山本周五郎 赤ひげ診療譚 駈込み訴え 10

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投稿者投稿者uzuraいいね2お気に入り登録
プレイ回数749難易度(4.3) 2854打 長文
映画でも有名な、山本周五郎の傑作短編です。
赤ひげ診療譚の第二話です。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 zero 6393 S 6.6 96.4% 432.0 2868 106 60 2024/11/18

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問題文

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(「ていしゅのほうはどうした」ときょじょうがきいた、)

「亭主のほうはどうした」と去定が訊いた、

(「そのとみさぶろうとかいうおとこだ、まだつかまらずにいるのか」)

「その富三郎とかいう男だ、まだ捉(つか)まらずにいるのか」

(「さあて、どういうことでしたかな、おなわになったときいたようにおもいますが、)

「さあて、どういうことでしたかな、お縄になったと聞いたように思いますが、

(まだおなわにはならないということだったかもしれません、)

まだお縄にはならないということだったかもしれません、

(つまりこっちはそれどころではなかったわけでして」)

つまりこっちはそれどころではなかったわけでして」

(きょじょうはこどもたちのほうをみ、ひとりずつなととしをきいた。)

去定は子供たちのほうを見、一人ずつ名と年を訊いた。

(あわれさといじらしさとで、かれらをまともにみられないらしい。)

哀れさといじらしさとで、かれらをまともに見られないらしい。

(こどもたちはまたようぼういかめしいひげだらけのきょじょうにおそれたようで、)

子供たちはまた容貌いかめしい髯だらけの去定に怖れたようで、

(おさないさんにんはかたくみをよせあったまま、まんぞくにはへんじもできなかった。)

幼ない三人は固く身を寄せあったまま、満足には返辞もできなかった。

(「だいじょうぶだ、しんぱいするな」ときょじょうはおこっているようなこえでいった、)

「大丈夫だ、心配するな」と去定は怒っているような声で云った、

(「おっかさんはすぐにかえってくる、ねえさんのびょうきもすぐになおる、)

「おっ母(か)さんはすぐに帰って来る、姉さんの病気もすぐに治る、

(え、おまえたち、おおきくなったらなんになる」)

え、おまえたち、大きくなったらなんになる」

(きぶんをほぐすためにいったらしいが、とうとつでもあるしまのぬけたしつもんである。)

気分をほぐすために云ったらしいが、唐突でもあるしまのぬけた質問である。

(こどもたちはくちをつぐんだままきょじょうをながめており、)

子供たちは口をつぐんだまま去定を眺めており、

(きょじょうはそのといのまぬけさかげんにじぶんではらをたてたのだろう、)

去定はその問いのまぬけさかげんに自分ではらを立てたのだろう、

(しんぱいするなおっかさんはすぐにかえるぞといって、)

心配するなおっ母さんはすぐに帰るぞと云って、

(かおをあかくしながらたちあがった。)

顔を赤くしながら立ちあがった。

(たけぞうをようじょうしょへかえらせたきょじょうは、のぼるをつれてでんづういんのまえまであるき、)

竹造を養生所へ帰らせた去定は、登を伴れて伝通院の前まで歩き、

(そこでつじかごをひろって、こでんまちょうへゆけとめいじた。)

そこで辻駕籠をひろって、小伝馬町(こでんまちょう)へゆけと命じた。

(いそげ、とどなったので、)

いそげ、とどなったので、

など

(かごやのひとりがとびあがりそうになったのを、のぼるはみた。)

駕籠屋の一人がとびあがりそうになったのを、登は見た。

(「なにをはじめるんだ」とかごのなかでのぼるはつぶやいた、)

「なにを始めるんだ」と駕籠の中で登はつぶやいた、

(「いったいどうするつもりなんだ」)

「いったいどうするつもりなんだ」

(こでんまちょうのろうやへつくと、きょじょうはぶぎょうにめんかいをもとめた。)

小伝馬町の牢屋へ着くと、去定は奉行に面会を求めた。

(ここでもよくしられているようすで、)

ここでもよく知られているようすで、

(とりつぎのものもきわめてていちょうだったし、)

取次の者も極めて鄭重(ていちょう)だったし、

(ぶぎょうのしまだしはとじょうしているからといって、)

奉行の島田氏は登城しているからといって、

(かわりにでむかえたおかのというどうしんのたいどもいんぎんであった。)

