心霊研究会の怪2 海野十三

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心霊研究会の怪/海野十三 著
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問題文

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(「しごのせかい」)

【死後の世界】

(いったいしんれいとはなにであろうか。それはたましいのことである。にくたいのなかに、)

一体心霊とは何であろうか。それは魂のことである。肉体の中に、

(たましいがやどっている。そのたましいが、にくたいのしご、それからぬけだして、)

魂が宿っている。その魂が、肉体の死後、それから抜けだして、

(つぎのせかいへいく。そのたましいは、ばあいによってはもとのせかいに)

次の世界へ行く。その魂は、場合によっては元の世界に

(あらわれることもある。このたましいは、このよににくたいができるまえからあった。)

現れることもある。この魂は、この世に肉体が出来る前からあった。

(つまりたましいはさんぜにまたがってそんざいするのである。しんれいけんきゅうしゃは、)

つまり魂は三世にまたがって存在するのである。心霊研究者は、

(そうといている。あるいっぱでは、よんせにまたがっているといっている。)

そう説いている。或る一派では、四世にまたがっているといっている。

(すなわち、まえのよ、このよ、つぎのよ、もうひとつさきのよ、)

すなわち、前の世、この世、次の世、もう一つ先の世、

(このよっつのよがある。たましいはこのよっつのよをりょこうするものだと)

この四つの世がある。魂はこの四つの世を旅行するものだと

(いうのである。しばいなどでゆうれいがすがたをあらわし、うらみをふくんだめで、)

いうのである。芝居などで幽霊が姿をあらわし、恨みを含んだ目で、

(きっとにらみ、ほそいてくびでぐるぐるとえんをえがき「まようたわい」と)

きっと睨み、細い手首でグルグルと円を描き『迷うたわい』と

(ちをはくようなこえでうったえる。このゆうれいも、にくたいをはなれたたましいであって、)

血を吐くような声で訴える。この幽霊も、肉体をはなれた魂であって、

(かりにせいぜんのかたちをせいあるひとにみせながら、それにのって)

仮に生前の形を生ある人に見せながら、それに乗って

(げんせへやってくる。しんれいけんきゅうしゃたちは、そのようなゆうれいは、)

現世へやって来る。心霊研究者たちは、そのような幽霊は、

(いんちきしんれいであるとはいせきしている。みらいのよ、すなわち)

インチキ心霊であると排斥している。未来の世、すなわち

(しごのせかいから、げんせへもどってきて、げんせのひとと、ことばを)

死後の世界から、現世へ戻って来て、現世の人と、言葉を

(かわすしんれいは、ふつうはれいばいのちからをかりなければならない。)

交わす心霊は、普通は霊媒の力を借りなければならない。

(ふつうはとせいげんをふしたが、れいばいなしに、げんせへあらわれるしんれいは、)

普通はと制限を附したが、霊媒なしに、現世へ現れる心霊は、

(いわゆるしゅごれいというしゅぎょうをつんだしんれいにかぎるのである。)

いわゆる守護霊という修行を積んだ心霊に限るのである。

(にんげんがしぬと、にくたいはほろぶが、しんれいはのこる。そのしんれいは、いわゆる)

人間が死ぬと、肉体は亡ぶが、心霊は残る。その心霊は、いわゆる

など

(しごのせかいへはいる。しごのせかいへはいったしんれいは、そのせかいでは)

死後の世界へはいる。死後の世界へはいった心霊は、その世界では

(しんざんものであるがゆえに、あたかもげんせにおけるえいじのごとく、)

新参者であるが故に、あたかも現世に於ける嬰児の如く、

(はなはだたよりないそんざいである。ふつうのばあいは、しんだことすら)

甚だたよりない存在である。普通の場合は、死んだことすら

(じかくしていない。そしてしのちょくぜんにかんじたくるしみのなかにいぜんとして)

自覚していない。そして死の直前に感じた苦しみの中に依然として

(うきしずみしている。いびょうでしんだものならば、「いがいたいいたい」と)

浮き沈みしている。胃病で死んだ者ならば、「胃が痛い痛い」と

(さけびつづけているし、はいびょうでしんだものならば「こきゅうができない、)

叫びつづけているし、肺病で死んだ者ならば「呼吸ができない、

(くるしいくるしい」とさけびつづけている。これはれいばいのちからをかりて、)

苦しい苦しい」と叫びつづけている。これは霊媒の力を借りて、

(そのしんれいをれいばいのにくたいにいちじやどらせると、そのことがはっきりする。)

