山本周五郎 赤ひげ診療譚 駈込み訴え 8

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投稿者投稿者uzuraいいね2お気に入り登録
プレイ回数742順位1901位  難易度(4.5) 3119打 長文
映画でも有名な、山本周五郎の傑作短編です。
赤ひげ診療譚の第二話です。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 じゅんこ 4948 B 5.2 94.0% 590.3 3118 197 60 2024/05/01
2 ちっちき 4838 B 5.1 94.6% 607.0 3112 175 60 2024/03/21

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問題文

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(とみさぶろうにはわるいなかまができ、ぐれはじめて、しごとなどまったくしなくなったし、)

富三郎には悪いなかまができ、ぐれ始めて、仕事などまったくしなくなったし、

(みっか、いつかといえをあけるようなことがつづいた。このあいだにまたじがうまれたので、)

三日、五日と家をあけるようなことが続いた。このあいだに又次が生れたので、

(せいかつはますますくるしくなった。するとなのかまえ、よるのじゅうじころのことだったが、)

生活はますます苦しくなった。すると七日まえ、夜の十時ころのことだったが、

(おくにがさはいのいえへたずねてきた。まつぞうはねていたが、)

おくにが差配の家へ訪ねて来た。松蔵は寝ていたが、

(ぜひはなしたいことがあるというので、おくにをいれ、はなしをきいた。)

ぜひ話したいことがあるというので、おくにを入れ、話を聞いた。

(ーーこのあいだのおふれがきにあったことはほんとうだろうか。)

ーーこのあいだの御触書(おふれがき)にあったことは本当だろうか。

(とおくにがまずきいた。)

とおくにがまず訊いた。

(それはとうぞくをそにんしたものに、)

それは盗賊を訴人(そにん)した者に、

(「ぎんにじゅうごまいをあたえる」というふれがきのことであった。)

「銀二十五枚を与える」という触書のことであった。

(しばあたごしたのなんしゅういんというてらへさんにんぐみのぞくがはいり、)

芝愛宕下(しばあたごした)の南宗院という寺へ三人組の賊がはいり、

(じほうをいくつかぬすみだした。そのなかにこんどうのしゃかぞうがあり、)

寺宝を幾つかぬすみ出した。その中に金銅の釈迦像(しゃかぞう)があり、

(せんねんもまえのなにがしとかいうこうめいなぶっしのさくで、)

千年もまえのなにがしとかいう高名な仏師の作で、

(にほんじゅうにいくたいしかないきちょうなものだという。)

日本じゅうに幾躰しかない貴重なものだという。

(ぞくがむちで、もしいつぶしでもされてはとりかえしがつかない。)

賊が無知で、もし鋳つぶしでもされては取り返しがつかない。

(それで、そのぶつぞうのしょざいをしらせるか、)

それで、その仏像の所在を知らせるか、

(とうのぞくをうったえてでたものにはほうびをあたえる、ということだったのである。)

当の賊を訴えて出た者には褒美を与える、ということだったのである。

(ーーなにかおもいあたることでもあるのか。)

ーーなにか思い当ることでもあるのか。

(まつぞうはそうといかえした。)

松蔵はそう問い返した。

(おくにはうなずいた。はんつきばかりまえに、そとからかえってきたとみさぶろうが、)

おくには頷いた。半月ばかりまえに、外から帰って来た富三郎が、

(てんじょううらへなにかかくすのをみた。わるいなかまとつきあっているし、)

天床(てんじょう)裏へなにか隠すのを見た。悪いなかまとつきあっているし、

など

(ようすがおかしいので、そのときはまったくきづかないふりをしてい、)

ようすがおかしいので、そのときはまったく気づかないふりをしてい、

(ていしゅのるすにそっととりだしてみた。それはふろしきとしぶがみでつつんであり、)

亭主の留守にそっと取り出してみた。それは風呂敷と渋紙で包んであり、

(なかにいったいのぶつぞうがはいっていた。たかさいっしゃくにすんばかりのかなぶつで、)

中に一躰の仏像がはいっていた。高さ一尺二寸ばかりのかなぶつで、

(どうやらなんしゅういんのしゃかぞうだとおもわれる。そこでおくにはそうだんにきたといった。)

どうやら南宗院の釈迦像だと思われる。そこでおくには相談に来たと云った。

(ーーもしぎんにじゅうごまいがもらえるなら、きゅうはくしたかけいもしのぎがつくし、)

ーーもし銀二十五枚が貰えるなら、窮迫した家計も凌ぎがつくし、

(とみさぶろうのためにもいいとおもう、このままでいったらあくじがかさなって、)

