにちょうほうがって、)

「皆さん、私は椎茸というものです。この頃人間は私を大変に重宝がって、

(わざわざきをくさらしてわたくしどものはたけをつくってくれますから、わたくしどもはだんだんおおきな)

わざわざ木を腐らして私共の畑を作ってくれますから、私共はだんだん大きな

(りっぱなしそんがふえていくばかりです。いまにどんなきのこでもにんげんがはたを)

立派な子孫が殖えて行くばかりです。今にどんな茸でも人間が畠を

(つくってくれるようになってもらいたいとおもいますみんなはだいさんせいで)

作ってくれるようになって貰いたいと思います」皆は大賛成で

(てをたたきました。そのつぎにまつたけがえへんとせきばらいをしてえんぜつをしました。)

手をたたきました。その次に松茸がエヘンと咳払いをして演説をしました。

(みなさん、わたくしどものつとめは、だいいちにかさをひろげてしゅしをまきちらして)

「皆さん、私共のつとめは、第一に傘をひろげて種子を撒き散らして

(しそんをふやすこと、そのつぎはにんげんにたべられることですが、にんげんはなぜだか)

子孫を殖やすこと、その次は人間に食べられることですが、人間は何故だか

(わたくしどもがまだかさをひらかないうちをよろこんでもっていってしまいます。そのくせ)

私共がまだ傘を開かないうちを喜んで持って行ってしまいます。そのくせ

(しいたけさんのようなはたもつくってくれません。こんなふうだといまにわたくしどもはしゅしを)

椎茸さんのような畠も作ってくれません。こんな風だと今に私共は種子を

(まくことができず、しそんをねだやしにされねばなりません。にんげんはなぜこの)

撒く事が出来ず、子孫を根絶やしにされねばなりません。人間は何故この

(りくつがわからないかとおもうと、ざんねんでたまりませんとなみだをながして)

理屈がわからないかと思うと、残念でたまりません」と涙を流して

(もうしますと、みんなもくちぐちに、そうだ、そうだとどうじょうをしました。)

申しますと、皆も口々に、「そうだ、そうだ」と同情をしました。

(するとこのときみんなのうしろからけらけらとわらうものがあります。)

するとこの時皆のうしろからケラケラと笑うものがあります。

など

(みるとそれははえとりたけ、べにたけ、わらじたけ、ばふんたけ、)

見るとそれは蠅取り茸、紅茸、草鞋茸、馬糞茸、

(きつねのひともし、きつねのちゃぶくろなぞいうどくきのこのれんちゅうでした。)

狐の火ともし、狐の茶袋なぞいう毒茸の連中でした。

(そのおおぜいのどくきのこのなかでもいちばんおおきいはえとりたけはおおぜいのまんなかに)

その大勢の毒茸の中でも一番大きい蠅取り茸は大勢の真中に

(たちあがって、おまえたちはみんなばかだ。よのなかのやくにたつからそんなに)

立ち上って、「お前達は皆馬鹿だ。世の中の役に立つからそんなに

(とられてしまうのだ。やくにさえたたなければいじめられはしないのだ。)

取られてしまうのだ。役にさえ立たなければいじめられはしないのだ。

(じぶんのなかまだけはんじょうすればそれでいいではないか。おれたちをみろ。)

自分の仲間だけ繁昌すればそれでいいではないか。俺達を見ろ。

(やくにたつどころでなくせけんのどくになるのだ。はえでもなんでもかたっぱしから)

役に立つ処でなく世間の毒になるのだ。蠅でも何でも片っぱしから

(ころしてしまう。えらいきのこはにんげんさえもまいとしまいとしころしているくらいだ。)

殺してしまう。えらい茸は人間さえも毎年毎年殺している位だ。

(だからすこしもよのなかのごやっかいにならずに、はんじょうしていくのだ。)

だからすこしも世の中の御厄介にならずに、繁昌して行くのだ。

(おまえたちもはやくにんげんのどくになるようにべんきょうしろとおおごえでわめきたてました。)

お前達も早く人間の毒になるように勉強しろ」と大声でわめき立てました。

(これをきいたほかのれんちゅうはみんなりくつにまけてなるほど、どくにさえなれば)

これを聞いた他の連中は皆理屈に負けて「成る程、毒にさえなれば

(こわいことはないとおもうものさえありました。そのうちによるがあけて)

こわい事はない」と思う者さえありました。そのうちに夜があけて

(きのこがりのひとがきたようですから、みんなはほんとうにどくきのこのいうとおり)

茸狩りの人が来たようですから、皆は本当に毒茸のいう通り

(どくがあるがよいか、ないがよいか、しけんしてみることにしてわかれました。)

毒があるがよいか、ないがよいか、試験してみる事にしてわかれました。

(きのこがりにきたのは、どこかのおとうさんとおかあさんとねえさんとぼっちゃん)

茸狩りに来たのは、どこかのお父さんとお母さんと姉さんと坊ちゃん

(でしたが、ここへくるとみんなおおよろこびで、もはやこんなにきのこはあるまいと)

でしたが、ここへ来ると皆大喜びで、「もはやこんなに茸はあるまいと

(おもっていたが、いろいろのきのこがずいぶんたくさんあるあれ、おまえのように)

思っていたが、いろいろの茸がずいぶん沢山ある」「あれ、お前のように

(むやみにとってはだめよ。こわさないようにたいせつにとらなくては)

むやみに取っては駄目よ。こわさないように大切に取らなくては」

(ちいさなきのこはのこしておおきよ。かわいそうだからやああすこにも。)

「小さな茸は残してお置きよ。かわいそうだから」「ヤアあすこにも。

(ほらここにもとたいへんなさわぎです。そのうちにおとうさんはきがついて、)

ホラここにも」と大変な騒ぎです。そのうちにお父さんは気が付いて、

(おいおいみんなきをつけろ。ここにどくきのこがかたまってはえているぞ。)

「オイオイみんな気を付けろ。ここに毒茸が固まって生えているぞ。

(よくおぼえておけ。こんなのはみんなどくきのこだ。とってたべたら)

よくおぼえておけ。こんなのはみんな毒茸だ。取って食べたら

(しんでしまうぞとおっしゃいました。きのこどもは、なるほどどくきのこはえらいものだ)

死んでしまうぞ」とおっしゃいました。茸共は、成る程毒茸はえらいものだ

(とおもいました。どくきのこもそれみろといばっておりました。)

と思いました。毒茸も「それ見ろ」と威張っておりました。

(ところが、あらかたきのこをとってしまっておとうさんが、さあいこう)

処が、あらかた茸を取ってしまってお父さんが、「さあ行こう」

(といわれますと、ねえさんとぼっちゃんがたちどまって、まあ、どくきのこはみんな)

と言われますと、姉さんと坊ちゃんが立ち止まって、「まあ、毒茸はみんな

(にくらしいかっこうをしていることねえうん、ぼくがせいばつしてやろう)

憎らしい恰好をしている事ねえ」「ウン、僕が征伐してやろう」

(といううちに、かたっぱしからどくきのこどもはおおきいのもちいさいのもねもとまで)

といううちに、片っ端から毒茸共は大きいのも小さいのも根本まで

(こっぱみじんにふみつぶされてしまいました。)

木っ葉微塵に踏み潰されてしまいました。

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