人間失格【太宰治】2

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投稿者投稿者ひきにーと。いいね3お気に入り登録
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第一の手記です
恥の多い生涯を~とさえ考えたことがあるくらいでした。
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1 ヤス 6958 S++ 7.2 95.6% 424.2 3092 140 51 2024/10/31

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問題文

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(はじのおおいしょうがいをおくってきました)

恥の多い生涯を送ってきました。

(じぶんにはにんげんのせいかつというものがけんとうつかないのです)

自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです。

(じぶんはとうほくのいなかにうまれましたのできしゃをはじめてみたのは)

自分は東北の田舎に生まれましたので、汽車をはじめて見たのは、

(よほどおおきくなってからでしたじぶんはていしゃじょうのぶりっじをのぼっておりて)

よほど大きくなってからでした。自分は停車場のブリッジを、上って、降りて、

(そうしてそれがせんろをまたぎこえるためにつくられたものだということにはぜんぜん)

そうしてそれが線路をまたぎ越えるために造られたものだという事には全然

(きづかず)

気づかず、

(ただそれはていしゃじょうのこうないをがいこくのゆうぎじょうみたいにふくざつにたのしく)

ただそれは停車場の構内を外国の遊技場みたいに、複雑に楽しく、

(はいからにするためにのみせつびせられてあるものだとばかりおもっていました)

ハイカラにするためにのみ、設備せられてあるものだとばかり思っていました。

(しかもかなりながいあいだそうおもっていたのですぶりっじののぼったりおりたりは)

しかも、かなり永い間そう思っていたのです、ブリッジの上ったり降りたりは、

(じぶんにはむしろずいぶんあかぬけのしたゆうぎでてつどうのさーヴぃすのなかでも)

自分にはむしろ、ずいぶん垢抜けのした遊戯で、鉄道のサーヴィスの中でも、

(もっともきのきいたさーヴぃすのひとつだとおもっていたのですがのちにそれはただ)

最も気のきいたサーヴィスの一つだと思っていたのですが、のちにそれはただ

(りょかくがせんろをまたぎこえるためのすこぶるじつりてきなかいだんにすぎないのをはっけんして)

旅客が線路をまたぎ越えるための頗る実利的な階段に過ぎないのを発見して、

(にわかにきょうがさめましたまたじぶんはこどものころ)

にわかに興が覚めました。また、自分は子供の頃、

(えほんでちかてつどうというものをみてこれもやはり)

絵本で地下鉄道というものを見て、これもやはり、

(じつりてきなひつようからあんしゅつせられたのではなくちじょうのくるまにのるよりは)

実利的な必要から案出せられたのではなく、地上の車に乗るよりは、

(ちかのくるまにのったほうがふうがわりでおもしろいあそびだからとばかりおもっていました)

地下の車に乗ったほうが風がわりで面白い遊びだから、とばかり思っていました

(じぶんはこどものころからびょうじゃくでよくねこみましたがねながらしきふまくらのかヴぁ)

自分は子供の頃から病弱で、よく寝込みましたが、寝ながら、敷布、枕のカヴァ

(かけぶとんのかヴぁをつくづくつまらないそうしょくだとおもい)

掛け布団のカヴァを、つくづく、つまらない装飾だと思い、

(それがあんがいにじつようひんだったことをはたちちかくになってわかって)

それが案外に実用品だった事を、二十歳ちかくになってわかって、

(にんげんのつまらなさにあんぜんとしかなしいおもいをしましたまたじぶんは)

人間のつまらなさに暗然とし、悲しい思いをしました。また、自分は、

など

(くうふくということをしりませんでしたいやそれは)

空腹という事を知りませんでした。いや、それは、

(じぶんがいしょくじゅうにこまらないいえにそだったといういみではなく)

自分が衣食住に困らない家に育ったという意味ではなく、

(そんなばかないみではなくじぶんにはくうふくというかんかくはどんなものだか)

そんな馬鹿な意味ではなく、自分には「空腹」という感覚はどんなものだか、

(さっぱりわからなかったのですへんないいかたですがおなかがすいていても)

さっぱりわからなかったのです。へんな言いかたですが、おなかが空いていても

(じぶんでそれにきがつかないのですしょうがっこうちゅうがっこう)

自分でそれに気がつかないのです。小学校、中学校、

(じぶんががっこうからかえってくるとしゅういのひとたちがそれおなかがすいたろう)

