白痴 6

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坂口安吾の小説。

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問題文

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(きちがいのにょうぼうですものはくちでもとうぜん、)

気違いの女房ですもの白痴でも当然、

(そのうえのよくをいってはいけますまいとひとびとがいうが、)

その上の慾を言ってはいけますまいと人々が言うが、

(ははおやはだいのふふくで、)

母親は大の不服で、

(おんながごはんぐらいたけなくって、とおこっている。)

女が御飯ぐらい炊けなくって、と怒っている。

(それでもつねはたしなみのあるひんのよいばあさんなのだが、)

それでも常はたしなみのある品の良い婆さんなのだが、

(なにがさてひとかたならぬひすてりいで、)

何がさて一方ならぬヒステリイで、

(くるいだすときちがいいじょうにねいもうで)

狂い出すと気違い以上に獰猛で

(さんにんのきちがいのうちばあさんのきょうかんが)

三人の気違いのうち婆さんの叫喚が

(あたまぬけてさわがしくびょうてきだった。)

頭ぬけて騒がしく病的だった。

(はくちのおんなはおびえてしまって、)

白痴の女は怯えてしまって、

(なにごともないへいわなひびですらつねにおどおどし、)

何事もない平和な日々ですら常におどおどし、

(ひとのあしおとにもぎくりとして、いざわがやあとあいさつすると)

人の跫音にもギクリとして、伊沢がヤアと挨拶すると

(かえってぼんやりしてたちすくむのであった。)

却ってボンヤリして立ちすくむのであった。

(はくちのおんなもときどきぶたごやへやってきた。)

白痴の女も時々豚小屋へやってきた。

(きちがいのほうはわがやのごとくにどうどうとしんにゅうしてきて)

気違いの方は我家の如くに堂々と侵入してきて

(あひるにいしをぶつけたり)

家鴨に石をぶつけたり

(ぶたのほっぺたをつきまわしたりしているのだが、)

豚の頬っぺたを突き廻したりしているのだが、

(はくちのおんなはおともなくかげのごとくににげこんできて)

白痴の女は音もなく影の如くに逃げこんできて

(ぶたごやのかげにいきをひそめているのであった。)

豚小屋の蔭に息をひそめているのであった。

(いわばここはかのじょのたいひしょで、)

いわば此処は彼女の待避所で、

など

(そういうときにはたいがいりんかで)

そういう時には大概隣家で

(おさよさんおさよさんとよぶばあさんのちょうるいてきなさけびがおこり、)

オサヨさんオサヨさんとよぶ婆さんの鳥類的な叫びが起り、

(そのたびにはくちのからだはすくんだりかたむいたりはんきょうをおこし、)

そのたびに白痴の身体はすくんだり傾いたり反響を起し、

(しかたなくうごきだすにはむしのていこうのうごきのような)

仕方なく動き出すには虫の抵抗の動きのような

(ながいはんぷくがあるのであった。)

長い反復があるのであった。

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