もくねじ1 海野十三

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もくねじ/海野十三 著
青空文庫より引用

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問題文

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(「そうこ」)

【倉庫】

(ぼくほどふこうなものが、またとよのなかにあろうか。そんなことをいいだすと、)

ぼくほど不幸なものが、またと世の中にあろうか。そんなことを言い出すと、

(ぜいたくなことをいうなとしかられそうである。しかしほんとうにぼくくらい)

ぜいたくなことをいうなと叱られそうである。しかし本当にぼくくらい

(ふこうなものはないのである。ぼくをちょいとみたものは、どこをおせば)

不幸なものはないのである。ぼくをちょいと見た者は、どこを押せば

(そんななげきのねがでるのかとあやしむだろう。からだはぴかぴかおうごんいろにひかって、)

そんな嘆きの音が出るのかと怪しむだろう。身体はぴかぴか黄金色に光って、

(たいへんうつくしい。ちいさいこどもなら、ぼくをきんだとおもうだろう。)

たいへんうつくしい。小さい子供なら、ぼくを金だと思うだろう。

(ぼくをよくしっているこうじょうのひとたちなら、それがたいへんしつのいい)

ぼくをよく知っている工場の人たちなら、それがたいへん質のいい

(しんちゅうであることをひとめでいいあてる。じっさいぼくのからだはぴかぴかひかって)

真鍮であることを一目でいいあてる。実際ぼくの身体はぴかぴか光って

(うつくしいのである。ぼくは、あるこうじょうにたんじょうすると、おなじようなかたちの)

うつくしいのである。ぼくは、或る工場に誕生すると、同じような形の

(なかまたちといっしょに、ひとつのはこのなかにつめこまれ、しばらくくらがりのせいかつを)

仲間たちと一緒に、一つの函の中に詰めこまれ、しばらく暗がりの生活を

(しなければならなかった。そのあいだぼくは、うとうととねむりつづけた。)

しなければならなかった。その間ぼくは、うとうとと睡りつづけた。

(まだできたばかりで、からだのほうぼうがいたい。それがなおるまで、ぼくは)

まだ出来たばかりで、身体の方々が痛い。それがなおるまで、ぼくは

(ねむりつづけたのである。それからすうじゅうにちたって、ぼくはひさしぶりに)

睡りつづけたのである。それから数十日経って、ぼくは久しぶりに

(あかるみにでた。そこは、そうこのなかであった。でっぷりこえたちゅうねんのにんげんがーー)

明るみに出た。そこは、倉庫の中であった。でっぷり肥えた中年の人間がーー

(そうこがかりのおじさんだーーぼくたちのぎっしりつまっているぼーるばこを)

倉庫係のおじさんだーーぼくたちのぎっしり詰まっているボール函を

(てにとって、ふたをあけたのだ。「おまえのいうのはこれだろう。ほら、ちゃんと)

手にとって、蓋を明けたのだ。「お前のいうのはこれだろう。ほら、ちゃんと

(あるじゃないか」というと、べつのわかいおとこがぼくたちをのぞきこんで、「あれえ、)

あるじゃないか」というと、別の若い男がぼくたちを覗きこんで、「あれえ、

(ほんとうだ。もうひとはこもないとおもっていたがなあ。どこかまちがってたなのすみに)

本当だ。もう一函もないと思っていたがなあ。どこかまちがって棚の隅に

(つっこんであったんだねえ。きっと、そうだよ。つまりうれのこりひんだ」)

突込んであったんだねえ。きっと、そうだよ。つまり売れ残り品だ」

(といいながら、ゆびをはこのなかにつっこんで、ぼくたちをかきまわした。ぼくは)

といいながら、指を函の中に突込んで、ぼくたちをかきまわした。ぼくは

など

(しばらくうんどうしなかったので、かのわかいおとこのゆびでがらがらと)

しばらく運動しなかったので、彼の若い男の指でがらがらと

(かきまわされるのが、たいへんいいきもちだった。「うれのこりひんじゃ、)

かきまわされるのが、たいへんいい気持ちだった。「売れ残り品じゃ、

(やくにたたないのか」ちゅうねんのおとこが、はらをたてたようなこえをだした。)

役に立たないのか」中年の男が、腹を立てたような声を出した。

(「いやいや、そんなことはない。ほりだしものだよ。ありがたいありがたい。)

「いやいや、そんなことはない。掘り出しものだよ。ありがたいありがたい。

(これでこんどのぶんはまにあうからねえ。なにしろこのごろはのうきが)

これで今度の分は間に合うからねえ。なにしろこのごろは納期が

(やかましいから、もくねじひとはこがたりなくてもおおさわぎなんだ」)

やかましいから、もくねじ一函が足りなくても大さわぎなんだ」

(わかいおとこは、うれしそうにめをかがやかして、ぼーるばこのふたをしめた。ぼくたちの)

若い男は、うれしそうに目を輝かして、ボール函の蓋をしめた。ぼくたちの

(へやはふたたびくらくなった。「それみろ。やっぱりありがたいだろうが。おまえから)

部屋は再び暗くなった。「それみろ。やっぱりありがたいだろうが。お前から

(よくもくねじさんにおれいをいっときな。うれのこりだなどというんじゃねえぞ」)

よくもくねじさんにお礼をいっときな。売れ残りだなどというんじゃねえぞ」

(はこのそとには、そうこがかりのおじさんがきげんをとりなおして、ほがらかなこえをだす。)

