「悪魔の紋章」14 江戸川乱歩
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 123 | 6249 | A++ | 6.4 | 96.9% | 650.0 | 4196 | 134 | 66 | 2024/11/01 |
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問題文
(ところが、じどうしゃがじむしょへのみちをなかばほどもきたときである。)
ところが、自動車が事務所への道を半ば程も来た時である。
(はかせはとつぜんかっとめをみひらき、 「おお、そうかもしれない」)
博士は突然カッと目を見開き、 「オオ、そうかも知れない」
(とひとりごとをいったかとおもうと、いままであおざめていたかおに、さっとちのけが)
と独言をいったかと思うと、今まで青ざめていた顔に、サッと血の気が
(のぼって、めのいろもにわかにいきいきとかがやいてきた。 「おい、うんてんしゅ、)
のぼって、目の色も俄かに生々と輝いて来た。 「オイ、運転手、
(もとのばしょへひきかえすんだ。おおいそぎだぞ」 はかせはびっくりするようなこえで)
元の場所へ引返すんだ。大急ぎだぞ」 博士はびっくりするような声で
(どなった。 「なにかおわすれものでも・・・・・・」)
呶鳴った。 「何かお忘れものでも・・・・・・」
(こいけじょしゅがどぎまぎしてたずねる。 「うん、わすれものだ。ぼくはたったひとつ)
小池助手がドギマギして訊ねる。 「ウン、忘れものだ。僕はたった一つ
(さがしわすれたばしょがあったことに、いまやっときづいたんだ」)
探し忘れた場所があったことに、今やっと気附いたんだ」
(めいたんていは、そういうあいだももどかしげに、ふたたびうんてんしゅをどなりつけて、)
名探偵は、そういう間ももどかしげに、再び運転手を呶鳴りつけて、
(くるまのほうこうをかえさせた。 「それじゃ、あのぞくのひみつのでいりぐちが)
車の方向を変えさせた。 「それじゃ、あの賊の秘密の出入口が
(おわかりになったのですか」 「いや、ぞくはでもしなければ、はいりも)
おわかりになったのですか」 「イヤ、賊は出もしなければ、入りも
(しなかったということをきづいたのさ。あいつは、たえこさんといっしょに)
しなかったということを気附いたのさ。あいつは、妙子さんと一緒に
(ちゃんとぼくたちのめのまえにいたんだ。ああ、おれは、いままでそこに)
ちゃんと僕達の目の前にいたんだ。アア、俺は、今までそこに
(きがつかないなんて、じつにひどいもうてんにひっかかったもんだ」)
気がつかないなんて、実にひどい盲点に引っかかったもんだ」
(こいけじょしゅはめをぱちぱちとしばたたいた。はかせのことばのいみが、)
小池助手は目をパチパチとしばたたいた。博士の言葉の意味が、
(すこしもわからなかったからである。 「めのまえにいたといいますと?」)
少しも分らなかったからである。 「目の前にいたといいますと?」
(「いまにわかる。ひょっとしたらぼくのおもいちがいかもしれない。しかし、)
「今に分る。ひょっとしたら僕の思い違いかも知れない。しかし、
(どうかんがえてもそのほかにてじなのたねはないのだ。こいけくん、よのなかには、)
どう考えてもその外に手品の種はないのだ。小池君、世の中には、
(すぐめのまえにありながら、どうしてもきのつかないようなばしょがあるものだよ。)
すぐ目の前に在りながら、どうしても気の附かないような場所があるものだよ。
(しゅうかんのちからだ。ひとつのどうぐがまったくべつのようとにつかわれると、われわれはたちまち)
習慣の力だ。一つの道具が全く別の用途に使われると、我々は忽ち
(もうもくになってしまうのだ」 こいけじょしゅはめんくらった。きけばきくほど)
盲目になってしまうのだ」 小池助手は益々面喰らった。聞けば聞く程
