山本周五郎 赤ひげ診療譚 狂女の話 4

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投稿者投稿者uzuraいいね3お気に入り登録
プレイ回数911難易度(4.5) 3376打 長文 長文モード可
映画でも有名な、山本周五郎の傑作短編です。
長崎から江戸へ帰ってきた青年医師保本登は、小石川養生所で働くことになるが…。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 じゅんこ 5024 B+ 5.3 94.9% 638.3 3387 180 58 2024/04/24
2 hutaba 3955 D++ 4.1 96.1% 818.9 3376 137 58 2024/04/07

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問題文

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(そこではじゅうしちはちにんもひとをつかっているのだが、)

そこでは十七八人も人を使っているのだが、

(にねんばかりのあいだにさんにん、ひとりはあぶないところをたすかったが、)

二年ばかりのあいだに三人、一人はあぶないところを助かったが、

(わかいふたりはゆみのためにころされてしまった。)

若い二人はゆみのために殺されてしまった。

(「それがただころすだけでないんです、いろじかけで、)

「それがただ殺すだけでないんです、いろじかけで、

(おとこのじゆうをうばっておいてからやるんですよ」とつがわはくちびるをなめた、)

男の自由を奪っておいてからやるんですよ」と津川は唇を舐めた、

(「あぶなくたすかったおとこのはなしなんですがね、はじめにむすめのほうからこいをしかけて、)

「あぶなく助かった男の話なんですがね、初めに娘のほうから恋をしかけて、

(おとこにねまへしのんでこさせる、それからそうとうないろもようがあるらしいんだが、)

男に寝間へ忍んで来させる、それから相当ないろもようがあるらしいんだが、

(すっかりおとこがのぼせあがって、むていこうなじょうたいになったとき、)

すっかり男がのぼせあがって、無抵抗な状態になったとき、

(かんざしでぐっとやるんだそうです」)

釵(かんざし)でぐっとやるんだそうです」

(のぼるはまゆをひそめ、ひくいこえでそっとつぶやいた、)

登は眉をひそめ、低い声でそっとつぶやいた、

(「おとこにうらぎられたことがげんいんなんだな」)

「男に裏切られたことが原因なんだな」

(「あかひげのみたてはちがいます」とつがわがまたくちびるをなめていった、)

「赤髯のみたては違います」と津川がまた唇を舐めて云った、

(「いっしゅのせんてんてきなしきじょうきょうだというんです、きょうきというよりも、)

「一種の先天的な色情狂だというんです、狂気というよりも、

(むしろきょうてきたいしつだとあかひげはいっていますよ」)

むしろ狂的躰質だと赤髯は云っていますよ」

(のぼるのあたまにさつじんいんらく、といういみのことばがうかんだ。ながさきでべんきょうしたときに、)

登の頭に殺人淫楽、という意味の言葉がうかんだ。長崎で勉強したときに、

(おらんだのいしょでそういうしょうれいをまなんだ。)

和蘭(オランダ)の医書でそういう症例をまなんだ。

(にほんにもむかしからあったといって、おなじようなれいをいくつかしてきされたし、)

日本にも昔からあったといって、同じような例を幾つか指摘されたし、

(そのひっきもとっておいた。おやのちからもあったろうが、)

その筆記もとっておいた。親のちからもあったろうが、

(むすめはつみにならなかった。ころされたあいてはたなのしようにんであり、)

娘は罪にならなかった。殺された相手は店の使用人であり、

(しゅじんのむすめのねまへしのびこんだうえてごめにしようとした。)

主人の娘の寝間へ忍びこんだうえ手ごめにしようとした。

など

(ひょうめんはそのとおりだし、しにんにくちなしでそのままにすんだ。)

表面はそのとおりだし、死人に口なしでそのままにすんだ。

(しかしさんにんめのてだいがいのちびろいをして、はじめてじじょうがわかり、)

しかし三人めの手代が命びろいをして、初めて事情がわかり、

(にいできょじょうがよばれた。きょじょうはざしきろうをつくってかんきんしろといった。)

新出去定が呼ばれた。去定は座敷牢を造って檻禁しろと云った。

(さもなければ、かならずおなじようなことがくりかえしおこなわれるだろう。)

さもなければ、必ず同じようなことがくり返し行われるだろう。

(ほかのきょうきとちがってしきじょうからおこるものであり、)

ほかの狂気とちがって色情から起こるものであり、

(そのほかのてんではじょうじんとすこしもかわらないから、かんきんするいがいに)

その他の点では常人と少しも変らないから、檻禁する以外に

(ふせぎようはないとしゅちょうした。しかし、かぞくやしようにんのおおいいえなので、)

ふせぎようはないと主張した。しかし、家族や使用人の多い家なので、

(ざしきろうをつくったり、そこへかんきんしたりすることはせけんがうるさい。)

