山本周五郎 赤ひげ診療譚 駈込み訴え 1

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プレイ回数1629順位2302位  難易度(4.5) 1823打 長文 長文モード可
映画でも有名な、山本周五郎の傑作短編です。
赤ひげ診療譚の第二話です。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 pechi 6071 A++ 6.8 89.5% 272.4 1872 218 34 2024/11/11
2 zero 6041 A++ 6.2 96.9% 293.8 1833 58 34 2024/11/11
3 にこーる 5187 B+ 5.3 97.2% 363.6 1940 54 34 2024/09/30
4 g」 4755 B 5.0 94.4% 358.3 1810 106 34 2024/11/12
5 yuki 4478 C+ 4.5 98.0% 398.6 1822 37 34 2024/11/12

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問題文

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(そのひはことがおおかった。ーーごぜんじゅうじごろにきたのびょうとうでろうじんがしに、)

その日は事が多かった。ーー午前十時ごろに北の病棟で老人が死に、

(それからまもなく、じゅうしょうをおったおんなにんぷがかつぎこまれた。)

それからまもなく、重傷を負った女人夫が担ぎこまれた。

(やすもとのぼるはろうじんのしにもたちあい、おんなにんぷのきずのほうごうにも、)

保本登は老人の死にも立会い、女人夫の傷の縫合にも、

(にいできょじょうのじょしゅをつとめたが、)

新出去定の助手を勤めたが、

(ーーそれがかれのみならいいとしてのはじめてのしごとになったのだ。)

ーーそれが彼の見習医としての初めての仕事になったのだ。

(きょうじょのできごとのあとでも、のぼるのたいどはかわらなかった。)

狂女の出来事のあとでも、登の態度は変らなかった。

(どうしてもみならいいになるきもちはなかったし、)

どうしても見習医になる気持はなかったし、

(まだそのせりょうじょからでるつもりで、ちちにてがみをやったりした。)

まだその施療所から出るつもりで、父に手紙をやったりした。

(けれども、こころのおくのほうではへんかがおこっていたらしい。)

けれども、心の奥のほうでは変化が起こっていたらしい。

(かれはあかひげにくっぷくしたのである。)

彼は赤髯に屈服したのである。

(きょうじょおゆみのてからあやうくすくいだしてくれたこと、)

狂女おゆみの手から危うく救いだしてくれたこと、

(ーーそれはまったくあやういしゅんかんのことであったし、)

ーーそれはまったく危うい瞬間のことであったし、

(ひとにしられたらべんかいしようのない、けがらわしくはずかしいことであったが、)

人に知られたら弁解しようのない、けがらわしく恥ずかしいことであったが、

(ーーそれをだれにもしれないようにしまつしてくれたてんで、)

ーーそれを誰にも知れないように始末してくれた点で、

(かれはおおきなふさいをあかひげにおったわけであった。)

彼は大きな負債を赤髯に負ったわけであった。

(おかしなはなしだが、そのときのぼるはいっしゅのやすらぎをかんじた。)

おかしなはなしだが、そのとき登は一種の安らぎを感じた。

(あかひげにふさいをおったことで、あかひげとじぶんとのかきがのぞかれ、)

赤髯に負債を負ったことで、赤髯と自分との垣が除かれ、

(めにみえないところでしたしくむすびついたようにさえおもえたのだ。)

眼に見えないところで親しくむすびついたようにさえ思えたのだ。

(これらのことはあとでわかったので、そのときはまだきがつかなかった。)

これらのことはあとでわかったので、そのときはまだ気がつかなかった。

(そんなきょうじょとのはずかしいできごとにぶっつかったのも、)

そんな狂女との恥ずかしい出来事にぶっつかったのも、

など

(じぶんをせりょうじょなどへおしこめたひとたちのせきにんで、こっちのしったことではない。)

自分を施療所などへ押込めた人たちの責任で、こっちの知ったことではない。

(ようするにここからだしてくれさえすればいいのだ、)

要するにここから出してくれさえすればいいのだ、

(というふうに、こころのなかでいなおっていた。)

というふうに、心の中で居直っていた。

(ーーにいできょじょうはあいかわらずにみえた。じっさいはのぼるのこころのそこをみぬいて、)

ーー新出去定は相変らずにみえた。実際は登の心の底をみぬいて、

(しんぼうづよくじきのくるのをまっていたのかもしれない。)

辛抱づよく時機の来るのを待っていたのかもしれない。

(そうおもいあたるふしもあるが、ひょうめんはすこしもかわらず、)

そう思い当るふしもあるが、表面は少しも変らず、

(のぼるにははなしかけることもなかった。)

登には話しかけることもなかった。

(しがつはじめのそのあさ、きょじょうはかれをきたのびょうとうへよびつけた。)

四月はじめのその朝、去定は彼を北の病棟へ呼びつけた。

(よびにきたのはもりはんだゆうだったが、のぼるはすぐにはたたなかった。)

呼びに来たのは森半太夫だったが、登はすぐには立たなかった。

(「もういちどいいますがきたのいちばんです、すぐにいってください」「めいれいですか」)

「もういちど云いますが北の一番です、すぐにいって下さい」「命令ですか」

(「にいでさんがよんでいるんです」とはんだゆうはつめたいちょうしでいった、)

「新出さんが呼んでいるんです」と半太夫は冷たい調子で云った、

(「いやですか」のぼるはしぶしぶたちあがった。)

「いやですか」登はしぶしぶ立ちあがった。

(「うわぎをきたらいいでしょう」とはんだゆうががまんづよくいった、)

「上衣を着たらいいでしょう」と半太夫ががまん強く云った、

(「きものがよごれますよ」だがのぼるはそのままでていった。)

「着物がよごれますよ」だが登はそのまま出ていった。

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