山本周五郎 赤ひげ診療譚 三度目の正直 2
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | BE | 4086 | C | 4.4 | 93.0% | 650.7 | 2875 | 216 | 58 | 2024/11/11 |
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問題文
(「やすもとはどうおもう」)
「保本はどう思う」
(かんだがわにそって、ひじりざかのほうへあるきながら、)
神田川に沿って、聖坂(ひじりざか)のほうへ歩きながら、
(きょじょうはまえをみたままそうきいた。)
去定は前を見たままそう訊いた。
(のぼるのうしろで、やくろうもちのたけぞうが「へ」といった。)
登のうしろで、薬籠(やくろう)持ちの竹造が「へ」といった。
(じぶんがきかれたとおもったらしい。)
自分が訊かれたと思ったらしい。
(のぼるはかれにてをふってみせて、それからきょじょうにこたえた。)
登は彼に手を振ってみせて、それから去定に答えた。
(「わたしはきうつしょうだとおもいます」)
「私は気鬱症だと思います」
(「つごうのいいことばだ」ときょじょうはいった、「こうねつがつづけばおこり、)
「都合のいい言葉だ」と去定は云った、「高熱が続けば瘧(おこり)、
(せきがでればろうがい、ないぞうにこしょうがなくてぶらぶらしていればきうつしょう、)
咳が出れば労咳、内臓に故障がなくてぶらぶらしていれば気鬱症、
(ーーおまえきょうからでもまちいしゃができるぞ」)
ーーおまえ今日からでも町医者ができるぞ」
(のぼるはかまわずにはんもんした、「せんせいはどういうおみたてですか」)
登は構わずに反問した、「先生はどういうお診たてですか」
(「きうつしょうだ」ときょじょうはへいきでこたえた。)
「気鬱症だ」と去定は平気で答えた。
(のぼるはだまっていた。)
登は黙っていた。
(「あしたおまえひとりでいってみろ」ときょじょうはさかにかかってからいった、)
「明日おまえ一人でいってみろ」と去定は坂にかかってから云った、
(「とうきちとふたりの、むかしからのことをくわしくきくんだ、)
「藤吉と二人の、昔からのことを詳しく訊くんだ、
(あのとおりとうにんはなにもいわないから、とうきちにきくよりしようがない」)
あのとおり当人はなにも云わないから、藤吉に訊くよりしようがない」
(「どういうことをききますか」)
「どういうことを訊きますか」
(「なにもかもだ」ときょじょうがいった、)
「なにもかもだ」と去定が云った、
(「くわしくきいているうちには、これがげんいんだとおもいあたることがあるだろう、)
「詳しく聞いているうちには、これが原因だと思い当ることがあるだろう、
(そうしたらそのてんをちゅうしんになっとくのいくまでききただすのだ」)
そうしたらその点を中心に納得のいくまで訊き糺(ただ)すのだ」
(それほどのひつようがあるのか、のぼるはそうといかえしたかった。)
それほどの必要があるのか、登はそう問い返したかった。
(ようじょうしょのせいかつになれるにしたがって、いしゃがまずなにをしなければならないか、)
養生所の生活に馴れるにしたがって、医者がまずなにをしなければならないか、
(ということをのぼるもほぼりかいするようになった。)
ということを登もほぼ理解するようになった。
(そしてげんざい、ようじょうしょはもとよりがいしんでも、)
そして現在、養生所はもとより外診でも、
(きょじょうのてをまちかねているびょうかがずいぶんある。)
去定の手を待ちかねている病家がずいぶんある。
(それにくらべれば、いのなどはびょうにんともいえないし、)
それに比べれば、猪之などは病人ともいえないし、
(そんなてまをかけてちりょうするひつようがあるとはおもえなかった。)
そんな手間をかけて治療する必要があるとは思えなかった。
(ーーうっちゃっておけばいいじゃないか。)
ーーうっちゃっておけばいいじゃないか。
(そういいたかったのであるが、)
そう云いたかったのであるが、
