夜泣き鉄骨5 海野十三
青空文庫より引用
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問題文
(「あっ!」「く、くれーんが・・・・・・」かいちゅうでんとうのうすらあかりに、はじめて)
「呀ッ!」「ク、クレーンが……」懐中電灯の薄ら明りに、はじめて
(てらしだされたかいぶつはなんであったろうか。それはあのきょだいなてっこつでくみたてられた)
照し出された怪物は何であったろうか。それはあの巨大な鉄骨で組立てられた
(くれーんが、ものすさまじいひびきをあげて、あっというまに、ぜんそくりょくでいちどうのずじょうを)
クレーンが、物凄じい響きをあげて、呀ッという間に、全速力で一同の頭上を
(とおりすぎたのであった。「ひえーっ」というなり、かれらは、せっかくてにした)
通り過ぎたのであった。「ひえーッ」というなり、彼等は、折角手にした
(かいちゅうでんとうもそのばにほうりだして、いいあわせたように、ぺたぺたと、)
懐中電灯も其場に抛り出して、云いあわせたように、ペタペタと、
(ちじょうにしりもちをついてしまった。「でんとうを、つけろっ」わしは、くれーんがまだ)
地上に尻餅をついてしまった。「電灯を、点けろッ」わしは、クレーンがまだ
(うごいているうちだったが、けっしんをして、ごうれいをかけた。そしてまっさきに、)
動いている裡だったが、決心をして、号令をかけた。そして真先に、
(かいちゅうでんとうをてらして、いちどうのほうへむけた。かれらのかおは、いずれも、なかんばかりの)
懐中電灯を照して、一同の方へ向けた。彼等の顔は、いずれも、泣かんばかりの
(ひょうじょうをしてみえた。「しっかりしろ、たんけんは、これからだっ」わしは、)
表情をして見えた。「しっかりしろ、探検は、これからだッ」わしは、
(いちどうをげきれいした。みなのかいちゅうでんとうが、そろってつくと、だいぶじょうないがあかるくなって、)
一同を激励した。皆の懐中電灯が、揃って点くと、大分場内が明るくなって、
(げんきがついたようだった。「くれーんをうごかすすうぃっちが、はいっているか)
元気がついたようだった。「クレーンを動かすスウィッチが、入っているか
(どうかをしらべるんだ。おい、まさはいるかっ」わしは、くれーんがかりの、)
どうかを調べるんだ。オイ、政はいるかッ」わしは、クレーン係の、
(わかいおとこをよんだ。「へええ」とまさは、しにんのようなかおを、こっちへむけた。)
若い男を呼んだ。「へええ」と政は、死人のような顔を、こっちへ向けた。
(「どうか、そのやくわりは、かんべんしとくんなさい」そういって、かれは、)
「どうか、その役割は、勘弁しとくんなさい」そう云って、彼は、
(てをあわせて、こっちをおがんだ。「ばかいうな」わしはしかりつけた。)
手を合わせて、こっちを拝んだ。「莫迦いうな」わしは叱りつけた。
(「てめえが、しらべねえじゃ、かかりでねえこちとらにはわけがわからねえじゃねえか」)
「手前が、調べねえじゃ、係りで無えコチトラには訳が判らねえじゃねえか」
(しりごみするまさを、りょうわきからひったてて、そうさにとりかかった。「このすうぃっちは、)
尻込みする政を、両脇から引立てて、捜査に取懸った。「このスウィッチは、
(ひらいている」いちどうがはいったいりぐちのがわのへきじょうで、そのいりぐちからろく、しちけんおくまった)
開いている」一同が入った入口の側の壁上で、その入口から六、七間奥まった
(ところにおおきいすうぃっちがとりつけられてあった。そのがらすぶたのうえから)
ところに大きいスウィッチが取附けられてあった。その硝子蓋の上から
(ゆびさしながら、くれーんがかりのまさがうなった。「このすうぃっちが、ひらいているなら、)
指しながら、クレーン係の政が呻った。「このスウィッチが、開いているなら、
(くれーんのうえへ、でんきがいきっこないんです」「だがおかしいぞ」とわしは)
クレーンの上へ、電気が行きっこ無いんです」「だが可怪しいぞ」とわしは
(いった。「くれーんはたしかにうごいたんだ。くれーんはもーとるでしか)
云った。「クレーンは確かに動いたんだ。クレーンはモートルでしか
(うごけないんだ。このすうぃっちがひらいていてうごくはずはない。ひらいているようでも)
動けないんだ。このスウィッチが開いていて動く筈はない。開いているようでも
(どこか、でんきがかようようになってるんじゃないか。よくなかをあけて)
何処か、電気が通うようになってるんじゃないか。よく中を開けて
(しらべてみろ」かちゃかちゃとおとをさせて、すうぃっちのがらすぶたをひらいてみたが、)
調べて見ろ」カチャカチャと音をさせて、スウィッチの硝子蓋を開いてみたが、
(それはふつうのすうぃっちが、あきらかにひらかれたじょうたいになっていて、ほかに)
それは普通のスウィッチが、明らかに開かれた状態になっていて、外に
(いんちきなせつぞくははっけんせられなかった。「たしかに、このすうぃっちは)