座敷牢を造ったり、そこへ檻禁したりすることは世間がうるさい。

(ようじょうしょのなかへいえをたてるから、そちらでちりょうしてもらえまいか、)

養生所の中へ家を建てるから、そちらで治療してもらえまいか、

(とおやがいった。むすめのきょうきがなおるにしろ、ふじのまましぬにしろ、)

と親が云った。娘の狂気が治るにしろ、不治のまま死ぬにしろ、

(そのたてものはようじょうしょへそのままきふするし、にゅうひはいくらでもだす。)

その建物は養生所へそのまま寄付するし、入費はいくらでも出す。

(そういうことで、いっさくねんのあきにいえをたて、おすぎというじょちゅうをつれて、)

そういうことで、一昨年の秋に家を建て、お杉という女中を伴れて、

(むすめがうつってきたのであった。「あのたてものはぜんたいがろうづくりなんです」)

娘が移って来たのであった。「あの建物は全体が牢造りなんです」

(とつがわはいった、「なかはふたへやにかってがあって、)

と津川は云った、「中は二た部屋に勝手があって、

(すいじもせんたくもぜんぶおすぎがやるんです、ひつようなにちようのしなは、)

炊事も洗濯もぜんぶお杉がやるんです、必要な日用の品は、

(みっかにいちどずつじっかからもってくるんですが、おすぎがかぎをもっていて、)

三日にいちどずつ実家から持って来るんですが、お杉が鍵を持っていて、

(いえのなかへはだれもいれないし、むすめもひとりではけっしてそとへだしません、)

家の中へは誰もいれないし、娘も一人では決して外へ出しません、

(あのいえへはいるのはあかひげだけですよ」「ちりょうほうがあるんですか」)

あの家へはいるのは赤髯だけですよ」「治療法があるんですか」

(「どうですかね」とつがわはくびをふった、)

「どうですかね」と津川は首を振った、

(「ちりょうというよりもときどきおこるほっさのほうがもんだいらしいですよ、)

「治療というよりもときどき起こる発作のほうが問題らしいですよ、

(そのためにあかひげがとくにちょうごうをしたくすりをやるんですが、)

そのために赤髯が特に調合をした薬をやるんですが、

(そうそう、さっきおすぎがとりにきたのがそのくすりなんだが、)

そうそう、さっきお杉が取りに来たのがその薬なんだが、

(あかひげはぜったいにほかのものにはちょうごうさせないし、)

赤髯は絶対にほかの者には調合させないし、

(ひじょうにこうかのいいくすりらしいですよ」さつじんいんらく、とのぼるはこころのなかでおもった。)

ひじょうに効果のいい薬らしいですよ」殺人淫楽、と登は心の中で思った。

(それがたいしつでありせんてんせいのものだとすると、むすめのおかしたことはむすめのつみではない。)

それが躰質であり先天性のものだとすると、娘の犯したことは娘の罪ではない。

(ふてぎわにほられたもくぞうのしゅうあくさが、もくぞうそのもののつみではないように。)

不手際に彫られた木像の醜悪さが、木像そのものの罪ではないように。

(ーーだがちぐさのばあいはちがう。ちぐさはまったくせいじょうなむすめだった。)

ーーだがちぐさの場合はちがう。ちぐさはまったく正常な娘だった。

(のぼるはそうおもいながらくちびるをかんだ。「かわいそうなのはおすぎです」)

登はそう思いながら唇を噛んだ。「可哀そうなのはお杉です」

(とつがわはつづけていった、「それがほうこうだからやむをえないにしても、)

と津川は続けていった、「それが奉公だからやむを得ないにしても、

(こんなようじょうしょのなかでろうづくりのいえにすみ、)

こんな養生所の中で牢造りの家に住み、

(きのくるったむすめのせわをしてくらすなんて、)

気の狂った娘の世話をしてくらすなんて、

(しかもいつおわるかけんとうもつかないことですからね」)

しかもいつ終るか見当もつかないことですからね」

(「ほうこうにんならやめることもできるでしょう」)

「奉公人ならやめることもできるでしょう」

(「いや、やめないでしょう、あのむすめはこころのそこからしゅじんにどうじょうしています、)

「いや、やめないでしょう、あの娘は心の底から主人に同情しています、

(どうじょうというよりあいじょうというべきかもしれないが」つがわはくびをふり、)

同情というより愛情というべきかもしれないが」津川は首を振り、

(といきをついた、「ここをでていくのにすこしもみれんはないが、)

太息(といき)をついた、「ここを出ていくのに少しもみれんはないが、

(おすぎにあえなくなるのがちょっとのこりおしいですよ」のぼるはついせんこく、)

お杉に会えなくなるのがちょっと残り惜しいですよ」登はつい先刻、

(おすぎがかおをあからめたことをおもいだした。)

お杉が顔を赤らめたことを思いだした。

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