(きょじょうがそのくらいのことをしらないわけがないし、)
去定がそのくらいのことを知らないわけがないし、
(めいずるからにはそれだけのりゆうがあるのだろうとおもいかえして、)
命ずるからにはそれだけの理由があるのだろうと思い返して、
(よけいなことはいわないことにした。)
よけいなことは云わないことにした。
(ようじょうしょへかえったのはちょうどゆうしょくのじこくで、のぼるはせんめんしきがえをすると、)
養生所へ帰ったのはちょうど夕食の時刻で、登は洗面し着替えをすると、
(もりはんだゆうにこえをかけてじきどうへいった。)
森半太夫に声をかけて食堂(じきどう)へいった。
(はんだゆうのへやからはへんじがきこえず、じきどうへいってみると、)
半太夫の部屋からは返辞が聞えず、食堂へいってみると、
(かれはもうそこでしょくじをはじめていた。)
彼はもうそこで食事を始めていた。
(のぼるがぜんにむかうのをまって、はんだゆうはおゆみのことをはなしだした。)
登が膳に向かうのを待って、半太夫はおゆみのことを話しだした。
(しかしすぐに、なにかきづいたようすで、)
しかしすぐに、なにか気づいたようすで、
(ぶきようにあわてて、はなしをそらそうとした。)
ぶきように慌てて、話をそらそうとした。
(おゆみとのぼるとのことを、まだきにしているのであろう。)
おゆみと登とのことを、まだ気にしているのであろう。
(のぼるにとってもそのときのきずは、まだこころにふかくのこっているが、)
登にとってもそのときの傷は、まだ心に深く残っているが、
(そんなふうにえんりょされることのほうが、かえっておもににかんじられた。)
そんなふうに遠慮されることのほうが、却って重荷に感じられた。
(「それでどうした」のぼるはこっちからはなしをもどした、「たすからなかったのか」)
「それでどうした」登はこっちから話を戻した、「助からなかったのか」
(「いやたすかった、あぶないところだったが」とはんだゆうがこたえた、)
「いや助かった、危ないところだったが」と半太夫が答えた、
(「しごきでくびれたあとがひどいし、)
「扱帯(しごき)で縊(くび)れた痕がひどいし、
(こえもすっかりしゃがれてしまった、かおもはれたままだが、)
声もすっかりしゃがれてしまった、顔も腫れたままだが、
(ふにおちないのは、いししようとしたのはきがくるったからでなく、)
腑におちないのは、縊死しようとしたのは気が狂ったからでなく、
(どうやらしょうきでやったことらしいんだ」)
どうやら正気でやったことらしいんだ」
(のぼるははしをとめてはんだゆうをみた。)
登は箸を止めて半太夫を見た。
(「あとでにいでさんにみてもらおうとおもうんだが」とはんだゆうはいんきにつづけた、)
「あとで新出さんに診てもらおうと思うんだが」と半太夫は陰気に続けた、
(「わたしのみたところだと、だんだんしょうきでいるじかんがながくなってきて、)
「私の診たところだと、だんだん正気でいる時間が長くなって来て、
(じぶんのくるっていることや、かんきんされているというじじつがわかりはじめた、)
自分の狂っていることや、檻禁されているという事実がわかり始めた、
(そのためにぜつぼうてきになって、じさつしようとしたのではないかとおもうんだ」)
そのために絶望的になって、自殺しようとしたのではないかと思うんだ」
(のぼるはちょっとまをおいていった、)
登はちょっとまをおいて云った、
(「あれはあたまがくるっているんではなく、たいしつからきたものなんだがね」)
「あれは頭が狂っているんではなく、躰質からきたものなんだがね」
(そしてかるくわらいながらつけくわえた、「きょうはこっちもみょうなびょうにんをみてきたよ、)
そして軽く笑いながら付け加えた、「今日はこっちも妙な病人を診て来たよ、
(もしあのこがしんでいたら、かわりにあのじゅうきょへいれるかもしれないようなおとこさ、)
もしあの娘が死んでいたら、代りにあの住居へ入れるかもしれないような男さ、
(ーーおまけに、あしたからわたしはそのおとこのしんさつをおおせつかってしまったよ」)
ーーおまけに、明日から私はその男の診察を仰せつかってしまったよ」