インチキな接続は発見せられなかった。「たしかに、このスウィッチは
(ひらいています」まさはなきごえでいった。「よし、ではねんのために、くれーんの)
開いています」政は泣き声で云った。「よし、では念のために、クレーンの
(うえへのぼってみよう」わしはいった。「なに、くれーんへのぼるーー」いちどうは、)
上へ昇ってみよう」わしは云った。「なに、クレーンへ昇るーー」一同は、
(たがいにかおをみあわせて、きょうふのいろをこくした。「まさ、のぼれ!」)
互に顔を見合わせて、恐怖の色を濃くした。「政、昇れ!」
(「いやぁ、たすけてください」まさは、ぽろぽろなみだをだして、わめくのであった。)
「いやァ、救けて下さい」政は、ポロポロ泪を出して、喚くのであった。
(「じゃ、わしがせんとうにのぼるから、すぐうしろから、ついてこい。いいかっ」)
「じゃ、わしが先登に昇るから、直ぐうしろから、ついて来い。いいかッ」
(わしはそういうなり、かべぎわへすすんで、くれーんによじのぼる)
わしはそういうなり、壁際へ進んで、クレーンに攀じ昇る
(つめたいたらっぷへ、てをかけた。)
冷い鉄梯子(タラップ)へ、手をかけた。
(5)
5
(「やはり、くれーんのすうぃっちも、ひらいています」さんにんのおとこにさんざん)
「矢張り、クレーンのスウィッチも、開いています」三人の男にさんざん
(せわをやかせ、ようやくわしのあとから、くれーんのうえまでかつぎあげられたまさは、)
世話をやかせ、漸くわしのあとから、クレーンの上まで担ぎあげられた政は、
(もーとるのよこの、はいでんばんをひとめみると、おそろしそうに、そういった。)
モートルの横の、配電盤をひと目見ると、恐ろしそうに、そう云った。
(「そうか。たしかに、それとまちがいがなけりゃ、おりることにしよう」)
「そうか。確に、それと間違いが無けりゃ、降りることにしよう」
(わしたちは、またこんなんなたらっぷを、ながいじかんかかって、いちだんいちだんと、)
わし達は、また困難な鉄梯子を、永い時間かかって、一段一段と、
(おりていった。したまでおりきらないうちから、のこっていたれんちゅうは、くれーんのうえの)
下りて行った。下まで降りきらない裡から、残っていた連中は、クレーンの上の
(すうぃっちがひらいていたか、どうかについて、たずねるのであった。)
スウィッチが開いていたか、どうかについて、尋ねるのであった。
(「まさにみてもらったがな」わしはいちどうのかおを、ずっとみまわした。「くれーんの)
「政に見て貰ったがな」わしは一同の顔を、ずッと見廻した。「クレーンの
(すうぃっちもひらいていたよ」「それじゃ、いよいよあのくれーんは・・・・・・」)
スウィッチも開いていたよ」「それじゃ、いよいよあのクレーンは……」
(そこまでいったしょっこうのひとりは、おのずからおそろしくなって、ことばをきってしまった。)
そこまで云った職工の一人は、自ら恐ろしくなって、言葉を切ってしまった。
(「・・・・・・でんきのちからでうごいたのではない、ということになる」とわしは、かわりに、)
「……電気の力で動いたのでは無い、ということになる」とわしは、代りに、
(いった。「だれが、うごかしたんだっ」「のぼって、しほうにきをつけてみたが、)
云った。「誰が、動かしたんだッ」「上って、四方に気をつけてみたが、
(かくれてるにんげんもいなかった。なぁ、げんた、ともぞう、うんてき」「そうだ、そうだ」)
隠れてる人間も居なかった。なァ、源太、友三、雲的」「そうだ、そうだ」
(「もっとも、にんげんひとりでうごくようなくれーんじゃない」「ああ、するとだれが)
「もっとも、人間一人で動くようなクレーンじゃない」「ああ、すると誰が
(うごかしたんだ」「くみちょうさん。もうがまんができなくなった。どうか、ここから)
動かしたんだ」「組長さん。もう我慢が出来なくなった。どうか、ここから
(だしてくだせえ」「おれも、でるっ」「いや、でることならぬ」わしはどなった。)
出して下せえ」「俺も、出るッ」「いや、出ることならぬ」わしは呶鳴った。
(「くれーんをうごかしたものが、わからぬかぎり」「くみちょうさん、そりゃむりだよ」)
「クレーンを動かした者が、判らぬ限り」「組長さん、そりゃ無理だよ」
(げんたがなきごえをだした。「ありゃ、いきてるにんげんのせいじゃないんだ」)
源太が泣き声を出した。「ありゃ、生きてる人間のせいじゃないんだ」
(「なんだとぉーー」「あのくれーんには、なにかおんりょうがついていて、そいつが)
「なんだとォーー」「あのクレーンには、何か怨霊が憑いていて、そいつが
(くれーんのうえで、ないたり、くれーんをうごかしたりするんだ」「ああっーー」)
クレーンの上で、泣いたり、クレーンを動かしたりするんだ」「ああッーー」
(それをきくと、だれもが、いたいところへさわられたように、とびあがっておどろいた。)
それを聞くと、誰もが、痛いところへ触られたように、跳び上って駭いた。