山本周五郎 赤ひげ診療譚 駈込み訴え 4

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プレイ回数707難易度(4.5) 2332打 長文 長文モード可
映画でも有名な、山本周五郎の傑作短編です。
赤ひげ診療譚の第二話です。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 zero 6179 A++ 6.4 96.0% 363.3 2340 95 44 2024/11/15
2 pechi 6168 A++ 6.8 90.8% 350.3 2402 241 44 2024/11/16
3 にこーる 4892 B 5.1 95.2% 478.3 2464 124 44 2024/10/08

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問題文

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(おもてというのは、かよいりょうじにくるものたちをしんさつするところで、)

表というのは、かよい療治に来る者たちを診察するところで、

(そのさんばんはげかのせんようになっていた。)

その三番は外科の専用になっていた。

(のぼるがはいっていって、まずめについたのはしろいはだかのにくたいであった。)

登がはいっていって、まず眼についたのは白い裸の肉躰であった。

(そこははちじょうばかりのひろさで、)

そこは八帖ばかりの広さで、

(ひかるほどふきこんだいたじきのうえにうすべりがしかれ、)

光るほど拭きこんだ板敷の上に薄縁(うすべり)が敷かれ、

(ーーそれはしろいさらしでおおわれていたが、)

ーーそれは白い晒木綿(さらし)で掩(おお)われていたが、

(おんなのはだかのからだはそのうえへあおむけにねかされてあったのだ。)

女の裸の躯はその上へ仰向けに寝かされてあったのだ。

(のぼるがはいるとすぐに、まきのしょうさくがびょうぶをまわしたので、)

登がはいるとすぐに、牧野昌朔が屏風をまわしたので、

(それはいったんかれのめからかくされたが、)

それはいったん彼の眼から隠されたが、

(きょじょうによばれてそのびょうぶのなかへはいってゆき、こんどはもっとちかく、)

去定に呼ばれてその屏風の中へはいってゆき、こんどはもっと近く、

(めのまえにそのあらわならたいをみなければならなかった。)

眼の前にそのあらわな裸躰を見なければならなかった。

(にじゅうしごさいとおもえるそのおんなのからだは、にくづきがよく、)

二十四五歳と思えるその女の躯は、肉付きがよく、

(ひにやけたたくましいてあしのほかは、おどろくほどしろくなめらかで、)

陽にやけた逞しい手足のほかは、おどろくほど白くなめらかで、

(うつくしくさえあった。)

美しくさえあった。

(ゆたかにはったそうのちぶさの、ちくびがくろくいろづいているのと、)

豊かに張った双の乳房の、ちくびが黒く色づいているのと、

(さらしでいちぶをおおわれているひろいふくぶの、ややめだつふくらみとで、)

晒木綿で一部を掩われている広い腹部の、やや眼だつふくらみとで、

(にんしんのしょきだということがみとめられた。)

妊娠の初期だということが認められた。

(ーーのぼるはすぐにめをそらした。)

ーー登はすぐに眼をそらした。

(ながさきでしゅぎょうちゅう、おんなのかんじゃをしんさつしちりょうしたれいはすくなくないが、)

長崎で修業ちゅう、女の患者を診察し治療した例は少なくないが、

(そのようにあからさまな、)

そのようにあからさまな、

など

(しかもわかさとちからのじゅうじつしたらたいをみたことはなかった。)

しかも若さと力の充実した裸躰を見たことはなかった。

(「あしをおさえろ」ときょじょうがいった、)

「足を押えろ」と去定が云った、

(「くすりをあたえてあるがあばれるかもしれない、はねとばされないようにきをつけろ」)

「薬を与えてあるが暴れるかもしれない、はねとばされないように気をつけろ」

(そのとききがついたのだが、おんなのりょうてはさゆうにひろげられ、)

そのとき気がついたのだが、女の両手は左右にひろげられ、

(てくびのところをしばったひもが、それぞれはしらにむすびつけられてあった。)

手首のところを縛った紐が、それぞれ柱に結びつけられてあった。

(のぼるはきょじょうのさしずにしたがって、おんなのりょうあしをのばしてそのあいだにこしをすえ、)

登は去定の指図にしたがって、女の両足を伸ばしてそのあいだに腰を据え、

(りょうてでそうのひざがしらをおさえた。かれはめのやりばにこまり、)

両手で双の膝頭(ひざがしら)を押えた。彼は眼のやりばに困り、

(かおがあかくなるのをかんじた。)

顔が赤くなるのを感じた。

(そのいちはたとえようもなくしげきてきで、)

その位置は譬(たと)えようもなく刺戟(しげき)的で、

(こっけいなほどはずかしいものであった。)

滑稽なほど恥ずかしいものであった。

(「めをそらすな」ときょじょうがいった、「ほうごうのしかたをよくみるんだ」)

「眼をそらすな」と去定が云った、「縫合のしかたをよく見るんだ」

(そして、はらのいちぶをおおっていた、さらしのぬのをとりのけた。)

そして、腹の一部を掩っていた、晒木綿の布を取りのけた。

(みぎてにもったはりはせんたんがすこしかぎなりにまがっており、めどには)

右手に持った針は尖端が少し鉤(かぎ)なりに曲っており、めど(針穴)には

(にほんよりのきぬいとがとおしてある。ぬのをとりのけると、きずぐちがみえた。)

二本よりの絹糸がとおしてある。布をとりのけると、傷口が見えた。

(それはひだりのわきばらからへそのしたまで、ごすんいじょうもあるほどおおきく、)

それは左の脇腹から臍(へそ)の下まで、五寸以上もあるほど大きく、

(そうめんはふきそくにゆがんでいた。むろんしょうどくしたあとだろう、)

創面(そうめん)は不規則に歪がんでいた。むろん消毒したあとだろう、

(あついひかしぼうのために、きずぐちはじょうげにはぜたようにくちをあいていて、)

厚い皮下脂肪のために、傷口は上下にはぜたように口をあいていて、

(きょじょうがぬのをとりのけたとき、しょうりょうのちがながれだし、)

去定が布をとりのけたとき、少量の血が流れだし、

(ふくぶぜんたいにけいれんがおこって、おんながうめきごえをあげた。)

腹部ぜんたいに痙攣が起こって、女が呻き声をあげた。

(すると、きずぐちからちょうがはみでてきた。)

すると、傷口から腸がはみ出て来た。

(ふとくて、あおみがかったはいいろのだいちょうは、まるでいきもののようにうごめきながら、)

太くて、青みがかった灰色の大腸は、まるで生き物のようにうごめきながら、

(ずるっとはみだしてき、そしてきずぐちのそとでへびのようにくねった。)

ずるっとはみだして来、そして傷口の外で蛇のようにくねった。

(のぼるはそこでしっしんした。きゅうにめのまえがぼうとなり、あたまがうきあがるようにかんじて、)

登はそこで失神した。急に眼の前がぼうとなり、頭が浮きあがるように感じて、

(ああ、おれははねとばされるぞとおもったが、そのままいしきをうしなってしまった。)

ああ、おれははねとばされるぞと思ったが、そのまま意識を失ってしまった。

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