富三郎のためにもいいと思う、このままでいったら悪事が重なって、

(やがてはしまながしか、ごくもんにさらされるようになるかもしれない、)

やがては島流しか、獄門に曝(さら)されるようになるかもしれない、

(むしろいまつかまってろうやのくるしみをしれば、)

むしろいま捕まって牢屋の苦しみを知れば、

(かいしんしてまじめなにんげんになるだろうとおもう。)

改心してまじめな人間になるだろうと思う。

(だからおにになったつもりで、そにんしようとかんがえたのだがどうだろうか、)

だから鬼になったつもりで、訴人しようと考えたのだがどうだろうか、

(というはなしであった。)

という話であった。

(まつぞうはむろんそれがよかろうとこたえ、すぐにおくにといってそのぶつぞうをみ、)

松蔵はむろんそれがよかろうと答え、すぐにおくにといってその仏像を見、

(まさにそれとおもわれるので、もちかえってじぶんがあずかった。)

まさにそれと思われるので、持ち帰って自分が預かった。

(それからまちやくともはなしたうえ、そのぶつぞうをもっておくににかけこみうったえをさせた。)

それから町役とも話したうえ、その仏像を持っておくにに駆込み訴えをさせた。

(まちやくややぬしなどのどうはんでなく、じぶんのいしでうったえでた、)

町役や家主などの同伴でなく、自分の意志で訴え出た、

(ということにしたのである。)

ということにしたのである。

(まつぞうはまちやくとうちあわせをし、まちぶぎょうからよびだされたらこれこれと、)

松蔵は町役と打合せをし、町奉行から呼び出されたらこれこれと、

(おくにのりぶんになるようにもうしたてるつもりであった。)

おくにの利分になるように申立てるつもりであった。

(よびだしはすぐにあった。)

呼び出しはすぐにあった。

(まつぞうはまちやくといっしょにしゅっとうし、じぶんたちはなにもしらぬこと、)

松蔵は町役といっしょに出頭し、自分たちはなにも知らぬこと、

(おくにはまずしいなかでよくはたらき、よにんのこどもをおこたりなくよういくしていること、)

おくには貧しい中でよく働き、四人の子供を怠りなく養育していること、

(ていしゅのとみさぶろうがやくざもので、いっかのせいけいはおくにひとりでたてていること、)

亭主の富三郎がやくざ者で、一家の生計はおくに一人で立てていること、

(などをもうしたてた。)

などを申立てた。

(「するとおぶぎょうしょでは」ときんべえがつづけた、「こんげつはきたのおかかりで、)

「するとお奉行所では」と金兵衛が続けた、「今月は北のお係りで、

(しまだえちごのかみさまとおっしゃるそうですが、)

島田越後守(えちごのかみ)さまと仰しゃるそうですが、

(ふとどきである、というのだそうです」)

不届きである、というのだそうです」

(のぼるはふしんそうにきんべえをみた。)

登は不審そうに金兵衛を見た。

(「ええ」ときんべえはのぼるにむかってうなずいた、)

「ええ」と金兵衛は登に向かって頷いた、

(「ふとどきであるって」とかれはちからをこめていった、)

「不届きであるって」と彼は力をこめて云った、

(「ーーよしんばぬすみをはたらいたにもせよ、)

「ーーよしんば盗みをはたらいたにもせよ、

(おんしょうをめあてに、つまがおっとをうったえるというほうはない、)

恩賞をめあてに、妻が良人(おっと)を訴えるという法はない、

(じんりんにそむくふとどきなおんなである、ぎんみちゅうにゅうろうをもうしつける、)

人倫にそむく不届きな女である、吟味ちゅう入牢(にゅうろう)を申付ける、

(ということなんだそうです」)

ということなんだそうです」

(いがいなけっかなので、まつぞうたちはことばもなかったが、)

意外な結果なので、松蔵たちは言葉もなかったが、

(しらすをさがるときに、よりきのひとりがおくにのことづけをつたえた。)

白洲をさがるときに、与力の一人がおくにのことづけを伝えた。

(ーーこいしかわのでんづういんうらになぎちょうというところがある、)

ーー小石川の伝通院裏になぎ町という処(ところ)がある、

(そこにかしわやきんべえというはたごがあって、ろくすけというろうじんがとまっているはずだから、)

そこに柏屋金兵衛という旅籠があって、六助という老人が泊っている筈だから、

(こどもたちをつれていってじじょうをはなしてもらいたい、)

子供たちを伴れていって事情を話してもらいたい、

(ちをわけたまごだからかならずひきとってくれるとおもう。)

血を分けた孫だから必ず引取ってくれると思う。

(そういうでんごんであった。)

そういう伝言であった。

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