草枕-那美編
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問題文
(けさはありがとう)
今朝はありがとう
(まあねていらっしゃい。ねていてもはなしはできましょう)
まあ寝ていらっしゃい。寝ていても話は出来ましょう
(ごたいくつだろうとおもって、おちゃをいれにきました)
御退屈だろうと思って、御茶を入れに来ました
(ありがとう。うん、なかなかみごとだ)
ありがとう。うん、なかなか美事だ
(いましがた、げんべえがかってかえりました。これならあなたにめしあがられるでしょ)
今しがた、源兵衛が買って帰りました。これならあなたに召し上がられるでしょ
(このせいじのかたちはたいへんいい。いろもみごとだ。ほとんどようかんにたいしてそんしょくがない。)
この青磁の形は大変いい。色も美事だ。ほとんど羊羹に対して遜色がない。
(そんなものが、おすきなら、みせましょうか)
そんなものが、御好きなら、見せましょうか
(ええ、みせてください)
ええ、見せて下さい
(ちちはどうぐをひとにみていただくのがだいすきなんですから)
父は道具を人に見ていただくのが大好きなんですから
(ほめなくっちゃあ、いけませんか)
褒めなくっちゃあ、いけませんか
(としよりだから、ほめてやれば、うれしがりますよ)
年寄りだから、褒めてやれば、嬉しがりますよ
(へえ、すこしならほめておきましょう)
へえ、少しなら褒めて置きましょう
(まけて、たくさんおほめなさい)
負けて、たくさん御褒めなさい
(はははは、ときにあなたのことばはいなかじゃない)
はははは、時にあなたの言葉は田舎じゃない
(にんげんはいなかなんですか)
人間は田舎なんですか
(にんげんはいなかのほうがいいのです)
人間は田舎の方がいいのです
(それじゃはばがききます)
それじゃ幅が利きます
(しかしとうきょうにいたことがありましょう)
しかし東京にいた事がありましょう
(ええ、いました、きょうとにもいました。わたりものですから、ほうぼうにいました)
ええ、いました、京都にもいました。渡りものですから、方々にいました
(こことみやこと、どっちがいいですか)
ここと都と、どっちがいいですか
(おなじことですわ)
同じ事ですわ
(こういうしずかなところが、かえってきらくでしょう)
こう云う静かな所が、かえって気楽でしょう
(きらくも、きらくでないも、よのなかはきのもちようひとつでどうでもなります)
気楽も、気楽でないも、世の中は気の持ちよう一つでどうでもなります
(ながらのおとめのごりんのとうをみていらしったか)
長良の乙女の五輪塔を見ていらしったか
(あきづけば、をばながうえにおくつゆの、けぬべくもわは、おもほゆるかも)
あきづけば、をばなが上に置く露の、けぬべくもわは、おもほゆるかも
(そのうたはね、ちゃみせでききましたよ。あのうたはあわれなうたですね)
その歌はね、茶店で聞きましたよ。あの歌は憐れな歌ですね
(あわれでしょうか。ふちかわへみをなげるなんて、つまらないじゃありませんか)
憐れでしょうか。淵川へ身を投げるなんて、つまらないじゃありませんか
(ささだおとこもささべおとこも、おとこめかけにするばかりですわ)
ささだ男もささべ男も、男妾にするばかりですわ
(それじゃかのくにへも、のみのくにへも、とびこまずにすむわけだ)
それじゃ蚊の国へも、蚤の国へも、飛び込まずに済む訳だ
(かにのようなおもいをしなくっても、いきていられるでしょう)
蟹のような思いをしなくっても、生きていられるでしょう