山本周五郎 赤ひげ診療譚 狂女の話 10

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プレイ回数865難易度(4.2) 2128打 長文 長文モードのみ
映画でも有名な、山本周五郎の傑作短編です。
長崎から江戸へ帰ってきた青年医師保本登は、小石川養生所で働くことになるが…。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 zero 6233 A++ 6.4 96.9% 332.4 2139 67 46 2024/11/10
2 pechi 5885 A+ 6.6 89.4% 326.9 2181 257 46 2024/10/20

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問題文

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(のぼるはふくべのくちからそのさけをのんだ。それはこっくりとこくて、)

登は瓠の口からその酒を飲んだ。それはこっくりと濃くて、

(ほのかにあまく、そしてくすりのにおいがした。)

ほのかに甘く、そして薬の匂いがした。

(まだつがわがいたときに、ごへいのところへいってあじわったことがある。)

まだ津川がいたときに、五平のところへいって味わったことがある。

(ゆのみにいっぱいだけであったが、あまりにのうこうなあじで、)

湯呑に一杯だけであったが、あまりに濃厚な味で、

(それいじょうはのめなかった。いまはよっているのと、)

それ以上は飲めなかった。いまは酔っているのと、

(さけとはかわったしたざわりのためだろう、このまえよりもうまくかんじられて、)

酒とは変った舌ざわりのためだろう、このまえよりも美味く感じられて、

(おすぎのはなしをききながら、しらぬまにかなりのんだ。)

お杉の話を聞きながら、知らぬまにかなり飲んだ。

(かのじょはおゆみのはなしをしたのだ。)

彼女はおゆみの話をしたのだ。

(「ほんとうのことをいうと、きょじょうせんせいのみたてもちがうとおもうんです、)

「本当のことをいうと、去定先生のみたても違うと思うんです、

(おじょうさんはきちがいなんかではありません、)

お嬢さんは気違いなんかではありません、

(それはあたしがよくしっています」とおすぎはいった、)

それはあたしがよく知っています」とお杉は云った、

(「あなたはまじめにきいてくださるんでしょうね」)

「あなたはまじめに聞いて下さるんでしょうね」

(「しょうじきに、すっかりはなすならね」とかれはいった、)

「正直に、すっかり話すならね」と彼は云った、

(「だがこんやでなくってもいいぜ」「よっていらっしゃるからね」)

「だが今夜でなくってもいいぜ」「酔っていらっしゃるからね」

(「そのこえではつらかろうというんだ」「あたしはへいきです、)

「その声では辛かろうというんだ」「あたしは平気です、

(かえってこのほうがたにんのこえのようではなしいいくらいよ」)

却ってこのほうが他人の声のようで話しいいくらいよ」

(といっておすぎはまたねんをおした、「ほんとうにまじめにきいてくださいましね」)

と云ってお杉はまた念を押した、「本当にまじめに聞いて下さいましね」

(のぼるはかたてをのばしておすぎのてをにぎった。)

登は片手を伸ばしてお杉の手を握った。

(おすぎはてをあずけたままではなした。)

お杉は手を預けたままで話した。

(おすぎがほうこうにあがったとき、おゆみはふたつとしうえのじゅうごさいであった。)

お杉が奉公にあがったとき、おゆみは二つ年上の十五歳であった。

など

(さんにんのしまいのちょうじょで、じじょがじゅうに、さんじょがななつ。)

三人の姉妹の長女で、二女が十二、三女が七つ。

(おゆみだけははがちがっていた。)

おゆみだけ母が違っていた。

(おゆみのはははしんだのではなく、なにかのじじょうでりべつされたか、)

おゆみの母は死んだのではなく、なにかの事情で離別されたか、

(じぶんでいえでをしたかしたらしい。)

自分で家出をしたかしたらしい。

(くわしいことはだれにきいてもわからなかったが、ははがちがうということは、)

詳しいことは誰に訊いてもわからなかったが、母が違うということは、

(おゆみはおさなないときからかんづいていて、)

おゆみは幼ないときから勘づいていて、

(けれどもかくべつきにもとめなかった。)

けれどもかくべつ気にもとめなかった。

(おゆみはいもうとたちよりきわだってうつくしく、)

おゆみは妹たちより際立って美しく、

(かちきでおきゃんなところはあったが、)

勝ち気でお侠(きゃん)なところはあったが、

(おもいやりのふかいしょうぶんで、みんなにすかれた。)

思いやりのふかい性分で、みんなに好かれた。

(ままははにも、ふたりのいもうとにも、しんるいやきんじょのひとたちから、)

継母にも、二人の妹にも、親類や近所の人たちから、

(やといにんのあいだでもすかれたし、たよりにされた。)

雇人のあいだでも好かれたし、頼りにされた。

(かれらがたよりにしたのは、おゆみがあととりのむすめだからであろう。)

かれらが頼りにしたのは、おゆみが跡取りの娘だからであろう。

(かのじょはじゅうしのとし、つまりおすぎがほうこうにあがるまえのとしに、)

彼女は十四の年、つまりお杉が奉公にあがるまえの年に、

(むこのえんだんもきまっていた。)

婿の縁談もきまっていた。

(こうしてひょうめんはぶじに、へいぼんながらしあわせにそだったが、)

こうして表面は無事に、平凡ながら仕合せに育ったが、

(おゆみじしんははやくから、ひとにいえないさいなんをけいけんしていた。)

おゆみ自身は早くから、人に云えない災難を経験していた。

(それはすべてじょうじにかんするものであり、)

それはすべて情事に関するものであり、

(いちばんはじめはここのつのときのことだったという。)

いちばん初めは九つのときのことだったという。

(「あなたがおいしゃさまだからいえるんです」)

「あなたがお医者さまだから云えるんです」

(とおすぎはしゃがれたこえでささやいた、)

とお杉はしゃがれた声でささやいた、

(「そうでなければとてもこんなことはなせやあしません、)

「そうでなければとてもこんなこと話せやあしません、

(そこをわかってくださいましね」「わかってる」)

そこをわかって下さいましね」「わかってる」

(かれはあたまがちょっとふらふらするのをかんじた、)

彼は頭がちょっとふらふらするのを感じた、

(「それに、こどもどうしのわるさなんてめずらしいことじゃないよ」)

「それに、子供どうしの悪戯(わるさ)なんて珍らしいことじゃないよ」

(おじょうさんのばあいはちがうのだとおすぎはいった。)

お嬢さんの場合は違うのだとお杉は云った。

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