(わけがわからなくなるばかりである。しかし、かれはこれいじょうたずねてもむだなことを)
訳が分らなくなるばかりである。しかし、彼はこれ以上訊ねても無駄なことを
(よくしっていた。むなかたはかせは、そのすいりがかくじつにたしかめられるまでは、)
よく知っていた。宗像博士は、その推理が確実に確かめられるまでは、
(ぐたいてきなひょうげんをしないひとであった。 やがて、くるまがきていいじょうのそくりょくで、)
具体的な表現をしない人であった。 やがて、車が規定以上の速力で、
(かわでていのもんぜんにつくやいなや、はかせはみずからどあをひらいてじどうしゃをとびだし、)
川手邸の門前に着くや否や、博士は自らドアを開いて自動車を飛び出し、
(かぜのようにげんかんへかけこんでいった。 きゃくまにはいってみると、かわでしは、)
風のように玄関へ駈け込んで行った。 客間に入ってみると、川手氏は、
(そこのながいすにぐったりともたれたまま、ものをかんがえるちからもなくなったように、)
そこの長椅子にグッタリと凭れたまま、ものを考える力もなくなったように、
(ぼうぜんとしていた。 「ごしゅじん、ちょっと、もういちどあのへやをみせてください。)
茫然としていた。 「御主人、ちょっと、もう一度あの部屋を見せて下さい。
(たったひとつみおとしていたものがあるんです」 はかせはかわでしのてを)
たった一つ見落していたものがあるんです」 博士は川手氏の手を
(ひっぱらんばかりにして、せきたてた。 かわでしは、いぎもとなえなかったかわり、)
引っぱらんばかりにして、せき立てた。 川手氏は、異議も唱えなかった代り、
(さしてねついもしめさず、きぬけしたようにたちあがって、はかせとこいけじょしゅの)
さして熱意も示さず、気抜けしたように立上って、博士と小池助手の
(あとにつづいた。 たえこさんのへやのまえまでくると、はかせはどあののっぶを)
後につづいた。 妙子さんの部屋の前まで来ると、博士はドアの把手を
(まわしてみて、 「ああ、やっぱりそうだったか。ここへかぎを)
廻して見て、 「アア、やっぱりそうだったか。ここへ鍵を
(かけてさえおいたらなあ」 と、らくたんのためいきをついた。すでにたえこさんが)
かけてさえ置いたらなあ」 と、落胆の溜息をついた。既に妙子さんが
(ゆうかいされてしまったあとのへやへ、だれがかぎなぞかけるものか。)
誘拐されてしまったあとの部屋へ、誰が鍵なぞかけるものか。
(はかせはいったいなにをいっているのであろう。 へやにはいると、はかせはつぎのまを)
博士は一体何を云っているのであろう。 部屋に入ると、博士は次の間を
(とおりこして、しんしつにとびこみ、ゆうべまでたえこさんのねていた)
通り越して、寝室に飛び込み、昨夜まで妙子さんの寝ていた
(おおきなしんだいのうえに、いきなりごろりとよこになった。そして、ぶさほうにも、)
大きな寝台の上に、いきなりゴロリと横になった。そして、不作法にも、
(もーにんぐのまま、そのうえにはらんばいになって、かわでしにはなしかけたのである。)
モーニングのまま、その上に腹這いになって、川手氏に話しかけたのである。
(「ごしゅじん、このべっどはまだあたらしいようですね。いつおかいになりました」)
「御主人、このベッドはまだ新しいようですね。いつお買いになりました」
(あまりにもいがいなはかせのたいどやことばに、かわでしはますますあっけにとられて、)
余りにも意外な博士の態度や言葉に、川手氏はますますあっけにとられて、
(きゅうにはこたえることもできなかった。いったいこのおとこはどうしたのだ、)
急には答えることも出来なかった。一体この男はどうしたのだ、
(きでもちがったのではないかと、あやしみさえした。 「え、いつおかいいれでした」)
気でも違ったのではないかと、怪しみさえした。 「エ、いつお買入れでした」