代りに出迎えた岡野という同心の態度も慇懃(いんぎん)であった。

(きょじょうはせったいへとおるとすぐに、)

去定は接待へとおるとすぐに、

(おだわらちょうのごろべえだなからおくにというおんながにゅうろうしているはずであるが、)

小田原町の五郎兵衛店(だな)からおくにという女が入牢している筈であるが、

(ときいた。おかのはうなずいて、にゅうろうしているとこたえた。)

と訊いた。岡野は頷いて、入牢していると答えた。

(「そのおんなのしんさつをしたい」ときょじょうはいった、)

「その女の診察をしたい」と去定は云った、

(「むろんしまだえちごどのにははなしてある、)

「むろん島田越後どのには話してある、

(めずらしいびょうきをもっているのでちりょうちゅうだったが、)

珍らしい病気をもっているので治療ちゅうだったが、

(あたえたくすりのこうかをしらべたいのだ」)

与えた薬の効果をしらべたいのだ」

(おかのはきょじょうのかおをみつめた、「よほどひまどりますか」)

岡野は去定の顔をみつめた、「よほど暇どりますか」

(「はんときはかかるまいとおもう」)

「半刻はかかるまいと思う」

(「いちぞんでははからいかねますが、にいでせんせいのことですから」)

「一存でははからいかねますが、新出先生のことですから」

(おかのはちょっとかんがえてからいった、)

岡野はちょっと考えてから云った、

(「よろしゅうございます、ではくすりべやへおいでください」)

「よろしゅうございます、では薬部屋へおいで下さい」

(そしてかれはじぶんであんないにたった。)

そして彼は自分で案内に立った。

(ろうかをまがっていくと、なかにわにめんしていくつかのへやがならんでい、)

廊下を曲っていくと、中庭に面して幾つかの部屋が並んでい、

(おかのはそのはしにあるひとまへふたりをみちびいた。)

岡野はその端にある一と間へ二人をみちびいた。

(それはろくじょうほどのひろさで、かたほうはつくりつけのとだな、)

それは六帖ほどの広さで、片方は造り付けの戸納(とだな)、

(かたほうはかべで、かべぎわにしぶがみでつつんだものがつんであり、)

片方は壁で、壁際に渋紙で包んだ物が積んであり、

(そのつつみからはっするらしいいっしゅの、ひなたくさいにおいが、)

その包みから発するらしい一種の、ひなた臭い匂いが、

(へやいっぱいにこもっていた。)

部屋いっぱいにこもっていた。

(「かかりがしまだえちごだったのはさいわいだ」ときょじょうはくちのなかでひとりごとをいった、)

「係りが島田越後だったのは幸いだ」と去定は口の中で独り言を云った、

(「これがもしつついだったら、)

「これがもし津々井だったら、

(ーーあのいしあたまはてこでもうごくまいからな、)

ーーあの石頭は梃子(てこ)でも動くまいからな、

(しまだなら、・・・・・・なにかいったか」)

島田なら、……なにか云ったか」

(「いや」とのぼるはあたまをふった。)

「いや」と登は頭を振った。

(きょじょうはいまゆめからさめたようなめつきで、しげしげとのぼるのかおをみまもり、)

去定はいま夢からさめたような眼つきで、しげしげと登の顔を見まもり、

(なにかいいそうにしたが、ふんぜんとしたひょうじょうでくちをつぐんだ、)

なにか云いそうにしたが、憤然とした表情で口をつぐんだ、

(ーーまもなくおかのがおくにをつれてき、おわったらしらせてくれといって、)

ーーまもなく岡野がおくにを伴れて来、終ったら知らせてくれと云って、

(おくにをおいてさっていった。)

おくにを置いて去っていった。

(「こっちへよれ」ときょじょうはおくににいった、「おれはにいできょじょうといういしゃで、)

「こっちへ寄れ」と去定はおくにに云った、「おれは新出去定という医者で、

(おまえのちちだというろくすけのちりょうをしていたものだ、)

おまえの父だという六助の治療をしていた者だ、

(おまえをここからだしてやろうとおもってきたのだ、)

おまえをここから出してやろうと思ってきたのだ、

(こっちへよってじじょうをはなしてくれ」)

こっちへ寄って事情を話してくれ」

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