函の外には、倉庫係のおじさんが機嫌をとり直して、ほがらかな声を出す。

(「じゃもらっていくよ。でんぴょうはさっきそこにおいたよ」「あいよ。ここにある」)

「じゃ貰っていくよ。伝票はさっきそこに置いたよ」「あいよ。ここにある」

(それからぼくたちは、わかいおとこのてにわしづかみにされ、そしてどこともなく)

それからぼくたちは、若い男の手に鷲掴みにされ、そしてどこともなく

(つれていかれた。いまからおもえば、まだこのときのぼくはきぼうにもえてきもちは)

連れていかれた。今から思えば、まだこのときのぼくは希望に燃えて気持は

(しごくあかるかった。なかまどうし、これからどんなところへいって、どんなきかいの)

至極明るかった。仲間同士、これからどんなところへいって、どんな機械の

(ぶぶんひんとなってはたらくのであろうかなどと、われわれのようようたるぜんとについて、)

部分品となって働くのであろうかなどと、われわれの洋々たる前途について、

(さかんにだんじあったものである。)

さかんに談じ合ったものである。

(「しゅくめい」)

【宿命】

(はこのそとからは、そのときどきに、いろいろなおんきょうがはいってくる。またにんげんたちの)

函の外からは、そのときどきに、いろいろな音響が入ってくる。また人間たちの

(はなしごえがきこえる。それをじっとききわけるのは、たいへんきょうみの)

話声がきこえる。それをじっと聞き分けるのは、たいへん興味の

(あることだった。ぼくたちのはこが、どすんとだいのうえかなにかにのせられたのを)

あることだった。ぼくたちの函が、どすんと台の上か何かに載せられたのを

(かんじた。そこはたいへんたくさんのおおきなきかいがまわっているへやであった。)

感じた。そこはたいへん沢山の大きな機械が廻っている部屋であった。

(「はい、もくねじをもらってきましたよ。これがさいごのひとはこです」)

「はい、もくねじを貰ってきましたよ。これが最後の一函です」

(さっきききおぼえたれいのわかいおとこのこえだ。「おいまってくれ。ちょっとなかみを)

さっき聞き覚えた例の若い男の声だ。「おい待ってくれ。ちょっと中身を

(しらべるから」べつのふといこえがした。「だいじょうぶですよ。そうこでうけとったとき)

調べるから」別の太い声がした。「大丈夫ですよ。倉庫で受取ったとき

(ちゃんとしらべてきましたから」「まてまて。おまえはこのごろふわふわしていて、)

ちゃんと調べてきましたから」「待て待て。お前はこのごろふわふわしていて、

(よくまちがいをやらかすから、あてにならんよ。それにまちがっていれば、)

よく間違いをやらかすから、あてにならんよ。それに間違っていれば、

(すぐとりかえてきてもらわないと、せっかくここまでいそいだしごとが、またおくれるよ。)

すぐ取替えて来てもらわないと、折角ここまで急いだ仕事が、また後れるよ。

(いそがばまわれ。ねんにはねんをいれということがある」「ちぇっ。じゅうぶんねんを)

急がば廻れ。念には念を入れということがある」「ちぇっ。十分念を

(いれてきたのになあ」「まあそうおこるな。どれ、そこへあけてみよう」)

入れてきたのになあ」「まあそう怒るな。どれ、そこへ明けてみよう」

(ふといこえのおとこが、ぼくたちをあかるみへだしてくれた。ぼくたちは、)

太い声の男が、ぼくたちを明るみへ出してくれた。ぼくたちは、

(ざらざらっと、つめたいつめたいこうばんのうえにぶちまけられた。しばらくくらやみにいたので、)

ざらざらっと、冷い冷い鋼板の上にぶちまけられた。しばらく暗闇にいたので、

(まぶしくてたまらない。おおきなてでぼくたちをなでまわす。「ほう、これは)

眩しくてたまらない。大きな手でぼくたちをなで廻す。「ほう、これは

(ゆうきゅうひんだ。まだこのてのがあったのか。おい、これでいいよ。ありがとう」)

優級品だ。まだこの手のがあったのか。おい、これでいいよ。ありがとう」

(ぼくたちは、ここでもまたほめられた。ほめてくれたのは、しあげの)

ぼくたちは、ここでもまた褒められた。褒めてくれたのは、仕上げの

(じゅくれんこうのきださんというさんぎょうせんしだった。「それごらんなさい。わたしはこのごろ)

熟練工の木田さんという産業戦士だった。「それごらんなさい。私はこのごろ

(ふわふわなんかしていませんよ。きださん、このつぎそんなことをいうと、)

ふわふわなんかしていませんよ。木田さん、この次そんなことをいうと、

(わたしはあんたにじゅうけんじゅつのしあいをもうしこみますよ」わかいおとこはとくいだ。「あははは。)

私はあんたに銃剣術の試合を申込みますよ」若い男は得意だ。「あははは。

(じゅうけんじゅつでおまえがはりきっているはなしはきいたぞ。いつでもあいてになってやるが、)

銃剣術でお前が張切っている話は聞いたぞ。いつでも相手になってやるが、

(あぶらをうるのはそのへんにして、はやくむこうへいけ」「ちぇっ。きださんは)

油を売るのはそのへんにして、早く向うへいけ」「ちぇっ。木田さんは

(あんまりかってだよ。あぶらなんかいってきもうってはいませんよ、だ」わかいおとこは、)

あんまり勝手だよ。油なんか一滴も売ってはいませんよ、だ」若い男は、

(くちぶえをふきながら、むこうへいってしまった。)

口笛を吹きながら、向うへいってしまった。

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