(はかせはだだっこのようにくりかえす。 「ついさいきんですよ。いぜんにつかっていたのが、)
博士は駄々ッ子のように繰返す。 「つい最近ですよ。以前に使っていたのが、
(きゅうにいたんだものですから、よっかほどまえに、かぐやにありあわせのものを)
急にいたんだものですから、四日程前に、家具屋にあり合せのものを
(すえつけさせたのです」 「うん、そうでしょう。で、それをもちこんできた)
据えつけさせたのです」 「ウン、そうでしょう。で、それを持込んで来た
(にんぷをごらんでしたかね。たしかにそのかぐやのみせのものでしたか」)
人夫をごらんでしたかね。たしかにその家具屋の店のものでしたか」
(「さあ、そいつは・・・・・・。わしはちょうどいあわせて、すえつけるばしょを)
「サア、そいつは・・・・・・。わしは丁度居合せて、据えつける場所を
(さしずしたのですが、なんでもひだりのめにがーぜのがんたいをあてたひげづらのおとこが、)
指図したのですが、何でも左の目にガーゼの眼帯を当てた髭面の男が、
(しきりとなにかいっていたようです。むろんみしらぬおとこですよ」)
しきりと何か云っていたようです。無論見知らぬ男ですよ」
(ああ、ひだりのめにがーぜをあてたおとこ。どくしゃはなにかおもいあたるところがないだろうか。)
アア、左の目にガーゼを当てた男。読者は何か思い当る所がないだろうか。
(われわれはどこかで、おなじようなじんぶつにであったことがあるのだ。かつてゆきこさんの)
我々はどこかで、同じような人物に出会ったことがあるのだ。嘗て雪子さんの
(したいをいれたちんれつばこを、えいせいてんらんかいへもちこんだにんぷのかしらが、ちょうどそれと)
死体を入れた陳列箱を、衛生展覧会へ持込んだ人夫の頭が、丁度それと
(おなじふうていのおとこではなかったか。 「おお、やっぱりそうだったか」)
同じ風体の男ではなかったか。 「オオ、やっぱりそうだったか」
(はかせはうなるようにいうと、べっどからおりて、こんどはそのしたのわずかのすきまに)
博士は唸るように云うと、ベッドから降りて、今度はその下の僅かの隙間に
(はいこむと、じどうしゃのしゅうぜんでもするように、あおむきになって、べっどのうらがわを)
這い込むと、自動車の修繕でもするように、仰向きになって、ベッドの裏側を
(しらべていたが、とつぜん、おそろしいこえでどなりだした。 「ごしゅじん、ぼくの)
調べていたが、突然、恐ろしい声で呶鳴り出した。 「御主人、僕の
(そうぞうしたとおりです。ごらんなさい。ここをごらんなさい。あいつのてじなのたねが)
想像した通りです。ごらんなさい。ここをごらんなさい。彼奴の手品の種が
(わかりましたよ。ああ、なんということだ。いまごろになって、やっとそこへ)
分りましたよ。アア、なんということだ。今頃になって、やっとそこへ
(きがつくなんて・・・・・・」 かわでしとこいけじょしゅは、いそいでべっどのむかいがわに)
気が附くなんて・・・・・・」 川手氏と小池助手は、急いでベッドの向側に
(まわってみた。 「どこですか」)
廻って見た。 「どこですか」
(「ここだ、ここだ。べっどをもっとかべからはなしてくれたまえ。)
「ここだ、ここだ。ベッドをもっと壁から離してくれ給え。
(ここにしかけがあるんだ」 ふたりはいわれるままに、べっどをおして、)
ここに仕掛けがあるんだ」 二人はいわれるままに、ベッドを押して、
(かべぎわからはなしたが、すると、そのしたからあおむきによこたわっている)
壁際から離したが、すると、その下から仰向きに横たわっている
(はかせのじょうはんしんがあらわれ、はかせはそのままおきあがって、いままでかべに)
博士の上半身が現われ、博士はそのまま起き上って、今まで壁に
(せっしていたべっどのそくめんをさししめした。)
接していたベッドの側面を指し示した。