「こころ」1-41 夏目漱石

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(上)先生と私
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 どんぐり 5583 A 6.1 91.8% 263.1 1611 142 30 2024/10/19
2 mame 5466 B++ 5.7 95.5% 278.8 1599 75 30 2024/11/10
3 ぽむぽむ 5364 B++ 5.7 94.3% 283.7 1619 97 30 2024/10/16
4 ぶす 4472 C+ 4.8 92.5% 327.1 1591 128 30 2024/10/17

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問題文

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(それからのわたくしはほとんどろんぶんにたたられたせいしんびょうしゃのように)

それからの私はほとんど論文に祟られた精神病者のように

(めをあかくしてくるしんだ。)

眼を赤くして苦しんだ。

(わたくしはいちねんぜんにそつぎょうしたともだちについて、いろいろようすをきいてみたりした。)

私は一年前に卒業した友達について、色々様子を聞いてみたりした。

(そのうちいちにんはしめきりのひにくるまでじむしょへかけつけてようやく)

そのうち一人は締切の日に来るまで事務所へ駆けつけて漸く

(まにあわせたといった。)

間に合わせたといった。

(ほかのいちにんはごじをじゅうごふんほどおくらしてもっていったため、)

他の一人は五時を十五分ほど後らして持って行ったため、

(あやうくはねつけられようとしたところを、しゅにんきょうじゅのこういで)

危く跳ね付けられようとしたところを、主任教授の好意で

(やっとじゅりしてもらったといった。)

やっと受理してもらったといった。

(わたくしはふあんをかんずるとともにどきょうをすえた。)

私は不安を感ずると共に度胸を据えた。

(まいにちつくえのまえでせいしんのつづくかぎりはたらいた。)

毎日机の前で精神のつづく限り働いた。

(でなければ、うすぐらいしょこにはいって、たかいほんだなのあちらこちらをみまわした。)

でなければ、薄暗い書庫にはいって、高い本棚のあちらこちらを見廻した。

(わたくしのめはこうずかがこっとうでもほりだすときのようにせびょうしのきんもじをあさった。)

私の眼は好事家が骨董でも掘り出す時のように背表紙の金文字をあさった。

(うめがさくにつけてさむいかぜはだんだんむきをみなみへかえていった。)

梅が咲くにつけて寒い風は段々向を南へ更えて行った。

(それがひとしきりたつと、さくらのうわさがちらほらわたくしのみみにきこえだした。)

それが一仕切経つと、桜の噂がちらほら私の耳に聞こえ出した。

(それでもわたくしはばしゃうまのようにしょうめんばかりみて、ろんぶんにむちうたれた。)

それでも私は馬車馬のように正面ばかり見て、論文に鞭うたれた。

(わたくしはついにしがつのげじゅんがきて、やっとよていどおりのものをかきあげるまで、)

私はついに四月の下旬が来て、やっと予定通りのものを書き上げるまで、

(せんせいのしきいをまたがなかった。)

先生の敷居を跨がなかった。

(わたくしのじゆうになったのは、やえざくらのちったえだにいつしかあおいはが)

私の自由になったのは、八重桜の散った枝にいつしか青い葉が

(かすむようにのびはじめるしょかのきせつであった。)

霞むように伸び始める初夏の季節であった。

(わたくしはかごをぬけだしたことりのこころをもって、ひろいてんちをひとめにみわたしながら、)

私は籠を抜け出した小鳥の心をもって、広い天地を一目に見渡しながら、

など

(じゆうにはばたきをした。)

自由に羽搏きをした。

(わたくしはすぐせんせいのうちへいった。)

私はすぐ先生の家へ行った。

(からたちのかきがくろずんだえだのうえに、もえるようなめをふいていたり、)

枳殻の垣が黒ずんだ枝の上に、萌るような芽を吹いていたり、

(ざくろのかれたみきから、つやつやしいちゃかっしょくのはが、やわらかそうに)

柘榴の枯れた幹から、つやつやしい茶褐色の葉が、柔らかそうに

(にっこうをうつしていたりするのが、みちみちわたくしのめをひきつけた。)

日光を映していたりするのが、道々私の眼を引き付けた。

(わたくしはうまれてはじめてそんなものをみるようなめずらしさをおぼえた。)

私は生れて初めてそんなものを見るような珍しさを覚えた。

(せんせいはうれしそうなわたくしのかおをみて、)

先生は嬉しそうな私の顔を見て、

(「もうろんぶんはかたづいたんですか、けっこうですね」といった。)

「もう論文は片付いたんですか、結構ですね」といった。

(わたくしは)

私は

(「おかげでようやくすみました。もうなにもすることはありません」といった。)

「お蔭でようやく済みました。もう何もする事はありません」といった。

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