山本周五郎 赤ひげ診療譚 狂女の話 10
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | zero | 6233 | A++ | 6.4 | 96.9% | 332.4 | 2139 | 67 | 46 | 2024/11/10 |
2 | pechi | 5885 | A+ | 6.6 | 89.4% | 326.9 | 2181 | 257 | 46 | 2024/10/20 |
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問題文
(のぼるはふくべのくちからそのさけをのんだ。それはこっくりとこくて、)
登は瓠の口からその酒を飲んだ。それはこっくりと濃くて、
(ほのかにあまく、そしてくすりのにおいがした。)
ほのかに甘く、そして薬の匂いがした。
(まだつがわがいたときに、ごへいのところへいってあじわったことがある。)
まだ津川がいたときに、五平のところへいって味わったことがある。
(ゆのみにいっぱいだけであったが、あまりにのうこうなあじで、)
湯呑に一杯だけであったが、あまりに濃厚な味で、
(それいじょうはのめなかった。いまはよっているのと、)
それ以上は飲めなかった。いまは酔っているのと、
(さけとはかわったしたざわりのためだろう、このまえよりもうまくかんじられて、)
酒とは変った舌ざわりのためだろう、このまえよりも美味く感じられて、
(おすぎのはなしをききながら、しらぬまにかなりのんだ。)
お杉の話を聞きながら、知らぬまにかなり飲んだ。
(かのじょはおゆみのはなしをしたのだ。)
彼女はおゆみの話をしたのだ。
(「ほんとうのことをいうと、きょじょうせんせいのみたてもちがうとおもうんです、)
「本当のことをいうと、去定先生のみたても違うと思うんです、
(おじょうさんはきちがいなんかではありません、)
お嬢さんは気違いなんかではありません、
(それはあたしがよくしっています」とおすぎはいった、)
それはあたしがよく知っています」とお杉は云った、
(「あなたはまじめにきいてくださるんでしょうね」)
「あなたはまじめに聞いて下さるんでしょうね」
(「しょうじきに、すっかりはなすならね」とかれはいった、)
「正直に、すっかり話すならね」と彼は云った、
(「だがこんやでなくってもいいぜ」「よっていらっしゃるからね」)
「だが今夜でなくってもいいぜ」「酔っていらっしゃるからね」
(「そのこえではつらかろうというんだ」「あたしはへいきです、)
「その声では辛かろうというんだ」「あたしは平気です、
(かえってこのほうがたにんのこえのようではなしいいくらいよ」)
却ってこのほうが他人の声のようで話しいいくらいよ」
(といっておすぎはまたねんをおした、「ほんとうにまじめにきいてくださいましね」)
と云ってお杉はまた念を押した、「本当にまじめに聞いて下さいましね」
(のぼるはかたてをのばしておすぎのてをにぎった。)
登は片手を伸ばしてお杉の手を握った。
(おすぎはてをあずけたままではなした。)
お杉は手を預けたままで話した。
(おすぎがほうこうにあがったとき、おゆみはふたつとしうえのじゅうごさいであった。)
お杉が奉公にあがったとき、おゆみは二つ年上の十五歳であった。
(さんにんのしまいのちょうじょで、じじょがじゅうに、さんじょがななつ。)
三人の姉妹の長女で、二女が十二、三女が七つ。
(おゆみだけははがちがっていた。)
おゆみだけ母が違っていた。
(おゆみのはははしんだのではなく、なにかのじじょうでりべつされたか、)
おゆみの母は死んだのではなく、なにかの事情で離別されたか、
(じぶんでいえでをしたかしたらしい。)
自分で家出をしたかしたらしい。
(くわしいことはだれにきいてもわからなかったが、ははがちがうということは、)
詳しいことは誰に訊いてもわからなかったが、母が違うということは、
(おゆみはおさなないときからかんづいていて、)
おゆみは幼ないときから勘づいていて、
(けれどもかくべつきにもとめなかった。)
けれどもかくべつ気にもとめなかった。
(おゆみはいもうとたちよりきわだってうつくしく、)
おゆみは妹たちより際立って美しく、
(かちきでおきゃんなところはあったが、)
勝ち気でお侠(きゃん)なところはあったが、
(おもいやりのふかいしょうぶんで、みんなにすかれた。)
思いやりのふかい性分で、みんなに好かれた。
(ままははにも、ふたりのいもうとにも、しんるいやきんじょのひとたちから、)
継母にも、二人の妹にも、親類や近所の人たちから、
(やといにんのあいだでもすかれたし、たよりにされた。)
雇人のあいだでも好かれたし、頼りにされた。
(かれらがたよりにしたのは、おゆみがあととりのむすめだからであろう。)
かれらが頼りにしたのは、おゆみが跡取りの娘だからであろう。
(かのじょはじゅうしのとし、つまりおすぎがほうこうにあがるまえのとしに、)
彼女は十四の年、つまりお杉が奉公にあがるまえの年に、
(むこのえんだんもきまっていた。)
婿の縁談もきまっていた。
(こうしてひょうめんはぶじに、へいぼんながらしあわせにそだったが、)
こうして表面は無事に、平凡ながら仕合せに育ったが、
(おゆみじしんははやくから、ひとにいえないさいなんをけいけんしていた。)
おゆみ自身は早くから、人に云えない災難を経験していた。
(それはすべてじょうじにかんするものであり、)
それはすべて情事に関するものであり、
(いちばんはじめはここのつのときのことだったという。)
いちばん初めは九つのときのことだったという。
(「あなたがおいしゃさまだからいえるんです」)
「あなたがお医者さまだから云えるんです」
(とおすぎはしゃがれたこえでささやいた、)
とお杉はしゃがれた声でささやいた、
(「そうでなければとてもこんなことはなせやあしません、)
「そうでなければとてもこんなこと話せやあしません、
(そこをわかってくださいましね」「わかってる」)
そこをわかって下さいましね」「わかってる」
(かれはあたまがちょっとふらふらするのをかんじた、)
彼は頭がちょっとふらふらするのを感じた、
(「それに、こどもどうしのわるさなんてめずらしいことじゃないよ」)
「それに、子供どうしの悪戯(わるさ)なんて珍らしいことじゃないよ」
(おじょうさんのばあいはちがうのだとおすぎはいった。)
お嬢さんの場合は違うのだとお杉は云った。