自分が学校から帰ってくると、周囲の人たちが、それ、おなかが空いたろう、

(じぶんたちにもおぼえがあるがっこうからかえってきたときのくうふくはまったくひどいからな)

自分たちにも覚えがある。学校から帰って来た時の空腹は全くひどいからな、

(あまなっとうはどうかすてらもぱんもあるよなどといってさわぎますので)

甘納豆はどう?カステラも、パンもあるよ、などと言って騒ぎますので、

(じぶんはもちまえのおべっかせいしんをはっきしておなかがすいたとつぶやいて)

自分は持ち前のおべっか精神を発揮して、おなかが空いた、と呟いて、

(あまなっとうをじゅっつぶばかりくちにほうりこむのですがくうふくかんとはどんなものだか)

甘納豆を十粒ばかり口にほうり込むのですが、空腹感とは、どんなものだか、

(ちっともわかっていやしなかったのですじぶんだってそれはもちろん)

ちっともわかっていやしなかったのです。自分だって、それは勿論、

(おおいにものをたべますがしかしくうふくかんからものをたべたきおくは)

大いにものを食べますが、しかし、空腹感から、ものを食べた記憶は、

(ほとんどありませんめずらしいとおもわれたものをたべます)

ほとんどありません。めずらしいと思われたものを食べます。

(ごうかとおもわれたものをたべますまたよそへいってだされたものも)

豪華と思われたものを食べます。また、よそへ行って出されたものも、

(むりをしてまでたいていたべますそうしてこどものころのじぶんにとって)

無理をしてまで、たいてい食べます。そうして、子供の頃の自分にとって、

(もっともくつうなじこくはじつにじぶんのいえのしょくじのじかんでした)

もっとも苦痛な時刻は、実に、自分の家の食事の時間でした。

(じぶんのいなかのいえではじゅうにんくらいのかぞくぜんぶ)

自分の田舎の家では、十人くらいの家族全部、

(めいめいのおぜんをにれつにむかいあわせにならべてすえっこのじぶんは)

めいめいのお膳を二列に向かい合わせに並べて、末っ子の自分は、

(もちろんいちばんしものざでしたがそのしょくじのへやはうすぐらくひるごはんのときなど)

もちろん一ばん下の座でしたが、その食事の部屋は薄暗く、昼ごはんの時など、

(じゅういくにんのかぞくがただもくもくとしてめしをくっているありさまには)

十幾人の家族が、ただ黙々としてめしを食っている有様には、

(じぶんはいつもはだざむいおもいをしましたそれにいなかのむかしかたぎのいえでしたので)

自分はいつも肌寒い思いをしました。それに田舎の昔気質の家でしたので、

(おかずもたいていきまっていてめずらしいものごうかなもの)

おかずも、たいていきまっていて、めずらしいもの、豪華なもの、

(そんなものはのぞむべくもなかったので)

そんなものは望むべくもなかったので、

(いよいよじぶんはしょくじのじこくをきょうふしましたじぶんはそのうすぐらいへやのまっせきに)

いよいよ自分は食事の時刻を恐怖しました。自分はその薄暗い部屋の末席に、

(さむさにがたがたふるえるおもいでくちにごはんをしょうりょうずつはこびおしこみにんげんは)

寒さにがたがた震える思いで口にごはんを少量ずつ運び、押し込み、人間は、

(どうしていちにちにさんどさんどごはんをたべるのだろう)

どうして一日に三度三度ごはんを食べるのだろう、

(じつにみなげんしゅくなかおをしてたべているこれもいっしゅのぎしきのようなもので)

実にみな厳粛な顔をして食べている、これも一種の儀式のようなもので、

(かぞくがひにさんどさんどじこくをきめてうすぐらいひとへやにあつまりおぜんをじゅんじょただしくならべ)

家族が日に三度三度、時刻をきめて薄暗い一部屋に集り、お膳を順序正しく並べ

(たべたくなくてもむごんでごはんをかみながらうつむき)

食べたくなくても無言でごはんを噛みながら、うつむき、

(いえじゅうにうごめいているれいたちにいのるためのものかもしれない)

家中にうごめいている霊たちに祈るためのものかもしれない、

(とさえかんがえたことがあるくらいでした)

とさえ考えたことがあるくらいでした。

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