その心霊を霊媒の肉体に一時宿らせると、そのことがはっきりする。

(つまり、れいばいのにくたいへ、ぼうれいをまねきよせるのである。しょうれいするのだ。)

つまり、霊媒の肉体へ、亡霊を招きよせるのである。招霊するのだ。

(これをおこなうには、れいばいをむがのさかいにおとしいれるもうひとりのじゅつしゃが)

これを行うには、霊媒を無我の境に陥し入れるもう一人の術者が

(いるのがふつうである。しかしそのれいばいがしゅぎょうをつんだひとならば、)

要るのが普通である。しかしその霊媒が修行を積んだ人ならば、

(じぶんでむがのさかいにはいっていくから、じゅつしゃはいらない。)

自分で無我の境に入って行くから、術者は要らない。

(れいばいがむがのさかいにはいるとうなりごえをはっする。するとそばについている)

霊媒が無我の境に入ると呻り声を発する。すると傍についている

(しんれいけんきゅうかいがわのあるじが、「しんれいがでましたから、はなしをしてごらんなさい」)

心霊研究会側の主が、『心霊が出ましたから、話をしてごらんなさい』

(という。なお、「このようすでは、このかたは、まだごじぶんがしんだことを)

という。尚、『この様子では、この方は、まだ御自分が死んだことを

(じかくしていませんな」と、ことばをつぐ。そこでこっちから、)

自覚していませんな』と、言葉を継ぐ。そこでこっちから、

(れいばいへこえをかける。するとれいばいがへんじをする。「ああ、だれですか。)

霊媒へ声をかける。すると霊媒が返事をする。『ああ、誰ですか。

(くるしいくるしい。ここがいたい」などとしんたいをひねってくつうのいろをしめす。)

苦しい苦しい。ここが痛い』などと身体をひねって苦痛の色を示す。

(「ああ、きのどくに。このかたははいびょうでなくなられたな」としゅじが)

『ああ、気の毒に。この方は肺病で亡くなられたな』と主事が

(いいあてる。そして「はやくこえをかけてあげなさい。あなたはもう)

言いあてる。そして『早く声をかけてあげなさい。あなたはもう

(しんでいるのですぞとおしえておやりなさい」とじょげんする。)

死んでいるのですぞと教えておやりなさい』と助言する。

(そこでこっちは、おそるおそるそのことをつげる。するとれいばいにあらわれた)

そこでこっちは、恐る恐るそのことを告げる。すると霊媒に現れた

(しんれいは、つよくそれをひていする。それからそうほうでおしもんどうを)

心霊は、強くそれを否定する。それから双方で押問答を

(くりかえしているうちに、しんれいは、はじめてじぶんのにくたいがないことに)

くりかえしているうちに、心霊は、はじめて自分の肉体がないことに

(きがつく。そこでしんれいは、はげしくなげきかなしむ。)

気がつく。そこで心霊は、はげしく嘆き悲しむ。

(しをようやくじかくしたしんれいをなぐさめるために、かなりほねがおれる。)

死をようやく自覚した心霊を慰めるために、かなり骨が折れる。

(こっちはいいかげんにくたくたとなる。が、とどしんれいはあきらめのきょうちに)

こっちはいい加減にくたくたとなる。が、とど心霊は諦めの境地に

(たっし、せいぜんのこういをかんしゃしたり、げんざいいるせかいのようすをぼつぼつと)

達し、生前の好意を感謝したり、現在居る世界の様子をぼつぼつと

(かたりだす。ふつうだいいっかいのしょうれいでは、そのしんれいは、ほとんどやみの)

語り出す。普通第一回の招霊では、その心霊は、ほとんど闇の

(くうかんにおかれているとつげる。それがだいにかいめになると、)

空間に置かれていると告げる。それが第二回目になると、

(ゆうぐれぐらいのあかるさになり、だいさんかいだいよんかいと、かいをかさねるごとに、)

夕暮ぐらいの明るさになり、第三回第四回と、回を重ねるごとに、

(そのしんれいのかんきょうはだんだんとあかるさをましていく。)

その心霊の環境はだんだんと明るさを増して行く。

(なんじゅっかいにおよんだあとは、くもりびぐらいのあかるさになったとつげる。)

何十回に及んだ後は、曇り日ぐらいの明るさになったと告げる。

(そしてあたりのふうぶつについてかたってくれる。)

そしてあたりの風物について語ってくれる。

(あたりはひろびろとしたのはらであること。はなはさいていないが、)

あたりは広々とした野原であること。花は咲いていないが、

(じぶんがはながみたいとおもうと、そのちょくごにこののはらにうつくしくはなが)

