山本周五郎 赤ひげ診療譚 駈込み訴え 14

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投稿者投稿者uzuraいいね2お気に入り登録
プレイ回数692順位1896位  難易度(4.4) 2521打 長文
映画でも有名な、山本周五郎の傑作短編です。
赤ひげ診療譚の第二話です。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 ちっちき 5547 A 5.8 95.4% 432.3 2518 120 51 2024/04/08
2 じゅんこ 5017 B+ 5.2 95.1% 477.1 2524 130 51 2024/05/01

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問題文

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(のぼるはうしろくびがさむくなるようにかんじた、しんでからじゅうねんもたつははが、)

登はうしろ首が寒くなるように感じた、死んでから十年も経つ母が、

(いまでもじぶんをにくんでいるとおもうという、)

いまでも自分を憎んでいると思うという、

(のぼるにはりかいしがたいじょうちのつみのねぶかさ、)

登には理解しがたい情痴の罪の根深さ、

(もうしゅうのすさまじさといったものが、)

妄執(もうしゅう)のすさまじさといったものが、

(おくにのひょうげんがむぞうさであるだけよけいに、)

おくにの表現がむぞうさであるだけよけいに、

(まざまざとあらわれているようにおもえた。)

まざまざとあらわれているように思えた。

(おくにはなおはなしつづけていたが、やがてきょじょうはそれをさえぎった。)

おくにはなお話し続けていたが、やがて去定はそれを遮った。

(「そこからあとのことはしっている」ときょじょうはいった、)

「そこからあとのことは知っている」と去定は云った、

(「ろくすけはおまえにたよりをしていたのだな」)

「六助はおまえに便りをしていたのだな」

(「ええ、おっかさんがしんでからまもなく、かみやちょうのうちへきました」)

「ええ、おっ母さんが死んでからまもなく、神谷町のうちへ来ました」

(とおくにがこたえた。)

とおくにが答えた。

(「そのときはじめて、あのひとがおとっさんのでしで、)

「そのとき初めて、あの人がお父っさんの弟子で、

(おっかさんとわるいことをしてにげた、ということをきいたんです、)

おっ母さんと悪いことをして逃げた、ということを聞いたんです、

(おとっさんはおれといっしょにこい、といってくれました、)

お父っさんはおれといっしょに来い、と云ってくれました、

(あんなおとこといるとかならずなくようになる、いまのうちにここをでて、)

あんな男といると必ず泣くようになる、いまのうちにここを出て、

(おれといっしょにくらそうって、ーーあたしは、わざとじゃけんに、)

おれといっしょに暮そうって、ーーあたしは、わざと邪慳(じゃけん)に、

(ことわりました、いやです、あたしのことはほっといてくださいって」)

断わりました、いやです、あたしのことは放っといて下さいって」

(おくにはみごもっていたが、とみさぶろうにあいじょうをもってはいなかった。)

おくには身ごもっていたが、富三郎に愛情をもってはいなかった。

(かのじょはただ、ちちのせわにはなれない、せわになってはすまない、)

彼女はただ、父の世話にはなれない、世話になっては済まない、

(それではかみほとけもゆるすまいとおもった。)

それでは神ほとけも赦(ゆる)すまいと思った。

など

(「あたしはそうおもいました、おっかさんがあのひととにげたとき、)

「あたしはそう思いました、おっ母さんがあの人と逃げたとき、

(そして、あたしがおっかさんにつれだされ、よびもどしにこられてことわったとき、)

そして、あたしがおっ母さんに伴れだされ、呼び戻しに来られて断わったとき、

(ーーおとっさんはどんなきもちだったろうかって、どんなにかなしい、)

ーーお父っさんはどんな気持だったろうかって、どんなに悲しい、

(つらいおもいをしたろうかって、おもいました」)

辛いおもいをしたろうかって、思いました」

(おくにはとみさぶろうにいって、かなすぎのほうへひっこした。)

おくには富三郎に云って、金杉のほうへ引越した。

(そこでともをうみ、すけぞうをうんだ。)

そこでともを産み、助三を産んだ。

(するとまたちちがさがしあててき、いくらかのぎんをおいてさった。)

するとまた父が捜し当てて来、幾らかの銀を置いて去った。

(そのときちちは、まきちょうのみせをたたんだこと、もしなにかあったら、)

そのとき父は、槇町の店をたたんだこと、もしなにかあったら、

(でんづういんうらのかしわやというはたごへしらせろ、ということをつげたのだという。)

伝通院裏の柏屋という旅籠へ知らせろ、ということを告げたのだという。

(ーーおれはもうしごとをするはりもない、なにもかもつまらない、)

ーーおれはもう仕事をする張りもない、なにもかもつまらない、

(おれのいっしょうはつまらないもんだった。)

おれの一生はつまらないもんだった。

(ろくすけはそういいのこしていった。)

六助はそう云い残して行った。

(のぼるはかしわやできいたはなしをおもいだした。)

登は柏屋で聞いた話を思いだした。

(にじゅうねんほどまえからときどきあらわれ、なにをするともなくとまってゆき、)

二十年ほどまえからときどきあらわれ、なにをするともなく泊ってゆき、

(またときをおいてとまりにきたという。)

またときをおいて泊りに来たという。

(それはろくすけがかみやちょうのいえで、おくにからすげなくきょぜつされたころとふごうする。)

それは六助が神谷町の家で、おくにからすげなく拒絶されたころと符合する。

(ーーかれにはせけんからも、じぶんからさえもかくれたくなることがあったのだろう。)

ーー彼には世間からも、自分からさえも隠れたくなることがあったのだろう。

(あのばすえのさびれたまちの、ふるくてくらいきちんはたごは、)

あの場末のさびれた町の、古くて暗い木賃旅籠は、

(そういうときのかれにとってもかっこうだったのだ。)

そういうときの彼にとっても恰好だったのだ。

(のぼるにはそれがめにうかぶようにおもえた。)

登にはそれが眼にうかぶように思えた。

(まきえしとしてえどじゅうにしられたなもわすれ、)

蒔絵師として江戸じゅうに知られた名も忘れ、

(つくったしなをごさんけにかいあげられるほどのうでもすて、)

作った品を御三家に買いあげられるほどの腕も捨て、

(みしらぬひとりのろうじんとしてやすやどにとまり、うらぶれたきゃくたちのなかで、)

見知らぬ一人の老人として安宿に泊り、うらぶれた客たちの中で、

(かれらのはなしをききながらだまってさけをのむ。)

かれらの話を聞きながら黙って酒を飲む。

(ーーそうだ、とのぼるはこころのなかでつぶやいた。)

ーーそうだ、と登は心の中でつぶやいた。

(そういうところでしかなぐさめられないほど、ろくすけのひたんやくるしみはふかかったのだ。)

そういうところでしか慰められないほど、六助の悲嘆や苦しみは深かったのだ。

(もっともくるしいといわれるびょうきにかかりながら、)

もっとも苦しいといわれる病気にかかりながら、

(りんじゅうまで、くつうのうめきすらもらさなかったのも、それまでにもっとふかく、)

臨終まで、苦痛の呻きすらもらさなかったのも、それまでにもっと深く、

(もっとねづよいくつうをけいけんしたためかもしれない。)

もっと根づよい苦痛を経験したためかもしれない。

(のぼるはそうおもい、めをつむりながらためいきをついた。)

登はそう思い、眼をつむりながら溜息をついた。

(「いいえ」とおくにがいっていた、「あたしはそうはおもいません」)

「いいえ」とおくにが云っていた、「あたしはそうは思いません」

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