自分が花が見たいと思うと、その直後にこの野原に美しく花が

(さきいでるとつげる。つくえがほしいとおもうと、のはらにこつぜんと)

咲き出でると告げる。机が欲しいと思うと、野原に忽然と

(つくえがでてくる。なんでもほしいものは、じゆうにでてくるのだそうである。)

机が出て来る。なんでも欲しいものは、自由に出て来るのだそうである。

(だが、そのしんれいはこどくをつげる。のはらに、じぶんひとりで)

だが、その心霊は孤独を告げる。野原に、自分ひとりで

(せいかつしているのだそうである。ただ、いつだかろうじんのかんぬしさんの)

生活しているのだそうである。ただ、いつだか老人の神主さんの

(ようなひとがとおくをあるいているのをみかけたという。しんれいけんきゅうかいのしゅじは、)

ような人が遠くを歩いているのを見かけたという。心霊研究会の主事は、

(「そのかんぬしすがたのひとこそ、しゅごれいさんですよ」と、あとでかいせつしてくれる。)

『その神主姿の人こそ、守護霊さんですよ』と、あとで解説してくれる。

(それからひがたつと、しいんをなしたびょうきのいたみはとれる。それが)

それから日が立つと、死因をなした病気の痛みはとれる。それが

(とれると、こんどはしゅうだんせいかつにはいる。はじめは、おなじころしんだ)

とれると、こんどは集団生活にはいる。はじめは、同じころ死んだ

(どうせいのものだけのあつまりである。そしてちじんはひとりもみつからないので)

同性の者だけの集りである。そして知人は一人も見つからないので

(こころぼそい。しかしこどくでくらしていたときよりはにぎやかである。)

心細い。しかし孤独で暮らしていたときよりは賑やかである。

(いちどうは、しゅごれいさんをしとして、まいにちしゅぎょうをかさねていくのである。)

一同は、守護霊さんを師として、毎日修行を重ねていくのである。

(それはなかなかめんどうなことであり、しゃばのようにいいかげんで)

それはなかなか面倒なことであり、娑婆のようにいい加減で

(ほうっておくことはゆるされないので、ほねがおれるそうである。)

放っておくことは許されないので、骨が折れるそうである。

(やがてしけんのひがくる。このしけんにごうかくすると、かいだんがひとつあがる。)

やがて試験の日が来る。この試験に合格すると、階段が一つ上る。

(そしていよいよしゅぎょうのないようがむずかしくなる。そのかわりじぶんのおしえごが)

そしていよいよ修行の内容がむずかしくなる。その代り自分の教え子が

(せいじんができるし、そのせかいにおいて、こうどうのじゆうがすこしずつふよされる。)

成人が出来るし、その世界に於て、行動の自由が少しずつ付与される。

(そうなると、しんれいは、そのせかいをほうぼうけんぶつしたり、またじぶんよりも)

そうなると、心霊は、その世界を方々見物したり、また自分よりも

(さきにしんで、ここへきているはずのしんるいえんじゃやゆうじんたちをさがしまわって)

先に死んで、ここへ来ているはずの親類縁者や友人たちを探しまわって

(であうこともある。それからさきは、ますますしゅぎょうをつみ、やがて)

出会うこともある。それから先は、ますます修行を積み、やがて

(しゅごれいさんにまでしょうかくするのをもくひょうとしてはげむのである。)

守護霊さんにまで昇格するのを目標として励むのである。

(しゅごれいさんになるには、ふつうのしんれいでは、はやくてもよんひゃくねんは)

守護霊さんになるには、普通の心霊では、早くても四百年は

(かかるそうである。しゅごれいさんになると、かずかずのぎのうがあたえられる。)

かかるそうである。守護霊さんになると、かずかずの技能が与えられる。

(いっぷんかんにせんりをとぶことができたり、しゃばへじゆうにひがえりりょこうが)

一分間に千里を飛ぶことができたり、娑婆へ自由に日がえり旅行が

(できたりする。そしてしゅごれいさんだけのだいよんせへにゅうせきすることができ、)

出来たりする。そして守護霊さんだけの第四世へ入籍することが出来、

(そこでもしゅぎょうと、あとからくるわかいしんれいたちへのせわのせいかによって、)

そこでも修行と、後から来る若い心霊たちへの世話の成果によって、

(だいしゅごれいとなるしゅっせのみちがある。そしててんかのことはじぶんのこころしだいで、)

大守護霊となる出世の途がある。そして天下のことは自分の心次第で、

(どうにもなるというだいのうりょくしゃになる。これがしんれいの「あがり」である。)

どうにもなるという大能力者になる。これが心霊の『上り』である。

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